チート願望者は異世界召還の夢を見るか?

扶桑かつみ

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第三部

255「援軍派遣開始(1)」

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 その日は、言葉通り風呂をいただいた後は、たっぷり食べてたっぷり寝るべく早々に就寝した。
 早朝出発だし、作戦会議も雑談もイチャイチャもなしだ。

 それでもハルカさんとは同室、同ベッドなので、軽くトークを楽しみお休みのキスまでいただいた。
 もう彼女彼氏どころか同棲レベルだ。


 とはいえ、眠りについて目を覚ますと、いつもの自分の部屋の天井だった。
 今日は悠里も不法侵入してきていない。と言うか、少し早く目が覚めたらしい。
 しかし二度寝という気分でもなかったので、そのまま起きていつものように向こうでの事の記録を開始する。

 そうして30分ほどノートパソコンで記録を作っていくと、部屋の扉の外に気配を感じた。
 そんな事が分かるようになった自分自身に少し驚いたが、気配は扉の前でしばらくそのままだった。
 けど、それから1分もすると静かに扉が開いた。まだ6時くらいなので、今こんな時間に扉を開くのは一人しかいない。

「おはよう悠里」

「ヒッ! な、なんで、もう起きてんだよ!」

「昨日勝手に入ってこられたから、というのは嘘。単に早く目が覚めただけ」

「フンっ! で、向こうのこと記録してるのか?」

「そうだぞっと」

 そう言って、今書いていたテキストのファイルを閉じて、そのままノートパソコンの画面を倒してしまう。

「隠さなくてもいいだろ」

「隠すよ。絶対に見せたくないからな。で、今朝は何の用だ?」

「昨日、みんなすぐ寝ちゃうし、何かあったか聞こうかと」

「何もない。風呂、メシ、寝る、でおしまい。特に作戦とかも話してない。話すとしたら、移動途中の野営の時じゃないかな?」

「それは、そん時みんなと聞く。それじゃあ、みんなの事もう少し教えて」

 その言葉とともにまたベッドに座り、さらにそのままパタリと横向きに倒れ込む。
 夏は露出の多い格好で寝てるので、無防備な事この上ない。
 オレ自身はなんとも思わないが、言ってやった方がいいのかもしれない。

「一昨日の夜、仲良く話しあってたのにか?」

「教えて欲しいのは、何が好きとかじゃないから。そういうのは、ちゃんとこれからみんなと言い合いっこするし」

「つまり重い話ね。けどさ、一昨日話した通りだけど」

「あれってダイジェストじゃん。それに、おま、お兄ちゃんが、それをどうやって知ったのかは、ほとんど端折ってただろ」

「ノート見たなら、ある程度分かるだろ」

「ノートは大事なところがぼかされてたじゃん。手伝う以上、全部知っておきたい」

「……分かった。オレが話せる限りの分だけな」

「うん」

 そうして身を起こして、オレにグッと体ごと顔を向けてくる。
 妹とはいえ、ちょっと目のやり場に困るほどだ。
 そしてそれに気づく事もないので、こっちが少し視線など逸らしてから話を始めた。
 しかし朝食まででは時間が足りず「あとは夜な」と打ち切り、その日の夜の11時くらいから続きを話した。
 全部話し終わったのは、深夜1時を回る頃だった。


「ふわ~~っ。聞いてばっかだと、さすがに眠い」

「寝なかっただけ、褒めてやる」

「褒めてなんているか。てかさ、なんでお前だけ、そんなに大冒険してんだよ。不公平じゃん!」

 そう言いながら、ジーッと睨みつけるように見てくる。

「そんな事言われてもなあ。積極的に首突っ込んだのって、シズさんの魔女の亡霊の件くらいだぞ」

「そうだけど! あーっ! もっと早く私の事教えておけば、みんなとももっと早く知り合えたのに!」

 人のベッドで暴れまわり、最後にずっと掴んでいて枕をオレに投げつけてきたので、それを軽く受け止める。
 その枕には、悠里の使ってるシャンプーとかの匂いが付きまくっていたが、ちっとも嬉しくない。

「そんな結果論言ってどうする。それに、これから仲良くなればいいだろ。向こうじゃ、これから時間は幾らでもあるんだし」

「うっさい! そんな事分かってる」

「分かってるなら。そろそろ寝ろ。明日はどっちも早いんだからな」

「うん、寝る。……けど、何か変な感じ」

「何がだ?」

「あっちでもこっちでも、こうして顔を合わせてる事」

 その言葉とともに、グッと顔を近づけてくる。
 寝る前だからか下着を着けていないので、だぶだぶの寝間着の下が危険なほど見えている。

 (朝もそうだけど、止めろと言った方がいいのだろうか?)と思うも、別になんとも思わないので、別の事を口にする。

「確かになあ。けど、もう慣れた」

「シズさんとレナとの事があるからか?」

「レナは、もう違うも同然だけどな」

「そうだった。けど、二重人格ってマジなのか?」

 そう言うと、ますますオレに顔を寄せてくる。いい加減、うんざりしそうだ。

「クロは同じ魂だって判定してるからな」

「クロ、ねえ。結局、似たようなのが、他に2つあるんだよね。まだ探すのか?」

「他? いや、あえて探す気はないけど」

「じゃあ、何を探すんだよ?」

 そう言えば説明なりをしてなかったと思う。

「探すのは情報や方法であってアイテムじゃないからな」

「情報や方法ねえ。ま、今はいいか」

「うん。まずは、魔物の鎮定だ。明日からは頼むな」

「任せとけ。お前も、ライムの背から落ちんなよ」

「了解。気をつけるよ」


 そうして別れて寝て起きると、エルブルス辺境伯の領主の部屋だった。
 今日は存分に寝たらしいが、日の出前といったところだろう。
 それ以前に、同じベットの反対側で寝ていたハルカさんの姿がもうなかった。
 まあ、毎朝毎晩感傷に浸る気もないので、こっちもさっさと着替えを済ませてしまう。

 広間まで出ると、すでに人が忙しげに行き来している。
 クロには、昨晩のうちに諸々準備をするように命じてあるせいか、思ったより忙しげに働いていた。
 あまりにも忠実で真面目なので、給料とはいかないがご褒美の一つもあげたくなってしまう。

 そんなクロの様子を見つつ、3人が食事しているテーブルに近づく。
 悠里も一緒で、オレを見ると昨夜同様に微妙な表情を向けてくる。こうして顔を合わすことに慣れてないせいだろう。

「おはよー」

「もう起きたのね。あんまりぐっすり寝てたから、食べた後で起こしてあげようかと思ったのに」

「えっ、マジ。ちょっと損したかも」

「ま、手間が省けて何よりだわ。それより、もうみんな準備進めているから、早く朝ごはん食べて」

 朝の軽いトークはこれだけという事らしい。

「おう。作戦とかは、今日の夕食の時でいいかな?」

「そうだな。まあ何事もなければ、向こうでは2日猶予がある。作戦も念のための場合だけでいいだろう」

「何もないことを祈りますよ」

「言い出しっぺが何言ってんだよ」

 妹様の容赦ない言葉だけど、確かに急かしたのオレだ。
 だからと言うわけでもないが、ちょうど1席分空いていた席について、やってきたコーヒーやお味噌汁などと共に、テーブルに山盛りにされている朝食に食らいついていった。


 朝食後、武具など整えて飛行場に出ると、すでにほとんどの兵士が揃っていた。
 悠里は今までのゴツイ全身甲冑ではなく、蒼い竜の鱗で作ったスケイルメイルというワンピース状の鎧を中心とした少し軽装になっている。
 手足も龍の鱗を要所に組み込んだブーツやグラブ状の鎧だ。

 兜はなくレナのようなゴーグルだけど、悠里のゴーグルはかなり金属など使っているみたいで、多少は防具の役割も果たすものだった。
 見た目はゴーグルというよりヘッドセットのようで、ファンタジーと言うよりどこかSFっぽい。
 なんでも、鎧共々ここのドワーフ達の特注らしい。

 悠里が鎧を変えたのは、全身甲冑は借り物で警備隊用というのが理由の一つ。
 そしてもう一つ、一人では装着できないので、遠征などで使いにくいものだそうだ。
 それにこの時着ているのが、いつか旅に出るときに備えて誂えたものだ。
 これだけ立派な鎧を誂えたのなら、旅にも出たくなるというものだろう。

 なお、竜騎兵が隊長のホランさんと悠里込みで8名。悠里以外は全員竜人で、よく見ると女性の竜人も2人いる。
 と言っても、一部の獣人のように人間に寄った姿ではない。普通に竜人で、微妙な違いで男女の差が分かる程度だ。

 別の場所では、20人の獣人とドワーフが1人いた。
 どうやらドワーフが治癒の魔法使いらしい。ただし神官の法衣は着ていないので、神官ではない。
 しかもそのドワーフは、近づいて判ったが初日に会ったラルドさんだった。現場の棟梁とか言ってたくせに、治癒魔法の使い手でもあったようだ。

 向こうも気づくと気軽に手を上げてくるが、同時にいたずらに成功したと言いたげに兜の下からニヤリと笑っている。

 獣人の20名は、半数が犬というより狼、もう半数が色々なネコ科な感じの人たちだ。
 獣頭に全身もしくは半身が毛むくじゃらと、耳と尻尾だけのスタイルの者が半々程度。うち女性は2名ずつで、きれいに外見の違うタイプの人が揃っていた。
 しかも人に近い獣人も、手足が途中まで毛深い獣人もいるので、バリエーションがとても豊富だ。
 こうした同じ種族内での違いは、彼らにとって人の肌の色の違い程の差もないらしい。

 獣としての種類についても、猫、山猫、虎、豹、獅子とネコ科はバリエーション豊富だ。2名ずつぞれぞれの種族から選抜でもしたのだろう。
 イヌ科が狼で統一されているのはホランさんの部族とかの影響だろうが、ネコ科の人たちはどうなのだろう。

 などと眺めつつ思っていると、中の一人がこちらに近づいてきた。
 人に近い獣人で、耳と3本生えた尻尾から虎の獣人と察しがつく。
 野性味あふれる美人さんで、人に近い姿だけど体つきや動きが猫科の動物を思わせる。

「初めまして領主ショウ。私はニオ。今回の戦士隊の副長を任されました」

「ショウです。よろしくお願いします」

 こちらでの挨拶では握手などないので、両手を広げて胸の前で交差して合わせる挨拶を交わす。

「こちらこそ。昨日は、我らのお株を奪うような戦いをされたと聞きました。それに負けないように努めさせていただきます」

「期待させてもらいます。けど、くれぐれも無茶はしないでください」

「ショウが言っても説得力な~い」

 とボクっ娘に突っ込まれ、そして周囲が小さな笑いの輪となったのはいつもの通りだ。
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