スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

文字の大きさ
20 / 75

第20話「懺悔」

しおりを挟む
 「トガさん。あなたはまた、誰かの足を引っ張ったのですか?」

俺は目が眩むほど白い、聖域とは、まさにこういうことを言うのだろうなと思わせるだだっ広い空間を見ていた。
正面には蛇腹のように伸びた石段があり、その両端には巨大な白い柱が規則正しく配置されている。
その長い石段の頂点には、青と金で装飾された空席の玉座が一つ。
既視感がある。そう、確かここは、ラルエシミラ・ラミシエルラの統治領域『アンダーグラウンド』。

「私はトガさんを守った。それ故、十二単牡丹の手によって短冊に変えられてしまいました」

また、凛として透き通るような声が聞こえる。
声の主を探そうと試みたが、どこにも見当たらなかった。

「私は現在、とても多くの制約に縛られています。誰のせいでしょう? それに、勇者を倒すためにせっかく力を与えて『モンドモルト』へ送り込んだのに、あなたはその勇者に手も足も出ない」

「しょうがないだろ! だって、いきなりあんな化け物みたいに強いやつらと戦うなんて思ってなかったし......」

俺は上下前後左右からやってくる声に対してそう言った。
そのあと、胸の中にじわりとした痛みが生まれた。
内出血をしたような感覚がして、その不快感に思わず手を胸に当てる。

「ところで、シッタ・シッタの森で魔傑にボロ雑巾のようにされた少女に対して、どう思いましたか?」

「どうって......「痛そう」とか、「残酷だ」とか、「可哀想」とか——俺じゃなくてよかったと......か......」

産声をあげた痛みは成長し、やがて腹にまで拡大した。
ドクンドクンと、まるでもう一つの心臓がそこにあるのではないかと思うような痛みのリズムが、俺のハラワタを支配している。
強烈な腹痛にも似た痛みに耐えられなくなって、体をくの字にしてうずくまった。

「そして先ほど射抜かれた白いフードを被った少女を——あなたはなぜ、助けようともせず、ただただ傍観していたのですか? あなたが何か行動を起こせば、最悪の事態は防ぐことができたかもしれないのに」

「......」

俺はとっさに顔を伏せる。
どうせ助かる。どうせ何とかなるだろう。そう思っていた。
パンパカーナが正解の矢を見事に撃ち墜とし、それで危機を回避できて万々歳と。
もしもパンパカーナがやられたとしても、ラルエシミラを呼び出してやればいい——そう、思っていた。

俺は傷つきたくなくて、怪我とか痛い思いも大嫌いだ。
自分の願いさえ叶えることができればそれでいい。そのためなら仲間を踏み台にしても構わない——そう、考えていた。
声は粛々と、一切の感情を含んでいないかのように淡々と言葉を紡ぎ出す。

「その少女ですが今、この場に来てくださっています。何か伝えたいことがありましたら、どうぞお好きなように」

「——っ!」

俺は反射的に表を上げて正面を見やると、
何もなかったそこには、左肩と胸の中心に矢が突き刺さっている痛々しい少女が立っており、焦点が合わない輝きの失せた虚ろな目で俺を見ていた。
白色だったローブは赤黒に染まり、血液がポタポタと滴り落ちている。

「パンパカーナ......」

パンパカーナは何も言わない。動かない。
その目は本当に俺を見ているのか、何を思っているのかわからない。教えてはくれない。
するとコンバットブーツが燻りだし、蒸気を上げながらドロドロに溶けていく。

「ごめん......パンパカーナ。ごめんなさい、役に立たなくて、助けられなくて、不甲斐なくて、弱くて、ごめんなさい......」

パンパカーナは沈む。下半身は溶けきって、腰だけで半身を支えている。
肉の焼ける匂いが鼻にするっと入りこんでくる。
その匂いで噎せ返ったのか、俺の頬を何度も水滴が流れていった。

やがて、髪の毛の焼ける匂いが。
今度は吐き気が襲ってきて、たまらず嘔吐しようとするが胃液すら出てこなかった。
美しい琥珀色の金髪はさらさらとどこかへ飛び立ち、俺はその後を追うと、天の眩しさに双眸を閉じた。





再び目を開けると、シミのついた古臭い天井が見えた。
睫毛や目尻に付着している目脂が煩わしくてシャツの袖でゴシゴシと拭う。
その時、自分の服が違うものであるとわかる。
ホワイトシャツから、ブルーのストライプが入ったワイシャツに変わっている。
いつの間に......?

「気付かれましたか」

声の方を見やると、木製と思われる椅子に座って本を開いている男がいた。
オールバックの黒髪にキツネのように切れ長く細い眼。
『大満腹食堂』という食堂のオーナーで、俺たちを勧誘してきた男だ。

「あんたが、助けてくれたのか? どうして......」

と、俺は弱々しい声で言う。
男は眉を八の字にして、

「んんっ! ええ。ワタクシと、ウチの従業員がね——この店は正直、あまり繁盛しておりません。香りは大変良いと言われるのですが肝心の味がお粗末なもので、その噂が人伝に広まってしまったため、この国以外のお客さんでも捕まえてこないとダメなんですよ。そう、あなた方は我々の大切なお客様。死んでもらっては困るのです」

と言った。

「そうなのか。スンマセン、助けてもらって」

「いえいえ。お安い御用で」

「——っ! そうだ、パンパカーナは? 俺と一緒にいた奴だ。あいつ、怪我しててヤバいんだよ!」

俺は勢いをつけてベッドから上半身を起こすが、眩暈がして視界がグラっと揺らいだ。

「大丈夫ですか。空腹で血糖値が下がっているのでしょう。まずはご飯を食べてください」

「いや、その前に......あいつは、パンパカーナはどうなったんだ」

男はこちらの方を見ようともせず、黙りこっている。

「おい! 聞いているのか」

俺は声を荒げて言う。

「落ち着いてください。んんっ! 我々は何とか治療しようと試みました。しかし、あの矢には『対象物から離れると爆発する』という特殊な仕掛けが施してあることがわかり、とても我々の手に負えることではありませんでした」

「そんな......」

「しかし王女様なら治すことができる。そう考え、お嬢さんを抱えて、急いで宮殿へと足を運びました」

「それで、治ったのか」

「結果的には治りました。無事に矢も取り除かれたそうです。んんっ! しかし......」

それを聞いた時、俺は胸にあった痛みが少し取り除かれたような気がした。
そのときは本当に、パンパカーナが命を取り留めたことを心の底から良かったと思ったのだ。
男は申し訳なさそうに続けて、

「お嬢さんを連れて帰ろうとしたのですが、王女様直々に断られまして。それで、お嬢さんは使用人として半永久的に宮殿で働くことに......」

と言った。

「冗談だろ......?」

「ですから、お嬢さんのことは諦めた方が良いかと」

「ふざけるな! どうしてあいつがそんなことをしなくちゃならないんだ! 半永久的に働く? あいつがそう言ったのかよ」

俺はふらふらと立ち上がり、男の胸倉を掴んで飄々とした顔に迫る。

「だから、落ち着いてください。直接確かめたわけではありませんが、おそらく王女様が——」

「だったら王女様とやらに直談判しに行ってやる! 宮殿はどこだ」

「やめたほうがいいですよ。王女様に逆らえば、命の保証はありませんから」

「やかましい! 早く教えろ! なんなら女王をぶっ飛ばしてでも......」

言い終わるや否や、俺の視界はグルンと鉄棒で逆上がりをするように回転した。
そして地面に体を叩きつけられ、片腕を捻られて床に伏せる格好になる。
一瞬の出来事で、何が起きたのかを理解するのに少々時間を要した。

「ほら、こんなに弱い。あなたには無理だ。のこのこ殺されに行くようなものです」

「て、めぇ......!」

「あなたはこの国の王女様が誰なのかご存じないようですから、んんっ! 教えて差し上げましょう」

男は細い目をゆっくりと開き、言う。

「かつてこの世界に君臨していた魔王を打ち倒した勇者が一人。治癒能力の最高峰にして頂点、そして唯一無二の蘇生魔法能力保有者『レベッカ・トラヴォルジェンテ・イモルタリータ』」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...