影なる支配者(パラサイト・ロード)〜最弱のスライムに転生したけど、寄生した相手を進化させて裏から世界を救うことにした〜

夏見ナイ

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第38話 ドワーフの鉱山へ

ルナの決意は固かった。過去のトラウマは彼女を打ちのめすのではなく、より強固な意志を宿すための試練となった。彼女の瞳にはもう迷いはない。ただ、自らが掲げた目標へと真っ直ぐに進む強い光だけがあった。

俺たちはあの忌まわしき魔物の亡骸を森の微生物に任せ、東へと旅立った。
目指すは鉄槌山脈。頑固で知られるドワーフ族が、太古の昔から根城にしているという鉱物資源の宝庫だ。

旅は穏やかなものだった。
ルナは俺の指導のもと、歩きながらでも魔力制御の訓練を続けた。
手のひらに小さな光を灯す。足元にそよ風を起こして歩行を助ける。水筒の水を僅かに冷たくする。

それは戦闘魔法のような派手さはない地味で繊細な訓練だった。だが、この積み重ねこそが彼女の魔力をより緻密で、より強力なものへと育て上げていく。

俺もまた彼女の体の中から、この森の生態系の《解析》を続けていた。
この森の南東部に近づくにつれ、植生だけでなく生息する魔物の種類も変わってくる。岩肌を好むトカゲ型の魔物や、金属質の甲殻を持つ昆虫。それらのデータを収集し、《スキルバンク》を充実させていくことは俺にとっての重要な任務だった。

数日後、俺たちの目の前に、ついにその姿が現れた。
天を突くように連なる険しい山々のシルエット。鉄槌山脈だ。
森の柔らかな緑とは対照的な、ごつごつとした灰色の岩肌が陽の光を浴びて鈍く輝いている。その威容は見る者を圧倒し、安易な侵入を拒んでいるかのようだった。

「……ここが、ドワーフの……」
ルナは、その壮大な光景に息を呑んだ。
エルフである彼女にとって、森から遠く離れた岩山は全くの異世界だった。

『そうだ。奴らはこの岩山をくり抜き、巨大な地下都市を築いているという』
俺は旅の途中で聞きかじった情報を彼女に伝えた。
『だが、問題はどうやって彼らに会うかだ。ドワーフは他種族を嫌う傾向が強い。特に森に住むエルフとは、古くから犬猿の仲だと聞く』

森を愛し、自然との調和を重んじるエルフ。
岩を削り、金属を鍛えることを至上とするドワーフ。
その価値観は水と油。歴史上、何度も小競り合いを繰り返してきたという。

(では、私が行っても追い返されてしまうかもしれませんね)
ルナの言葉に不安の色が滲む。

『その可能性は高いな。だが、心配するな。俺に考えがある』
俺にはドワーフという頑固な種族を攻略するための、とっておきの秘策があった。
交渉が決裂した場合のプランB。いや、プランP(パラサイト)とでも言うべきか。

俺たちは山脈の麓にある巨大な洞窟の入り口へとたどり着いた。
そこがドワーフの鉱山都市「ドルムヘイム」の入り口らしかった。
入り口は高さも幅も十メートルはあろうかという巨大なもので、その両脇には屈強なドワーフの戦士と思しき石像が巨大な戦斧を構えて立っている。

そしてその入り口の前には、本物のドワーフの衛兵が二人、腕を組んで立っていた。
背は低いが、その体は樽のように頑丈で筋肉質。顔には豊かに蓄えられた髭。伝説に聞くドワーフの姿そのものだった。

彼らは森の中から現れたルナの姿を認めると、すぐさま警戒態勢に入った。
その手には巨大な鉄槌が握られている。

「止まれ! 何者だ!」
ドワーフの一人が、地の底から響くような太い声で警告した。
その目にはエルフであるルナに対する、あからさまな不信と敵意が浮かんでいた。

ルナは少し怯んだが、俺に促されるまま一歩前に進み出た。
そしてエルフ族に伝わる、丁寧な挨拶の礼をした。

(……私はルナ。森から来た旅の者です)
彼女は声が出せないため、テレパシーで直接衛兵たちの心に語りかけた。

「!?」
ドワーフたちは頭の中に直接響く声に驚き、顔を見合わせた。
「……テレパシーか。小賢しい真似を」
「だが、エルフであることに違いはない。何のようだ、森の者よ。ここはお前たちのようなヒョロ長い連中が来る場所ではない。さっさと森へ帰れ」

その対応は予想通り、けんもほろろだった。
ここからどう交渉したものか。俺が思考を巡らせていた、その時だった。

ルナが再び心で語りかけた。
その言葉は俺も予想していなかった、真っ直ぐなものだった。

(私は力を求めてここへ来ました。私の大切な森を、仲間たちを守るための力が。そのために、あなたたちの知恵と技術で最高の杖を作っていただきたいのです)

彼女は自分の目的を偽りなく、正直に打ち明けた。
そのあまりにも真っ直ぐな願いに、ドワーフたちは少しだけ面食らったようだった。

だが、彼らの頑なな態度は変わらない。
「杖だと? ふん、そんな木の枝を振り回す遊びに、我々ドワーフの神聖な槌を振るえるか」
「我々が鍛えるのは鉄と鋼。敵を叩き潰すための本物の武器だけだ。帰れ、帰れ!」

交渉は決裂か。
やはりプランPに移行するしかないか。俺がそう判断しかけた、その時。

洞窟の奥から別のドワーフが一人、姿を現した。
そのドワーフは他の二人よりも年嵩で、その髭は雪のように白かった。だが、その眼光は鋼のように鋭い。

「……待て、お前たち」
その声には有無を言わせぬ重みがあった。衛兵たちははっとしたように、その老ドワーフに敬礼した。
「長老!」

長老と呼ばれたドワーフはゆっくりとルナの前に進み出ると、その小さな体からは想像もつかないほどの威圧感で、彼女を頭のてっぺんから爪先までじろりと舐めるように見た。

「……ふむ。確かにエルフだ。それも、かなりの魔力を秘めておるわい」
長老の目はルナの外見だけでなく、その内なる力までをも見抜いているかのようだった。

「杖を作ってほしい、とな。面白いことを言う。だが、我らがタダ働きをするとでも思ったか?」
長老の言葉に、ルナは静かに首を横に振った。

(もちろん、ただとは申しません。相応の対価はお支払いします)
彼女は懐から、旅の途中で見つけたあるものを取り出した。
それは拳ほどの大きさの、奇妙な鉱石だった。
黒い岩の中に星屑のように、青白い光の粒がいくつも煌めいている。

それを見た瞬間、長老の、そして衛兵たちの目の色が変わった。

「……なっ!? そ、それは……星屑鉄(スターダスト・アイアン)!? 馬鹿な、そんなものは百年前に掘り尽くしたはず……!」

星屑鉄。
魔力を帯びた極めて希少な金属。武器や防具に混ぜ込めば、その強度と魔力伝導率を飛躍的に高めるという伝説の鉱石だ。

『……どうやら、当たりだったようだな』
俺は心の中でほくそ笑んだ。
この鉱石は俺が森の中で見つけたものだ。俺の《解析》能力は、それが尋常ではない魔力を秘めていることを見抜いていた。そしてドワーフたちがこういう「お宝」に目がないことも計算済みだった。

ルナは、その鉱石を長老へと差し出した。
(これを対価としては、いかがでしょうか)

長老は震える手でその鉱石を受け取った。
そして、それを舌でぺろりと舐めると恍惚とした表情で目を閉じた。
「……間違いない。本物だ。なんと甘美な鉄の味がすることか……!」

彼は大きく目を見開くと、今までとは打って変わって上機嫌な声で言った。
「……よかろう! その依頼、このドルムヘイムが引き受けた!」
「ただし!」

長老は人差し指を立てた。
「お前さんが持ってきたこの素晴らしい素材に見合うだけの『腕』が、お前さんにあるのなら、の話だがな」

その言葉は新たな試練の始まりを告げていた。
ドワーフの鉱山。そこはただの職人の集まりではなかった。
自らの仕事に命よりも重い誇りを持つ、頑固で気高き鍛冶師たちの巣窟だったのだ。
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