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4話
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あれからどうやって帰ったのか覚えていない。暗い部屋の中で、ぼんやりと座っていた。あのとき確かに想いは繋がった。それなのに、結びかけの関係が、すぐに解けてしまった。誰が悪いわけではない。彼が考え抜いた決断を、わたしが止めるわけにはいかない。これ以上、彼の負担にはなりたくはない。抱きしめていた腕を解き、彼からゆっくりと離れていった。そのあと、わたしを呼ぶ声は聞こえてきたが、わたしは反応することができず、ゆったりゆったりと歩いていった。それからの記憶がない。
わたしはソウ兄が好き。ソウ兄はわたしのことが好きでいてくれている。それなのに、うまく想いが結びつかない。それがとても切なく苦しい。もっと彼と一緒に過ごしたい。もっと一緒にふざけ合いたい。もっと気持ちに寄り添いたい。彼の夢を応援してあげなくちゃいけないのに、素直にしてあげられない。こんなにも自分勝手なわたしが大ッキライだ。
スマホにLINEの通知画面が映し出された。そっとスマホを取り差出人を確認した。奏さんだ。目頭が熱くなった。彼女には心配ばかりかけてしまっている。本当に情けない。震える指で表示ボタンを押し、画面を開いた。
〈愛美ちゃん。大丈夫? 話しは立原くんから聞いた。驚いたよね。あたしも初めて聞いたとき、すごく驚いたよ。そこまで真剣に考えてるなんて思っていなかったから。愛美ちゃんからしたら余計だよね。好きな人が自分から離れていっちゃんだから。でも大丈夫だよ。立原くんは、ずっと愛美ちゃんの傍にいるよ。どんなに離れていても、彼はあなたを忘れたりしないから〉
わたしは声を殺し、泪を流した。
応援をしたいのに苦しい。彼女に言う通り、気持ちは寄り添える。それなのにわたしは彼を縛り付けようしているのだ。ソウ兄がどれだけ考え抜いて決断をしたのかを考えもしないで、わたしの傍に居させようとしていた。彼が自分の進路を伝えるのに、どれだけ悩んできたのかを考えもせずにだ。
――本当、こんなわたし大ッキライ!
*
カーテンの隙間から日差しの光が入り込み、わたしは目を覚ました。あのままわたしは眠ってしまったのだろう。ずっと泣いてしまっていたから、目の周りが酷いことになっていた。これでは父さんに余計に心配をかけてしまう。ぐったりと項垂れた。わたしは最低な人間だ。人の想いや決断を汲み取ってあげられないのだから。わたしには彼と恋人になる資格なんてない。恋人になりたいだなんて、夢のまた夢の話しだ。このままずっと、ただの幼なじみのままだ。
奏さんのLINEに返信をしていなかった。いや、することができなかった。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかなかったから。わたしはぼんやりとスマホの画面を眺めた。既読をつけたままのLINEのメッセージ。奏さんはずっと返信を待ってくれていたのかもしれないのに。でもなんて返せばいいのだろうか。どんな返事をすれば心配をさせなくて済むのだろう。余計にわからなくなってしまった。
「どうすればいいんだろ」
自分の弱さが本当に憎い。
応援したいという気持ちと一緒にいたいという気持ちが頭の中でぐるりぐるりと回っていた。
ノックの音がした。恐らく父さんだろう。すぐに反応することができなかった。居留守をしていると、遠慮なく扉が開かれた。でもそこにいたのは、父ではなくソウ兄であった。ソウ兄はわたしの隣に座って話しを始めた。
「昨日は悪かったな。もっと早く話すべきだったと思う。そしたらこんなにも苦しめる必要はなかったのにな」
「ソウ兄は、悪くない。何も悪くなんかない。わたしがずっと縛りつけていたんだね。だから、ずっと言い出せなかったんだよね」
「別に縛られていたわけじゃない。俺がお前の傍にいてやりたかったからだ。だけど、どんどん変わっていくマナを見ていたら、俺も覚悟を決めなくちゃいけないと思ったんだよ。このままじゃ、マナに追い越されちまうって。だから自分の進路を決められたんだ。高田からは、かなり叱られたけれどな」
恥ずかしげな表情は浮かべていたけれど、ソウ兄はいつもの子どもっぽくて暖かい笑顔を見せていた。彼の胸に自分の額を当て、軽く彼の肩を叩いた。
「あのね。わたしも決めたの。わたし、絶対にソウ兄と同じ高校に行く。入れ違いになってしまうけれど。必ず合格するから。だから、それまでわたしの傍に居てください」
「仕方がない奴だな」
彼はやさしくわたしを抱きしめた
わたしはソウ兄が好き。ソウ兄はわたしのことが好きでいてくれている。それなのに、うまく想いが結びつかない。それがとても切なく苦しい。もっと彼と一緒に過ごしたい。もっと一緒にふざけ合いたい。もっと気持ちに寄り添いたい。彼の夢を応援してあげなくちゃいけないのに、素直にしてあげられない。こんなにも自分勝手なわたしが大ッキライだ。
スマホにLINEの通知画面が映し出された。そっとスマホを取り差出人を確認した。奏さんだ。目頭が熱くなった。彼女には心配ばかりかけてしまっている。本当に情けない。震える指で表示ボタンを押し、画面を開いた。
〈愛美ちゃん。大丈夫? 話しは立原くんから聞いた。驚いたよね。あたしも初めて聞いたとき、すごく驚いたよ。そこまで真剣に考えてるなんて思っていなかったから。愛美ちゃんからしたら余計だよね。好きな人が自分から離れていっちゃんだから。でも大丈夫だよ。立原くんは、ずっと愛美ちゃんの傍にいるよ。どんなに離れていても、彼はあなたを忘れたりしないから〉
わたしは声を殺し、泪を流した。
応援をしたいのに苦しい。彼女に言う通り、気持ちは寄り添える。それなのにわたしは彼を縛り付けようしているのだ。ソウ兄がどれだけ考え抜いて決断をしたのかを考えもしないで、わたしの傍に居させようとしていた。彼が自分の進路を伝えるのに、どれだけ悩んできたのかを考えもせずにだ。
――本当、こんなわたし大ッキライ!
*
カーテンの隙間から日差しの光が入り込み、わたしは目を覚ました。あのままわたしは眠ってしまったのだろう。ずっと泣いてしまっていたから、目の周りが酷いことになっていた。これでは父さんに余計に心配をかけてしまう。ぐったりと項垂れた。わたしは最低な人間だ。人の想いや決断を汲み取ってあげられないのだから。わたしには彼と恋人になる資格なんてない。恋人になりたいだなんて、夢のまた夢の話しだ。このままずっと、ただの幼なじみのままだ。
奏さんのLINEに返信をしていなかった。いや、することができなかった。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかなかったから。わたしはぼんやりとスマホの画面を眺めた。既読をつけたままのLINEのメッセージ。奏さんはずっと返信を待ってくれていたのかもしれないのに。でもなんて返せばいいのだろうか。どんな返事をすれば心配をさせなくて済むのだろう。余計にわからなくなってしまった。
「どうすればいいんだろ」
自分の弱さが本当に憎い。
応援したいという気持ちと一緒にいたいという気持ちが頭の中でぐるりぐるりと回っていた。
ノックの音がした。恐らく父さんだろう。すぐに反応することができなかった。居留守をしていると、遠慮なく扉が開かれた。でもそこにいたのは、父ではなくソウ兄であった。ソウ兄はわたしの隣に座って話しを始めた。
「昨日は悪かったな。もっと早く話すべきだったと思う。そしたらこんなにも苦しめる必要はなかったのにな」
「ソウ兄は、悪くない。何も悪くなんかない。わたしがずっと縛りつけていたんだね。だから、ずっと言い出せなかったんだよね」
「別に縛られていたわけじゃない。俺がお前の傍にいてやりたかったからだ。だけど、どんどん変わっていくマナを見ていたら、俺も覚悟を決めなくちゃいけないと思ったんだよ。このままじゃ、マナに追い越されちまうって。だから自分の進路を決められたんだ。高田からは、かなり叱られたけれどな」
恥ずかしげな表情は浮かべていたけれど、ソウ兄はいつもの子どもっぽくて暖かい笑顔を見せていた。彼の胸に自分の額を当て、軽く彼の肩を叩いた。
「あのね。わたしも決めたの。わたし、絶対にソウ兄と同じ高校に行く。入れ違いになってしまうけれど。必ず合格するから。だから、それまでわたしの傍に居てください」
「仕方がない奴だな」
彼はやさしくわたしを抱きしめた
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