スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

文字の大きさ
11 / 75

第11話「焦げた香り」

しおりを挟む
 目覚めた場所は、まるで西部劇の世界にぶち込まれたようだった。
四角い木の板を貼り合わせたような家に、簡易的なトタンの屋根の下には酒樽が転がっている。
家自体はひどく短い4本の柱によって地面とのスペースを確保しており、玄関の戸を叩くためには階段を5つほど登らなければならない。
そんな家々は、薄黄色の砂道を挟んで互いに向き合いながら建ち並んでいる。

いつさすらいのガンマンたちの銃撃戦が始まってもおかしくないような雰囲気だったが、
この辺りには、俺と6人の太陽光に照らされて輝くスキンヘッドに、鉄製の棘が付いた肩パッドをした男たちのみである。
俺はそのうちの1人から「2本杖 ドゥーエ・カンナ使いの女」について聞かれているところだ。

2本杖ドゥーエ・カンナ 使いの女......
聞いたこともない。
というか知らんわそんな人。
スキンヘッドの男たちは、銃口をキャンディーでも舐めているかのようにしゃぶっている。

「本当に知らないのか? おや、その格好は......」

おそらくスキンヘッドの男たちのリーダー格であろう1人が、マーレから借りた民族衣装をまじまじと観察し始めた。
美女にじっくりと見られるのは大歓迎だ。
しかし屈強で汗臭そうな男はお断りである。

「そいつは「シッタ・シッタ」の伝統衣装だな。主に祭事に使用されるもんだ。お前、そこの出身か? だとしたら、なぜここにいる?」

俺に厳つい面を目一杯近づけて問いかけてくる。
おいおい。クッソ恐いのだが?
おっさん、Vシネマに出演してませんでしたか? ってくらいの半端ない顔面。
魂の神器 アルマ・アニマ』を使おうにもバックにいる『拳銃おしゃぶり隊』が見張っているため、下手に動けない。
不自然な動きを見せると、即刻射殺されてしまう可能性がある。
また、迂闊な発言は死を招くだろう。
どうする。

「答える気はない、か。まあいいさ。おい、こいつを酒場へ連れていくぞ」

酒場?
それって、ギャングの溜まり場に喧嘩は日常茶飯事の無法地帯なんかじゃありませんよね?
『拳銃おしゃぶり隊』は俺を神輿のように担ぎあげると、目的地へ向かって歩き始めた。
ああ。俺、どうなっちゃうのかなあ。
このまま連れて行かれて拷問でもされるのかなあ。
あ、俺未成年なんでお酒は飲めませんよ?

「安心しろ。吐くまでやるから」 

スキンヘッドのリーダー格は物騒な台詞をつぶやく。
......何を!?
お酒を吐くまで飲ませるの?
いやきっと拷問なんだろうなあ......
でもやられるならまだお酒の方がいいです。お願いだから爪は剥がさないでください。
そんな俺の願いは虚しく、神輿の行列は人気を感じない乾いた道を練り歩く。

しばらく担がれていると、何メートル先に大きなジョッキになみなみ注がれたビールを描いた看板を視認する。
おそらくあれが酒場なのだろう。
そろそろヤバい。
酒場に入られると終わりだ。
確実に無事では済まない、なんとかしてこの状況を脱しなければ......

俺は、懐に隠し持っていたスコップの柄を触る。
反撃の機会をうかがっている思考の匂いを悟られないように。
慎重に、少しづつ取り出す。
気づくな......
こちらを見るな......
匂いを嗅ぐな......
ゆっくりと、ゆっくりと、音を立てることなく、ゆっくりと。

スコップの刀身ともいえる、銀色の刃の半身が露になった時、
リーダー格の細く切れ長い目は突如としてこちらを見据えた。

(マズい! 見られた!)

希望の積み木は音を立てて崩れていく。
しかしかろうじて足場は残っている。
動け! ヤツが戦闘体制の号令をかける前に。
殺れ! ヤツが拳銃の引き金を引く前に。

ーーパァンッ

乾いた銃声。
俺が反撃に乗り出そうとした刹那、担ぎあげている1人が絶叫し、倒れた。
安定を失くした神輿の本体は地面に投げ捨てられ、落下の衝撃により砂埃が舞い上がる。
何者かの奇襲によって烏合の衆と化した『拳銃おしゃぶり隊』は、
銃声の発生元を探す者や、痛さに呻く仲間を心配する者、おろおろと無意味に動き回る者に分かれていた。

ーーパァンッ

2発目の銃声。
新たな標的は倒れ、胸を押さえてうずくまっている。
押さえている指の隙間からは煙が立ち上っており、焦げた匂いに息を止めたくなる。

どういうことだ。
普通、銃弾は肉を抉って掘り進む際に血液を撒き散らすと思っていた。
しかしそこには一滴の血も見られない。

「何してんの! 戦うんでしょ!」

聞き覚えのない声に俺はハッとする。
そうだ。今、道は開けている。
俺はスコップの矛先をうろたえているスキンヘッドの男に差し向ける。
そして前項姿勢で駆け出すと、むき出しの脇腹に狙いを着けて突っ込む。

ーーガスッ

しかしスコップの先端は地面を穿つ。
そのまま引き抜くと、茶色く濁った水が勢い良く吹き出してきた。

「なんだ!? おい、前が見えねぇぞ!」

スキンヘッドの男たちは泥水を被り、一時的に視界をジャックされている。
逃げよう。
俺は酒場とは反対方向に向けて走りだす。
後方からは複数の銃声と1人の足音が聞こえる。
追っ手を撒くことだけを考え、俺はウエスタン風の街を抜け出した。


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー 



頭の中は沸騰しているようだ。
額から吹きこぼれる汗。口から吐き出す蒸気は絶え間なくバトンパスをつなぎ続ける。

街から出ると、景色は一面雪のように白い大地が広がっていた。
しかしその冷たそうな色と反比例して、気温は真夏日のように暑いときたものだから、視覚と触覚の行き違い列車に体がおかしくなってしまわないかと心配になる。

水分を欲した俺は、発泡スチロールのような地面にスコップを突き刺し、引き抜く。
噴出した白濁色の水を無我夢中で飲む。
味はまるで乳酸菌飲料のようで、俺は夏の暑い日によく飲んだアレのことを思い出す。

「はぁ......はぁ......なんとかなった......」

多少落ち着いた俺は偽物の雪の上に腰を下ろす、
と、後頭部にコツンと木の棒を当てられたような感触を受ける。

「動くな」

振り返ろうとしたが、それは阻まれてしまったようだ。
返事の代わりに、俺は生唾を飲む音を出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...