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第7話:過保護な公爵様と戸惑うメイド
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柔らかな光が瞼を透かして、私を心地よい眠りから誘った。
ゆっくりと目を開けると、視界に飛び込んできたのは見慣れない天井だった。高い天井には繊細な漆喰の飾りが施されている。慌てて身体を起こすと、そこは昨日案内された天蓋付きのベッドの上だった。
夢ではなかった。
私は本当に、あの『氷の公爵』様の屋敷にいるのだ。
窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえる。私が寝ていた北塔の物置部屋には、朝の光も鳥の声も届かなかった。全てのものが、私の知る日常とはかけ離れていた。
ベッドからそっと足を下ろす。ふかふかの絨毯が、素足の裏を優しく包んだ。
私はおずおずと窓辺に寄り、厚いカーテンを少しだけ開けてみた。眼下には、手入れの行き届いた広大な庭園が広がっている。昨日の雨粒が葉の上で宝石のようにきらきらと輝いていた。
あまりの美しさに、私はしばし時が経つのも忘れて見入っていた。
すると、控えめなノックの音と共に扉が開き、数人の侍女が入ってきた。先頭に立つのは、昨夜も見たメイド長のマーサだった。
「リナリア様。お目覚めでいらっしゃいますか」
「は、はい。おはようございます」
私が慌てて頭を下げると、マーサは表情を変えずに小さく頷いた。
「朝のお支度を致します。こちらへどうぞ」
促されるまま鏡台の前に座ると、侍女たちが手際よく私の髪を梳かし始めた。自分のために、誰かが何かをしてくれる。その事実に慣れなくて、私はただ身を硬くするしかなかった。
「あ、あの、自分でできますので……」
「お気になさらないでください。これも我々の仕事です」
マーサの静かな声には、有無を言わせぬ響きがあった。私は諦めて、侍女たちに身を委ねる。彼女たちの手つきはとても丁寧で、私の栗色の髪はあっという間に艶やかな輝きを取り戻した。
支度が終わると、マーサが私をダイニングルームへと案内してくれた。
長い廊下を歩きながら、私は落ち着かない気持ちで自分の手元を見た。昨日着ていた薄汚れたワンピースではない。侍女たちが用意してくれた、清潔な淡い青色のワンピースだ。簡素なデザインではあるが、生地の質は私の持っていたどんな服よりも良かった。
「こちらでございます」
マーサが重厚な扉を開ける。その先には、昨日見たエルフィールド家のダイニングルームの何倍も広くて明るい空間が広がっていた。床から天井まで届く大きな窓から、朝の柔らかな光がさんさんと降り注いでいる。
そして、長いテーブルの上座には、すでにアシュレイ公爵が腰を下ろしていた。彼は黒いシンプルな上着を纏い、静かに新聞に目を通していた。その姿はまるで一枚の絵画のように完璧で、私は思わず息をのんだ。
私の気配に気づいたのか、彼はゆっくりと新聞から顔を上げた。そして、私を認めると、その紫の瞳がふわりと和らぐ。
「リナリア。おはよう。よく眠れたか」
「は、はい。おはようございます、公爵様。その……お陰様で」
私は緊張で声が上擦りながらも、どうにか挨拶を返した。
「こちらへ」
彼に促され、私はその隣の席へと案内された。私が座るのを待ってから、アシュレイ公爵は近くに控えていた執事に合図を送る。すぐに温かい食事が次々と運ばれてきた。
テーブルに並べられたのは、黄金色のスクランブルエッグ、こんがりと焼かれたソーセージ、数種類のパンが入った籠、新鮮な野菜のサラダ、そして果物がたっぷり入ったヨーグルト。湯気の立つ紅茶からは、芳しい香りが立ち上っている。
全てが美味しそうで、温かかった。実家では、私に与えられるのはいつも冷めたスープと硬いパンだけだった。
私は目の前の光景に圧倒され、どれから手をつけていいものか分からず、ただカトラリーを握りしめて固まってしまった。
そんな私の様子に、アシュレイ公爵はすぐに気づいたらしい。
「どうした。口に合わないか」
「い、いえ! そういうわけでは……その、どれも美味しそうで……」
私がしどろもどろに答えると、彼は小さく息をついた。そして、次の瞬間、私は信じられない光景を目にすることになる。
アシュレイ公爵が、当然のように席を立ったのだ。そして、私の隣に立つと、私の手からナイフとフォークを優しく取り上げた。
「え……? こ、公爵様?」
彼は私の戸惑いの声など聞こえていないかのように、私の皿に乗っていたソーセージを手際よく一口大に切り分け始めた。その所作は流れるように滑らかで、けれど公爵という身分の人間が行うにはあまりにも不釣り合いだった。
「君はまだ顔色が悪い。まずは食べやすいものからがいいだろう」
そう言うと、彼は切り分けたソーセージの一つをフォークで刺し、あろうことか私の口元へと差し出した。
「さあ」
「…………えっ!?」
私は自分の目を疑った。
公爵様が、私に、食事を?
頭が真っ白になる。周囲に控えていた侍女たちや執事が、息をのむ気配がした。メイド長のマーサですら、その眉をかすかにひそめている。
「い、いえいえいえ! とんでもないです! 自分で、自分で食べられます!」
私は慌てて両手をぶんぶんと振った。顔から火が出そうなくらい熱い。
しかし、アシュレイ公爵は少しも動じない。それどころか、少し悲しそうな顔で眉を下げた。
「……私からでは、嫌か」
「そ、そんなことは決して!」
そんなことを言われたら、断れるはずがない。私は観念して、おずおずと口を開けた。彼が差し出したソーセージを、小さな鳥が餌をもらうようにして口に含む。
ぷりっとした歯ごたえと共に、肉の旨味がじゅわっと口の中に広がった。とても美味しい。けれど、味なんてほとんど分からなかった。心臓が、今にも口から飛び出してしまいそうだった。
「うん。美味しいです」
私がか細い声で言うと、アシュレイ公爵は満足そうに頷いた。
「そうか。良かった」
彼はそれから、パンの籠から一番柔らかそうなミルクパンを取り、それにバターと蜂蜜を丁寧に塗って私の皿に置いた。スープが熱すぎないか、スプーンでそっとかき混ぜて温度を確かめる。
その過保護すぎる一連の行動は、ダイニングルームにいた全ての使用人たちを驚愕させていた。
『氷の公爵』と呼ばれ、他者への関心を一切示さず、常に冷徹なまでに合理的だった主君が、みすぼらしい一人の少女の世話を甲斐甲斐しく焼いている。それは彼らにとって、天地がひっくり返るほどの衝撃だったに違いない。誰もが戸惑いの表情を浮かべ、主君と謎の少女を遠巻きに見守っていた。
「君の世話を焼くのは、私にとって喜びなのだ。だから、遠慮しないでほしい」
アシュレイ公爵は、私の耳元でそう囁いた。その声はとろけるように甘く、私の心をさらにかき乱す。
ようやく食事が終わる頃には、私はすっかり疲れ果てていた。贅沢な食事を味わう余裕など、全くなかった。
「さて、リナリア」
食後の紅茶を飲みながら、アシュレイ公爵が切り出した。
「今日はどう過ごす? 疲れているだろうから、部屋でゆっくり本でも読むか。それとも、天気がいいから庭を散歩するのもいいな。君さえ良ければ、私が案内するが」
次から次へと与えられる優しさと選択肢に、私の頭はもう追いつかない。
「あ、あの……私は、何かお手伝いを……」
「手伝い? 君が?」
彼は心底不思議そうな顔をした。
「君は客人だ。何もしなくていい。ただ、君が心地よく過ごしてくれること。それが私の望みだ」
あまりにも真っ直ぐな言葉だった。
私は何も答えられず、ただ俯いて紅茶のカップを見つめることしかできなかった。
そんな私とアシュレイ公爵の様子を、メイド長のマーサはじっと観察していた。その目に浮かぶのは、主君の見たことのない姿への驚きと、突然現れた私という存在への深い訝りの色だった。
与えられるばかりの優しさと温もり。
それは私の心を少しずつ溶かしていく。けれど同時に、なぜ私がここにいるのか、という根本的な疑問と不安を、より一層大きくさせていくのだった。
ゆっくりと目を開けると、視界に飛び込んできたのは見慣れない天井だった。高い天井には繊細な漆喰の飾りが施されている。慌てて身体を起こすと、そこは昨日案内された天蓋付きのベッドの上だった。
夢ではなかった。
私は本当に、あの『氷の公爵』様の屋敷にいるのだ。
窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえる。私が寝ていた北塔の物置部屋には、朝の光も鳥の声も届かなかった。全てのものが、私の知る日常とはかけ離れていた。
ベッドからそっと足を下ろす。ふかふかの絨毯が、素足の裏を優しく包んだ。
私はおずおずと窓辺に寄り、厚いカーテンを少しだけ開けてみた。眼下には、手入れの行き届いた広大な庭園が広がっている。昨日の雨粒が葉の上で宝石のようにきらきらと輝いていた。
あまりの美しさに、私はしばし時が経つのも忘れて見入っていた。
すると、控えめなノックの音と共に扉が開き、数人の侍女が入ってきた。先頭に立つのは、昨夜も見たメイド長のマーサだった。
「リナリア様。お目覚めでいらっしゃいますか」
「は、はい。おはようございます」
私が慌てて頭を下げると、マーサは表情を変えずに小さく頷いた。
「朝のお支度を致します。こちらへどうぞ」
促されるまま鏡台の前に座ると、侍女たちが手際よく私の髪を梳かし始めた。自分のために、誰かが何かをしてくれる。その事実に慣れなくて、私はただ身を硬くするしかなかった。
「あ、あの、自分でできますので……」
「お気になさらないでください。これも我々の仕事です」
マーサの静かな声には、有無を言わせぬ響きがあった。私は諦めて、侍女たちに身を委ねる。彼女たちの手つきはとても丁寧で、私の栗色の髪はあっという間に艶やかな輝きを取り戻した。
支度が終わると、マーサが私をダイニングルームへと案内してくれた。
長い廊下を歩きながら、私は落ち着かない気持ちで自分の手元を見た。昨日着ていた薄汚れたワンピースではない。侍女たちが用意してくれた、清潔な淡い青色のワンピースだ。簡素なデザインではあるが、生地の質は私の持っていたどんな服よりも良かった。
「こちらでございます」
マーサが重厚な扉を開ける。その先には、昨日見たエルフィールド家のダイニングルームの何倍も広くて明るい空間が広がっていた。床から天井まで届く大きな窓から、朝の柔らかな光がさんさんと降り注いでいる。
そして、長いテーブルの上座には、すでにアシュレイ公爵が腰を下ろしていた。彼は黒いシンプルな上着を纏い、静かに新聞に目を通していた。その姿はまるで一枚の絵画のように完璧で、私は思わず息をのんだ。
私の気配に気づいたのか、彼はゆっくりと新聞から顔を上げた。そして、私を認めると、その紫の瞳がふわりと和らぐ。
「リナリア。おはよう。よく眠れたか」
「は、はい。おはようございます、公爵様。その……お陰様で」
私は緊張で声が上擦りながらも、どうにか挨拶を返した。
「こちらへ」
彼に促され、私はその隣の席へと案内された。私が座るのを待ってから、アシュレイ公爵は近くに控えていた執事に合図を送る。すぐに温かい食事が次々と運ばれてきた。
テーブルに並べられたのは、黄金色のスクランブルエッグ、こんがりと焼かれたソーセージ、数種類のパンが入った籠、新鮮な野菜のサラダ、そして果物がたっぷり入ったヨーグルト。湯気の立つ紅茶からは、芳しい香りが立ち上っている。
全てが美味しそうで、温かかった。実家では、私に与えられるのはいつも冷めたスープと硬いパンだけだった。
私は目の前の光景に圧倒され、どれから手をつけていいものか分からず、ただカトラリーを握りしめて固まってしまった。
そんな私の様子に、アシュレイ公爵はすぐに気づいたらしい。
「どうした。口に合わないか」
「い、いえ! そういうわけでは……その、どれも美味しそうで……」
私がしどろもどろに答えると、彼は小さく息をついた。そして、次の瞬間、私は信じられない光景を目にすることになる。
アシュレイ公爵が、当然のように席を立ったのだ。そして、私の隣に立つと、私の手からナイフとフォークを優しく取り上げた。
「え……? こ、公爵様?」
彼は私の戸惑いの声など聞こえていないかのように、私の皿に乗っていたソーセージを手際よく一口大に切り分け始めた。その所作は流れるように滑らかで、けれど公爵という身分の人間が行うにはあまりにも不釣り合いだった。
「君はまだ顔色が悪い。まずは食べやすいものからがいいだろう」
そう言うと、彼は切り分けたソーセージの一つをフォークで刺し、あろうことか私の口元へと差し出した。
「さあ」
「…………えっ!?」
私は自分の目を疑った。
公爵様が、私に、食事を?
頭が真っ白になる。周囲に控えていた侍女たちや執事が、息をのむ気配がした。メイド長のマーサですら、その眉をかすかにひそめている。
「い、いえいえいえ! とんでもないです! 自分で、自分で食べられます!」
私は慌てて両手をぶんぶんと振った。顔から火が出そうなくらい熱い。
しかし、アシュレイ公爵は少しも動じない。それどころか、少し悲しそうな顔で眉を下げた。
「……私からでは、嫌か」
「そ、そんなことは決して!」
そんなことを言われたら、断れるはずがない。私は観念して、おずおずと口を開けた。彼が差し出したソーセージを、小さな鳥が餌をもらうようにして口に含む。
ぷりっとした歯ごたえと共に、肉の旨味がじゅわっと口の中に広がった。とても美味しい。けれど、味なんてほとんど分からなかった。心臓が、今にも口から飛び出してしまいそうだった。
「うん。美味しいです」
私がか細い声で言うと、アシュレイ公爵は満足そうに頷いた。
「そうか。良かった」
彼はそれから、パンの籠から一番柔らかそうなミルクパンを取り、それにバターと蜂蜜を丁寧に塗って私の皿に置いた。スープが熱すぎないか、スプーンでそっとかき混ぜて温度を確かめる。
その過保護すぎる一連の行動は、ダイニングルームにいた全ての使用人たちを驚愕させていた。
『氷の公爵』と呼ばれ、他者への関心を一切示さず、常に冷徹なまでに合理的だった主君が、みすぼらしい一人の少女の世話を甲斐甲斐しく焼いている。それは彼らにとって、天地がひっくり返るほどの衝撃だったに違いない。誰もが戸惑いの表情を浮かべ、主君と謎の少女を遠巻きに見守っていた。
「君の世話を焼くのは、私にとって喜びなのだ。だから、遠慮しないでほしい」
アシュレイ公爵は、私の耳元でそう囁いた。その声はとろけるように甘く、私の心をさらにかき乱す。
ようやく食事が終わる頃には、私はすっかり疲れ果てていた。贅沢な食事を味わう余裕など、全くなかった。
「さて、リナリア」
食後の紅茶を飲みながら、アシュレイ公爵が切り出した。
「今日はどう過ごす? 疲れているだろうから、部屋でゆっくり本でも読むか。それとも、天気がいいから庭を散歩するのもいいな。君さえ良ければ、私が案内するが」
次から次へと与えられる優しさと選択肢に、私の頭はもう追いつかない。
「あ、あの……私は、何かお手伝いを……」
「手伝い? 君が?」
彼は心底不思議そうな顔をした。
「君は客人だ。何もしなくていい。ただ、君が心地よく過ごしてくれること。それが私の望みだ」
あまりにも真っ直ぐな言葉だった。
私は何も答えられず、ただ俯いて紅茶のカップを見つめることしかできなかった。
そんな私とアシュレイ公爵の様子を、メイド長のマーサはじっと観察していた。その目に浮かぶのは、主君の見たことのない姿への驚きと、突然現れた私という存在への深い訝りの色だった。
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