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第22話「仕切り直し」
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俺は目の前の、やたらと姿勢の良い背中を追いかけるように歩く。
歩いていると鉢巻をした若い男にぶつかりそうになり、とっさに避ける。
すると今度は、たくましい男と肩が当たりそうになったので体を斜めにそらす。
「あら、ボールドちゃん。『マルコロメ』入ってるけど、どうかしら? 安くしとくよ」
法令線がくっきりと目立つ女性が大きな声で言う。
その手にはテニスボール大の茶色い木の実のようなものがあった。
「ああ、若奥様。今日は遠慮しておきますよ。それではまたの機会に」
そう言ってにこやかに会釈をするボールド。
「おい、ボールドのにいちゃん! どうだい、このデッカいの。こいつで新作メニューでも作ったらどうや」
「立派すぎてワタクシには似合いませんよ。また来るので、その時にそこの小さいのをください」
そんなやりとりが先ほどからずっと続いている。
一軒一軒呼び止められる度にそれとなく断っているようだったが、店主らしき人は嫌な顔一つしない。
むしろ笑顔だ。彼は愛されているのだろうと分かる。
しかし、これだけ好かれておきながら店が繁盛しないのは勿体無い。まあ確かにあの味はひどいものだったから仕方がないのだけど。
俺は膨れた腹をさすりながら、つい数十分前のことを思い出す。
###
「まさか戸賀勇気さんが『選ばれし者』だったとは。いやはや驚きました。ええ。」
ボールドは心底驚いたような顔をしながら俺に手を差し伸べている。
その手を取ると引っ張られ、その勢いだけで立つことができた。
「なんで俺なのかさっぱりだけど......」
俺は後頭部をぽりぽりと掻きながら言う。
「いやしかし、『選ばれし者』ということは、必ずその強大な力を操るだけの素質があるはずですから。ええ。そのことは誇るべきです」
「あの、その『選ばれし者』ってなんなの?」
「ああ。こちらでは魂の神器を持つ人を『選ばれし者』と呼んでいるのですよ。ええ」
そう言うと、今度はスコップを差し出すボールド。
俺は肢の部分をしっかりと握りしめて受け取った。
「さて、まずは腹ごしらえをしましょうか! 空腹では力が入りませんからね」
「え。いや、なんか策が浮かんだんだろ? 教えてくれないのか」
困惑している俺に対し、ボールドは唇に指を添えて、
「あとでわかりますから」
と言った。
そして続けて、
「ささ、一階に降りましょう、食べましょう! んんっ。お前たち! 飯の支度ですよ!」
と、言いながら俺は背中を押され、強引に階段を降りて食堂へ行くのであった。
そして着いてみるとそこは落ち着いた雰囲気のある、まるで森の中にいるような感覚になるよくコーディネートされた内観があった。
巨大な切り株をそのまま持ってきたようなテーブル。電灯は花の蕾を模してあり、暖かなオレンジ色が優しく光る。椅子は平たいキノコのようなもので、奇抜な色からベージュのように落ち着いた色まで様々だ。
そしてオープンキッチンなので、席から一所懸命に鍋やフライパンを振っている筋骨隆々の男が二人見える。
程なくして、湯気を立たせながらたくさんの料理が運ばれてきた。
「はい、どうぞ! うちの店オススメの7品です。遠慮なく食べてください」
——ゴクリ。
目の前の料理からスパイシーな匂いが飛び込んでくる。
見た目は中華料理に似ているが、匂いはインド料理のようなスパイスを効かせた香ばしさを感じる。
それらが俺の食欲を駆り立てる。なんだ、普通に美味しそうじゃないか。
俺はスプーンのようなものを持ち、食前の儀式も早々に料理を口へ運んでやる。
「いただきま......マズゥッ!?」
ブーーっと勢い良く『何か』が噴射され、それは美しい七色の虹を創り出していた。
なお、ボールドたちの表情はお察しの通りである。
俺はそれを見るとさすがに申し訳なくなり、止まった手を再び動かす。
「あはは.......マズゥッ!?」
先ほどよりも大きな虹が森に誕生した。
###
「そろそろ到着する予定です。服装を正してください」
ボールドにそう言われ、俺はスーツジャケットの襟やネクタイを正す。
胸ポケットと左脇あたりを軽く叩いて所持品の確認をする。
「なあ、もういいだろ。いったいどこへ向かっているか教えてくれよ」
と、俺は急かすように言う。
ボールドはややあって口を開いた。
「『朱炎の洞穴』へ向かっているところですよ。ええ」
「『朱炎の洞穴』? なんだ、それ」
「かつて勇者がここを立ち寄った際、命を助けてもらった場所であると言われています」
「ん? 勇者って化け物みたいに強いはずだろ。どうして『命を助けてもらう』なんてことになるんだ」
露店街を抜け、住宅地へ出る。
その先のはるか遠くに巨大な白い宮殿が見えた。
タージマハルかと思った。
「噂ですが、勇者一行も最初は、そこまで強いわけではなかったようで——実力や実戦経験も乏しいなか、運悪く魔王の幹部と遭遇した際にパーティのほとんどがやられてしまったそうです」
知らなかった。
てっきり、最初からあの力で敵をばったばったとなぎ倒していたと思っていたのだ。
奴らが瀕死の状態など、到底イメージできない。
「それで、その洞穴で生き残った勇者たちはある男に出会い、力を磨き上げて見事幹部を倒した、と」
「洞穴に......ある男」
「その気質は豪放磊落。すべての罪を背負った不老不死の天才児」
「天才児?」
俺は聞き違いかと思い、たまらず聞き返した。
ボールドは続けて言う。
「名を、アロウザール旧元帥。齢0歳です」
歩いていると鉢巻をした若い男にぶつかりそうになり、とっさに避ける。
すると今度は、たくましい男と肩が当たりそうになったので体を斜めにそらす。
「あら、ボールドちゃん。『マルコロメ』入ってるけど、どうかしら? 安くしとくよ」
法令線がくっきりと目立つ女性が大きな声で言う。
その手にはテニスボール大の茶色い木の実のようなものがあった。
「ああ、若奥様。今日は遠慮しておきますよ。それではまたの機会に」
そう言ってにこやかに会釈をするボールド。
「おい、ボールドのにいちゃん! どうだい、このデッカいの。こいつで新作メニューでも作ったらどうや」
「立派すぎてワタクシには似合いませんよ。また来るので、その時にそこの小さいのをください」
そんなやりとりが先ほどからずっと続いている。
一軒一軒呼び止められる度にそれとなく断っているようだったが、店主らしき人は嫌な顔一つしない。
むしろ笑顔だ。彼は愛されているのだろうと分かる。
しかし、これだけ好かれておきながら店が繁盛しないのは勿体無い。まあ確かにあの味はひどいものだったから仕方がないのだけど。
俺は膨れた腹をさすりながら、つい数十分前のことを思い出す。
###
「まさか戸賀勇気さんが『選ばれし者』だったとは。いやはや驚きました。ええ。」
ボールドは心底驚いたような顔をしながら俺に手を差し伸べている。
その手を取ると引っ張られ、その勢いだけで立つことができた。
「なんで俺なのかさっぱりだけど......」
俺は後頭部をぽりぽりと掻きながら言う。
「いやしかし、『選ばれし者』ということは、必ずその強大な力を操るだけの素質があるはずですから。ええ。そのことは誇るべきです」
「あの、その『選ばれし者』ってなんなの?」
「ああ。こちらでは魂の神器を持つ人を『選ばれし者』と呼んでいるのですよ。ええ」
そう言うと、今度はスコップを差し出すボールド。
俺は肢の部分をしっかりと握りしめて受け取った。
「さて、まずは腹ごしらえをしましょうか! 空腹では力が入りませんからね」
「え。いや、なんか策が浮かんだんだろ? 教えてくれないのか」
困惑している俺に対し、ボールドは唇に指を添えて、
「あとでわかりますから」
と言った。
そして続けて、
「ささ、一階に降りましょう、食べましょう! んんっ。お前たち! 飯の支度ですよ!」
と、言いながら俺は背中を押され、強引に階段を降りて食堂へ行くのであった。
そして着いてみるとそこは落ち着いた雰囲気のある、まるで森の中にいるような感覚になるよくコーディネートされた内観があった。
巨大な切り株をそのまま持ってきたようなテーブル。電灯は花の蕾を模してあり、暖かなオレンジ色が優しく光る。椅子は平たいキノコのようなもので、奇抜な色からベージュのように落ち着いた色まで様々だ。
そしてオープンキッチンなので、席から一所懸命に鍋やフライパンを振っている筋骨隆々の男が二人見える。
程なくして、湯気を立たせながらたくさんの料理が運ばれてきた。
「はい、どうぞ! うちの店オススメの7品です。遠慮なく食べてください」
——ゴクリ。
目の前の料理からスパイシーな匂いが飛び込んでくる。
見た目は中華料理に似ているが、匂いはインド料理のようなスパイスを効かせた香ばしさを感じる。
それらが俺の食欲を駆り立てる。なんだ、普通に美味しそうじゃないか。
俺はスプーンのようなものを持ち、食前の儀式も早々に料理を口へ運んでやる。
「いただきま......マズゥッ!?」
ブーーっと勢い良く『何か』が噴射され、それは美しい七色の虹を創り出していた。
なお、ボールドたちの表情はお察しの通りである。
俺はそれを見るとさすがに申し訳なくなり、止まった手を再び動かす。
「あはは.......マズゥッ!?」
先ほどよりも大きな虹が森に誕生した。
###
「そろそろ到着する予定です。服装を正してください」
ボールドにそう言われ、俺はスーツジャケットの襟やネクタイを正す。
胸ポケットと左脇あたりを軽く叩いて所持品の確認をする。
「なあ、もういいだろ。いったいどこへ向かっているか教えてくれよ」
と、俺は急かすように言う。
ボールドはややあって口を開いた。
「『朱炎の洞穴』へ向かっているところですよ。ええ」
「『朱炎の洞穴』? なんだ、それ」
「かつて勇者がここを立ち寄った際、命を助けてもらった場所であると言われています」
「ん? 勇者って化け物みたいに強いはずだろ。どうして『命を助けてもらう』なんてことになるんだ」
露店街を抜け、住宅地へ出る。
その先のはるか遠くに巨大な白い宮殿が見えた。
タージマハルかと思った。
「噂ですが、勇者一行も最初は、そこまで強いわけではなかったようで——実力や実戦経験も乏しいなか、運悪く魔王の幹部と遭遇した際にパーティのほとんどがやられてしまったそうです」
知らなかった。
てっきり、最初からあの力で敵をばったばったとなぎ倒していたと思っていたのだ。
奴らが瀕死の状態など、到底イメージできない。
「それで、その洞穴で生き残った勇者たちはある男に出会い、力を磨き上げて見事幹部を倒した、と」
「洞穴に......ある男」
「その気質は豪放磊落。すべての罪を背負った不老不死の天才児」
「天才児?」
俺は聞き違いかと思い、たまらず聞き返した。
ボールドは続けて言う。
「名を、アロウザール旧元帥。齢0歳です」
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