ドラッグストア「スミヨシ」

竜骨

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6.搾取と依存

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6.搾取と依存
 初日の内容は見学だった。
 社長に変わり、安斎りあの案内は女性スタッフの内山彩になった。
「内山です。こんにちは。今日はよろしくお願いします。」
 内山彩は、りあに対してにこやかに挨拶してくれた。
「安斎です。よろしくお願いします。」
 りあも頭を下げる。
「内山さん、他の子たちは怖くて来れなかったんですって。この子、様子見で来たみたい。」
「そうなんですか。普通のお店なんですけどねー。」
「そうなの。うちのお店も入ったことないみたいだから、まずは売り場から案内してあげてくれる?」
「わかりました。」
 
 りあは彩の後について、表から店に入った。
 広い店内。棚が低い。棚同士の幅が広い。
 何より
(ロボットがいる……)
 ロボットが商品を運び、セルフレジの横にはロボットがずらりである。
 ロボットが運んできた商品を障がい者と思われる人が棚につめていく。
 なんかかっこいい機械に乗って移動している障がい者の人がいた。
(あれってなんだろう?)
 後ろに普通の人がいて、どうやらトイレに行くらしい。
「いまの人、気になる?」
 彩が促してくれた。
「あの人が乗ってるの、なんですか?」
「ベッドになる電動車いすだよ。あの人は首から下が動かないの。そうすると普通の車椅子じゃなくてああいう大きいのになるんだよね。」
 首から下が動かなくて、どうやって操作してたんだろう?すごい。
 りあは目からなにかが落ちて、なんだか世界が見やすくなった気持ちだった。
 
 店に置いてあるのは、普通の商品だと思う。
 りあは自分がまともにドラッグストアに入ったことがないことに気づいた。
 自分が行くのは激安の殿堂か、100均がせいぜいだ。
「ロボットがいっぱいあってびっくりした?」
 やっぱり普通のドラッグストアにはこんなにロボットがないようだ。
「はい。」
「ロボットの仕組みは後で話しますねー」
 1番気になるのに。
「とりあえず、なにか買ってみましょうか。」
 そういって彩は車いすを指した。
 車いす?
「スミヨシでは、簡易電動車いすで買い物ができるの。良かったら、それでやってみましょう。」
 さっきの車いすとはだいぶ違って小さくて、こじんまりしてる。
 これも電動車いすなのか……
 そしてりあは、生まれて初めて電動車いすを操作して買い物をした。
 セルフレジを使った時、隣に立っていたロボットから、機械の声で「いらっしゃいませ。なにかありましたら、話してください。」と言われた。
「これは、機械が言ってるんじゃなくて、機械の向こうに人がいる、遠隔操作ロボットです。ハヤフジって言います。」
 彩さんの説明に合わせて、ロボットが手を上げた。
 その後、くねくねして踊ってる。なんか可愛い。
「そうなんですね。」
 なんで直接人を立たせないんだろう?
「これを操作してるのはさっきトイレにいってた、電動車いすの人です。」
「え?!」
 あの人がどうやってロボットを動かしてるんだろう?!
「ほんの少しの手の動作や、目の動きで操作してます。」
 目の動き?!
「寝たきりの人がレジの横にいたら、ちょっとびっくりするでしょう?」
 ちょっとだろうか?
「でもこのロボットを使えば、寝たきりの人が目で操作して、接客が出来るの。スミヨシは寝たきりの人も働けるお店を目指してるだけで、後は普通のお店よ。」
 それって普通のお店??
「ちょっと前まで障がい者が働くって難しかったんだけど、今では障がい者も働こうってなってきて……でも、寝たきりの人が働くって難しいの。それをうちの社長はこのロボットを使って働けるようにって、すごい人なのよ。」
 りあは彩の目の輝きと早口に引いた。
 とりあえず?私たちに酷いことしてやろうって事じゃないことは伝わった。
 しかし、この宗教っぽい熱量が、りあは苦手だ。
(どうしよう)
 そうこうしているうちに見学は進んでいく。品出しをしている障がい者、さっきトイレで会った、レジのロボットを操作している障がい者にも挨拶をしただけだった。
 もっと詰め寄られるかと思ったのに、あっさりとしていて、なんだか肩透かしをくらった気分だ。
 この人達も働くんだ……
 りあは何にも出来なさそうな人たちが働いているのが、すごく不思議な感じがした。
 一通り、見学が終わったら、帰ることになった。
 帰る時に、廃棄を沢山、どっさりもらった。
「昨日の子たちの分もあるから、沢山食べてね。」
 ひと通り見て回って、宗教っぽいことに目をつむれば、思い込みが激しい偽善者達だと、りあは認識した。
 これなら、みんなで集まっても良さそうである。
 りあは、ほくほくとした顔でみんなの元に帰った。
 お腹いっぱいになったあと(そういえば障がい者の印象を聞かれなかったな)と思い出したが、そんなことはすぐに忘れた。
 とりあえず、明日の食い扶持が確保出来た。いつまで続くか分からないが、あの人達の気持ちが持つ限り、しゃぶりついてやろうと決めた。
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