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第22話 迷宮今日略の今と、オークションの実態
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「……モシカシテ、出品ガイツノ間ニカ取リ消サレテタノッテ」
博の言及した内容にピンときて、そう尋ねると博は少し苦笑気味な様子で言った。
『あぁ、こっちの方で取り消させてもらったんだよ』
「ヤッパリカ。デモ何デダ? 俺ガ出シタ釘バットナンカ、大シタモノデモナイダロウニ」
確かにあれは俺が期せずして《魔剣化》させてしまったものだが、迷宮でもある程度の層まで潜ればいくらでも手に入るような品でもある。
実際、先ほど知り合いになったカズ兄なんかは頻繁、とまでは言わないにしろ手に入れることは出来るはずだ。
そう思ったのだが、博は呆れた声で、
『お前、だからもうちょっと迷宮関係の情報にはアンテナ張っておけって言うんだよ』
アンテナとは、オークが言うにしてはあまりにも現代的な単語だな、とどうでもいいことを考えつつ、俺は博に、
「ドウイウ意味ダ?」
と尋ねた。
確かに俺があんまり迷宮関係のことを調べたりはしていないのは事実だが……。
もちろん、向こうの世界にいた頃はしっかりと調べたし何度も潜ったし、正直言って俺以上に迷宮に詳しい奴なんてなかなかいないくらいだと自負するほどだった。
ただ、こっちの世界の事情については……テレビとネットとバラエティの眉唾な特集とか、それくらいが関の山だな。
俺にとって新しい情報などまずないし。
しかし、博は言う。
『ゲー……じゃなかった、岩雄が』
「モウ、ゲードデイイヨ」
わざとなのか本気なのか、一度たりともすんなり俺の名前を呼んだことがない博だ。
もう一年経ってもこれなのだから、ここらが諦め時だろう、と観念して俺はそう言った。
博は笑って、
『そりゃ、助かる! これでスッキリしたぜ……おっと、続きだ』
「ウン」
『ゲードが迷宮に誰よりも詳しいことは知っているがな、それはあくまで迷宮それ自体に、だろ? 今、どれだけこの地球で迷宮が攻略されてるかとか、どんな団体が攻略してるかとか、どの程度の奴らが探索者にいるかとか、そういう情報には疎いんじゃないかって話だ」
言われてみると……そうかもな。
ただ全く知らないと言うわけじゃ全くない。
少なくともこの世界の一般人レベルの知識は十分にあるはずだ。
だから博に、
『俺ダッテ、ソレナリニハ……」
と、反論しようとしたが博は、
「それなりに知ってたら、今回の釘バット魔剣を《迷宮オークション》なんかで売ろうとはしないんだよなぁ……」
としみじみとした声色で言う。
俺は少し向きになって、
「何デダヨ」
と言い返すと、博は説明してくれる。
「要点はひとつだ。《お前の売ろうとしていた魔剣は、性能が良すぎる》」
「……エ? アノ程度、迷宮デモ十層程度ニ潜レバ余裕デ手ニ入ルダロウ? ソレニ数ハ少ナイケドコッチノ世界ニハドワーフダッテ来テルンダ。鍛冶師ダッテ一人クライハイタダロ?」
ドワーフと言っても種族全てが鍛冶を生業にしているわけではない。
ただ、ドワーフが十人もいれば、鍛冶師が一人もいないということはまずあり得ない。
それくらいの割合ではいるはずだった。
そして彼らには魔剣や聖剣を作れる技術があるはずで、そこから考えれば俺が即席で作り上げてしまったあの魔剣の性能などゴミに等しいはずだった。
けれど博は俺の疑問にひとつひとつ答えていく。
「まず、迷宮十層まで潜れば手に入る、って話だが、こっちの世界で迷宮攻略がどれくらい進んでいるか、お前よくわかってないな。十層には確かに到達はしている。だがな、それはあくまでもトップランカーたちがそれなりに努力して辿り着けるレベルなんだ。探索者の平均値は二層だぞ」
「エッ」
でも昨日のカズ兄は十層くらい普通に行けそうだったが……もしかして、彼、トップランカー?
考えてみればかなり初期の方にスカウトされてギルドに入ってるみたいなこと言ってたし……そういうことなら博の話とも符合するな。
ベテランと言っていいくらいの気迫も感じられたし、つまりは、この世界ではかなり強い方だったのか。
「加えて、だ。ドワーフは確かにいるし、鍛冶を生業にしてる奴らも数えるほどだがいる。だけど、言い方が悪いかもしれんが、ほぼ全員国で囲ってる。理由は想像がつくだろ?」
「未知ノ技術ノ塊ダカラカ」
「そういうことだ。それに、たとえ市井に多少ドワーフの鍛冶師がいようと、今はまだお前の作った魔剣ほどの品はまだ生産できねぇだろうな」
「ナンデ?」
「設備と材料不足だよ。こっちの世界の炉だと魔力的な強度が足りねぇからな。高熱には十分耐えられてもドワーフの扱う《火》は性質が違う。どれだけ高熱に耐えられる炉でも、こっちの世界の炉じゃドロドロ溶けちまうのは確認済みなんだ。解決方法は、それこそ迷宮深層の魔素材……ミスリルとかヒヒイロカネとかオリハルコンとかを、少量でも確保することだな。つまり、今しばらくは難しいってことだ。まぁ、魔鉄くらいでもいいんだが、それだって十層じゃ滅多に取れないし、迷宮それ自体の性質もあるからな。中々ってことだよ」
「ナルホド……」
技術はあっても素材不足、というのはちょっと考えてなかった。
そもそも魔武器の類なんてこっちじゃ一切欲したことがないからそういうことを調べようとも思ってなかった。
テレビじゃドワーフの名工がここに!なんていう番組が組まれてやってたりすることもよくあるし、SNSなんかでも結構見るんだがあれはフェイクに近いということかもしれない。
「デモ、魔武器トカ魔道具ッポイノ、オークションデイクツカ売ッテルノ見タゾ」
「お前それも適当に見てたな? そもそも写真見たってどれくらい魔力宿ってるかどうかなんて普通はわかんねぇだろ。まぁ、確かに迷宮産出品はそれなりに売ってはいるんだが……それこそ大したもんじゃねぇぞ。買うなよ?」
「……買ワナイケド」
向こうの世界にあった、魔導コンロとかがあれば欲しいなとかは思っていた。
あれは魔力注げば電気要らずだから電気代節約になるんだよな……でもオークションにはなかった。
博の言及した内容にピンときて、そう尋ねると博は少し苦笑気味な様子で言った。
『あぁ、こっちの方で取り消させてもらったんだよ』
「ヤッパリカ。デモ何デダ? 俺ガ出シタ釘バットナンカ、大シタモノデモナイダロウニ」
確かにあれは俺が期せずして《魔剣化》させてしまったものだが、迷宮でもある程度の層まで潜ればいくらでも手に入るような品でもある。
実際、先ほど知り合いになったカズ兄なんかは頻繁、とまでは言わないにしろ手に入れることは出来るはずだ。
そう思ったのだが、博は呆れた声で、
『お前、だからもうちょっと迷宮関係の情報にはアンテナ張っておけって言うんだよ』
アンテナとは、オークが言うにしてはあまりにも現代的な単語だな、とどうでもいいことを考えつつ、俺は博に、
「ドウイウ意味ダ?」
と尋ねた。
確かに俺があんまり迷宮関係のことを調べたりはしていないのは事実だが……。
もちろん、向こうの世界にいた頃はしっかりと調べたし何度も潜ったし、正直言って俺以上に迷宮に詳しい奴なんてなかなかいないくらいだと自負するほどだった。
ただ、こっちの世界の事情については……テレビとネットとバラエティの眉唾な特集とか、それくらいが関の山だな。
俺にとって新しい情報などまずないし。
しかし、博は言う。
『ゲー……じゃなかった、岩雄が』
「モウ、ゲードデイイヨ」
わざとなのか本気なのか、一度たりともすんなり俺の名前を呼んだことがない博だ。
もう一年経ってもこれなのだから、ここらが諦め時だろう、と観念して俺はそう言った。
博は笑って、
『そりゃ、助かる! これでスッキリしたぜ……おっと、続きだ』
「ウン」
『ゲードが迷宮に誰よりも詳しいことは知っているがな、それはあくまで迷宮それ自体に、だろ? 今、どれだけこの地球で迷宮が攻略されてるかとか、どんな団体が攻略してるかとか、どの程度の奴らが探索者にいるかとか、そういう情報には疎いんじゃないかって話だ」
言われてみると……そうかもな。
ただ全く知らないと言うわけじゃ全くない。
少なくともこの世界の一般人レベルの知識は十分にあるはずだ。
だから博に、
『俺ダッテ、ソレナリニハ……」
と、反論しようとしたが博は、
「それなりに知ってたら、今回の釘バット魔剣を《迷宮オークション》なんかで売ろうとはしないんだよなぁ……」
としみじみとした声色で言う。
俺は少し向きになって、
「何デダヨ」
と言い返すと、博は説明してくれる。
「要点はひとつだ。《お前の売ろうとしていた魔剣は、性能が良すぎる》」
「……エ? アノ程度、迷宮デモ十層程度ニ潜レバ余裕デ手ニ入ルダロウ? ソレニ数ハ少ナイケドコッチノ世界ニハドワーフダッテ来テルンダ。鍛冶師ダッテ一人クライハイタダロ?」
ドワーフと言っても種族全てが鍛冶を生業にしているわけではない。
ただ、ドワーフが十人もいれば、鍛冶師が一人もいないということはまずあり得ない。
それくらいの割合ではいるはずだった。
そして彼らには魔剣や聖剣を作れる技術があるはずで、そこから考えれば俺が即席で作り上げてしまったあの魔剣の性能などゴミに等しいはずだった。
けれど博は俺の疑問にひとつひとつ答えていく。
「まず、迷宮十層まで潜れば手に入る、って話だが、こっちの世界で迷宮攻略がどれくらい進んでいるか、お前よくわかってないな。十層には確かに到達はしている。だがな、それはあくまでもトップランカーたちがそれなりに努力して辿り着けるレベルなんだ。探索者の平均値は二層だぞ」
「エッ」
でも昨日のカズ兄は十層くらい普通に行けそうだったが……もしかして、彼、トップランカー?
考えてみればかなり初期の方にスカウトされてギルドに入ってるみたいなこと言ってたし……そういうことなら博の話とも符合するな。
ベテランと言っていいくらいの気迫も感じられたし、つまりは、この世界ではかなり強い方だったのか。
「加えて、だ。ドワーフは確かにいるし、鍛冶を生業にしてる奴らも数えるほどだがいる。だけど、言い方が悪いかもしれんが、ほぼ全員国で囲ってる。理由は想像がつくだろ?」
「未知ノ技術ノ塊ダカラカ」
「そういうことだ。それに、たとえ市井に多少ドワーフの鍛冶師がいようと、今はまだお前の作った魔剣ほどの品はまだ生産できねぇだろうな」
「ナンデ?」
「設備と材料不足だよ。こっちの世界の炉だと魔力的な強度が足りねぇからな。高熱には十分耐えられてもドワーフの扱う《火》は性質が違う。どれだけ高熱に耐えられる炉でも、こっちの世界の炉じゃドロドロ溶けちまうのは確認済みなんだ。解決方法は、それこそ迷宮深層の魔素材……ミスリルとかヒヒイロカネとかオリハルコンとかを、少量でも確保することだな。つまり、今しばらくは難しいってことだ。まぁ、魔鉄くらいでもいいんだが、それだって十層じゃ滅多に取れないし、迷宮それ自体の性質もあるからな。中々ってことだよ」
「ナルホド……」
技術はあっても素材不足、というのはちょっと考えてなかった。
そもそも魔武器の類なんてこっちじゃ一切欲したことがないからそういうことを調べようとも思ってなかった。
テレビじゃドワーフの名工がここに!なんていう番組が組まれてやってたりすることもよくあるし、SNSなんかでも結構見るんだがあれはフェイクに近いということかもしれない。
「デモ、魔武器トカ魔道具ッポイノ、オークションデイクツカ売ッテルノ見タゾ」
「お前それも適当に見てたな? そもそも写真見たってどれくらい魔力宿ってるかどうかなんて普通はわかんねぇだろ。まぁ、確かに迷宮産出品はそれなりに売ってはいるんだが……それこそ大したもんじゃねぇぞ。買うなよ?」
「……買ワナイケド」
向こうの世界にあった、魔導コンロとかがあれば欲しいなとかは思っていた。
あれは魔力注げば電気要らずだから電気代節約になるんだよな……でもオークションにはなかった。
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