お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼

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アイメリアの友だち

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 神殿騎士対国軍の不毛な戦いが、精霊神殿門前であわや勃発する、というところを、迅速に行動した神殿騎士団が力づくで抑え込んでいた頃、神殿の奥の祭司堂と一般拝殿とを仕切る大扉の前では、感動の親子の再会が行われていた。

「苦労を……かけた、な」
「苦労ではなかった、と言ったはずですよ。……お父さま」

 アイメリアはにっこりと笑う。
 アイメリアが笑うと、アイメリアの周囲にいる精霊たちが柔らかな光を発した。
 そしてその光は、精霊の祝福を受けていない者にも見えたらしい。

「おお、御子さま!」

 ほんの先ほどまで、アイメリアを悪しき存在と決めつけていたはずの者も、感激し、それまでの行いを忘れたかのように、アイメリアに向けて祈りを捧げた。

「あなたたち、姿を表せるようになったの?」

 だが、実はその現象に一番驚いていたのは、当のアイメリアである。
 これまでささやき声としか認識できていなかった大切な友だちを、ほんのりとした光として、見ることができたのだ。

「ひかったー!」
「ピカピカー」
「えへへ…」

 ささやき声たちは、それぞれに反応を見せていたが、どうやら自覚して行ったことではなかったらしい。

「私の影響で、その子たちの格が上がったようですね」

 アイメリアの母である大精霊がそう告げた。

「格、ですか?」

 アイメリアが問い返すと、大精霊である母はうなずき答える。

「私たちは自然の営みと人とを繋ぐ役割があるのですが、そのために扱える力は、経験によって増減するので、個体によって差が大きくなります。そこで、どの程度世界に影響を与えられるか、で格付けされているのです。まぁ格付けしているのは人なのですけどね」
「そう、なんですね」

 アイメリアは育った環境のせいで、あまり精霊について詳しくはない。
 それでも大精霊という存在が天変地異を起こせる存在だということは知っていた。
 大精霊がいるということは、ただの精霊もいるということで、自分と共にいてくれるささやき声たちは、そういったよくいる精霊ということなのだろう。
 アイメリアはそう理解した。

 母は格が上がったと言っていたが、大精霊になった訳でなければ、特に大きな影響はないだろう、と自分なりに納得したのだ。
 なにせほんのり光ることができるようになった程度なのだから。
 
「ええっと、ほっこりさん?」

 アイメリアが呼ぶと、淡いオレンジ色の光がくるくると回る。

「ひっそりさん?」

 その呼びかけには、ほの暗く光を陰らせる丸い形が明滅した。
 どうやら、アイメリアがひっそりさんと呼んでいたささやき声は光るというよりも陰を作る精霊らしい。

「ぽわぽわさん?」

 アイメリアが残ったささやき声の名を呼ぶと、チラチラと光る木漏れ日のような緑の光を発しながらそよ風が髪を揺らした。
 それぞれに特徴が明らかで間違えようもない。

「これからはみんながどこにいるのかわかるようになるのね。うれしいわ」

 アイメリアは喜び、父と母も微笑ましげにその様子を見守った。
 周りの信徒たちは、ひたすら感無量といった様子である。

 アイメリアは知らないが、人の目に見える精霊というのは、大精霊に及ばないながらも、それなりに格が高い存在なのだ。
 それを三体も従えている御子は、信徒からすれば、奇跡のような存在だった。
 そんなときである。

「あの……」

 と、突然、その場の空気を動かす声が響く。
 実は、相手からしてみれば、石造りの床をかなり大きな靴音を立てながら近づいていたのだが、それどころではない信徒たちは全く気づかなかったらしい。
 幾人かは、突然の声に飛び上がったほどだ。

「なにごとであるか! ここは神殿の最奥、しかも祭司長さまと大精霊さま、そして御子さまの御前であるぞ! 控えるがいい!」

 驚かされた腹いせか、信徒の一人が相手を咎める。
 咎められた相手は、神殿騎士ダハニアだ。
 ダハニアは、無言で一礼してみせた。

「お叱りを承知の上で参りました。こちらに、私の大事な友人が、縄を打たれて連れ込まれたという証言がありまして」

 そう言うと、ちらりとアイメリアに視線を向ける。
 すでに、自分たちのしでかしたことを都合よく忘れつつあった信徒たちは、その非難まじりの指摘に言葉を詰まらせた。
 いつもなら、血なまぐさい騎士など、と騎士団を下に見る向きがある神殿の信徒たちであったが、御子に対する友人という言葉に対応に迷ったのだ。

「ダハニアさま!」

 そんな周囲の者たちの思惑などわからないアイメリアは、大切な友人となっていたダハニアの訪れに、心底ほっとして声を上げた。
 アイメリアの周囲の精霊たちもほわほわと光ったり陰ったりして、なんとも幻想的な光景だ。

「ありゃりゃ、……そっか、やっぱりアイメリアが御子さまだったんだね」

 ダハニアは一人納得したようにうなずく。

「えっ! ご存知だったのですか?」
「いや、ご存知ではなかったのだけれどね。騎士団の上のほうにいるとそれなりに情報も入って来るし、探されている御子さまのお姿とは少し違うけど、名前と年頃が同じじゃない? それに、薄茶色だった髪も、もうすっかり金色になってるし」
「あっ!」

 アイメリアは慌てて自分の髪を見て、反射的に両親に怒られる! と思ってしまったが、今はもう、細心の注意を払って髪色を茶色に保つ必要はないのだ、と気づいた。

「髪は、父……ええっと、養父に言われて染めていたのです」

 養父であるホフラン・ザイスを父と呼びそうになり、慌てて呼び替えて実の父に目をやる。
 本当の父である祭司長は苦い顔を見せた。

「こんなに綺麗な髪なのにもったいない。すっかり傷んじゃってるじゃないの。私が今度、髪にいいハーブを届けてあげるからね」
「あ、ありがとうございます」
「騎士殿、御子に対して、あまりに、その、なれなれしくはあるまいか」

 上位信徒の一人が、たまりかねたのか、気安くアイメリアと語らうダハニアに文句をつける。
 ただ、勢いはなかった。

「アイメリアとは友人ですので。たとえ彼女が御子であったとしても、その程度のことで友人をやめるつもりは、私はないのですよ」
「そ、それは……」
「やめないか!」

 それまで黙ってやりとりを見ていた、アイメリアの父である祭司長が口を挟む。

「お前たちは、自分たちの過ちで我が娘に辛い思いをさせておいて、それを反省することもなく、今度は娘から友人を引き離そうとするのか?」
「い、いえ! 決してそのようなつもりでは……」

 これまで神殿を仕切っていて、騎士団の者たちを俗世にまみれた野蛮人と見下していた上位信徒たちは、立場を失って黙り込むしかなかった。
 何と言っても、精霊神殿では精霊と、その精霊と絆を結ぶ祭司が、最も敬われるべき存在なのだ。
 普段は祭司堂に閉じこもって姿を見せない存在だとしても、敬うべき存在をないがしろにすることはできない。

「あの、みなさま方、このようにずっと立ち尽くしてお話しを続けるのはいかがなものでしょう? 御子さまもお疲れでしょうし、ゆったりとお座りになってご友人と語り合いたいのではありませんか?」

 重くなった空気を変えたのは、常日頃祭司たちの身の回りの世話をしている奉仕者たちだった。
 超常の存在と接することに慣れている常人である彼らは、あまり物事に動ずることがない。
 少し浮世離れしているところもあるが、こういった事態において、対応力に優れている者と言えるだろう。

「それはありがたい。ちょうど喉も乾いていて、ね?」

 ダハニアはその奉仕者の発言に乗り、ついでにちゃっかり飲み物を要求すると、アイメリアをその場から連れ出すのだった。
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