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2章 人妻魔術師の冒険とはっちゃめちゃになるお話
25:討伐
エレナは、杖を強く、強く握りしめた。指の関節が白くなるほどに。心臓が、まるで胸を突き破らんばかりに激しく鼓動している。目の前の光景は、絶望的と言ってもよかった。しかし、ここで怯むわけにはいかないのだ。ガラハッドが、ロキが、命を賭して戦っている。そして、背後には、怯える村人たちがいる。
(夫のため…! そして、今、わたくしが守るべき人々のために…!)
彼女は、恐怖を振り払い、自らを奮い立たせた。深く、深く息を吸い込み、体内のマナを最大限に活性化させる。杖の先端のクリスタルが、これまで以上の輝きを放ち始めた。
「集え、荒ぶる風よ! 敵を薙ぎ払う無慈悲なる嵐となれ!」
エレナの凛とした声が、戦場の喧騒を切り裂いて響き渡る。彼女の周囲に、猛烈な風が渦を巻き始めた。それは、もはや単なる突風ではない。砂塵や小石、破壊された家屋の破片までも巻き込み、全てを切り刻む、死の嵐。砂塵が舞い上がり、レッドキャップどもの視界を奪い、その平衡感覚を狂わせる。突風が吹き荒れ、小柄なレッドキャップどもを、まるで藁人形のように軽々と吹き飛ばし、地面や壁に叩きつけていく。悲鳴と断末魔が、風の唸りの中に掻き消えていった。
「グオォォォォォッ!」
オーガは、エレナの放った嵐をものともせず、その巨躯に風を受けながらも、巨大な棍棒をガラハッド目掛けて振り下ろした。ゴウッ、と空気を引き裂く音が響き、地面が揺れるほどの凄まじい一撃。それは、城壁すら打ち砕かんとするほどの破壊力を秘めていた。
『ぬぅぅぅぅんっ!』
ガラハッドは、両足を踏ん張り、両手剣を盾のように構え、オーガの渾身の一撃を真正面から受け止めた。ズゥゥゥシンッ、と地響きにも似た重い衝撃音が響き渡り、ガラハッドの足元の地面が大きく陥没し、土煙が上がる。彼の腕の筋肉が、まるで鋼鉄の塊のように、異常なまでに盛り上がっているのが見えた。両手剣の刃が、ギリギリと軋む音を立てている。常人ならば、その衝撃だけで骨もろとも砕け散っていただろう。
『今だぜ、姐さん! でかいの一発、ぶちかましてやれ!』
ロキの声が、嵐の唸りの中から響いた。彼は、オーガの巨躯の死角を巧みに利用し、その足元を素早く駆け抜け、背後から弓を引き絞っていた。その矢の先端には、おそらく即効性の猛毒が塗られているのだろう、不気味な紫色の光沢が見える。ヒュンッ、と鋭い風切り音を立てて放たれた矢が、オーガの防御の薄い右目に、深々と突き刺さった。
「グギャァァァァァァァッ!」
オーガが、これまでとは比較にならないほどの、凄まじい苦痛の叫び声を上げた。その巨体が大きくのけぞり、棍棒を取り落とす。右目からは、夥しい量の赤黒い血が噴き出していた。
『好機!』
エレナは、この一瞬の隙を見逃さなかった。彼女は杖を天高く突き上げ、残っていたありったけの魔力を、その一点に注ぎ込む。杖の先端のクリスタルが、もはや直視できないほどの眩い光を放ち始めた。周囲の大気が、まるで生き物のように唸りを上げ、エレナの元へと集束していく。
「風よ、集いて竜となり、天罰の息吹となりて、我が敵を貫け! 」
エレナの魔力が、巨大な竜巻の槍へと姿を変えた。それは、天を衝くほどの巨大さで、荒れ狂う風が、まるで意思を持った古竜のように咆哮を上げながら高速で回転し、凄まじい破壊力を秘めて、苦悶するオーガへと向かっていく。
「グオォォォッ! グガァァァッ!」
オーガは、迫り来る風の竜巻を、残った左腕で打ち払おうとしたが、その圧倒的な力の奔流の前に、分厚い腕の骨が砕ける鈍い音が響き、なす術もなく飲み込まれていった。そして、風の竜巻は、オーガの分厚い胸板を、まるで熱したナイフがバターを切り裂くかのように容易く貫通した。
「グ…ガ…ァ…」
オーガは、信じられないといった表情で、自らの胸に空いた巨大な風穴を見下ろした。そこからは、風が唸りを上げて吹き抜けている。そして、その巨体は、まるで糸の切れた操り人形のように、ゆっくりと、しかし確実に、後ろ向きに倒れていった。ドォォォォォンッ、と地響きを立てて大地が揺れ、砂塵が舞い上がった。
オーガという絶対的な支配者を失ったレッドキャップどもは、完全に戦意を喪失し、蜘蛛の子を散らすように、我先にと森へと逃げ惑い始めた。
『逃がすかよ!』 『残らず始末する!』
ガラハッドとロキが、逃げる敵を容赦なく追撃し、その数を確実に減らしていく。エレナも、残った僅かな魔力で風の刃を放ち、逃げ遅れたレッドキャップにとどめを刺した。掃討戦は、もはや一方的な殺戮となり、すぐに終わりを告げた。
戦いが終わった時、広場には静寂が戻っていた。しかし、それは平和な静寂ではなく、死と破壊の後の、重苦しい静寂だった。三人は、疲労困憊で、その場にへたり込んでいた。エレナは、魔力を完全に使い果たし、立っているのもやっとの状態で、杖にすがるようにして浅い呼吸を繰り返していた。ガラハッドも、オーガの攻撃を受け止めた両腕が痺れているのか、苦悶の表情を浮かべ、両手剣を杖代わりにして身体を支えている。ロキも、さすがに息を切らし、珍しく汗を流していた。
しかし、彼らの顔には、死線を共に乗り越えた者だけが浮かべることのできる、深い達成感と、そして確かな安堵の色が浮かんでいた。
村人たちが、破壊された家々の陰から、恐る恐る広場へと出てきた。そして、三人の姿と、倒れたオーガの巨体を見ると、最初は信じられないといった表情を浮かべ、やがて、堰を切ったように歓声を上げ始めた。彼らは、三人を英雄として称え、感謝の言葉を口々に叫んだ。長老は、再び涙ながらに三人の手を取り、なけなしの食料や、おそらくは祝い事のために隠し持っていたであろう古い葡萄酒を振る舞おうとしたが、三人は丁重に、しかし固くそれを断った。今は、一刻も早くアストリナに戻り、休息を取りたかった。
(夫のため…! そして、今、わたくしが守るべき人々のために…!)
彼女は、恐怖を振り払い、自らを奮い立たせた。深く、深く息を吸い込み、体内のマナを最大限に活性化させる。杖の先端のクリスタルが、これまで以上の輝きを放ち始めた。
「集え、荒ぶる風よ! 敵を薙ぎ払う無慈悲なる嵐となれ!」
エレナの凛とした声が、戦場の喧騒を切り裂いて響き渡る。彼女の周囲に、猛烈な風が渦を巻き始めた。それは、もはや単なる突風ではない。砂塵や小石、破壊された家屋の破片までも巻き込み、全てを切り刻む、死の嵐。砂塵が舞い上がり、レッドキャップどもの視界を奪い、その平衡感覚を狂わせる。突風が吹き荒れ、小柄なレッドキャップどもを、まるで藁人形のように軽々と吹き飛ばし、地面や壁に叩きつけていく。悲鳴と断末魔が、風の唸りの中に掻き消えていった。
「グオォォォォォッ!」
オーガは、エレナの放った嵐をものともせず、その巨躯に風を受けながらも、巨大な棍棒をガラハッド目掛けて振り下ろした。ゴウッ、と空気を引き裂く音が響き、地面が揺れるほどの凄まじい一撃。それは、城壁すら打ち砕かんとするほどの破壊力を秘めていた。
『ぬぅぅぅぅんっ!』
ガラハッドは、両足を踏ん張り、両手剣を盾のように構え、オーガの渾身の一撃を真正面から受け止めた。ズゥゥゥシンッ、と地響きにも似た重い衝撃音が響き渡り、ガラハッドの足元の地面が大きく陥没し、土煙が上がる。彼の腕の筋肉が、まるで鋼鉄の塊のように、異常なまでに盛り上がっているのが見えた。両手剣の刃が、ギリギリと軋む音を立てている。常人ならば、その衝撃だけで骨もろとも砕け散っていただろう。
『今だぜ、姐さん! でかいの一発、ぶちかましてやれ!』
ロキの声が、嵐の唸りの中から響いた。彼は、オーガの巨躯の死角を巧みに利用し、その足元を素早く駆け抜け、背後から弓を引き絞っていた。その矢の先端には、おそらく即効性の猛毒が塗られているのだろう、不気味な紫色の光沢が見える。ヒュンッ、と鋭い風切り音を立てて放たれた矢が、オーガの防御の薄い右目に、深々と突き刺さった。
「グギャァァァァァァァッ!」
オーガが、これまでとは比較にならないほどの、凄まじい苦痛の叫び声を上げた。その巨体が大きくのけぞり、棍棒を取り落とす。右目からは、夥しい量の赤黒い血が噴き出していた。
『好機!』
エレナは、この一瞬の隙を見逃さなかった。彼女は杖を天高く突き上げ、残っていたありったけの魔力を、その一点に注ぎ込む。杖の先端のクリスタルが、もはや直視できないほどの眩い光を放ち始めた。周囲の大気が、まるで生き物のように唸りを上げ、エレナの元へと集束していく。
「風よ、集いて竜となり、天罰の息吹となりて、我が敵を貫け! 」
エレナの魔力が、巨大な竜巻の槍へと姿を変えた。それは、天を衝くほどの巨大さで、荒れ狂う風が、まるで意思を持った古竜のように咆哮を上げながら高速で回転し、凄まじい破壊力を秘めて、苦悶するオーガへと向かっていく。
「グオォォォッ! グガァァァッ!」
オーガは、迫り来る風の竜巻を、残った左腕で打ち払おうとしたが、その圧倒的な力の奔流の前に、分厚い腕の骨が砕ける鈍い音が響き、なす術もなく飲み込まれていった。そして、風の竜巻は、オーガの分厚い胸板を、まるで熱したナイフがバターを切り裂くかのように容易く貫通した。
「グ…ガ…ァ…」
オーガは、信じられないといった表情で、自らの胸に空いた巨大な風穴を見下ろした。そこからは、風が唸りを上げて吹き抜けている。そして、その巨体は、まるで糸の切れた操り人形のように、ゆっくりと、しかし確実に、後ろ向きに倒れていった。ドォォォォォンッ、と地響きを立てて大地が揺れ、砂塵が舞い上がった。
オーガという絶対的な支配者を失ったレッドキャップどもは、完全に戦意を喪失し、蜘蛛の子を散らすように、我先にと森へと逃げ惑い始めた。
『逃がすかよ!』 『残らず始末する!』
ガラハッドとロキが、逃げる敵を容赦なく追撃し、その数を確実に減らしていく。エレナも、残った僅かな魔力で風の刃を放ち、逃げ遅れたレッドキャップにとどめを刺した。掃討戦は、もはや一方的な殺戮となり、すぐに終わりを告げた。
戦いが終わった時、広場には静寂が戻っていた。しかし、それは平和な静寂ではなく、死と破壊の後の、重苦しい静寂だった。三人は、疲労困憊で、その場にへたり込んでいた。エレナは、魔力を完全に使い果たし、立っているのもやっとの状態で、杖にすがるようにして浅い呼吸を繰り返していた。ガラハッドも、オーガの攻撃を受け止めた両腕が痺れているのか、苦悶の表情を浮かべ、両手剣を杖代わりにして身体を支えている。ロキも、さすがに息を切らし、珍しく汗を流していた。
しかし、彼らの顔には、死線を共に乗り越えた者だけが浮かべることのできる、深い達成感と、そして確かな安堵の色が浮かんでいた。
村人たちが、破壊された家々の陰から、恐る恐る広場へと出てきた。そして、三人の姿と、倒れたオーガの巨体を見ると、最初は信じられないといった表情を浮かべ、やがて、堰を切ったように歓声を上げ始めた。彼らは、三人を英雄として称え、感謝の言葉を口々に叫んだ。長老は、再び涙ながらに三人の手を取り、なけなしの食料や、おそらくは祝い事のために隠し持っていたであろう古い葡萄酒を振る舞おうとしたが、三人は丁重に、しかし固くそれを断った。今は、一刻も早くアストリナに戻り、休息を取りたかった。
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