お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼

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想いが育つのに時間は必要なのか?

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 朝食の席で、ラルダスがアイメリアに何かお礼を考えている、という話を持ち出したところ、本人から困惑したように断られるという案件が起こってしまった。
 最終的には、ラルダスが頭を下げて懇願するという手段に出て、一緒に街へ出かけてお礼を探すことを、なかば強引にアイメリアに認めさせたのである。

 アイメリアが、救い主であるラルダスに対して無償奉仕をしたいと思っていることに、ラルダス本人もなんとなく気づいていた。
 だからこそ、出来るだけ対等な関係へと持って行かなければならない、という使命感のようなものも、ラルダスは感じていたのである。

 二人は、中流家庭向けの常設店舗が建ち並ぶ通りへと、辻馬車で向かった。
 辻馬車は、大通りを流している、庶民向けの交通手段で、それなりの食事一回分程度の値段で目的地へと運んでもらえる。
 自家用馬車を持てはしないが、そこそこ裕福な者達の足として、便利に使われているのだ。

「うう……緊張します」

 街にお出かけと言っても、アイメリアはあまりいい服は持っていない。
 養い親のお屋敷で働いていたときの使用人服は、それなりに上等なものだったが、服に家紋が縫いとられていたので、外で着て歩くのははばかられるし、もともとラルダスの屋敷にあった使用人用のお仕着せは、エプロンが組になったもので、エプロンを外すと野暮ったい印象となってしまう。

 ラルダスは、そういう服装などに興味がない人間なので、そんなアイメリアの悩みを理解することなく、街へと連れ出してしまったのだ。
 アイメリアは仕方なく、騎士家備え付けだったお仕着せの使用人服のまま、ラルダスと辻馬車に乗った。
 一人だと場違い感があるものの、ラルダスと一緒なら、主と使用人として違和感がない。
 アイメリアは、ラルダスに恥をかかせないように、所作に注意を払うことに集中した。

 アイメリアに自分なりの礼をしたいと思っていたラルダスは、そんな感じに、残念ながら最初の一歩でつまづいてしまっていたのだが、本人はそれに気づかず、これからやるべきことに集中していたのである。

「気楽にしていて大丈夫だ。これから行くところは、貴族なんかが通うように格式高い店じゃないからね。庶民が少しだけ背伸びをして買い物をしたい、というときに利用するような店だ。……その、誰かにプレゼントを贈る……みたいなときに、ね」

 ラルダスは遠まわしに、アイメリアに何か贈り物をしたい、と伝えたのだが、アイメリアはそうは受け取らなかった。

(そうか、誰かご婦人に贈り物をなさりたいのね。そのついでに、街を巡っていろいろなものを見せてくださるつもりなのだわ)

 男性が女性に贈り物をする場合、身近な女性に意見を聞くことが多いことをアイメリアは知っている。
 急にお礼がしたいと言われて連れ出されたときには、申し訳ない気持ちでいっぱいだったアイメリアだったが、そういうことなら、とホッと安心した。
 しかし、ラルダスの次の言葉で再び不安になる。

「その、リボン、とても似合っているし、おしゃれに興味があるんだろう? 家をあれだけきれいにしたんだ。その、君自身もきれいなものを身に着けたほうが、家に似合うと思わないか?」
「えっ、私は、その……」

 反射的に遠慮しようとしたアイメリアだったが、ラルダスの言葉も正しいと感じた。
 今アイメリアが着ている服は、普遍的な使用人服とは言え、古着であることは間違いない。
 家をきれいにしても、古ぼけた服を着た使用人がいたのでは、格好がつかない。
 実際、派手すぎずに上品なものとして求めたスカーフは、新しい今風のデザインなので、少し今の服にはきれいすぎるのである。

「いいかい、俺はそれなりに金は持っているし、ケチではないつもりだ。家に帰ったときにきれいな女性が出迎えてくれたら、嬉しいという気持ちもある」
「……まぁ。ラルダスさま、それでは口説き文句のようですよ。大事な方に誤解されてしまっても知りませんよ」
「いや、大事な相手とかいないから。あー、口説いているように聞こえたなら、その、謝る、が……」

 ラルダスはアイメリアに謝罪しつつも、ドキリとした。
 自分は、もしかして、アイメリアを口説いているのではないか? と気づいたのだ。
 家にいてくれてうれしい、笑顔を見せてくれるとうれしい、一緒にいたい。
 その感情は、単なる使用人に向けるものなのだろうか? と。

「いやいや、ついこのあいだ会ったばかりじゃないか。一緒に過ごした時間だって、全然……」
「ラルダスさま?」

 口のなかでもごもごと、誰に対するものとも知れない言い訳をするラルダスを、アイメリアは不思議そうに覗き込む。
 そのアイメリアの耳元で、ささやき声達の楽しそうな笑い声が聞こえたのだった。
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