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第68話「鋼の国・アシエ」
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鋼の国・アシエは魔王討伐軍が解体される以前——主にアロウザール元帥が殉職されたとするそれ以降、軍需産業の需要は増加し、多大な利潤を得ていた。
銃、弾丸、魔弾、軍刀や軍服など、製品は多岐に及んだが、
結局、敗戦を決したことがきっかけで、爾来、各軍需企業の財務グラフは下降線を辿り、多くの工廠は矢継ぎ早に閉鎖していった。
没落した現在は、軍のみで使用を許可されていた卵型軍用トランシーバー (詰めてタマトラ) を大衆消費者向けに開発することに着手しており、
盛時の輝きを取り戻すべく、日々苦心惨憺している。
そんな主人を失った、未だ解体されていない工廠が立ち並ぶ街は、まるでスチームパンクの世界に迷い込んだかのような錯覚を起こしてしまう。
これは本国を統治する八人の勇者が一人『マキナ・トレイド・ウィンド』の趣向によるものだが、不平不満を口にする民衆は誰一人としていない。
彼女は決して驕慢に振る舞うようなことはせず、美しさと野性味溢るる容姿に洒脱な風格で、老若男女問わず衆望があった。
その人を求めて降り立った街で、パンパカーナ一行は早速、路上の片隅で佇思停機していた。
異邦人は珍しいのだろうか、やたら人の視線を感じた。
「なんなんねここは! わっけわからんわ」
エニシがアフロのような髪の中に手を突っ込んでいう。
「観光しに来たわけとちゃうぞ」
「仕方ないだろう! ちょっと聞いてみたら『ああ、マキナ様。それならどこかにいると思うよ。どこかは知らないけどね。いつも違うところにいるんだ』
っていうんだぞ」
パンパカーナは柳眉をつり上げていった。
「ほんなら、しらみ潰しにこの迷路みてえなところを周らんといけんのんか、それはたいぎいのお」
エニシは曇天を仰いでいうと、彼の左に立つ運転手に「のお、お前さん」と同意を求めた。
「......手分けして、探そう。早くしないと、来る」
「そ、そうだな。ごもっともな意見だ。——よっしゃ、じゃあワシはこっち。パンパカーナはあっちで、お前さんは......」
「アーミラ。私はアーミラ・D・ジェイス」
運転手であり、鎧魔女のアーミラは初めて名をいった。
「よし、アーミラはそっちな! あっちとかそっちなどの名詞を使う小説は碌でもないらしいけれど、気にすんな! じゃ、行ってくるけんのお!」
エニシはそういうと、ド◯ゴンボール四十二巻の表紙よろしく「センキューグッバイ」といい、あっという間に去っていった。
「はっや......」
パンパカーナは愕然としていった。
「じゃあ、私も行くから。アーミラ、よろしく頼むぞ」
アーミラは頷く。
捜索開始だ。パンパカーナは目撃情報を収集するため、道行く人に片端から訊くことにした。
結果、何件か証言が一致した場所があるので、そこへ赴くことにした。
目的地の小さな町工場にたどり着くまでに薄暗い裏路地を通らねばならないらしく、
パンパカーナはシーボ国の出来事を思い出していた。あのときもこんな具合に不気味だった。
——それは虫の知らせだったのかもしれない。
姦しい、あの狂喜に似た笑い声が聞こえてきたのだ。
パンパカーナは矢で射抜かれたような衝撃を受け、とっさに胸の中心に手を添えた。
忘れかけていた記憶が蘇った。あいつだ。
「やっと見つけたわ、パンパカーナ。私のこと、憶えているかしら?」
黒の長髪が太股まで伸びた女。ぶどう酒のような赤い唇が婀娜っぽく上下する。
忘れるわけがない。
否。
忘れられるはずがない。
パンパカーナは滑らかな動作で銃把を持ち、銃口を標的に向けて構えた。
その一連の動きは数々の修羅場をくぐり抜けた、手練れた老兵を思わせるほど卓越した速さで、
女の目には、彼女が何もない空間から瞬時に銃を取り出したように映っただろう。
それほどパンパカーナは速かった。
「——ッ」
「散れ」
銃声が轟き、硝煙が舞う。
怨嗟の弾丸は豊満な胸の間を撃ち抜いた。
次いで腹部、右肩、額を——女は踊っている。陶然とした表情で、命を燃やして踊るポールダンサーもかくやに......激しく。
ドサリと土嚢袋が落ちたような音。
女は仰向けに倒れていた。弾痕がある場所から煙がゆらゆらと揺蕩している。
パンパカーナは銃を肩にかけると、女の方へ寄った。
「......」
目を見開いたまま死んでいた。しかし、満たされたように緩んだ口許は生きているように見えた。
今にも話しかけてきそうだ。
すると、女の体は発火し、瞬く間に炎に包まれた。
たんぱく質が焼ける匂いが鼻をつく。
不愉快な匂いだったが、パンパカーナはそれを享受し、ただ彼女の焼ける様を半歩下がって眺め続けた。
やがて地獄の業火に焼かれた女は燃え尽き、灰塵と化すと、溶けた胴のように照る腸骨のあたりに何かを見つけた。
「これは......」
パンパカーナはためらいなくそれを拾った。
マキナがいるであろう町工場を目指し、屍を超えて歩きはじめた。
「よう! えらい遅かったのお」
到着した時はすでにエニシとアーミラが円い鉄板を囲んで座っており、
その中にはツナギを着てグローブをはめた女性と、小さなヘルメットダイバーがいた。
女性は油まみれで、体のあちこちに黒い煤がついていた。鼻の頭にもあった。
「マキナ嬢。こいつが、ワシがさっき言っとったパンパカーナよお」
エニシがマキナにそういうと、彼女は立ち上がって握手を求めた。
「君がパンパカーナね。話はお仲間さんから聞いてるよ。アタイは『マキナ・トレイド・ウィンド』。気軽にマキナって呼んでほしい。堅苦しいのは嫌いなの」
「ああ。よろしく、マキナ」
パンパカーナが分厚い手を握る。
マキナの熱がグローブ越しに伝わってくる。
あたたかい。
「適当にかけてちょうだい。わるいけど、飲料水用の蛇口が壊れているからお茶を出せないの。勘弁してね」
ウインクをしてマキナはいう。
「ああ、お構いなく。それより、事態は一刻を争うんだ——ここも危ない」
「みたいね。胡乱な奴が国を片端から潰しているんだって?」
マキナが慄然としていった。
「ええ。だから、私たちは彼奴の目的地を予測してここへ来た」
「そうなの......。ところで、どうしてここが標的になるってわかったんだい?」
「あいつはぶち速えんだ。じゃけえ、ワシらじゃ追いつけんけえ、
奴さんが向かった方角から次のターゲットが炎都フィアーマと予想して、そこから最も近いここへ先回りしてきたんよ」
「なるほどね。それで、そいつからの強襲に備えろってわけね」
マキナは鷹揚に頷きながらいった。
見た感じは腰に手を当てて大笑いしそうな雰囲気だったので、ちょっと意外だった。
「教えてくれてありがとさんね。とりあえず、家族を避難させないと......」
「家族?」
「うん、家族。アタイはこの国のみんなを家族だと思っているよ、いいでしょ?」
マキナは顔をくしゃっとさせて笑った。
いいな。やはり、この人はとても暖かい心を持っている。
握手した時に感じたのは、彼女自身から溢れる優しさも含まれていたのだろう。
「あと。ひとつ、大事なことが」
パンパカーナが神妙な面持ちでいった。
「なんだい?」
「この国が象徴とする建造物はどこに?」
「そうだねえ......。アタイがこの国の長になる前はあったんだけど、偉そうだから壊しちった」
マキナは悪戯っぽく舌を出して答えた。
パンパカーナは震えた声でいう。
「......まずい」
「え」
「彼奴は、この国を無差別的に破壊する可能性がある!」
その瞬間、遠くの方で何かが爆発する音が聞こえた。
銃、弾丸、魔弾、軍刀や軍服など、製品は多岐に及んだが、
結局、敗戦を決したことがきっかけで、爾来、各軍需企業の財務グラフは下降線を辿り、多くの工廠は矢継ぎ早に閉鎖していった。
没落した現在は、軍のみで使用を許可されていた卵型軍用トランシーバー (詰めてタマトラ) を大衆消費者向けに開発することに着手しており、
盛時の輝きを取り戻すべく、日々苦心惨憺している。
そんな主人を失った、未だ解体されていない工廠が立ち並ぶ街は、まるでスチームパンクの世界に迷い込んだかのような錯覚を起こしてしまう。
これは本国を統治する八人の勇者が一人『マキナ・トレイド・ウィンド』の趣向によるものだが、不平不満を口にする民衆は誰一人としていない。
彼女は決して驕慢に振る舞うようなことはせず、美しさと野性味溢るる容姿に洒脱な風格で、老若男女問わず衆望があった。
その人を求めて降り立った街で、パンパカーナ一行は早速、路上の片隅で佇思停機していた。
異邦人は珍しいのだろうか、やたら人の視線を感じた。
「なんなんねここは! わっけわからんわ」
エニシがアフロのような髪の中に手を突っ込んでいう。
「観光しに来たわけとちゃうぞ」
「仕方ないだろう! ちょっと聞いてみたら『ああ、マキナ様。それならどこかにいると思うよ。どこかは知らないけどね。いつも違うところにいるんだ』
っていうんだぞ」
パンパカーナは柳眉をつり上げていった。
「ほんなら、しらみ潰しにこの迷路みてえなところを周らんといけんのんか、それはたいぎいのお」
エニシは曇天を仰いでいうと、彼の左に立つ運転手に「のお、お前さん」と同意を求めた。
「......手分けして、探そう。早くしないと、来る」
「そ、そうだな。ごもっともな意見だ。——よっしゃ、じゃあワシはこっち。パンパカーナはあっちで、お前さんは......」
「アーミラ。私はアーミラ・D・ジェイス」
運転手であり、鎧魔女のアーミラは初めて名をいった。
「よし、アーミラはそっちな! あっちとかそっちなどの名詞を使う小説は碌でもないらしいけれど、気にすんな! じゃ、行ってくるけんのお!」
エニシはそういうと、ド◯ゴンボール四十二巻の表紙よろしく「センキューグッバイ」といい、あっという間に去っていった。
「はっや......」
パンパカーナは愕然としていった。
「じゃあ、私も行くから。アーミラ、よろしく頼むぞ」
アーミラは頷く。
捜索開始だ。パンパカーナは目撃情報を収集するため、道行く人に片端から訊くことにした。
結果、何件か証言が一致した場所があるので、そこへ赴くことにした。
目的地の小さな町工場にたどり着くまでに薄暗い裏路地を通らねばならないらしく、
パンパカーナはシーボ国の出来事を思い出していた。あのときもこんな具合に不気味だった。
——それは虫の知らせだったのかもしれない。
姦しい、あの狂喜に似た笑い声が聞こえてきたのだ。
パンパカーナは矢で射抜かれたような衝撃を受け、とっさに胸の中心に手を添えた。
忘れかけていた記憶が蘇った。あいつだ。
「やっと見つけたわ、パンパカーナ。私のこと、憶えているかしら?」
黒の長髪が太股まで伸びた女。ぶどう酒のような赤い唇が婀娜っぽく上下する。
忘れるわけがない。
否。
忘れられるはずがない。
パンパカーナは滑らかな動作で銃把を持ち、銃口を標的に向けて構えた。
その一連の動きは数々の修羅場をくぐり抜けた、手練れた老兵を思わせるほど卓越した速さで、
女の目には、彼女が何もない空間から瞬時に銃を取り出したように映っただろう。
それほどパンパカーナは速かった。
「——ッ」
「散れ」
銃声が轟き、硝煙が舞う。
怨嗟の弾丸は豊満な胸の間を撃ち抜いた。
次いで腹部、右肩、額を——女は踊っている。陶然とした表情で、命を燃やして踊るポールダンサーもかくやに......激しく。
ドサリと土嚢袋が落ちたような音。
女は仰向けに倒れていた。弾痕がある場所から煙がゆらゆらと揺蕩している。
パンパカーナは銃を肩にかけると、女の方へ寄った。
「......」
目を見開いたまま死んでいた。しかし、満たされたように緩んだ口許は生きているように見えた。
今にも話しかけてきそうだ。
すると、女の体は発火し、瞬く間に炎に包まれた。
たんぱく質が焼ける匂いが鼻をつく。
不愉快な匂いだったが、パンパカーナはそれを享受し、ただ彼女の焼ける様を半歩下がって眺め続けた。
やがて地獄の業火に焼かれた女は燃え尽き、灰塵と化すと、溶けた胴のように照る腸骨のあたりに何かを見つけた。
「これは......」
パンパカーナはためらいなくそれを拾った。
マキナがいるであろう町工場を目指し、屍を超えて歩きはじめた。
「よう! えらい遅かったのお」
到着した時はすでにエニシとアーミラが円い鉄板を囲んで座っており、
その中にはツナギを着てグローブをはめた女性と、小さなヘルメットダイバーがいた。
女性は油まみれで、体のあちこちに黒い煤がついていた。鼻の頭にもあった。
「マキナ嬢。こいつが、ワシがさっき言っとったパンパカーナよお」
エニシがマキナにそういうと、彼女は立ち上がって握手を求めた。
「君がパンパカーナね。話はお仲間さんから聞いてるよ。アタイは『マキナ・トレイド・ウィンド』。気軽にマキナって呼んでほしい。堅苦しいのは嫌いなの」
「ああ。よろしく、マキナ」
パンパカーナが分厚い手を握る。
マキナの熱がグローブ越しに伝わってくる。
あたたかい。
「適当にかけてちょうだい。わるいけど、飲料水用の蛇口が壊れているからお茶を出せないの。勘弁してね」
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「ああ、お構いなく。それより、事態は一刻を争うんだ——ここも危ない」
「みたいね。胡乱な奴が国を片端から潰しているんだって?」
マキナが慄然としていった。
「ええ。だから、私たちは彼奴の目的地を予測してここへ来た」
「そうなの......。ところで、どうしてここが標的になるってわかったんだい?」
「あいつはぶち速えんだ。じゃけえ、ワシらじゃ追いつけんけえ、
奴さんが向かった方角から次のターゲットが炎都フィアーマと予想して、そこから最も近いここへ先回りしてきたんよ」
「なるほどね。それで、そいつからの強襲に備えろってわけね」
マキナは鷹揚に頷きながらいった。
見た感じは腰に手を当てて大笑いしそうな雰囲気だったので、ちょっと意外だった。
「教えてくれてありがとさんね。とりあえず、家族を避難させないと......」
「家族?」
「うん、家族。アタイはこの国のみんなを家族だと思っているよ、いいでしょ?」
マキナは顔をくしゃっとさせて笑った。
いいな。やはり、この人はとても暖かい心を持っている。
握手した時に感じたのは、彼女自身から溢れる優しさも含まれていたのだろう。
「あと。ひとつ、大事なことが」
パンパカーナが神妙な面持ちでいった。
「なんだい?」
「この国が象徴とする建造物はどこに?」
「そうだねえ......。アタイがこの国の長になる前はあったんだけど、偉そうだから壊しちった」
マキナは悪戯っぽく舌を出して答えた。
パンパカーナは震えた声でいう。
「......まずい」
「え」
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