令嬢連続誘拐事件

明之 想

文字の大きさ
上 下
13 / 13

13

しおりを挟む
 ゴゴゴォォォ!!

「来た……」

 ナナ嬢は諦めの表情。
 ククミス嬢とメローネ嬢は。

「メローネ!」

「ククミス様、後ろにお隠れください」

「何を言ってる! 隠れるのはメローネだろ」

「……」

「ほら、私の後ろに回ってくれ」

「嫌です! ククミス様を危険な目にあわせるわけにはいきません」

「なっ!」

「私が護ります」

「メローネ……。気持ちは嬉しいが、その身体では無理だ」

「……」

「私たちは一心同体。動ける方が動けばいい。だからな、私にも護らせてくれないか?」

「……」

「私を信じてくれ、メローネ!」

「ククミス様……分かりました」

 ククミス嬢がメローネ嬢を護るように前に出ている。

 新参令嬢の2人は。

「い、いや!」

「来ないで!」

 部屋の隅で肩を寄せ合った状態。

 私は……。

 自然と腰が引けそうになる。
 体が固まりそうに……。

 もう何度も経験しているのに。
 覚悟もしているのに。

「……」

 私では到底敵わない異形の速度、膂力。
 体を絡め捕られた時の恐怖。
 メローネ嬢の酷い傷。

 負の思いばかりが頭を巡ってしまう。

 ただ、それでも……。

 すべて経験済みなんだ。

 だから、克服できる。
 戦うこともできる。
 弱点を叩いてやる!


「5さん、こっちに」

 戦闘態勢に入った私に声をかけてきたのはメローネ嬢。
 共闘しようというのだろう。

「いや、離れていた方がいい」

 ありがたい話だが、ここは1人で動く場面。
 バケモノの背後から隙をついて一撃を喰らわすには、単独で動くべき。

「5さん……」

「……」

「……」


 そんな私たちの前に現れるのは。
 2つ首?
 5つ首?
 それとも他の……。

 外の光に照らされた犯人の姿は……5つ首だ!

「っ!」

 令嬢たちの間を縫うように犯人の首が伸びてくる。
 うねうねと不気味に動きながら、恐ろしく強靭な首がやって来る。

 新参の令嬢2人、メローネ嬢、ククミス嬢、ナナ嬢、そして私。
 5つ首が狙うのは?

 誰だ??

「メローネ、来るぞ!」

「はい!」

 まるで、こっちをなぶるかのように選別している。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 ぞっとする。
 気持ちが悪い。
 
「あっ!」

 ナナ嬢に向かって異形が動き出した!
 狙いは彼女だ。

 5つの首がナナ嬢に巻き付いていく!

「ふふ……」

 黒ずんだ顔を歪め、諦観の笑みを漏らすナナ嬢。

「ナナ様!」

「ナナ嬢!」

 イエロー3姉妹の最後の1人。
 長姉が……。

「やっと楽になれる」

 ナナ嬢が連れ去られてしまう。

「……」

 違う!
 その前に体当たりを!
 あいつの角に喰らわすんだ!

 決意とともに身構えた次の瞬間。

「……えっ??」

 締め付けていた首が離れ。
 ナナ嬢が無造作に投げ捨てられた。

「……なんで?」

「ナナ様?」

 5つ首は再び部屋を彷徨っている。
 このまま去る気はなさそうだ。

 なら、誰を獲物に選ぶ?

「!?」

 私?
 次は私なんだな?

「5さん!」

「5!!」

 バケモノの首が迫ってくる!

「……」

 いいだろう。
 ここで勝負だ!!

 そう思っているのに、体の動きが鈍い。
 冷や汗が噴き出してくる。

 恐怖がまた……。

「くっ!!」

 そんな情けない身体を鞭打ち、前へ!
 前へ、前へ!!

 体当たりを……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。






『お母さん、これ腐ってる』

『ほんと、そのバナナ真っ黒だわ』

『もう、冷蔵庫に入れるからだよ』

『そうね……』

『どうしよっか?』

『バナナは捨てちゃって、他の果物にしなさい。食べかけのメロンがあったでしょ』

『うーん、メロンの気分じゃないなぁ。今日はマンゴーにしよ』











 完



***********************




〇登場人物


・グリーン分家 メローネ : メロン(少し安めの品種)
・グリーン本家 ククミス : 高級メロン(ククミスはラテン語でメロンの意)
・レッド家   アポ   : りんご
・イエロー家  長姉ナナ : バナナ
・ジョーヌ家(仏語で黄色): シトロン(仏語でレモン)
・主人公 10000-5 : マンゴー

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...