日常の一幕

彼方こなた

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『自転車』『ケチャップ』『マヨネーズ』

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「今どき、食パン咥えて走る少女は流行らないと思うんだが」

 飯島宅にて、俺は唐突にそう切り出した。

「いや、あれは王道展開なだけで流行るも何もない気がするんだが」
「というか、王道展開な時点で流行ってると思うんすけど」

 いきなり辛辣なコメント。だが、俺はめげずになおも話を続けた。

「確かにパン食い系の女子は王道だ。そこは認める」
「いやなんだよ、パン食い系って。別にパンくわえてんの属性とかジャンルとかじゃないから」
「パン咥えてる系女子って、絶対家パン屋さんっすよね」
「絶対にそう。それで、今日もいつもと同じ味かの確認のため、毎朝パンが出てくるんだろうなー」
「それで、実はその家の少女は米派だったりするんすよね!」
「お前ら、なんでそんなに存在しないものの話で盛り上がれんだよ……」

 俺とミノルが盛り上がっていると、ハジメが若干引き気味にそんなことを言ってきた。

「……? ああ、話がズレてたな」
「本題の方も大したことなさそうなんだが」

 失礼な、とっても重要なことですよ。
 俺は指をフリフリと振って、散々焦らすともったいぶって口を開いた。

「俺はそんなパン食い系女子にもの申したい!」
「はあ……どうぞ」

 呆れたようにため息を吐き出し、さっさと言えとばかりに手だけで急かしてくる。だが、そんな催促にも負けず、俺は堂々と言い放った。

「今どき、歩いて登校よりも自転車登校の方が多い!!」

 そう言い切り、二人の表情を見てみると、何言ってんだこいつ……という感情がありありと浮かんでいた。

「文句あんのそこかよ」
「というか、この辺じゃそうなだけで、全国的なところで言うと自転車通と徒歩通どっちが多いんすかね」
「知らんが、電車通とかが多い印象だな」

 このままだと話が脱線していきそうだったので、手を叩いて意識をこちらに向けさせる。

「ということで、自転車に乗っていても食べられる料理を考案していこうと思います」
「どういうわけだよ」
「別にパンだったら自転車でも食べられると思うんすけど」

 確かにそうだ。パンをくわえながら登校は出来る。となると問題は……。

「味、だな」
「なんでだよ」

 思わずといったふうにツッコミをいれてきたハジメを、キッと睨みつける。

「お前、食パンといったら色々なものをのせて味わえる食材だろうが!」
「何ものせないなんて、食パンを愚弄してるっすよ!」
「食パン本来の味を楽しむ方が王道なんじゃねぇのかよ」

 ハジメは、はぁと息を吐いて降参だとばかりに両手をあげる。

「もうどっちでもいいよ……とにかく、話を進めようぜ」
「それもそうだな」
「そうっすね」

 ハジメの言葉に、俺たち二人はうんうんと頷いて同意する。確かに、一々突っかかってたらいつまでたっても話が進まない。

「それじゃ、自転車に乗りながら食べるパンに何をのせるか話し合おうじゃないか」
「そんなに話す内容か、それ」
「はい! 俺、ピザトーストを提案するっす!」

 うんうん、ミノルのなんでもやる気を出してくれるところは伸ばしていこうな。

「うむ。ケチャップをかけるだけという簡単かつ、チーズやピーマン、玉ねぎなどのトッピングも加えられる。九点」
「え、これ採点式なのか……八点」

 うんうん、ハジメのノリに合わせてくれるところも伸ばしていこうな。
 ちらりとハジメへ視線を向けて、お前の番だぞと無言で訴える。

「えぇ……。じゃあ、食パンの端から端までマヨネーズをかけて、真ん中に卵をのせるやつはどうだ」

 マヨトーストか……。マヨネーズと卵がのった食パンを想像し、採点する。

「半熟とか、完全に火が通ってないと自転車で食べるに向かないだろ。多分、途中で卵が落ちる。ので、五点」
「あれ、美味しいっすよね! 十点!」

 ミノル十六点、ハジメ十五点か。ギリギリミノルが勝ってる感じだな。
 そう考えていると、何やらハジメがじっと見てきて、何かを訴えてきていた。

「え、なに……?」
「いや、順番的にお前だろ」
「言い出しっぺなんすから、きっと凄い案持ってるんすよね!」

 ああ、そういえば俺の案言ってなかったな。あとミノルくん、そうやって無闇にハードル上げるのやめようね。

「そうだな、俺は――」

 ☆ ☆ ☆

 ――次の日。

「やべぇ、遅刻だ遅刻!」

 速攻で学校行く準備を済ませ、家から飛び出る。既に近くに登校している生徒はおらず、それにより焦りが加速する。

「あーっ! ノボルも遅刻っすか!」
「おー、もうちょい早く出ろよお前ら」

 遅刻しそうなはずなのに無駄に元気なミノルと、朝なだけあって普段よりも気だるげなハジメの姿を視認する。

「早速昨日話し合ったのが役に立ったな!」
「いや、俺ら別に自転車通じゃねぇんだけど」

 バシバシと背中を叩くと、ハジメは鬱陶しそうにこちらを睨んできた。
 二人の口には、それぞれ食パンがくわえられており、ミノルはピザトースト、ハジメはマヨトーストと昨日の話で二人が挙げた食パンだった。

「ノボルも昨日言ったやつ持ってきてるっすね!」
「ああ、確かに」

 視線を下げて、俺が手に持っている袋を見るとミノルは袋に指をさしてそう言ってきた。
 そう、俺の手には昨日十七点を獲得し、見事一位に輝いた食パンがある。

「ん? お前らも食いたいのか?」

 俺はそう言いながら、四等分されたフレンチトーストを二人に差し出した。
 
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