1 / 12
決勝戦
しおりを挟む
指がプールの壁を確かにタッチした。
酸素を求める身体。
水面から顔をあげ、大きく息を吸い込見ながら、電光掲示板に目をやる。
そこに表示された信じられないタイムを自分が叩き出したのだと認識するのと隣のコースを泳ぐ絶対王者と呼ばれる選手がフィニッシュするのと、どちらが早かっただろう、、、
水中から腕を突き上げ、思わずとったガッツポーズ。
全身が震える。
しなやかだが鍛えられた筋肉が、拳を握り突き上げられた腕に浮かぶ。
粗い息。
厚い胸板が力強く膨らむ。
“信じられませんっ!男子1,500メートル自由形!番狂せ!若干、17歳の新生に巨星が敗れましたっ!朝日直人選手っ、やりましたっ!”
“見事な泳ぎでしたね。後半、全くペースが落ちなかった。王者の技巧に若さのスタミナが勝ったということですかね。いや、朝日選手、見事な泳ぎだっ!”
実況席でアナウンサーと解説者が興奮気味に叫ぶ。
ゴーッと自分を包む騒音が、彼に向けられた歓声だということに、直人はようやく気付く。
戸惑い周囲を見回す。
隣のコースを泳いでいた絶対王者が若干の悔しさを滲ませ、それでも笑みを浮かべ両手を差し伸べてきた。
スイマーなら誰でも憧れる存在。
ついこの間まで、同じプールで競うことはおろか、会うことなど想像だにしなかった絶対王者が直人に祝福のハグを受する。
“おめでとう、、、完敗だ、、、”
ハグの後、さらに固い握手を交わす。
自分でも自分の今の状況が信じられない。
プールサイドでコーチと顧問が狂喜しているのが見えた。
周りに促されプールから上がる。
顔を上気させた大会関係者達が周りに集まり、口々に祝福の言葉を投げかける。
自分のこととは思えない。
そして、指示されるがままに表彰台に上がった。
中央の1番高い台。
両サイドの低い段には、誰もが顔を知っている名選手がそれぞれ立つ。
お、オレが、こんな場所に立っていいのか?
勝利の興奮よりも戸惑いの方が大きい。
今更ながら、会場の広さに驚く。
脚が軽く震える。
直人の名前が呼び上げられ、歓声が高まる。
首に金のメダルが掛けられる。
重い。
これって、本当に現実のことなんだろうか、、、
表彰台の上、直人は何をどうしていいか分からない。
一つだけ確かなことは、これは“ヒメ”のおかげだということだ。
早く報告したい。
“ヒメ”と共に泳ぎ、喜びを分かち合いたい。
表彰式に続く記者会見、大会役員•選手達との懇談。
素晴らしい泳ぎだったとか、オリンピックがどうのとか、世界大会がどうのとか、自分のことを話題にされているが全く脳みそに入ってこない。
ぎこちない笑顔を浮かべるのがやっとだった。
決勝から後のことは、ほとんど記憶に残っていない。
後にテレビや新聞・雑誌での報道を見ても、他人事にしか思えない。
画面や紙面の自分が他人のようだ。
自分の顔が載ったスポーツ紙に目を落とす。
“17歳の新星•朝日直人、、、『今すぐ帰って泳ぎたい!』”
そんな見出しの記事。
記者会見での返答。
ー今、何が一番したいですか?
ーすぐに帰って、プールで思い切り泳ぎたいです。
そのやり取りが切り取られ、独り歩きしている。
しかし、それは本心からの言葉だった。
記者達は、練習好きのピュアなスポーツ少年の言葉と受け取ったようだ。
高校2年生の無名のスイマー直人への好印象と期待が滲み出る記事が溢れた。
本当は、記者会見などさっさと終え、夜行バスに乗り込み、いち早く“ヒメ”の待つ街に戻り、優勝の喜びと感謝を伝えるためあのプールに飛び込みたいだけなのだった。
酸素を求める身体。
水面から顔をあげ、大きく息を吸い込見ながら、電光掲示板に目をやる。
そこに表示された信じられないタイムを自分が叩き出したのだと認識するのと隣のコースを泳ぐ絶対王者と呼ばれる選手がフィニッシュするのと、どちらが早かっただろう、、、
水中から腕を突き上げ、思わずとったガッツポーズ。
全身が震える。
しなやかだが鍛えられた筋肉が、拳を握り突き上げられた腕に浮かぶ。
粗い息。
厚い胸板が力強く膨らむ。
“信じられませんっ!男子1,500メートル自由形!番狂せ!若干、17歳の新生に巨星が敗れましたっ!朝日直人選手っ、やりましたっ!”
“見事な泳ぎでしたね。後半、全くペースが落ちなかった。王者の技巧に若さのスタミナが勝ったということですかね。いや、朝日選手、見事な泳ぎだっ!”
実況席でアナウンサーと解説者が興奮気味に叫ぶ。
ゴーッと自分を包む騒音が、彼に向けられた歓声だということに、直人はようやく気付く。
戸惑い周囲を見回す。
隣のコースを泳いでいた絶対王者が若干の悔しさを滲ませ、それでも笑みを浮かべ両手を差し伸べてきた。
スイマーなら誰でも憧れる存在。
ついこの間まで、同じプールで競うことはおろか、会うことなど想像だにしなかった絶対王者が直人に祝福のハグを受する。
“おめでとう、、、完敗だ、、、”
ハグの後、さらに固い握手を交わす。
自分でも自分の今の状況が信じられない。
プールサイドでコーチと顧問が狂喜しているのが見えた。
周りに促されプールから上がる。
顔を上気させた大会関係者達が周りに集まり、口々に祝福の言葉を投げかける。
自分のこととは思えない。
そして、指示されるがままに表彰台に上がった。
中央の1番高い台。
両サイドの低い段には、誰もが顔を知っている名選手がそれぞれ立つ。
お、オレが、こんな場所に立っていいのか?
勝利の興奮よりも戸惑いの方が大きい。
今更ながら、会場の広さに驚く。
脚が軽く震える。
直人の名前が呼び上げられ、歓声が高まる。
首に金のメダルが掛けられる。
重い。
これって、本当に現実のことなんだろうか、、、
表彰台の上、直人は何をどうしていいか分からない。
一つだけ確かなことは、これは“ヒメ”のおかげだということだ。
早く報告したい。
“ヒメ”と共に泳ぎ、喜びを分かち合いたい。
表彰式に続く記者会見、大会役員•選手達との懇談。
素晴らしい泳ぎだったとか、オリンピックがどうのとか、世界大会がどうのとか、自分のことを話題にされているが全く脳みそに入ってこない。
ぎこちない笑顔を浮かべるのがやっとだった。
決勝から後のことは、ほとんど記憶に残っていない。
後にテレビや新聞・雑誌での報道を見ても、他人事にしか思えない。
画面や紙面の自分が他人のようだ。
自分の顔が載ったスポーツ紙に目を落とす。
“17歳の新星•朝日直人、、、『今すぐ帰って泳ぎたい!』”
そんな見出しの記事。
記者会見での返答。
ー今、何が一番したいですか?
ーすぐに帰って、プールで思い切り泳ぎたいです。
そのやり取りが切り取られ、独り歩きしている。
しかし、それは本心からの言葉だった。
記者達は、練習好きのピュアなスポーツ少年の言葉と受け取ったようだ。
高校2年生の無名のスイマー直人への好印象と期待が滲み出る記事が溢れた。
本当は、記者会見などさっさと終え、夜行バスに乗り込み、いち早く“ヒメ”の待つ街に戻り、優勝の喜びと感謝を伝えるためあのプールに飛び込みたいだけなのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる