30年待たされた異世界転移

明之 想

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第12章

外套

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<シャリエルン視点>



「今回はエリシティア様が最優先だ。それだけは忘れないように」

「……」

「ティアルダ、それにあなたたち、団長の考えは理解してるわよね」

「もちろん」

「分かってますよぉ」

 迷いなく頷くドロテアとラルス。
 一方、ティアルダは。

「けどよぉ、姫様の痕跡があればやるしかねえよなぁ?」

「それは……とにかく軽挙は避けなさい」

「分かってるって。ってことで、もっと近づこうぜ」




 その後も距離を詰め続け。
 結局、アイスタージウス軍に邪魔されることなく、あと数歩という地点まで到着してしまった。

「……」

 もちろん、この距離だ。
 我々に気づいている者もいる。
 それでも、こちらに手を出す兵は皆無。

 さて、どうしたものかな?

「「「団長?」」」

「私が行きましょうか? それとも様子見を?」

「ふむ……」

「戦闘状態の兵士に尋ねてもしょうがねえって。力づくで聞いた方が早いぞ」

「ティアルダ、軽挙は禁止と言ったでしょ」

「でもよぉ」

「いいから、あなたは黙ってなさい」

「ちぇっ」

 ティアルダのように力に頼る必要はないが、かといって、しばらく様子を見るというのも……ん? あれは!?

「えっ、あの紋章にあの色合い?」

「まさか、エリシティア様の?」

「姫様の外套?」

 間違いない。
 エリシティア様の外套が宙に舞っている!!




*************************




 キン、キン、ギン!

 シュッ、ザシュッ!

 激しい剣戟音が平原に響き渡る中、先程から絶えることなく続く微妙な戦い。

「……」

 どうにも納得できないというか、腑に落ちないというか。
 とにかく、分からないことが多すぎる。

 エリシティア様やギリオンたちの衣類や防具は存在するのに、当の本人たちは見当たらない。気配も感じられない。さらには、アイスタージウス軍の連中も行方を知らないようなのだ。

 いったい何が起こっているのか?
 エリシティア様やギリオンはどこに消えたのか?
 そもそも、アイスタージウス軍と敵対していいものなのか?

 なんて、今さらだな。
 既に戦っているのだから。

 とはいえ、迷いながら振るう剣はどうしても鈍ってしまう。
 はあぁぁ……。

 シュン、シュン!

 そんな俺とは対照的に、相変わらずの剣の冴えを見せてくれる剣姫。
 魔剣ドゥエリンガーは舞い踊り、巻き起こった剣風が草をなぎ払う。剣身が冷たい光を放ちながら敵を斬り裂いていく。

 シュン、シュン!

 ザン、ザシュッ!

 攻防一体のその動きは俊敏苛烈で、対する敵をことごとく地に沈めている。
 なのに剣の美しさは失われず、敵対する者をも惚けさせてしまうほど。

「「うぅ」」

「「ああぁ」」

 どんな状況であれ変わることのない剣姫の腕。
 迷いなど微塵も見えない。
 ほんと、俺とは大違いだよ。



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