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第46話「あの夜の惨劇」
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道を照らすは月明かりのみ。
少女たちはおぞましい声の主に惹かれるように、土埃を巻きあげながら林の奥へおくへと突き進んでいく。
パンパカーナはテラとマーレの後ろにぴったりとくっついて、両手に銃を携えて走っている。体力には自信があった。パンパカーナはスポーツをやらせればなんでもできるほど運動神経は抜群だったため、よく学校の仲間などから野試合の助っ人やチームに入らないかと誘われることが多く、その天から授けられた才をパンパカーナ自身、誇りに思うところであった。
「ねえ、今、聞こえたよ」
マーレがいった。この先にある剣呑な雰囲気を察してか、声は緊張でうわずっている。
「うん。まるで、悲鳴。いや、叫び声? なんだか、気持ち悪いや」
体をぶるっと震わせてテラがいう。面積の広い額には雫が浮き出ていた。
断末魔。鳴き声に混ざってやってくる、幾人かの悲痛な叫び。
近い。生暖かい空気にのせられた血の匂いが鼻をつく。
嫌な予感がした。この先に待ち受けている者はきっと、善ではないだろう。なぜかはわからないが、第六感に直接訴えかける何かがそういっているのだ。
もうすぐ林を抜ける。村の入り口からさほど遠くない場所へ出るはずだ。
凄惨。彼女たちを待ち受けていたのは、屠られた死体が点々と転がっているなか、レグノの首を今まさにへし折らんとしているのは二足歩行の獣という景色だった。
「あ......ぎ......」
口から泡を吐き出しているレグノ。
みるみるうちに顔色は青白くなった。白目を剥いている。
「村長!」
テラが叫んだ。瞬間、レグノがこちらを向いたと思われたが、目や鼻、耳から体液を垂れ流している頭部が首のすわっていない赤子みたくゆらゆらと揺れていただけであった。
鋭利な爪をもった大きな手から解き放たれると、彼は膝をついたまま、仰け反るようにして後ろ側へ倒れた。
「な、なんだよ、あいつ」
ルトがいった。
「魔人......とは違う。魔人は勇者が根絶やしにしたはずだや」
「じゃあ、あれは、なによ」
「......」
と、獣の首がゆっくりと動いた。瞳孔の大きく見開かれた目とめが合った。
黒く立派なたてがみがあり、まるでライオンだ、と、パンパカーナは思う。
呑気なものだ。案外平静を保てている自分が不思議に思えて、
もしかしてこれは夢ではないかと考えるが、肌で感じるリアルな死骸の臭気と異様な威圧。
それらが現実だといっている。そう、ここは実在する世界、モンドモルト。厄災の世界、モンドモルト——
「——っ!」
パンパカーナは見た。なんの示し合わせもしていないはずのテラとマーレが、二手に分かれて獣へと風のように走っていく様を。
マーレが竿をしならせ、テラが銛を槍のように構えている。
獣はその巨躯をゆっくりと動かすと、突如、両手をハンマーのようにして地面を殴打した。
襲いかかる地震。それは立っていられないほどの揺れだった。
すぐ近くで衝撃を受けたテラとマーレは、とてつもない衝撃波によって、宙へ浮かされていた。
その無抵抗で無防備な隙だらけの彼女たちを、獣は長い腕を目一杯伸ばして殴ると、
二人の少女は尻餅をついているパンパカーナを通り過ぎて、後方へ吹っ飛び、木の幹に叩きつけられた。
「カハッ」
鮮血の飛沫を放つ。少女たちはずるずると幹にもたれかかり、眠るように気絶した。
「テラ! マーレ!」
パンパカーナは後ろを振り返り、叫んだ。獣の足音。それにはっとし、前方へ向きなおる。
すると、異形の獣がすぐ近くまで迫っていた。
戦わなくては。そう思い、二艇の銃口を獣へ向けるが、カタカタと震えて狙いが定まらない。
どうしよう。私の銃なんてライターほどの火力しかない。
それにベレッタの方は何度試しても弾丸が発射されず、使えなかった。
絶望した。涙が蛇口をひねったように溢れ出てきた。
私、死んじゃうんだ。こんなところで、何もできず、首の骨を折られて、食べられちゃうんだ。
ああ、嫌だな、こんな最期。どうしてこんなことになったんだろう。きっと、ありもしない都合のいい希望に縋った罰だ。
笑いがこみ上げてきた。泣きながら笑ってる。おかしくないのに、すっごく怖いのに、笑ってるの。
滑稽でしょ? そんな私を見ている無表情なあなたは何を思っているの? 美味しそう? 殺したい? 食べたい?
いや、触らないでよ。頭をつかまないでよ。血なまぐさい、獣くさい、痛い、痛い、痛い。
頭蓋骨がきしむような感覚に悲鳴をあげるパンパカーナは、想像で微笑する母親に謝りながら死を覚悟した。
「パンパカーナを......離せ......」
獣の動きがぴたりと止まった。
瀕死のテラが目を眇めながら、魔力を宿した右手を突き出していた。
テラ? テラなの? パンパカーナは心の中で問いかける。
恐怖故に声を出すことができなかったからだ。
「仲間を......殺させやしないや」
少女たちはおぞましい声の主に惹かれるように、土埃を巻きあげながら林の奥へおくへと突き進んでいく。
パンパカーナはテラとマーレの後ろにぴったりとくっついて、両手に銃を携えて走っている。体力には自信があった。パンパカーナはスポーツをやらせればなんでもできるほど運動神経は抜群だったため、よく学校の仲間などから野試合の助っ人やチームに入らないかと誘われることが多く、その天から授けられた才をパンパカーナ自身、誇りに思うところであった。
「ねえ、今、聞こえたよ」
マーレがいった。この先にある剣呑な雰囲気を察してか、声は緊張でうわずっている。
「うん。まるで、悲鳴。いや、叫び声? なんだか、気持ち悪いや」
体をぶるっと震わせてテラがいう。面積の広い額には雫が浮き出ていた。
断末魔。鳴き声に混ざってやってくる、幾人かの悲痛な叫び。
近い。生暖かい空気にのせられた血の匂いが鼻をつく。
嫌な予感がした。この先に待ち受けている者はきっと、善ではないだろう。なぜかはわからないが、第六感に直接訴えかける何かがそういっているのだ。
もうすぐ林を抜ける。村の入り口からさほど遠くない場所へ出るはずだ。
凄惨。彼女たちを待ち受けていたのは、屠られた死体が点々と転がっているなか、レグノの首を今まさにへし折らんとしているのは二足歩行の獣という景色だった。
「あ......ぎ......」
口から泡を吐き出しているレグノ。
みるみるうちに顔色は青白くなった。白目を剥いている。
「村長!」
テラが叫んだ。瞬間、レグノがこちらを向いたと思われたが、目や鼻、耳から体液を垂れ流している頭部が首のすわっていない赤子みたくゆらゆらと揺れていただけであった。
鋭利な爪をもった大きな手から解き放たれると、彼は膝をついたまま、仰け反るようにして後ろ側へ倒れた。
「な、なんだよ、あいつ」
ルトがいった。
「魔人......とは違う。魔人は勇者が根絶やしにしたはずだや」
「じゃあ、あれは、なによ」
「......」
と、獣の首がゆっくりと動いた。瞳孔の大きく見開かれた目とめが合った。
黒く立派なたてがみがあり、まるでライオンだ、と、パンパカーナは思う。
呑気なものだ。案外平静を保てている自分が不思議に思えて、
もしかしてこれは夢ではないかと考えるが、肌で感じるリアルな死骸の臭気と異様な威圧。
それらが現実だといっている。そう、ここは実在する世界、モンドモルト。厄災の世界、モンドモルト——
「——っ!」
パンパカーナは見た。なんの示し合わせもしていないはずのテラとマーレが、二手に分かれて獣へと風のように走っていく様を。
マーレが竿をしならせ、テラが銛を槍のように構えている。
獣はその巨躯をゆっくりと動かすと、突如、両手をハンマーのようにして地面を殴打した。
襲いかかる地震。それは立っていられないほどの揺れだった。
すぐ近くで衝撃を受けたテラとマーレは、とてつもない衝撃波によって、宙へ浮かされていた。
その無抵抗で無防備な隙だらけの彼女たちを、獣は長い腕を目一杯伸ばして殴ると、
二人の少女は尻餅をついているパンパカーナを通り過ぎて、後方へ吹っ飛び、木の幹に叩きつけられた。
「カハッ」
鮮血の飛沫を放つ。少女たちはずるずると幹にもたれかかり、眠るように気絶した。
「テラ! マーレ!」
パンパカーナは後ろを振り返り、叫んだ。獣の足音。それにはっとし、前方へ向きなおる。
すると、異形の獣がすぐ近くまで迫っていた。
戦わなくては。そう思い、二艇の銃口を獣へ向けるが、カタカタと震えて狙いが定まらない。
どうしよう。私の銃なんてライターほどの火力しかない。
それにベレッタの方は何度試しても弾丸が発射されず、使えなかった。
絶望した。涙が蛇口をひねったように溢れ出てきた。
私、死んじゃうんだ。こんなところで、何もできず、首の骨を折られて、食べられちゃうんだ。
ああ、嫌だな、こんな最期。どうしてこんなことになったんだろう。きっと、ありもしない都合のいい希望に縋った罰だ。
笑いがこみ上げてきた。泣きながら笑ってる。おかしくないのに、すっごく怖いのに、笑ってるの。
滑稽でしょ? そんな私を見ている無表情なあなたは何を思っているの? 美味しそう? 殺したい? 食べたい?
いや、触らないでよ。頭をつかまないでよ。血なまぐさい、獣くさい、痛い、痛い、痛い。
頭蓋骨がきしむような感覚に悲鳴をあげるパンパカーナは、想像で微笑する母親に謝りながら死を覚悟した。
「パンパカーナを......離せ......」
獣の動きがぴたりと止まった。
瀕死のテラが目を眇めながら、魔力を宿した右手を突き出していた。
テラ? テラなの? パンパカーナは心の中で問いかける。
恐怖故に声を出すことができなかったからだ。
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