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第29話 会社の近く2
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「専務……!」
振り返ったアキヤさんが慌てて立ち上がる。
わ、すごく偉い人だ。
「休憩中だろう? かしこまらなくていい。むしろ、大事なお相手との時間に悪いな」
「はい……あ、いえ……!」
アキヤさん、はいって……正直すぎ。嬉しいけど。
「ははっ、浮ついた東上寺が見られるなんてなぁ」
専務さんは気にしていないようで良かった。アルファっぽいから理解があるのかな?
っていうか、これ、俺あいさつしたほうがいい?
でも、まだ正式な番でもないのに……。
「東上寺の直属の上司になります。大原です」
俺が悩んでいる間に、専務さんの方から名刺を差し出されてしまって、慌てて俺も立ち上がる。
「あ、アキ……東上寺さんとお付き合いしています、春野ミチです」
仕事着のままで良かった。ポケットに入れていた名刺入れから名刺を一枚取り出し、社会人同士らしく交換すると、大原さんは俺の名刺を興味深げに眺めた。
「あぁ。最近手編みのマフラーを自慢していると思ったら、なるほど。手芸用品の会社にお勤めなんですね」
うちの会社、知ってくれているんだ……っていうか、自慢?
「専務、明日……いや、この後からカーディガンとスヌードも自慢しますよ」
「なるほどなぁ。春野さん、ありがとうございます」
「え?」
アキヤさんにお礼を言われるのは解るけど、なんでアキヤさんの上司に……?
「社内のアルファは俺と社長と東上寺の三人だけなのもあって、こいつはどうにも周りの社員から距離を取られていたんです」
「アキヤさんが?」
こんなに親しみやすい、素敵な人なのに。
「アルファは、どうしても敬遠されがちなんですよ。嫌われているわけではなくて、尊敬されすぎているというか、近寄りがたいというか」
「あぁ……!」
それは少しわかる。アキヤさんにはそんなことないけど、アルファは優秀過ぎて俺なんかが話しかけて良いのかなって思っちゃうところがある。
「若いのに重要なポジションになったから、舐められたくなくて本人も意識してリーダーらしく振る舞っているというのもあるかもしれないですけどね。……でも、そんなこいつに、最近は柔らかい表情が増えて」
「あ……」
それって……もしかして……。
「春野さんのことを惚気まくって」
「ちょっ、ま、っ、専務!」
「東上寺、話しやすいし弄りやすい男になったなぁ」
「……部署内のコミュニケーションは、確かに円滑になりました」
アキヤさんが思い切り焦った後、あきらめたようにため息をつく。
あ、その顔あんまり見たことない。かわいい。
「そんなわけだから、春野さん、上司としてもお礼を言いたくて……ありがとうございます」
「そんな……俺はただ、素敵な相手が見つかって、毎日が幸せなだけで……何もしていないです」
「ミチくん……」
大原さんに向けて言うつもりが、ついアキヤさんを見ながら言ってしまうと、アキヤさんは少し情けなかった顔を嬉しそうにほころばせた。
うん。さっきの顔もかわいいけど、やっぱり笑顔がいいな。
「はぁ、いいなぁ。俺も番が見つかった時を思い出す。今度の休みは嫁とデートでもするか」
「専務、毎週されているじゃないですか」
「そう言えばそうだった」
大原さんは冗談っぽく笑うけど……おそらく六〇歳近い年齢でも毎週デート……いいな。俺も六〇歳になるころまでずっと、アキヤさんと毎週デートするような関係がいいな。
「それじゃあ、そろそろ……あぁそうだ、春野さん。大丈夫だとは思うが、東上寺のことで何かあればいつでもその名刺の番号に連絡してください」
「はい、わかりました」
「ではお先に。東上寺、お前の惚気通りの素敵な方だな。休憩一五分伸ばしておくからしっかり充電してこい」
「ありがとうございます」
大原さんがオフィスビルの方へ歩いていくのを見送って、俺とアキヤさんは再び席に着く。
「……ミチくんあの、……その……」
アキヤさんは気まずそうだけど……
上司に恋人を、恋人に上司を見られる気恥ずかしさは理解できるけど……
ごめんなさい。
俺、大原さんに出会えてめっちゃくちゃラッキーと思いました。
「アキヤさん、会社で俺のこと惚気てくれているんですか?」
「あ、あぁ、ごめん。嬉しくてつい……ちょっとだけ……あ、いや、結構たくさん」
結構たくさん惚気てくれているんだ……それって……それっってすごく……。
「アルファに自慢してもらえるって嬉しい。アキヤさん、俺、すごく嬉しいです」
嬉しくて嬉しくて満面の笑みを向けると、アキヤさんはシャツの胸元を掴んで唇をかむ。
嬉しい俺で嬉しくなっているアキヤさんだ。
わぁ……更に嬉しいし……。
「ふふっ。かわいい」
「……かわいいより、かっこいいって言ってもらえる俺でいたいのに」
アキヤさんは嬉しそうな顔のまま、少しだけ悔しそうに呟いた。
それもかわいい。
かわいくて仕方がない!
この日は時間が短かったけど、俺もしっかりアキヤさんを充電することができた。
振り返ったアキヤさんが慌てて立ち上がる。
わ、すごく偉い人だ。
「休憩中だろう? かしこまらなくていい。むしろ、大事なお相手との時間に悪いな」
「はい……あ、いえ……!」
アキヤさん、はいって……正直すぎ。嬉しいけど。
「ははっ、浮ついた東上寺が見られるなんてなぁ」
専務さんは気にしていないようで良かった。アルファっぽいから理解があるのかな?
っていうか、これ、俺あいさつしたほうがいい?
でも、まだ正式な番でもないのに……。
「東上寺の直属の上司になります。大原です」
俺が悩んでいる間に、専務さんの方から名刺を差し出されてしまって、慌てて俺も立ち上がる。
「あ、アキ……東上寺さんとお付き合いしています、春野ミチです」
仕事着のままで良かった。ポケットに入れていた名刺入れから名刺を一枚取り出し、社会人同士らしく交換すると、大原さんは俺の名刺を興味深げに眺めた。
「あぁ。最近手編みのマフラーを自慢していると思ったら、なるほど。手芸用品の会社にお勤めなんですね」
うちの会社、知ってくれているんだ……っていうか、自慢?
「専務、明日……いや、この後からカーディガンとスヌードも自慢しますよ」
「なるほどなぁ。春野さん、ありがとうございます」
「え?」
アキヤさんにお礼を言われるのは解るけど、なんでアキヤさんの上司に……?
「社内のアルファは俺と社長と東上寺の三人だけなのもあって、こいつはどうにも周りの社員から距離を取られていたんです」
「アキヤさんが?」
こんなに親しみやすい、素敵な人なのに。
「アルファは、どうしても敬遠されがちなんですよ。嫌われているわけではなくて、尊敬されすぎているというか、近寄りがたいというか」
「あぁ……!」
それは少しわかる。アキヤさんにはそんなことないけど、アルファは優秀過ぎて俺なんかが話しかけて良いのかなって思っちゃうところがある。
「若いのに重要なポジションになったから、舐められたくなくて本人も意識してリーダーらしく振る舞っているというのもあるかもしれないですけどね。……でも、そんなこいつに、最近は柔らかい表情が増えて」
「あ……」
それって……もしかして……。
「春野さんのことを惚気まくって」
「ちょっ、ま、っ、専務!」
「東上寺、話しやすいし弄りやすい男になったなぁ」
「……部署内のコミュニケーションは、確かに円滑になりました」
アキヤさんが思い切り焦った後、あきらめたようにため息をつく。
あ、その顔あんまり見たことない。かわいい。
「そんなわけだから、春野さん、上司としてもお礼を言いたくて……ありがとうございます」
「そんな……俺はただ、素敵な相手が見つかって、毎日が幸せなだけで……何もしていないです」
「ミチくん……」
大原さんに向けて言うつもりが、ついアキヤさんを見ながら言ってしまうと、アキヤさんは少し情けなかった顔を嬉しそうにほころばせた。
うん。さっきの顔もかわいいけど、やっぱり笑顔がいいな。
「はぁ、いいなぁ。俺も番が見つかった時を思い出す。今度の休みは嫁とデートでもするか」
「専務、毎週されているじゃないですか」
「そう言えばそうだった」
大原さんは冗談っぽく笑うけど……おそらく六〇歳近い年齢でも毎週デート……いいな。俺も六〇歳になるころまでずっと、アキヤさんと毎週デートするような関係がいいな。
「それじゃあ、そろそろ……あぁそうだ、春野さん。大丈夫だとは思うが、東上寺のことで何かあればいつでもその名刺の番号に連絡してください」
「はい、わかりました」
「ではお先に。東上寺、お前の惚気通りの素敵な方だな。休憩一五分伸ばしておくからしっかり充電してこい」
「ありがとうございます」
大原さんがオフィスビルの方へ歩いていくのを見送って、俺とアキヤさんは再び席に着く。
「……ミチくんあの、……その……」
アキヤさんは気まずそうだけど……
上司に恋人を、恋人に上司を見られる気恥ずかしさは理解できるけど……
ごめんなさい。
俺、大原さんに出会えてめっちゃくちゃラッキーと思いました。
「アキヤさん、会社で俺のこと惚気てくれているんですか?」
「あ、あぁ、ごめん。嬉しくてつい……ちょっとだけ……あ、いや、結構たくさん」
結構たくさん惚気てくれているんだ……それって……それっってすごく……。
「アルファに自慢してもらえるって嬉しい。アキヤさん、俺、すごく嬉しいです」
嬉しくて嬉しくて満面の笑みを向けると、アキヤさんはシャツの胸元を掴んで唇をかむ。
嬉しい俺で嬉しくなっているアキヤさんだ。
わぁ……更に嬉しいし……。
「ふふっ。かわいい」
「……かわいいより、かっこいいって言ってもらえる俺でいたいのに」
アキヤさんは嬉しそうな顔のまま、少しだけ悔しそうに呟いた。
それもかわいい。
かわいくて仕方がない!
この日は時間が短かったけど、俺もしっかりアキヤさんを充電することができた。
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