チート願望者は異世界召還の夢を見るか?

扶桑かつみ

文字の大きさ
289 / 528
第四部

291「Sランパーティー?」

しおりを挟む
 話し合いをなるべく手短に終えて司令部の天幕を出ると、かなりの人だかりができていた。

 雰囲気は野次馬だ。何の野次馬かと一瞬思ったけど、みんなの視線がオレ達に向いている。
 それに、天幕を出てきた時点で小さなざわめきが起き、小声で口々に色々な事を噂しあっている。

 「あれがそうか」「流石に装備は良さそうだな」「悪魔殺(デビルスレイヤー)ってマジ?」「マジ強いのか?」「Sランパーティーらしい」「魔力抑えてて、分からへんなあ」「てかさ、女ばっかじゃん」「しかも可愛い子ばっか」「お前ナンパしてみろよ」「チーレムか。初めて見た」「男はフツメンね」「そう? 結構好みかも」「強い男がいいだけでしょ」「さしずめライオンの群れだな」「ハーレムかぁ。いいなぁ」
などと、軽薄な噂話に興じているのは『ダブル』、オレ達のご同郷の皆さんだ。

 一方で「お噂は本当だったんだ」「あの方々が命の恩人か」「ああっ、俺はこの目で見た」「全軍の窮地に颯爽と現れたんだぞ」「敵将を討ち取られたそうだ」「凄いお力をお持ちらしいぞ」「世界竜の加護をお持ちだそうだ」「従者や奴隷はお連れじゃないんだな」
などと、背中がもぞもぞするような敬称や褒め言葉を囁き合っているのは、市民軍に属しているこっちの世界の人たち。
 雰囲気が全然違う。

 そして右側と左側といった感じで、二つのグループに分かれている事が、ノヴァの現状を端的に物語っているようにも思えた。
 以前聞いた話では、ノヴァで『ダブル』は貴族とはいかないまでも特権階級的な扱いだ。何せ全員が高い魔力持ちだ。その上、高い知識と教養を持っているとされている。

 それに対して、市民のうち特に市民軍の過半数以上は、ノヴァが世界中から買い集めた解放奴隷かその子孫だそうだ。
 ノヴァの繁栄や文物に惹かれて移住してきた人たちも街には大勢いるが、特に市民軍の主力は一日でも早くノヴァの市民権を得るために戦う若い解放奴隷達が中心だ。

 それはともかく、こんな晒し者状態は早々に逃げ出したい。
 みんなも同じで、口々に「早く行こう」「早く戻ろう」などと小声で言い合いながら足早に去ろうとする。
 ただ、野次馬に道が塞がれた状態なので、道を開けてもらわないと飛行場には行けない。
 その気になれば、力任せにハイジャンプで飛び越えるという手も出来なくはないが、これ以上悪目立ちはしたくなかった。

 仕方なくオレが口を開こうとすると、ハルカさんが軽く制して一歩前に出る。

「申し訳ありませんが、道を開けて下さいませんか。これより、お勤めで西にあるレイ博士の館に戻らねばならないのです」

 よく通る声であり、さらに彼女が高位の神官のおかげだろう、こっちの世界の人たちは一斉にハッとなって、率先して道を開いてくれた。
 つられて『ダブル』も続く。
 面倒も多いが、こういう時は神殿の権威は役に立つ。
 しかし、その人だかりが裂けた先に、突っ立っている男性がいた。

「悪魔殺(デビルスレイヤー)がどんな連中かと思って来てみれば、ガキに小娘ばかり。ガッカリだな」

 明らかに挑発の言葉で、顔も態度も姿勢も挑発姿勢だ。
 かなりの長身で体格もいい。装備も良さそうな戦士風、いや魔法戦士のようだ。
 年齢は20歳前後だろうが、実年齢は分からない。
 黒髪黒目で、雰囲気が日本人の『ダブル』だ。
 ただ、挑発が演技がかっている。それに、本来はもう少ししっかりした人なのではないかとも思えた。

(確か前の会議の時に、幹部として席に座ってた一人だ)

 その男にもハルカさんが口を開こうとしたが、今度はオレが一歩前に出てハルカさんを制する。
 ハーケンでは売り言葉に買い言葉となった汚名返上の機会だ。

「何か御用でしょうか? 先を急いでいるので、要件があるなら手短にお願いします」

 そうすると、男は少しとぼけたような表情を見せる。

「いや、顔を拝みに来ただけだ。腕が立ちそうなら、手合わせの一つでもと思ったが、見込み違いだったようだな」

「それじゃあ、用はないんですね。申し訳ありませんが、急ぐので通してもらえますか?」

「なんだ、挑発には乗ってくれないんだな」

「乗って良い事はないでしょうから」

 オレの言葉に、その男性が笑う。自然な笑みで、剣呑な雰囲気も霧散する。
 馬鹿にもしていないし、あるとするなら自嘲だ。

「違いない。……いや、煽るような事をして悪かった。俺は雷の剣士ライトニング。ノヴァでは五指には入ると自負している。ま、あっちじゃただの機械工なんだけどな」

 言葉の最後に皮肉っぽい笑みを浮かべ、態度もぐっと砕けた。
 そうした表情は、確かに街のどこにでもいるような普通の人の雰囲気だ。

「えっと、オレはショウです。あの、何か御用でしょうか? だったら、手短にお願いします。急ぐのは本当なので」

「おう、悪かったな。止め立てして。手柄を取られて、悔しくて来ただけだ。それとな……」

 そこで言葉が一瞬詰まり、真面目な表情に変化する。

「クソ悪魔に仲間が何人もやられた。中には『ダブル』じゃない奴もいたんだ。だから、仇を取ってくれた礼を言いたかった。ありがとう」

 そう言って、かなりの深さで頭を下げる。
 こっちは振り払う火の粉を振り払うって状況でしかなかったので、何だか居心地が悪くなりそうだ。

「いえ、オレ達のところまで逃げてきてた時には、以前会った時ほどの力はなかったように思いました。皆さんと戦ったからだと思います。確かに、手柄を横取りしたみたいで、ごめんなさい」

「謝ることじゃないだろ。それにあいつは、力が落ちていたとしても俺達じゃ倒せなかった。こちとらノヴァで五指とかイキってても、クソ悪魔一匹倒せないヘタレ具合だ。マジ、仇取ってくれてありがとな」

「……はい」

 予想外に重い言葉をかけられて、最低限の返事をするのがやっとだった。
 オレは、今まで仲間が戦いで犠牲になった事はなかったので、返せる言葉が思い浮かばなかったからだ。

 少し立ち尽くしたオレの背を、ハルカさんが軽く押してくれないと、その場で立ち続けていたかもしれない。
 視線でハルカさんに軽くお礼の気持ちを伝えると、彼女もそれに目で答えてくれて、そのあとは自然に歩くことができた。

 そしてライトニングと名乗った男性とのすれ違いざまに「それじゃあ」と軽く挨拶して、その場を後にして飛行場へと向かう。
 彼はすれ違いざまに「おうっ」とだけ応えてオレの肩を軽く叩き、視線を向けあって軽く笑みを交歓する。
 こういう時は、軽くでも頭を下げるものではないだろう。



「煽ってきた時はどうなるかと思ったねー」

 ボクっ娘が陽気な口調のように、みんなの緊張も解れたので飛行場に雑談しながら向かう。
 こっちを見る人はまだチラホラといるが、寄って来たり人だかりにまではならない。

「けど、どうしてさっきは前に出たの?」

「ハーケンの時は、売り言葉に買い言葉で面倒になっただろ。その汚名返上をと思って」

「大人になった俺を見て欲しいって?」

「そこまでは思ってないけど」

「ま、今回は良い人で良かったわね」

 ハルカさんとのやり取りで、他のみんなも軽く笑う。
 オレも苦笑するしかない。

「そうだよな。けどオレ、あの人の言葉にロクに返事できなかったよ」

「向こうも言葉なんて望んでないでしょう」

「かもしれないけど、オレ今まで誰かを失ったりとか無かったから。……だから、無鉄砲弾はしないように気を付けるよ」

「ショウ一人じゃなければ、私か誰かがストッパーになるわよ。自分の特性殺してどうするのよ」

 真面目に話したのに、またハルカさんに頭を小突かれる。

「えっ? 無鉄砲は欠点だろ」

「拙速を尊ぶという言葉もある。特に今回の戦いは、ショウが急かしてノヴァに来たから、簡単に引っくり返せたわけだしな」

「ボクはショウの無鉄砲なところ好きだよ。結果オーライな事は多いけど」

「みんな、こい、お兄ちゃんに優しいんですね」

 みんなのフォローに、悠里が心底感心したように口にした。
 妹の言葉ながら反論のしようがない。

「そうでもないよ。ショウの無鉄砲さがなければ、私は未だ狂った魔女に心を囚われたままか、『帝国』なりに『魔女の亡霊』として滅ぼされてドロップアウトだった」

「それを言えば、ショウが召喚初日にゴブリンに喧嘩売ってなければ、私もショウと出会ってないかもしれないのよね」

「なるほどー、そうなるんだね。ボクは、ショウが身バレしてたら、いつかは会いに来てただろうけど、こうしてみんなには会えてなかったんだね」

「じゃあ、私もお兄ちゃんの無鉄砲のおかげで、皆さんに会えたって事になるのかー」

 ボクっ娘と悠里が妙に感心している。
 ただ、4人の感想はオレ的にはちょっと解せない。

「あのさあ、オレの無鉄砲をなんかいい話にしてないか? そりゃあ性格だから仕方ない面はあるだろうけど、やっぱり良くはないだろ」

「それこそ性格なんだから、良いも悪いもないでしょう。けど私は、今まで通りで良いと思うわよ。私的に、そういうところも含めてだから」

「昼間からイチャイチャ禁止。でもボクも、ハルカさんと同じ気持ちではあるんだけどね」

「私もだぞショウ。これはもう、悠里ちゃんに許可をもらって、ハーレムを作るしかないな!」

「えーっ?!」

 いつになくみんなが好意的だ。
 シズさんなんて、後ろから抱きついてきた。鎧を着てるから背中に当たる感触は堪能できないが、首に回して来た腕やすぐそばにきた顔に、思わずドキッとさせられる。
 けど、シズさんがこうしてオレをちょっとからかう時は大抵理由がある。

 それぞれライトニングさんの言葉に、何か思うところがあったのだろう。
 しかし、悠里の罵声ならぬ一人で納得したようなツッコミが、オレの思考を現実に引き戻した。

「あー、なんか分かりました。アレですよね。出来る女はダメ男に惹かれやすいってフリですよね。けどダメですよ、お兄ちゃんなんかに。本気にするか、調子に乗るから」

 オレは現実に引き戻されたが、悠里の天然すぎる言葉に3人が一瞬呆気にとられたあと、声を出して笑った。
 悠里はやっぱり冗談で言っていたんだと納得顔だけど、何であれこれだけの仲間、いや女性に好意を寄せられるのは嬉しくもあり、有り難くもあった。
 プレッシャーも半端ないけど。

「さあ、オチもついたし、博士の館に帰ろうか」

「そうだな……いや、ちょっと待った方がいいかも。しばらく空が混みそう」

「あ、ホントだ」

 オレが空を見て呼びかけたので、話していたボクっ娘だけじゃなく、みんなも空を見る。
 長く滞在しすぎたのか、オレ達が来る前に飛び立ったノヴァの空軍の偵察が戻ってきたようだ。
 2騎一組だし、上空を警戒する竜騎兵や翼竜が友好の証を送ると、それに応えるのが遠望できた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」 世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。 ”人類”と”魔族” 生存圏を争って日夜争いを続けている。 しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。 トレジャーハンターその名はラルフ。 夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。 そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く 欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、 世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...