悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼

文字の大きさ
4 / 4
番外編

崩壊する国と、ある夫婦の旅立ち

しおりを挟む
「殿下、わたくしのために、ありがとうございます。身に余る光栄ですわ」

 ハニーブロンドのくせっ毛に、すみれ色の瞳、愛らしい顔にどこか色気も感じさせる少女が、この国の王太子にしなだれかかり、感謝の言葉を述べる。
 王太子は鼻の穴を広げて自慢げだ。

「当然だ、俺の知恵と力を持ってすれば、カビの生えた悪習など、捨て去るのは簡単よ。国中にあの悪女のことは触れ回ったゆえ、たとえ国内に舞い戻ったとしても、身の置所はない。今度は後腐れなく処刑してくれる」
「殿下、頼もしいです! それに、わたくしの実家に、豊かな土地を賜りまして、父もとても喜んでおりますわ」

 王太子の頼もしい言葉に、少女は、その大きな胸をぎゅっと押し付けて、褒めちぎる。
 その様子を、遠見の鏡で眺めていた男、この国の大臣は、ニヤリとほくそ笑んだ。

 今回、古くからの歴史を誇る、由緒あるフローリシアの家を凋落させることが出来たのは、全て自分の策のおかげであると自負しているのだ。
 我が娘を王太子の幼馴染として充てがい、陥落させたのも、愚かな王太子に策を授けたのもこの男だからである。
 おかげで、大臣はまんまと、次代の王妃の父であり、その次の王の祖父という立場を手に入れ、さらに、この国の豊かさの源であるとされる、神の座という土地を奪い取った。

 一番得をしておきながら、実行したのは王太子であるため、後ろ暗いところもない。
 完璧な結果だった。

 こうもうまく行ったのは、代々の王妃となったフローリシアの娘が、ことごとく体が弱く、生まれる子も気弱で、戦いを苦手とするような愚か者ばかりだったからだ。
 そのため、いつしかこの国の王は、正妃のほかに寵姫を持つようになり、王家の正当の血筋はそちら側で続いていた。
 もはやこの国にとって、古からの習わしは、悪習でしかなかったのだ。
 フローリシアとの縁切りの機会を、窺っていた状態と言える。
 だからこそ、今回のような稚拙な策でも、問題なくまかり通った。

「労せず得する。これぞ正しい行いよ」

 大臣は若い二人の親密な時間を覗き見ながら、会心の笑顔を浮かべたのである。

 だが、この国からフローリシアの姫が追放されてわずかひと月後、とんでもない事態が起こった。
 神の座からこんこんと、尽きることなく湧き出していた豊穣の水が、突然枯れ果てたのだ。
 高名な博士や、有名な魔術師を雇って調べさせても原因がわからない。
 民衆の間では、フローリシアの姫の呪いであると、まことしやかに囁かれる有様だ。

「おのれ! これはフローリシア卿の呪いによるものであるに違いない!」

 今や国の権力を一手に握った大臣は、本来ならあり得ない無茶を通した。
 自分が土地を奪った相手である、フローリシア男爵を告発したのである。
 夫婦の処刑は、呪いを解くと称して、神の座にて夜明けと共に、公開で行われることとなった。
 しかし、処刑人が夫婦の首を切り落とさんとした、正にその時、天に雷鳴が轟き、この世の終わりとも思えるような轟音が、その場にいた全ての者の耳を打ち、体に太い針を何本も刺されたような痛みを味わわせることとなる。

 結果、大臣は消し炭のようになって死亡。
 王太子と共にいたその娘も、ショック死を遂げた。
 大臣の娘と共に見物していた王太子は、泡を吹いてひっくり返っていたところを、兵士によって救い出されたが、その後、わずかでも光を目にすると、悲鳴を上げて逃げ惑うようになり、自分の名前さえ覚えていないという状態となる。

 民は、この災いを、古くからの約束事を破った報いだと怖れおののき、自国の王を見捨てて、近隣の国へと出奔する者が後を立たず、王は、逃げ出す者を重く罰すると宣言する事態に至った。
 そこで重い腰を上げたのが、近隣の王達だ。

 近くに弱った国があれば、喜び勇んで切り取って食らう。
 それが世の習いである。
 かつて、神の座と呼ばれる奇跡の土地を頂き、豊かで幸福な地上の天国とも謳われたその国は、たった数年のうちに、跡形もなく解体され、多くの国に奪われ吸収されることとなった。

 王族や貴族に至っては、戦のなかで死んだか、処刑されたかの二択で、歴史にその名すら留めることはなかったのである。

 さて、話を、処刑されるはずであった、フローリシア夫妻へと戻そう。
 誰も見たことがないほどの落雷によって、周囲全てが倒れ伏すなか、フローリシア夫妻は、なぜかなにごともなく佇んでいた。
 二人を拘束していた枷だけが、なぜか吹き飛んでいる。

「これはあれだな、精霊達が国を見限って逃げろと言っているに違いない」
「そうですねぇ」

 二人は呑気にそんな会話を交わすと、ゆっくりと処刑台を降り、懐かしい場所である神の座に向かって、共に膝を突いて祈りを捧げる。

「うむ、今、耳元で微かな声が聞こえた」
「わたくしもですわ」
「アンジュールへ行けと言われたが……」
「わたくしもですわ」

 二人は顔を見合わせて笑った。
 周囲に白い煙が漂い、うめき声を上げる者達が転がるなかで、それは少し異様な光景ではあっただろう。
 しかし、夫婦は、共に、何かが吹っ切れたような気持ちになっていた。

「行ってみるか。どうもそこにアレリがいるような気がするよ」
「まぁ、奇遇ですね。わたくしもです」

 二人は、まるで若々しい恋人同士のように手を繋ぐと、朝日を浴びながら、日が昇るその方向へと進む。
 彼らを見かけた者の話では、二人の周囲には、日の光とも違う美しい光が、キラキラと舞い踊っているように見えたということだ。
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

votoms
2025.10.26 votoms

意味(利害)のある風習なら、理由は身内にだけは伝えておけ

【王家主導・冤罪による土地と爵位の強奪】は最悪の行動
「発展で目をつけられたら破滅」と認識すれば、誰も領地開発などしない
まして、建国からの名門伯爵家ですらその扱いとなれば・・・
結局、精霊が絡まなくても滅ぶべきして滅んだとしか言いようがない

解除
らとえる
2025.06.27 らとえる

短いのにとても素敵な物語だった
雑でも無く、難しい話が長々と続くでもなく、とてもシンプルにまとまっていて読みやすかった

解除
harmel
2021.02.05 harmel

あれれ?完結しちゃった.........
良かったら、フローリシア男爵夫妻のその後とか、母国のその後とか、アレリさんの聖女生活とか、アンジュールの繁栄の様子とか読みたいです❗️

2021.02.08 蒼衣翼

感想ありがとうございます!

機会がありましたら、何か外伝でも書けたらいいと思っています。

解除

あなたにおすすめの小説

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!

友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」 婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。 そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。 「君はバカか?」 あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。 ってちょっと待って。 いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!? ⭐︎⭐︎⭐︎ 「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」 貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。 あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。 「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」 「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」 と、声を張り上げたのです。 「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」 周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。 「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」 え? どういうこと? 二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。 彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。 とそんな濡れ衣を着せられたあたし。 漂う黒い陰湿な気配。 そんな黒いもやが見え。 ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。 「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」 あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。 背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。 ほんと、この先どうなっちゃうの?

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

追放された聖女ですが辺境領主と幸せになります。禁術で自滅した偽聖女と王太子の完治?無理ですね。

ささい
恋愛
十年間、奇跡を起こせなかった聖女エミリシアは、王太子に追放された。 辺境の村ミューレンベルクで静かに暮らし始めた彼女は、領主レオフィリスの優しさに触れ、心の平穏を取り戻していく。 ある日、村で疫病が発生。子供たちの命を救いたい一心で祈った時、ついに聖女の力が目覚めた。 その後、王都から助けを求める使者が現れる。 追放した王太子とその婚約者候補リディエッタが、禁術の反動で倒れたという。 エミリシアは命を救うため王都へ向かうが、二人の完治は不可能だった。 全てを終え、彼女はレオフィリスと共に愛する村へ帰る。 ◇ 命を見捨てなかった。浄化はした。治癒は。 ◇ ※他サイトにも投稿しております。

召喚聖女が来たのでお前は用済みだと追放されましたが、今更帰って来いと言われても無理ですから

神崎 ルナ
恋愛
 アイリーンは聖女のお役目を10年以上してきた。    だが、今回とても強い力を持った聖女を異世界から召喚できた、ということでアイリーンは婚約破棄され、さらに冤罪を着せられ、国外追放されてしまう。  その後、異世界から召喚された聖女は能力は高いがさぼり癖がひどく、これならばアイリーンの方が何倍もマシ、と迎えが来るが既にアイリーンは新しい生活を手に入れていた。  

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。