スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

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第1話「赤い手紙(改)」

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 おはようございます。

俺、戸賀勇希トガユウキ16歳は毎朝早起きです。

染めたような青空に、のどかに広がる田園風景が目に優しい。
向こうに爺さんがトラクターで田植えをしているのが見える。

「朝っぱらから労働、ご苦労なこった」

そう呟く俺は箒を手に持ち、日課である早朝の玄関周りの掃除を開始した。
なぜ俺がこんなことをしているかって?

こんなことでもしないと飯食わせてもらえないんだよ。
『働かざるもの食うべからず』という爺さんの方針により、
早朝の玄関掃除を毎日やらねばならないのだ。
 
え? 学校? なにそれ、美味しいの?
おいおい、どうして学校なんかに行く必要があるんだ?
自分のやりたい事をやる方がいいだろう。そっちの方が有意義じゃないか。

さて、日課が片付いたら今日はなにして遊ぼうかねぇ......
最近新しいゲーム買ったし、そいつの続きでもすっかなぁ。

クッソ爽やかフェイスを朝日に照らしながら、ちりとりで集めたゴミを回収する。 
あとはゴミを捨てて、新聞紙を取りに行くだけ。

いやぁ、人生楽勝すぎィ!
夜更かしはできないけど健康的だし、この仕事以外しなくてもいいし!
これが勝ち組って奴かな? 笑いが止まりませんわ!
俺は腰を海老のように反らし、高らかに笑う。

そのままスキップ気味に郵便受けに向かうと、新聞紙を力一杯引き抜く。
すると、新聞紙に連れられて鮮やかな赤い色をした封筒が1枚、ポトリと落ちてきた。

「なんだこれ? 爺さん宛か?」

宛先を確認すると、そこには「戸賀勇希君へ(はあと)」と書かれてあるだけで、送り主の名前は書かれてはいない。
何か中にものが入っているのか、封筒は少々厚みを帯びていた。
これは、まさか。

「おお......ついに、俺にもモテ期が来たってことか! サンキュー神様!」

その場でしばらく小躍りするも、冷静になって考えてみると何か変だ。
だって、この近辺で俺を知ってる奴なんて爺さんしかいないぞ。
まず、俺に手紙が届くこと自体が変なんだ。絶対嫌がらせだろ!
騙されないからな!

「よし、開けたろ」

俺は封を雑に破くと、封筒の開いている口を下に向けて振った。
すると、郵便受けを支えているポールの周囲に生えている青々しい雑草の中へ、何かが飛び込んだ。

「何だ? これ」

膝を折り、草で手を切らないように気をつけながら何かを摘み上げて確認すると、スウェットのポケットに押し込み、俺はそそくさとその場を立ち去った。




カーテンを閉め切った薄暗い部屋のなか、机上にあるPCのモニターは、デスクチェアに座っている俺の顔をブルーに染めていた。
ゲームタイトル風のロゴを施してあるUSBメモリが、デスクトップのUSBポートに突き刺さっている。
モニター画面上には警告文のような、

『このソフトはあなたのコンピュータに害を及ぼす可能性があります。本当によろしいですか?』

と書かれたアイコンが、その文の下には『OK』と『キャンセル』、2人の天使と悪魔が俺に選択を強いている。
しかし迷わない。俺は、決して迷わない。

「もしウイルスに感染したら、爺さんに新しいヤツ買ってもらうし、ええわ」

何のためらいもなく『OK』にカーソルを合わせ、マウスの左ボタンをカチッと押す。
すると、モニター画面は暗転し、数秒の『Now Loading』を挟み、壮大なBGMと共に『アナザー・ワールド・ファンタジー』というタイトルロゴがデカデカと表示された。
背景には限りなく澄んだ青空に、緑豊かな草原の中、剣を腰に差したキャラクターがこちらに背を向けたまま天を仰ぎ見ている。

「ほう。どこの会社のゲームか知らんが、試してやろうじゃないか」

俺はメニューから『New Game』を選択し、ゲームの世界にしばし没頭した。
どうやらこのゲームのストーリーは、魔王によって支配された世界を1人の勇者が旅の道すがら個性豊かな仲間を増やしつつ、力を合わせ、強大な敵を打ち倒すという王道を行くRPGであるようだ。
そしてあまりの面白さに俺は、食べることも寝ることも忘れ、一気にゲームを攻略してまった。

「やっべぇ。名作だぞ、これ。クッソ面白かったわ。ってかもう泣いたわ。涙で前が見えねぇもん」

ぼやけた視界の先で、切ない雰囲気のBGMをバックにスタッフロールが流れ始めた。
感動だ。これ以上俺を泣かすんじゃないよ、まったく。
そして、とうとう現れる『END』の文字。
これで本当に終わりかと思いきや、何やらメッセージのようなものが画面に表示され始めた。

「何だ、エピローグか? どれどれ......『ゲームクリアおめでとうございます。今回、本ゲームをクリアしたあなた様に、特別な特典をご用意しております』......ってマジか! 俺はやはり、選ばれた特別な人間だったんだなぁ。だから俺にこのゲームが届けられたんだ、そうに違いない」

俺はマウスをクリックし、次のメッセージを読む。

『それでは早速、こちらの世界へご案内いたします。そのままの状態でお待ちください』

ん? どういうこと?
こちらの世界へ案内するとは、ゲーム制作会社へ招待してくれるという暗喩かな?
にしても、そのままお待ちくださいって......会社直々に車で迎えに来るってことか?
こんな田舎に来るとか相当時間かかると思うけど、もしかして、もう待機してる......?
俺は窓の外を確認しようと、カーテンに手をかけた。
とその時、自身の体の異変に気付く。

「あれ......体が、動かない......」

まるで金縛りのように、自分の意思に反して、体は1ミリと動かすことはできない。
さらに、さきほどから何者かに肩を掴まれているような感触。
この部屋には俺以外誰もいないはずだ。爺さんはまだ寝ている時間。
まさか、幽霊......。

やがて、それは俺を少しづつ後ろに引き摺って行く。
ゆっくりと、マネキンのように固まったままの俺を。
足の裏に畳が擦れて熱い。
喉は渇ききって唾液を飲むことさえ叶わず、側頭部から生まれた冷や汗は頬へ、頬から顎へと伝わり、シミだらけの畳に新しいシミを着けた。

(やばいやばいやばい! 呪いだ。絶対、あのゲーム呪われてた! 動け! このままじゃ呪い殺されるぞ、俺!)

腰にデスクチェアが当たった。
しかし、そんなことはお構いなしに幽霊は俺を引き摺る。

——コツン

今度は頭頂部にモニターのぶつかる感触。
そのまま俺の頭はズルズルとモニターの中に入り込む。
それはまるで、絹豆腐に飲み込まれるような気分で、その現実離れした奇妙な体験に、俺の脳内はパニック状態で思考も上手く機能していない様子だった。

(ああ......俺、死んじゃうのかな。爺さんすまん、朝の玄関掃除できそうにないわ......)

視界は闇と天井に分けられており、闇が天井をゆっくり飲み込んでいくように見えた。
そして頭部全体が飲まれた時、酸素と光の供給は絶たれ、意識さえ幽霊に連れ去られてしまったようだ。

主を失ったデスクチェアはゴトンという音を立てて倒れ、
人を喰ったモニターには、

『Welcome to Underground!』

という文字が揺れていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※



 「どこだ? ここは」

俺は目を覚ますと、朧な意識で周囲を見渡す。

辺りには草木が一切見られず、代わりに、雲のような白い物体で満たされている。
正面には蛇腹のように伸びた石段があり、その左右には巨大な白い柱が等間隔に配置されている。
見上げるような長い石段の頂点には、玉座に座している、1人の美しい女性がこちらを見下ろしていた。

美女は挙動不審のニートに向けて喜悦の笑顔でこう言った。

「ようこそ! アンダーグラウンドへ!」
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