追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

文字の大きさ
15 / 100

第15話 村の仲間として

村を救った奇跡の一夜が明け、俺たちの日常は大きく変わった。

朝、教会の扉を開けると、そこには村人たちがずらりと列をなしていた。手には、籠いっぱいの野菜や果物、焼きたてのパン、燻製肉、新鮮なミルクなど、様々なものを持っている。

「聖女様! リアム様! おはようございます!」

俺たちの姿を認めるやいなや、彼らは満面の笑みで挨拶をしてきた。その目には、もう以前のような恐怖や警戒の色はない。ただ純粋な尊敬と親愛の情が浮かんでいる。

「これは、昨夜のお礼です! うちで採れた一番の野菜ですぜ!」
「こっちはうちの鶏が産んだ卵だよ。栄養満点さ!」
「リアム様も、どうぞお受け取りください。あなたがいなければ、聖女様もお力を発揮できなかったんでしょう?」

彼らは口々にそう言うと、持ってきたものを教会の前に置いていく。あっという間に、俺たちの家の前は、ちょっとした市場のような賑わいになった。

セレスティアは、その光景をただ呆然と見つめていた。村人から、こんなにも温かい善意を一度に向けられたことなど、生まれて初めてだったからだ。その青い瞳はみるみるうちに潤み、また泣き出してしまうのではないかと少し心配になった。

俺はそんな彼女の代わりに、村人たちに礼を言った。

「みんな、ありがとう。だが、こんなにたくさん貰うわけにはいかない」

「いいや、受け取ってください! これは俺たちの気持ちなんです!」

先頭に立っていた農夫が快活に笑う。俺たちが固辞しても、彼らは聞く耳を持たなかった。彼らにとって、これはただのお礼ではない。村を救ってくれた英雄に対する、心からの奉納なのだ。

結局、俺たちはその膨大な量の食料を受け取らざるを得なかった。教会の食料庫は、たちまち満杯になった。これだけあれば、冬を越すのにも困らないだろう。

その日の午後、村長が直々に教会を訪ねてきた。恰幅のいい、人の良さそうな老人だ。彼は俺たちの前に深々と頭を下げた。

「聖女セレスティア様、そしてリアム殿。この度は、我々の村を救っていただき、誠にありがとうございました。このご恩は、村人一同、未来永劫忘れません」

「顔を上げてください、村長さん」

俺がそう促すと、村長はゆっくりと顔を上げた。その表情は、真剣そのものだった。

「お二人に、村人からの総意として、一つお願いがございまして参りました」

「お願い、ですか?」

セレスティアが不思議そうに首を傾げる。

「はい。まことに厚かましいお願いとは承知しておりますが……どうか、これからもこの村に留まり、我々と共に生きてはいただけないでしょうか。お二人を、正式に我々の仲間としてお迎えしたいのです」

それは、俺たちにとって望外の申し出だった。

これまで、俺たちはあくまでよそ者だった。セレスティアに至っては、村から疎まれる厄介者でさえあった。それが今、村の一員として、仲間として迎え入れたいと言われている。

セレスティアは、その言葉の意味を噛みしめるように、じっと村長の顔を見つめていた。仲間。その響きが、彼女の心にどれほど温かく響いたことだろう。

村長は言葉を続ける。

「もちろん、ただでとは申しません。この教会と畑は、正式にお二人の所有物としてお譲りします。税も免除いたしましょう。そして、村のことで何か困り事があれば、村人総出で助太刀することをお約束します」

破格の条件だった。それは、俺たちがただの居候ではなく、この村にとって不可欠な存在なのだと、村全体が認めた証だった。

俺はセレスティアの方を見た。彼女の答えは、聞くまでもなかった。その瞳は、喜びにきらきらと輝いている。

「……はい。喜んで」

セレスティアは、涙をこらえながら、しかしはっきりとした声で答えた。

「わたしも、リアム様も、ここで、皆さんと一緒に生きていきたいです」

その言葉に、村長は顔をしわくちゃにして笑った。

「おお……! そう言っていただけるか! ありがたい、実にありがたい!」

こうして、俺たちは正式に、この辺境の村の住人となった。

村長は、俺たちが村の復興に力を貸してくれるなら、これほど心強いことはない、と言った。この村は痩せた土地と貧しい暮らしに長年苦しんできた。だが、セレスティアの聖なる力と、それを支える俺の存在があれば、この村は生まれ変われるかもしれない。村長は、そう信じているようだった。

「復興、か」

村長が帰った後、俺は生まれ変わった教会の中で一人呟いた。

追放された身で、今さら誰かのために何かをしようなどとは思っていなかった。ただ、セレスティアと二人で、静かに暮らしていければそれでいい。そう思っていた。

だが、村人たちの温かい眼差しや、心からの感謝の言葉に触れて、俺の心境にも変化が生まれていた。

彼らは、俺たちを必要としてくれている。俺の、そしてセレスティアの力を、心から頼りにしてくれている。お荷物だと、寄生虫だと蔑まれた俺にとって、その事実は何よりも価値のあるものに思えた。

ここが、俺の新しい居場所なのだ。だったら、その居場所を、もっと良くするために力を尽くすのも、悪くない。

「リアム様」

考え事をしている俺に、セレスティアが声をかけてきた。その手には、温かいハーブティーが二つ、湯気を立てている。

「村長さん、喜んでいましたね」

「ああ。本当に、いい人たちだな」

俺たちは長椅子に並んで腰掛け、ハーブティーを啜った。優しい香りが、疲れた身体に染み渡る。

「リアム様。わたし、嬉しいんです」

セレスティアが、ぽつりと言った。

「わたしにも、できることがあるんだって、初めて思えました。誰かの役に立てるんだって。……リアム様のおかげです」

彼女は、はにかむように微笑んだ。その笑顔は、どんな報酬よりも俺の心を温かく満たしてくれた。

「俺の方こそ、君のおかげだよ」

俺は素直にそう言った。

「君がいなければ、俺は今頃、どこかで野垂れ死んでた。居場所をくれたのは、君の方だ」

俺たちは、どちらからともなく顔を見合わせて、小さく笑い合った。

俺たちは、互いに互いを必要としていた。一人では無力だった俺たちが、二人でいることで、初めて誰かの役に立つことができた。

これから、この村で何ができるだろう。何をすべきだろう。

俺は、窓の外に広がる痩せた村の景色を見ながら、これからのことに思いを馳せていた。やるべきことは、山積みだ。だが、不思議と心は晴れやかだった。

絶望から始まった俺の新しい人生は、今、確かな目標と、かけがえのない仲間を得て、本格的に動き出そうとしていた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

【概念剥奪】でポイ捨て無双。~最弱の収納スキルが覚醒したので、聖剣も魔王もゴミ箱に捨てて伝説の竜姫とスローライフ~

寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ファンタジー
「収納しかできない無能な荷物持ちなど、我がパーティーには不要だ。消えろ、ゴミめ」 勇者パーティーの仲間だと思っていた奴らから突きつけられたのは、冷酷な追放宣告だった。 俺の持つスキルは、物を出し入れするだけの最弱スキル《収納》。 だが、死の淵でその真の力が覚醒する。 それは、物質だけでなく、この世のあらゆる事象を収める――【概念剥奪】。 「……悪いな。お前たちの『才能』も『聖剣』も、全部俺がポイ捨て(収納)しちゃったよ」 奪った概念は自由自在。 魔王の絶大な魔力も、勇者の無敵の加護も、俺の前ではただの不用品。 すべてを奪い取り、俺は辺境の地で伝説の竜姫と悠々自適なスローライフを始めることにした。 一方で、最強の荷物持ちを失った元パーティーは、装備もスキルも枯渇して破滅の道を突き進む。 「頼む、戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう手遅れだ。 俺の収納スペースに、お前たちの居場所なんてこれっぽっちも残っていないんだから。 これは、世界に捨てられた男が、世界そのものを収納して無双する逆転劇。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!