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第22.2話 王国の暗部、甘い誘い
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一夜が明け、商業都市ランドールは昨日とは全く違う熱気に包まれていた。
俺たちが宿屋から一歩外に出ただけで、道行く人々がぎょっとしたように振り返り、ひそひそと囁き始める。
「おい、見ろ……あれが、『勇者殺し』のカイトだ」
「丸腰で聖剣を打ち破ったっていう……信じられん」
「隣のエルフと獣人も、とんでもない使い手らしいぞ……」
『勇者殺し』。なんとも物騒な二つ名が、一晩で定着してしまったらしい。昨夜の決闘は、グライフ氏のパーティーに招かれていた多くの名士たちの口を通して、尾ひれがついて街中に広まっていた。もはや、俺たちはただの腕利きの冒険者ではない。国家の象徴である勇者を公衆の面前で打ち破った、極めて危険で、そして注目される存在になっていた。
「はっ、勇者殺しか! 悪くねえ響きじゃねえか!」
フレアは、むしろその悪名を気に入ったように笑っている。
「カイト様……。これでは、街を歩くのも一苦労ですね」
ルナは、人々の好奇の視線に少し戸惑いながら、俺のローブの袖をそっと掴んだ。
俺たちは人目を避けるように裏通りを抜け、馴染みのカフェで作戦会議を開いた。
「さて、どうしたものか。ランドールも、すっかり長居できる場所じゃなくなったな」
俺が切り出すと、フレアがテーブルに足を放り出して答えた。
「王国騎士団の奴らに目をつけられちまったからな。いつ面倒事を吹っかけられるか分かったもんじゃねえ。とっとと次の街に行こうぜ!」
「次の目的地、ですか……」
ルナは思案するように顎に手を当てた。
「ワールドエンドの手がかりを探すのであれば、より古い歴史を持つ場所……例えば、頑固な職人気質で知られるドワーフの国や、わたくしの故郷でもあるエルフの森などが考えられます。どちらも、人間たちの国とは異なる、独自の伝承や記録が残っているはずです」
「ドワーフの国か! いいな、美味い酒と頑丈な武具がありそうだ!」
フレアの目がきらりと輝く。
「よし、決まりだ。次はドワーフの国を目指そう。だが、その前に、旅の準備を万全に整える必要がある。それに、王国がこのまま俺たちを黙って見過ごすとも思えない」
昨夜の騎士団長ベアトリクスの目は、獲物を逃さない鷹のそれだった。彼女たちが、そう簡単に諦めるとは思えなかった。
その予感は、的中した。
カフェを出て、武具屋が立ち並ぶ職人街へ向かっていると、道の先で、見るからに高価な仕立ての服を着た、神経質そうな男が俺たちの前に立ちはだかった。その背後には、数名の護衛らしき男たちが控えている。
「お待ちしておりました、『神眼のカイト』殿」
男は、蛇のように粘つく笑みを浮かべながら、恭しく一礼した。その仕草には、貴族特有の嫌味な優雅さが滲み出ている。
「……あんたは?」
俺が警戒しながら問い返すと、男は胸に手を当てて名乗った。
「これは失礼。私は、王国財務省に籍を置きます、バルテルミー子爵と申します。昨夜のパーティーでの、あなた様の鮮やかなご活躍、実に見事なものでした」
バルテルミーと名乗る子爵は、言葉とは裏腹に、その小さな瞳で俺たちを値踏みするように観察していた。
「昨夜は、騎士団長のベアトリクス殿が、少々無粋な真似をいたしましたな。力で人を縛ろうなど、時代遅れも甚だしい。あなた様のような、類稀なる才能をお持ちの方には、それにふさわしい待遇というものがあるはずです」
彼は、騎士団を暗に批判することで、自分は違うのだとアピールしているようだった。
「単刀直入に申し上げましょう、カイト殿。私と、手を組みませんか?」
「手を組む?」
「さようです。私は、あなたのその『神眼』の力に、大きな可能性を感じております。あなたのその力は、国に縛られるべきではない。もっと自由に、そして、より大きな富を生み出すために使われるべきです」
彼の言葉は、蜜のように甘かった。
「私の後ろ盾があれば、あなたは王国のいかなる法にも縛られることはありません。騎士団の干渉も、私が退けましょう。あなたは、その力を自由に使い、富を築けばいい。そして、その利益の何割かを、私に納めていただく。どうです? お互いにとって、実に有益な取引だとは思いませんか?」
それは、あまりにも虫の良い、しかし魅力的な提案だった。俺たちのような、国家権力に睨まれた者にとっては、特に。
「おいカイト、こいつ、なんか胡散臭えぞ」
フレアが、俺の耳元で囁く。彼女の直感が、この男の危険性を告げている。ルナも、無言のまま、バルテルミー子爵に冷たい視線を向けていた。
俺は、彼の提案にすぐに乗るでもなく、かといって断るでもなく、ただ黙って彼の話を聞いていた。そして、その間、俺のスキルは静かに、しかし確実に作動していた。
【システム解析】――対象、バルテルミー子爵。
目の前に、彼のステータスウィンドウが展開される。
【名前】バルテルミー・ド・ヴァロワ
【クラス】貴族(財務官)
【レベル】8
【ステータス】
- 筋力: 25
- 耐久: 30
- 敏捷: 40
- 魔力: 60
- **魅力: 150 (スキル補正込)**
【スキル】
- 【交渉術Lv5】
- 【鑑定Lv3】
- 【詐術Lv7 (隠蔽)】
【状態】強欲、欺瞞、優越感
(……なるほどな。スキルで魅力を底上げし、詐術で本性を隠している、か)
戦闘能力は皆無だが、他人を操り、騙すことに特化したステータス。典型的な悪徳政治家のパラメータだ。
だが、俺の解析は、そんな表面的な情報だけでは終わらない。俺はさらに深く、彼の持つアイテム、そして彼の内部情報(システムログ)にまでアクセスを試みた。
MPをわずかに消費すると、彼の懐にある羊皮紙の巻物や、指にはめられた指輪の、隠された情報が次々と暴かれていく。
【ITEM_NAME: 密輸ギルドとの取引契約書(暗号化)】
【TYPE: Document】
【DESCRIPTION: 禁制品である『魔人の涙』の取引に関する契約書。解読には特殊な鍵が必要。】
【HIDDEN_PARAMETER】
- Decryption_Key: "Valois_is_Greed"
- // Decrypting... Done.
- // 取引内容: 奴隷エルフ10名を対価に、魔人の涙を5オンス購入。
【ITEM_NAME: 隷属の指輪】
【TYPE: Accessory】
【RARITY: Cursed】
【DESCRIPTION: 装着者の命令に、特定の対象を強制的に従わせる呪いの指輪。現在は未使用。】
【HIDDEN_PARAMETER】
- Target_Candidate: "Kaito_Soma"
- // Note: This item is designed to work on individuals with low magic resistance.
「…………」
俺は、怒りで我を忘れないように、深呼吸を一つした。
こいつ、俺を手に入れた暁には、この呪いの指輪で完全に支配するつもりだったのか。そして、密輸、奴隷売買。どこまでも腐りきっている。
騎士団長のベアトリクスは、確かに傲慢で気に食わない女だった。だが、彼女の行動には、まだ「国のため」という、歪んでいるにせよ大義があった。
しかし、目の前のこの男は違う。彼の行動原理は、ただ一つ。己の私利私欲だ。
王国は、腐っている。
勇者は、その資格を失い。
騎士団は、力を盲信する。
そして、貴族は、己の腹を肥やすことしか考えていない。
こんな国に、魔王や、ましてや「ワールドエンド」と戦うことなどできるはずがない。
俺は、決意した。
この男の誘いに、敢えて乗ってやろう、と。
こいつを泳がせれば、王国の腐敗の根源、その暗部を、ごっそりと暴き出すことができるかもしれない。
俺は、SEだった頃の、あの感覚を思い出していた。
システムの奥深くに潜む、致命的なバグ。それを発見した時の、ぞくぞくするような感覚。そして、それを根こそぎ修正してやった時の、最高の達成感。
目の前のバルテルミー子爵は、俺にとって、まさに最高の「デバッグ対象」だった。
「……面白い。あなたの提案、少し興味が湧いてきました」
俺が、それまでの冷たい態度から一転、興味を示したことに、バルテルミー子爵は満足げに笑みを深めた。
「おお、さすがはカイト殿! 話が早い!」
「ですが、口約束だけでは信用できませんね。あなたと組むことで、俺たちにどれだけのメリットがあるのか。具体的な『証拠』を見せていただきたい」
俺は、彼に揺さぶりをかけた。
俺の言葉に、バルテルミー子爵は一瞬だけ目を細めたが、すぐに自信ありげに胸を張った。
「よろしいでしょう。では、今宵、私の屋敷へお越しいただきたい。あなたを歓迎するための、ささやかな宴をご用意します。そこで、私の『力』というものを、存分にお見せいたしましょう」
「カイト!? 本気かよ!?」
フレアが、俺の袖を引いて抗議の声を上げる。
俺は、彼女にだけ聞こえるように、小さな声で囁いた。
「……大丈夫だ。これは、ネズミを捕まえるための、罠だ」
その言葉に、フレアはハッとしたように目を見開き、やがてニヤリと口の端を吊り上げた。全てを察したらしい。
「分かりました、子爵閣下。今宵、お伺いします」
俺は、バルテルミー子爵にそう告げた。
「お待ちしておりますぞ、カイト殿。我々の輝かしい未来のために!」
彼は、上機嫌で護衛たちを引き連れて去っていった。自分が、巨大な蜘蛛の巣に自ら足を踏み入れたことにも気づかずに。
「カイト様……。危険な賭けなのでは?」
ルナが、心配そうに尋ねる。
俺は、彼女の頭を優しく撫でた。
「ああ、危険な賭けだ。だが、それ以上に、面白いことになりそうだ」
俺は、バルテルミー子爵が去っていった方角を見つめながら、不敵な笑みを浮かべていた。
「さて、始めようか。アークライト王国という、バグだらけのシステムの、大掃除をな」
俺たちの戦いは、新たなステージへと移行する。
それは、剣と魔法だけが支配する戦場ではない。
情報と、陰謀が渦巻く、より複雑で、より悪質な、人間の欲望との戦いだ。
そして、それは、俺が最も得意とするフィールドでもあった。
俺たちが宿屋から一歩外に出ただけで、道行く人々がぎょっとしたように振り返り、ひそひそと囁き始める。
「おい、見ろ……あれが、『勇者殺し』のカイトだ」
「丸腰で聖剣を打ち破ったっていう……信じられん」
「隣のエルフと獣人も、とんでもない使い手らしいぞ……」
『勇者殺し』。なんとも物騒な二つ名が、一晩で定着してしまったらしい。昨夜の決闘は、グライフ氏のパーティーに招かれていた多くの名士たちの口を通して、尾ひれがついて街中に広まっていた。もはや、俺たちはただの腕利きの冒険者ではない。国家の象徴である勇者を公衆の面前で打ち破った、極めて危険で、そして注目される存在になっていた。
「はっ、勇者殺しか! 悪くねえ響きじゃねえか!」
フレアは、むしろその悪名を気に入ったように笑っている。
「カイト様……。これでは、街を歩くのも一苦労ですね」
ルナは、人々の好奇の視線に少し戸惑いながら、俺のローブの袖をそっと掴んだ。
俺たちは人目を避けるように裏通りを抜け、馴染みのカフェで作戦会議を開いた。
「さて、どうしたものか。ランドールも、すっかり長居できる場所じゃなくなったな」
俺が切り出すと、フレアがテーブルに足を放り出して答えた。
「王国騎士団の奴らに目をつけられちまったからな。いつ面倒事を吹っかけられるか分かったもんじゃねえ。とっとと次の街に行こうぜ!」
「次の目的地、ですか……」
ルナは思案するように顎に手を当てた。
「ワールドエンドの手がかりを探すのであれば、より古い歴史を持つ場所……例えば、頑固な職人気質で知られるドワーフの国や、わたくしの故郷でもあるエルフの森などが考えられます。どちらも、人間たちの国とは異なる、独自の伝承や記録が残っているはずです」
「ドワーフの国か! いいな、美味い酒と頑丈な武具がありそうだ!」
フレアの目がきらりと輝く。
「よし、決まりだ。次はドワーフの国を目指そう。だが、その前に、旅の準備を万全に整える必要がある。それに、王国がこのまま俺たちを黙って見過ごすとも思えない」
昨夜の騎士団長ベアトリクスの目は、獲物を逃さない鷹のそれだった。彼女たちが、そう簡単に諦めるとは思えなかった。
その予感は、的中した。
カフェを出て、武具屋が立ち並ぶ職人街へ向かっていると、道の先で、見るからに高価な仕立ての服を着た、神経質そうな男が俺たちの前に立ちはだかった。その背後には、数名の護衛らしき男たちが控えている。
「お待ちしておりました、『神眼のカイト』殿」
男は、蛇のように粘つく笑みを浮かべながら、恭しく一礼した。その仕草には、貴族特有の嫌味な優雅さが滲み出ている。
「……あんたは?」
俺が警戒しながら問い返すと、男は胸に手を当てて名乗った。
「これは失礼。私は、王国財務省に籍を置きます、バルテルミー子爵と申します。昨夜のパーティーでの、あなた様の鮮やかなご活躍、実に見事なものでした」
バルテルミーと名乗る子爵は、言葉とは裏腹に、その小さな瞳で俺たちを値踏みするように観察していた。
「昨夜は、騎士団長のベアトリクス殿が、少々無粋な真似をいたしましたな。力で人を縛ろうなど、時代遅れも甚だしい。あなた様のような、類稀なる才能をお持ちの方には、それにふさわしい待遇というものがあるはずです」
彼は、騎士団を暗に批判することで、自分は違うのだとアピールしているようだった。
「単刀直入に申し上げましょう、カイト殿。私と、手を組みませんか?」
「手を組む?」
「さようです。私は、あなたのその『神眼』の力に、大きな可能性を感じております。あなたのその力は、国に縛られるべきではない。もっと自由に、そして、より大きな富を生み出すために使われるべきです」
彼の言葉は、蜜のように甘かった。
「私の後ろ盾があれば、あなたは王国のいかなる法にも縛られることはありません。騎士団の干渉も、私が退けましょう。あなたは、その力を自由に使い、富を築けばいい。そして、その利益の何割かを、私に納めていただく。どうです? お互いにとって、実に有益な取引だとは思いませんか?」
それは、あまりにも虫の良い、しかし魅力的な提案だった。俺たちのような、国家権力に睨まれた者にとっては、特に。
「おいカイト、こいつ、なんか胡散臭えぞ」
フレアが、俺の耳元で囁く。彼女の直感が、この男の危険性を告げている。ルナも、無言のまま、バルテルミー子爵に冷たい視線を向けていた。
俺は、彼の提案にすぐに乗るでもなく、かといって断るでもなく、ただ黙って彼の話を聞いていた。そして、その間、俺のスキルは静かに、しかし確実に作動していた。
【システム解析】――対象、バルテルミー子爵。
目の前に、彼のステータスウィンドウが展開される。
【名前】バルテルミー・ド・ヴァロワ
【クラス】貴族(財務官)
【レベル】8
【ステータス】
- 筋力: 25
- 耐久: 30
- 敏捷: 40
- 魔力: 60
- **魅力: 150 (スキル補正込)**
【スキル】
- 【交渉術Lv5】
- 【鑑定Lv3】
- 【詐術Lv7 (隠蔽)】
【状態】強欲、欺瞞、優越感
(……なるほどな。スキルで魅力を底上げし、詐術で本性を隠している、か)
戦闘能力は皆無だが、他人を操り、騙すことに特化したステータス。典型的な悪徳政治家のパラメータだ。
だが、俺の解析は、そんな表面的な情報だけでは終わらない。俺はさらに深く、彼の持つアイテム、そして彼の内部情報(システムログ)にまでアクセスを試みた。
MPをわずかに消費すると、彼の懐にある羊皮紙の巻物や、指にはめられた指輪の、隠された情報が次々と暴かれていく。
【ITEM_NAME: 密輸ギルドとの取引契約書(暗号化)】
【TYPE: Document】
【DESCRIPTION: 禁制品である『魔人の涙』の取引に関する契約書。解読には特殊な鍵が必要。】
【HIDDEN_PARAMETER】
- Decryption_Key: "Valois_is_Greed"
- // Decrypting... Done.
- // 取引内容: 奴隷エルフ10名を対価に、魔人の涙を5オンス購入。
【ITEM_NAME: 隷属の指輪】
【TYPE: Accessory】
【RARITY: Cursed】
【DESCRIPTION: 装着者の命令に、特定の対象を強制的に従わせる呪いの指輪。現在は未使用。】
【HIDDEN_PARAMETER】
- Target_Candidate: "Kaito_Soma"
- // Note: This item is designed to work on individuals with low magic resistance.
「…………」
俺は、怒りで我を忘れないように、深呼吸を一つした。
こいつ、俺を手に入れた暁には、この呪いの指輪で完全に支配するつもりだったのか。そして、密輸、奴隷売買。どこまでも腐りきっている。
騎士団長のベアトリクスは、確かに傲慢で気に食わない女だった。だが、彼女の行動には、まだ「国のため」という、歪んでいるにせよ大義があった。
しかし、目の前のこの男は違う。彼の行動原理は、ただ一つ。己の私利私欲だ。
王国は、腐っている。
勇者は、その資格を失い。
騎士団は、力を盲信する。
そして、貴族は、己の腹を肥やすことしか考えていない。
こんな国に、魔王や、ましてや「ワールドエンド」と戦うことなどできるはずがない。
俺は、決意した。
この男の誘いに、敢えて乗ってやろう、と。
こいつを泳がせれば、王国の腐敗の根源、その暗部を、ごっそりと暴き出すことができるかもしれない。
俺は、SEだった頃の、あの感覚を思い出していた。
システムの奥深くに潜む、致命的なバグ。それを発見した時の、ぞくぞくするような感覚。そして、それを根こそぎ修正してやった時の、最高の達成感。
目の前のバルテルミー子爵は、俺にとって、まさに最高の「デバッグ対象」だった。
「……面白い。あなたの提案、少し興味が湧いてきました」
俺が、それまでの冷たい態度から一転、興味を示したことに、バルテルミー子爵は満足げに笑みを深めた。
「おお、さすがはカイト殿! 話が早い!」
「ですが、口約束だけでは信用できませんね。あなたと組むことで、俺たちにどれだけのメリットがあるのか。具体的な『証拠』を見せていただきたい」
俺は、彼に揺さぶりをかけた。
俺の言葉に、バルテルミー子爵は一瞬だけ目を細めたが、すぐに自信ありげに胸を張った。
「よろしいでしょう。では、今宵、私の屋敷へお越しいただきたい。あなたを歓迎するための、ささやかな宴をご用意します。そこで、私の『力』というものを、存分にお見せいたしましょう」
「カイト!? 本気かよ!?」
フレアが、俺の袖を引いて抗議の声を上げる。
俺は、彼女にだけ聞こえるように、小さな声で囁いた。
「……大丈夫だ。これは、ネズミを捕まえるための、罠だ」
その言葉に、フレアはハッとしたように目を見開き、やがてニヤリと口の端を吊り上げた。全てを察したらしい。
「分かりました、子爵閣下。今宵、お伺いします」
俺は、バルテルミー子爵にそう告げた。
「お待ちしておりますぞ、カイト殿。我々の輝かしい未来のために!」
彼は、上機嫌で護衛たちを引き連れて去っていった。自分が、巨大な蜘蛛の巣に自ら足を踏み入れたことにも気づかずに。
「カイト様……。危険な賭けなのでは?」
ルナが、心配そうに尋ねる。
俺は、彼女の頭を優しく撫でた。
「ああ、危険な賭けだ。だが、それ以上に、面白いことになりそうだ」
俺は、バルテルミー子爵が去っていった方角を見つめながら、不敵な笑みを浮かべていた。
「さて、始めようか。アークライト王国という、バグだらけのシステムの、大掃除をな」
俺たちの戦いは、新たなステージへと移行する。
それは、剣と魔法だけが支配する戦場ではない。
情報と、陰謀が渦巻く、より複雑で、より悪質な、人間の欲望との戦いだ。
そして、それは、俺が最も得意とするフィールドでもあった。
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