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第80話:虹霓の滝への手がかり~まだ見ぬ色彩を求めて~
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古びた航海日誌に記されていた「虹霓の滝」の記述。それは、エシンが探し求めていた「伝説の風景」への、初めての具体的な手がかりだった。彼の心は、まだ見ぬ七色の色彩と、そこに秘められたかもしれない奇跡への期待で、かつてないほど高揚していた。
しかし、その航海日誌に描かれていた海図は、あまりにも古く、そして断片的だった。そこに示された島影は、現在のどの地図にも載っておらず、その海域は「魔の海域」「船喰いの海」などと噂される、航海の難所として知られている場所のさらに奥にあるようだった。
普通の船乗りならば、まず近づこうとすらしないだろう。しかし、エシンは諦めなかった。彼は、その古びた海図の情報を元に、スケッチブックの能力を最大限に活用し始めた。
まずは、古海図そのものを、寸分違わぬ精度でスケッチブックに写し取る。次に、自分が持つ最新の海図(それでも信頼性は完璧ではないが)と重ね合わせ、地形や海流、そして風向きなどの情報を補完していく。さらに、ポルトマーレで出会った様々な国の船乗りたちから聞いた、未知の海域に関する噂話や、嵐を避けるための航海術、そして特殊な星の配置を読むことで進路を定める方法などを、記憶の引き出しから引っ張り出し、それらの情報をパズルのように組み合わせていく。
それは、まさに彼のこれまでの旅の経験と、スケッチブックの持つ情報整理・統合能力、そして絵描きとしての直感と想像力の全てを注ぎ込んだ、困難な作業だった。
数日間、エシンはその作業に没頭した。時には、あまりにも情報が曖昧で、スケッチブックに「虹霓の滝がある島」の想像図を描こうとしても、ぼんやりとしたイメージしか浮かばず、転移の糸口さえ掴めないこともあった。
(やはり、情報が曖昧すぎる場所へは、いきなり飛ぶことはできないのか……。スケッチブックの力にも、限界があるんだな……)
彼は、改めてスケッチブックの能力の限界と可能性について思いを巡らせた。しかし、それは彼を落胆させるのではなく、むしろ、より一層慎重に、そして確実に情報を集め、自分の足で目的地に近づくことの重要性を再認識させるものだった。
そんな試行錯誤を繰り返す中で、エシンはある一つの仮説にたどり着いた。古文書に記されていた「特定の月の満ち欠けと、星の配置が揃った時にのみ、その姿を現す」という記述。それは、単に滝が見える条件というだけでなく、その島へ至るための「道」が開かれる条件を示しているのではないだろうか。例えば、普段は霧や強力な海流に阻まれて近づけない島が、その特定の条件下でのみ、安全に接近できるようになる、といった具合に。
彼は、その仮説を元に、天文学の知識(これも旅の途中で学者などから聞きかじったものだ)を駆使し、古文書に記された時期と、星の配置を計算し始めた。そして、ついに、その条件が満たされる「時」が、数ヶ月後に迫っていることを突き止めたのだ。
「これだ……! このタイミングで、この海域へ向かえば、あるいは……!」
エシンの目には、確かな光が宿っていた。目的地は定まった。そして、そこへ至るための「時」も予測できた。残るは、その未知の海域へ共に航海してくれる船と、信頼できる船乗りたちを見つけることだ。
それは、決して簡単なことではないだろう。しかし、エシンには、いくつかの心当たりがあった。ポルトマーレで出会った、勇敢で経験豊富な船乗りたち。あるいは、アーティリアのデュラン氏の人脈を頼れば、腕の良い船長を紹介してもらえるかもしれない。
そして、この大冒険のためには、十分な旅の資金も必要になる。彼は、アーティリアでの個展の収益や、いくつかの依頼で得た報酬を、この時のために大切に蓄えていた。また、もし必要であれば、これまでに描き溜めたスケッチの中から、いくつかの作品を信頼できる相手に売却することも考えていた。それは、彼にとって苦渋の選択ではあるが、「虹霓の滝」というまだ見ぬ絶景を描くためならば、厭わない覚悟だった。
エシンは、スケッチブックの新しいページを開き、そこに、これから始まるであろう「虹霓の滝」への冒険の計画を、詳細に書き込み始めた。必要なもの、訪ねるべき人々、そして何よりも、その滝を目にした時の感動を想像しながら、彼の心は高鳴っていた。
彼のスケッチブックには、もはや、ただの風景画だけでなく、壮大な冒険の設計図とも言うべきものが描き込まれようとしていた。
見果てぬ夢、伝説の風景「虹霓の滝」。その手がかりを掴んだエシンの旅は、今、新たな、そしておそらくこれまでで最も困難な挑戦へと舵を切ろうとしていた。
彼の絵筆は、まだ見ぬ七色の色彩を求めて、荒れ狂う海原の彼方へと、その想いを馳せる。
エシンの物語は、まだ終わらない。むしろ、これからが本当の冒険の始まりなのかもしれない。彼の瞳は、水平線の向こうに広がる未知なる世界を、まっすぐに見つめていた。
(ここで本編を締め、エピローグ①へ繋げる)
しかし、その航海日誌に描かれていた海図は、あまりにも古く、そして断片的だった。そこに示された島影は、現在のどの地図にも載っておらず、その海域は「魔の海域」「船喰いの海」などと噂される、航海の難所として知られている場所のさらに奥にあるようだった。
普通の船乗りならば、まず近づこうとすらしないだろう。しかし、エシンは諦めなかった。彼は、その古びた海図の情報を元に、スケッチブックの能力を最大限に活用し始めた。
まずは、古海図そのものを、寸分違わぬ精度でスケッチブックに写し取る。次に、自分が持つ最新の海図(それでも信頼性は完璧ではないが)と重ね合わせ、地形や海流、そして風向きなどの情報を補完していく。さらに、ポルトマーレで出会った様々な国の船乗りたちから聞いた、未知の海域に関する噂話や、嵐を避けるための航海術、そして特殊な星の配置を読むことで進路を定める方法などを、記憶の引き出しから引っ張り出し、それらの情報をパズルのように組み合わせていく。
それは、まさに彼のこれまでの旅の経験と、スケッチブックの持つ情報整理・統合能力、そして絵描きとしての直感と想像力の全てを注ぎ込んだ、困難な作業だった。
数日間、エシンはその作業に没頭した。時には、あまりにも情報が曖昧で、スケッチブックに「虹霓の滝がある島」の想像図を描こうとしても、ぼんやりとしたイメージしか浮かばず、転移の糸口さえ掴めないこともあった。
(やはり、情報が曖昧すぎる場所へは、いきなり飛ぶことはできないのか……。スケッチブックの力にも、限界があるんだな……)
彼は、改めてスケッチブックの能力の限界と可能性について思いを巡らせた。しかし、それは彼を落胆させるのではなく、むしろ、より一層慎重に、そして確実に情報を集め、自分の足で目的地に近づくことの重要性を再認識させるものだった。
そんな試行錯誤を繰り返す中で、エシンはある一つの仮説にたどり着いた。古文書に記されていた「特定の月の満ち欠けと、星の配置が揃った時にのみ、その姿を現す」という記述。それは、単に滝が見える条件というだけでなく、その島へ至るための「道」が開かれる条件を示しているのではないだろうか。例えば、普段は霧や強力な海流に阻まれて近づけない島が、その特定の条件下でのみ、安全に接近できるようになる、といった具合に。
彼は、その仮説を元に、天文学の知識(これも旅の途中で学者などから聞きかじったものだ)を駆使し、古文書に記された時期と、星の配置を計算し始めた。そして、ついに、その条件が満たされる「時」が、数ヶ月後に迫っていることを突き止めたのだ。
「これだ……! このタイミングで、この海域へ向かえば、あるいは……!」
エシンの目には、確かな光が宿っていた。目的地は定まった。そして、そこへ至るための「時」も予測できた。残るは、その未知の海域へ共に航海してくれる船と、信頼できる船乗りたちを見つけることだ。
それは、決して簡単なことではないだろう。しかし、エシンには、いくつかの心当たりがあった。ポルトマーレで出会った、勇敢で経験豊富な船乗りたち。あるいは、アーティリアのデュラン氏の人脈を頼れば、腕の良い船長を紹介してもらえるかもしれない。
そして、この大冒険のためには、十分な旅の資金も必要になる。彼は、アーティリアでの個展の収益や、いくつかの依頼で得た報酬を、この時のために大切に蓄えていた。また、もし必要であれば、これまでに描き溜めたスケッチの中から、いくつかの作品を信頼できる相手に売却することも考えていた。それは、彼にとって苦渋の選択ではあるが、「虹霓の滝」というまだ見ぬ絶景を描くためならば、厭わない覚悟だった。
エシンは、スケッチブックの新しいページを開き、そこに、これから始まるであろう「虹霓の滝」への冒険の計画を、詳細に書き込み始めた。必要なもの、訪ねるべき人々、そして何よりも、その滝を目にした時の感動を想像しながら、彼の心は高鳴っていた。
彼のスケッチブックには、もはや、ただの風景画だけでなく、壮大な冒険の設計図とも言うべきものが描き込まれようとしていた。
見果てぬ夢、伝説の風景「虹霓の滝」。その手がかりを掴んだエシンの旅は、今、新たな、そしておそらくこれまでで最も困難な挑戦へと舵を切ろうとしていた。
彼の絵筆は、まだ見ぬ七色の色彩を求めて、荒れ狂う海原の彼方へと、その想いを馳せる。
エシンの物語は、まだ終わらない。むしろ、これからが本当の冒険の始まりなのかもしれない。彼の瞳は、水平線の向こうに広がる未知なる世界を、まっすぐに見つめていた。
(ここで本編を締め、エピローグ①へ繋げる)
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