ドラッグストア「スミヨシ」

竜骨

文字の大きさ
上 下
1 / 29

1.閑古鳥

しおりを挟む
1.閑古鳥
「梨奈ちゃん、こんな収支でどうするの?」
 高橋真由美は冷静な声を出しながらも、思わず手に持っていた紙を握りしめてしまった。後で印刷し直そう。
「こんなに電気代と廃棄代がかかるなんて。。。舐めてたねー」
 三枝梨奈は真由美が作成した収支を見ながら、のほほんと頬杖をついた。
のドラッグストアにしなくて良かったねー」
に開業してたら、普通に上手く言ってたと思うよ。」
「えー?そうかなー?」
 真由美の言葉に、梨奈は小首をかしげる。彼女には普通に開業したときの想像はつかないようだった。
「そもそも、梨奈ちゃんが経営しなくても良かったんだよ?ドラッグストアのチェーン店からは何社からも開業の話がきたんでしょう?赤字でも黒字でも関係なく、土地代だけ貰えたのに」
 真由美は自分の親友に思い切って考えを述べた。
「うーん。そうなんだけど。。。だって、せっかくなら役に立つお店がいいじゃない」
 るんっと効果音がつきそうな言葉で言われて、真由美は思わず口を噤む。しかし真由美は知っている「役に立つお店」と言うのは地域に役に立つお店ではない。「梨奈にとって」役に立つお店なのだ。それが巡り巡って地域のためになろうとも、彼女の目標はそこではない。
 梨奈が本当に善人なのかは、真由美はあまり考える必要が無いと思っている。彼女が考えていることはいつも巡り巡って人のことを想うことになり、人のためになることをやっている。
 きっと、彼女の考えを理解するのに、人は時間がかかるのだ。
「まだ開業して2ヶ月だしね。ここら辺は保守的な人が多いから、きっと時間がかかると思うよ。開業して半年は運営費も補助金でるから、大丈夫。」
 梨奈はとっても楽観的な意見を述べた。楽観的だからこそ、日本で初めての形態のドラッグストアをやろうなんて思ったんだろうが。
「そうは言ってもこのままだと廃棄代がかさむよ。補助金だっていつまでもあるわけじゃないんだし、今のうちに何か策をねらないと。」
 スーパーなどよりも腐るものは少ないが、それでも少なからずパンや果物などは廃棄せざるを得ない。これがまた地味に痛い。
 そして、初めてのドラッグストアをやる上で導入したあの機械たちの電気代がシャレにならない。真由美も導入して燃費の悪さを痛感した。
「そうだねー。さすがに1日の来店者数50人じゃねー」
 50人とはいってもそのうち半分はスタッフやその身内である。ドラッグストアとしては考えられないくらいの集客の悪さだ。
「こんなに福祉を掛け合わせると客足って遠のくんだねー」
 そう、ここは就労支援施設をかねたドラッグストア「スミヨシ」である。
 就労支援施設とは障がいを持つ人が一般就労を目指すのに必要な事を修得するための場所だ。
 現在、日本の法律ではこのような施設でも生産活動、つまり利益を上げることが求められており、一般的には内職やカフェ、農業などで利益をたてようとするものが多い。
 梨奈はその就労支援施設とドラッグストアを掛け合わせたのに未来を見出した。
 品出しをほぼ障がい者が行い、レジはセルフレジを導入。その横に、案内役という名前の見張り役として、とある機械を導入した。
 開業する前などは日本発ということで、いくつか取材が舞い込み、それなりに騒がれた。1日50人は福祉施設としては多い客数である。しかし、先ほども言ったようにドラッグストアとしてはこの数では運営出来ない。
「スタッフが障がい者になっただけじゃんねー?」
 梨奈は不思議そうに首を傾げた。
 真由美は自分が保守的なので分かる。きっとみんな怖いのだ。今では街中や電車内で障がい者を見かけるが、結局まだどういったものかよく分からない。一般就労してない障がい者なんてほんとに危ないヤツだという偏見がある。興味があっても自分1人だけ来店しているのを目撃されて、意識高いやつだとも思われたくない。
 「なにか理由がないと入れない」のだ。
 梨奈はそれが理解出来ないのだろう。
 梨奈はよくも悪くも偏見が少ない。だから福祉が福祉として仕事をしている姿に疑問を持ったのだ。
 その考えが政府に認められて、「補助金5億円。補助率100%」なんて言う、嘘みたいな話が舞い込んで来たんだろうが。。。正直、真由美は店舗の収支よりも、その補助金の資料作成で頭いっぱいである。
「頑張って、補助金いっぱいもらうよ。。。」
 真由美としては、そのアイディアが精一杯である。
 なんとかたくさんもらって、長く持たせなければ。と再び持っていた書類を握りしめた。
  
しおりを挟む

処理中です...