チート願望者は異世界召還の夢を見るか?

扶桑かつみ

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第四部

326「シズさんの方向性」

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 現実で目を覚ますと、平日の土曜日。
 いつもの事だけど、ここ数日の向こう側では一人で寝起きなので違和感が少ない気がする。
 やはり環境が近いとそうなのだろうか。

 現実での週末は、どちらも昼からバイト入りの予定だ。
 タクミも同じなので、学校で会えなくてもバイトで会う事ができる。そこで、ちょっと話ができないかと思いスマホを手に取る。

 というのも、『夢』の向こうで新たな仲間探しを始めたタクミは、そのままビギナー同士で盛り上がったらしく、宿に戻って来る事がなかったからだ。
 おかげでオレは、二人部屋で空しく一人寝る事になってしまった。

 しかし現実で気軽に会う事ができるので、向こうではきにする事なく床についた。
 しかも朝起きると、タクミからメッセージが届いていた。

『昨日は悪い。ビギナーメンバーと飲んで、そのまま誰かの部屋で寝てる』

(タクミにしては、嘘が下手だな。いや、あいつは嘘つきじゃないか)

 そう思いつつも、ぼんやりした頭で返事を書く。
「『初っぱなから女の部屋にしけこむとか、やるな』っと」
 そしたらものの30秒で返事がくる。

『だったら最高だけど、野郎の部屋で雑魚寝してる』

(コミュ強にしは芸のない返事)

 そう思いつつも『だと思った。細かい事はバイト前に聞く』とだけ送ると『ok』とだけ返ってきた。

 それを見る頃には、既に日課の向こうでの記録を始めているところだった。けど、日記は急がないといけない。
 もちろん記憶が薄れるからではない。
 今日は早朝の玲奈の日課である犬の散歩に合流して、その後午前中はミニデートの予定だからだ。
 タクミに変な返事を送っておいて、陽キャなのはオレの方だ。


 小さな優越感をほんの少し抱きつつ、自転車でシズさんの神社へと到着する。
 するとすでに先客があり、犬の太い鳴き声が玲奈が到着している事を伝えていた。
 さらに近づくと、人同士の会話も聞こえてくる。片方はシズさんだけど、もう片方は複数で少なくとも玲奈ではない。
 以前より感覚が少し鋭くなったような気がするが、それよりも話し声が気になったので少し歩みを早めてて神社内の声のする方へと急ぐ。

 そこには、巫女姿のシズさんとおばちゃんが3人ほどいた。
 玲奈は少し離れた場所にいて、白と黒っぽい二匹の大型犬を懸命に抑さえつけている。犬達は、おばちゃん達に対して少し警戒モードになっている。
 あまり良く無い状況らしい。
 近づくにつれて、会話の内容も十分に聞き取れるようになる。

「うちの兄ちゃんところでの講師のバイトの事、考えといてね。その子達も面倒を見るって言ってるし」

「そうよ。こんな雑誌に載るよりずっといいわ」

「静ちゃんの事を思って言ってるのよ」

 状況は完全には掴めないが、ビジネススマイルなシズさんの表情が見えた時点で、空気読めない少年を装って突撃する事に決定した。

「おはよう御座います常磐さん!」

「ああ、おはよう月待君」

 一瞬の後、即座にオレの意図を理解してくれたシズさんに対して、他からは邪魔すんなこのくそガキという目線が突き刺さってくるが、出来るだけ陽キャっぽく笑顔を向けてやる。

「お邪魔してごめんなさい。シズさんに勉強の事を聞きにきたんですが、構わないですか?」

「べ、勉強?」

「はい。オレ、この夏からシズさんに勉強教わっているんです。時間もないし、約束してたので構いませんよね」

 語気はなるべくそのままに、有無を言わせない言葉で「圧」を加える。
 魔物に比べたら大した相手じゃ無い。

「そ、そうなの?」

「ええ、そうです。天沢さんの犬の散歩に合わせて来てもらう約束をしていたんです」

 シズさんも、しれっと嘘をついてオレの言葉に合わせてくれた。そうするとババア連中も、この場は引き下がらざるを得ないという雰囲気になる。
 そしてなし崩しに社務所へと入る。
 玲奈も、社務所の玄関前に文字通りの番犬状態で犬達を待たせて、社務所へと入って来てピシャリと扉を閉める。
 2匹の犬も役割を心得たもので、狛犬のように扉の横に寝そべって待機に入る。


「助かったよ、ショウ」

 シズさんが軽く一息ついた後、言葉と共に微笑んだ。
 けどオレ的には、前衛職の役目を果たしたくらいの気持ちだ。

「凄いね、私は割り込めなかった」

 玲奈からは、上目遣いに少し尊敬がこもった視線が注がれる。
 大した事はしてないので、ちょっとこそばゆい。
 自然、口にした事が言い訳がましくなった気がする。

「まあ、普段大人はこっちをガキ呼ばわりしてくるんだから、こういう時にガキな事を利用しないとね」

「フフフっ、言うようになったな。だが、本当に助かった」

「で、なんだったんですか?」

「ああ、これだよ」

 シズさんの手には、オレでも知っているくらい有名な若手の女優さんが表紙の雑誌が握られている。
 先月末に出ていた、シズさんがモデルとして載っているファッション誌だ。

 そうすると、玲奈もトートバックから同じ雑誌を取り出して、パラパラっとページをめくっていく。
 そして何ヶ所かに、シズさんがお洒落な姿で映っていた。
 しかもうち1点は紙面のかなりを占めていて、一目でシズさんだと分かる。映える姿なので、奇麗な女性が様々な姿で並んでいる中でも一際よく目立っていた。

「これを氏子さんに見つかったんですか」

「そうなんだ。こんなに早く見つかるとは思わなかった」

 ヤレヤレな表情のシズさんは、少し気疲れしているみたいだ。
 反撃したくても出来ない相手に、苦戦を強いられていたのだろう。
 それよりも、だ。

「それにしても、随分掲載されるんですね」

「事務所やマネージャーさんが推してくれてな」

「そんなに評価されてるなんて凄いですね」

「ありがとう」

 シズさんはいつもの苦笑ではなく、少し誇らしげな笑みを浮かべる。
 単に事務所やマネージャーから買われているだけじゃなくて、ブランクがあるのにかなり目立つ場所に掲載されるという事は、以前はもっと載っていたのだろう。
 玲奈も嬉しそうにウンウンと頷いている。

「前はもっと載ってましたよね。私すごく嬉しいです」

「ありがとう玲奈。でも事務所的には、私に別の付加価値が付いたからってのもあるらしくてね」

「付加価値?」

「良い大学に通うようになっただろ。その辺から、モデルだけじゃなくて別方面にもと考えているらしい。外向けのSNSなども、もっと積極的にしないのかと言われているしな」

「事務所は、モデル事務所じゃなくてタレント事務所も兼ねてるんでしたっけ?」

「そうなんだ。だからモデル以外のレッスンを受けた事もあるよ」

「大きなところで、シズさんのお友達や知り合いに有名人も居るんですよね。この表紙の人もそう」

 玲奈が我が事のように嬉しそうに話す。
 これにはシズさんも苦笑ぎみだ。

「けど、その方向で進むと、ますます頭の固い氏子さんから言われそうですね」

「そうなんだ。一応悪意はないし、しがらみもあるから返事も難しくてな」

 そう言うシズさんは、さらに苦笑が深くなる。
 反撃できない相手は苦手なのだろう。

「けど、他人の仕事に口出すのはダメでしょう。それにシズさんはモデルを続けたいんですよね」

「うん。それに事務所には世話になっているし迷惑もかけたから、モデル以外もやれる限りやるつもりだ」

 その言葉に、芸能人やタレントとしてのシズさんの姿が思い浮かぶ。向こうでの演技力なども考えると、女優でも十分やっていけるだろうと思える。

「それで、その道に進むんですか?」

「いいや、事務所とも大学在学中までと最初から契約している」

「じゃあ大学卒業後は、司法関係か研究とかの道に進むんですか?」

「まさか。魔法ならともかく、法律の研究はこっちから願い下げ。それにモデルをするのは楽しいが、一生ものの仕事にするのは凄く難しい。だから、普通に就職するつもりだ」

 意外な言葉が出てきた。
 けど、堅実さを目指すのはシズさんらしい。
 しかし玲奈の表情には小さくない驚きがある。その表情を見つつ、シズさんが少し面白げな表情でさらに言葉を続けた。

「語学もあっちでラテン語に近い言葉を読み書き出来たお陰で、イタリア語とかラテン語に近い言葉は幾つかマスター出来たから、それを活かしたいと考えている」

「じゃあ通訳や翻訳ですか?」

 玲奈の言葉には不安に近い響きがあるが、シズさんの言葉は揺らいでいない。

「それも一つの道だが、今の所は商社か外資系を目指すつもりだ。大学も国際法と企業関連中心の予定だしな」

 オレのような目標無しと全然違う。それに目指す目標が高いのもシズさんらしい。
 そのシズさんは、「だがなあ」と言いつつ苦笑する。

「事務所もマネージャーも、大学を出るまでに私が心変わりするのを期待しているらしい。だからどんどん仕事を取って来てくれると息巻いていて、今後も氏子さんとの衝突が増えそうなんだ」

「氏子さん達が文句言えなくなるまで、オレ達を盾に使ってくれればいいですよ。悠里なら高校三年まで教えれば、シズさんの大学卒業までいけますし」

「そうです。たまには頼って下さい」

 そう言って玲奈が、「ぐっ」て感じで胸の前で両手を結んで横並びに合わせる。

「悠里ちゃんにはまた今度話すが、悪いが出来る限りそうさせてもらおうと思っている。
 で、相談なんだが、塾への合流は断って欲しい。それと、教えるのは週2にしてもらえないか。何なら悠里ちゃんと別々に来てくれても良いんだが」

「断るのは勿論です。けど、オレ的には学期中は帰りが夜になるから、帰りはまずは玲奈を送ってから悠里と一緒に帰るって考えてたんですが」

「だから、今日は私の家を教える予定なんです」

 その言葉にシズさんが少し考える素振りを見せる。
 おとがいに手を当てる仕草が、似合うと言うより堂に入っている感じがするのはシズさんだからだろう。

「だから犬の散歩の帰りに合流だったんだな。そうか。じゃあ当面は週2で3人まとめて見る形でいいかな?」

「はい、全然構いません」

「私も構いません。悠里ちゃんとも会いたいし」

「なら決まりだな。それじゃあ、デートを楽しんでこい」

 そう言うと、シズさんはオレ達二人の肩に軽く手を乗せた。
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