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ハンターの卵たち
VRルームで夜のお茶会
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「クランか楽しそうだな、俺たちも入れてもらおうかな?」
「ありえない。やりたいなら自分たちで作れ」
「なんという冷たい息子だ」
「子どもの交友関係に割り込むな!」
アキラは自宅で両親と晩ごはんを食べながら初めての養成所での出来事を語っていた。
父はゆえりの言ったクランという考え方が気になるようだ。
「でも、その斉木祭くん? 偉いわね。自分の街を自分の手で守ろうと思って、不利なカリテンプレイヤーでも頑張ろうとしているんでしょう? 私達大人なのにご近所が精一杯で恥ずかしいわ」
母がカリテンプレイヤーの斉木の話に感心する。
「そうだな。ここの住宅街はだいぶ落ち着いて来たし、そろそろ遠隔地の安全圏確保に動くべきときかもしれないな」
父も母の言葉を受けて真面目に活動範囲を広げることを考えるようだ。
「でもさ、いくら二人が高レベルの神聖魔法が使える聖騎士と神官でも、二人だけってのは危ないんじゃないか?」
「アキラ……」
カランと、アキラの父、天崎ハヤトは手にした箸を落とした。
「きたねえな! 食事中に箸を落とすなよ」
「母さん、アキラが俺たちのことを心配してくれたよ」
「本当にね……こんなやさしい子に育つなんて!」
両親が大げさに泣きながら抱き合う姿にアキラはイラッとしたように席を立った。
「あ、アキくん、まだお代わりしてないよ?」
「もういい!」
自分の部屋へと向かうアキラの背後で、「照れちゃって」「お年頃だからな」などと言う両親の声が聞こえていたが、断固として無視してアキラは自分の部屋に閉じこもったのである。
「それにしてもクランか~」
ゆえりの言い出したクラン結成については祐希もアキラもまだしばらく考えることにした。
とにかくまずはハンター資格を取らなければならないし、実力は十分でも年齢の壁が今しばらくは立ちはだかっている。
「まぁこっそり狩りをすればいいんだけどね」
ひと昔前の高校生が隠れてタバコを吸ったり酒を飲んだりしていたように、今は該当VRゲームを遊んでいて既に高レベルジョブを持っている学生達は、こっそりと狩りを行っていた。
もちろん許可されていない狩りなので見つかればそれなりの処罰があるし、運悪く死んでしまう者もいて、ニュースで報道されることもある。
とは言え、楽しんでいたVRゲームが遊べなくなってしまった以上、それに代わるものが必要となるのは当然で、なかなか止めようもないというのが現状だった。
実際に戦えばゲームで高レベルだった学生達のほうがゲームをあまり遊ばない大人よりも強いのである。
もちろん大人にも高レベルの者はいる。
アキラの両親などがその代表だろう。
しかし絶対数で言えば、中学、高校生の高レベル者のほうが圧倒的に数が多いのが現状だった。
そして、その子供たちが地域のモンスターを倒して安全確保を行っているおかげで助かっているのも事実である。
大人からすればジレンマだろうが、本人達からしても、年齢が足りないから実力があるのに表立って戦えないといういらだちがあった。
学生達はちょうどヒーロー願望真っ只中の年頃なので、かっこよくみんなを守って称賛されたいという気持ちがあるのだ。
だが逆にその逸る気持ちを大人達は危うく感じているのだから噛み合わないのは当然であった。
さて、それはともかくとしてクランである。
クランという名称はネットの協力プレイを行うゲームではよく見かけるものだ。
意義としては、同じ志を持った仲間の集まりということになる。
ゲームにおいてはもっと簡単にプレイスタイルを同じくする仲間の集団だ。
例えばレアなネームドモンスターを狙って狩るプレイヤーが集まったクランとか、生産を中心に遊ぶプレイヤーのクランなどもある。
仕事と直接結びついたギルドに比べると同好会的な集まりと言えるだろう。
「クランかぁ、確かいくつか出来てたよなぁ」
アキラはほかのプレイヤーがどう運営しているかを参考にしようと、グラスの電源を入れてVRゲーム全般の雑談掲示板を覗いた。
すでに人気だったVRゲームは現実と融合して、ゲームではなくなってしまった訳だが、掲示板はそのままでスレッドのタイトルだけ少し変えて続いている。
「ん?」
その雑談掲示板の書き込みに、アキラは気になるものを発見した。
「これは! ぜひ検証しなければ!」
久々に検証好きの血が騒ぐ。
急いでアキラはVRルームでアバター姿になると、ゲー研時代から使用しているグループ専用のVR会議室を覗いてみた。
「誰も来てないか? おーい!」
コールを行う。
これで情報端末からグループメンバーにコールサインが送られて、手が空いている者がいれば来てくれるはずだ。
「よ、久しぶり」
「あ、部長」
なんと最初に応じたのは、今や首都圏に引っ越してしまったかつてのゲー研部長今田洋介である。
彼のVRルームでのアバターは愛嬌のある直立ドラゴンだ。
「あ、部長、羽のカラーリング変えたんですね。ひび割れ具合がカッコイイっす」
「ありがとう。羽に包帯を巻けるアクセがないんだよなぁ」
「飛びにくそうですからね」
そこへ新たなアバターが現れた。
「やあ洋介、昨夜ぶり」
「お、神やん昨夜ぶり」
元ゲー研の副部長神谷祐希のアバターは竜騎士である。
別に部長と合わせた訳ではなく、このアバターは通常の人間型アバターと違って高くジャンプが出来るという理由で選んだらしい。
「え? 二人共昨夜会ってたんですか?」
「深夜に偶然」
「受験勉強に煮詰まってインしたらいた」
「おー、シンクロ」
そんな雑談をしていると、残りの二人も次々とインして来た。
「こんばんは~」
「やほ~」
桜山ゆえりと村上幸子の親友コンビだ。
ゆえりは直立猫のアバター、幸子は派手派手なエルフのアバターである。
「う~ん、桜山、相変わらずいいもふもふ具合だ。俺の右手がうずくぜ!」
「いやらしい!」
アキラのいつものノリに幸子が厳しくツッコむ。
「そもそもアキラくんはホットドッグマニアでしょう。モフるなら犬じゃない?」
「ホットドッグは犬ではない」
「はいはい君たち脱線はそこまでにしようか? それで、今日みんなを集めたのはどうしてだい?」
祐希がやさしくアキラに聞いた。
「実はVRゲーム掲示板にすごいスクープがあったんですよ!」
「スクープ?」
ゆえりが猫の姿でかわいらしく小首をかしげる。
アキラはモフりたい誘惑にぐっと耐えた。
「実は、ダンジョンが見つかったらしいんです」
「ありえない。やりたいなら自分たちで作れ」
「なんという冷たい息子だ」
「子どもの交友関係に割り込むな!」
アキラは自宅で両親と晩ごはんを食べながら初めての養成所での出来事を語っていた。
父はゆえりの言ったクランという考え方が気になるようだ。
「でも、その斉木祭くん? 偉いわね。自分の街を自分の手で守ろうと思って、不利なカリテンプレイヤーでも頑張ろうとしているんでしょう? 私達大人なのにご近所が精一杯で恥ずかしいわ」
母がカリテンプレイヤーの斉木の話に感心する。
「そうだな。ここの住宅街はだいぶ落ち着いて来たし、そろそろ遠隔地の安全圏確保に動くべきときかもしれないな」
父も母の言葉を受けて真面目に活動範囲を広げることを考えるようだ。
「でもさ、いくら二人が高レベルの神聖魔法が使える聖騎士と神官でも、二人だけってのは危ないんじゃないか?」
「アキラ……」
カランと、アキラの父、天崎ハヤトは手にした箸を落とした。
「きたねえな! 食事中に箸を落とすなよ」
「母さん、アキラが俺たちのことを心配してくれたよ」
「本当にね……こんなやさしい子に育つなんて!」
両親が大げさに泣きながら抱き合う姿にアキラはイラッとしたように席を立った。
「あ、アキくん、まだお代わりしてないよ?」
「もういい!」
自分の部屋へと向かうアキラの背後で、「照れちゃって」「お年頃だからな」などと言う両親の声が聞こえていたが、断固として無視してアキラは自分の部屋に閉じこもったのである。
「それにしてもクランか~」
ゆえりの言い出したクラン結成については祐希もアキラもまだしばらく考えることにした。
とにかくまずはハンター資格を取らなければならないし、実力は十分でも年齢の壁が今しばらくは立ちはだかっている。
「まぁこっそり狩りをすればいいんだけどね」
ひと昔前の高校生が隠れてタバコを吸ったり酒を飲んだりしていたように、今は該当VRゲームを遊んでいて既に高レベルジョブを持っている学生達は、こっそりと狩りを行っていた。
もちろん許可されていない狩りなので見つかればそれなりの処罰があるし、運悪く死んでしまう者もいて、ニュースで報道されることもある。
とは言え、楽しんでいたVRゲームが遊べなくなってしまった以上、それに代わるものが必要となるのは当然で、なかなか止めようもないというのが現状だった。
実際に戦えばゲームで高レベルだった学生達のほうがゲームをあまり遊ばない大人よりも強いのである。
もちろん大人にも高レベルの者はいる。
アキラの両親などがその代表だろう。
しかし絶対数で言えば、中学、高校生の高レベル者のほうが圧倒的に数が多いのが現状だった。
そして、その子供たちが地域のモンスターを倒して安全確保を行っているおかげで助かっているのも事実である。
大人からすればジレンマだろうが、本人達からしても、年齢が足りないから実力があるのに表立って戦えないといういらだちがあった。
学生達はちょうどヒーロー願望真っ只中の年頃なので、かっこよくみんなを守って称賛されたいという気持ちがあるのだ。
だが逆にその逸る気持ちを大人達は危うく感じているのだから噛み合わないのは当然であった。
さて、それはともかくとしてクランである。
クランという名称はネットの協力プレイを行うゲームではよく見かけるものだ。
意義としては、同じ志を持った仲間の集まりということになる。
ゲームにおいてはもっと簡単にプレイスタイルを同じくする仲間の集団だ。
例えばレアなネームドモンスターを狙って狩るプレイヤーが集まったクランとか、生産を中心に遊ぶプレイヤーのクランなどもある。
仕事と直接結びついたギルドに比べると同好会的な集まりと言えるだろう。
「クランかぁ、確かいくつか出来てたよなぁ」
アキラはほかのプレイヤーがどう運営しているかを参考にしようと、グラスの電源を入れてVRゲーム全般の雑談掲示板を覗いた。
すでに人気だったVRゲームは現実と融合して、ゲームではなくなってしまった訳だが、掲示板はそのままでスレッドのタイトルだけ少し変えて続いている。
「ん?」
その雑談掲示板の書き込みに、アキラは気になるものを発見した。
「これは! ぜひ検証しなければ!」
久々に検証好きの血が騒ぐ。
急いでアキラはVRルームでアバター姿になると、ゲー研時代から使用しているグループ専用のVR会議室を覗いてみた。
「誰も来てないか? おーい!」
コールを行う。
これで情報端末からグループメンバーにコールサインが送られて、手が空いている者がいれば来てくれるはずだ。
「よ、久しぶり」
「あ、部長」
なんと最初に応じたのは、今や首都圏に引っ越してしまったかつてのゲー研部長今田洋介である。
彼のVRルームでのアバターは愛嬌のある直立ドラゴンだ。
「あ、部長、羽のカラーリング変えたんですね。ひび割れ具合がカッコイイっす」
「ありがとう。羽に包帯を巻けるアクセがないんだよなぁ」
「飛びにくそうですからね」
そこへ新たなアバターが現れた。
「やあ洋介、昨夜ぶり」
「お、神やん昨夜ぶり」
元ゲー研の副部長神谷祐希のアバターは竜騎士である。
別に部長と合わせた訳ではなく、このアバターは通常の人間型アバターと違って高くジャンプが出来るという理由で選んだらしい。
「え? 二人共昨夜会ってたんですか?」
「深夜に偶然」
「受験勉強に煮詰まってインしたらいた」
「おー、シンクロ」
そんな雑談をしていると、残りの二人も次々とインして来た。
「こんばんは~」
「やほ~」
桜山ゆえりと村上幸子の親友コンビだ。
ゆえりは直立猫のアバター、幸子は派手派手なエルフのアバターである。
「う~ん、桜山、相変わらずいいもふもふ具合だ。俺の右手がうずくぜ!」
「いやらしい!」
アキラのいつものノリに幸子が厳しくツッコむ。
「そもそもアキラくんはホットドッグマニアでしょう。モフるなら犬じゃない?」
「ホットドッグは犬ではない」
「はいはい君たち脱線はそこまでにしようか? それで、今日みんなを集めたのはどうしてだい?」
祐希がやさしくアキラに聞いた。
「実はVRゲーム掲示板にすごいスクープがあったんですよ!」
「スクープ?」
ゆえりが猫の姿でかわいらしく小首をかしげる。
アキラはモフりたい誘惑にぐっと耐えた。
「実は、ダンジョンが見つかったらしいんです」
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