外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第54話:第二王子の接触

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ヴァレンシュタイン家のティアラを修復した一件は、すぐに王都の社交界に新たな風を巻き起こした。
エレオノーラ夫人の孫娘が初めての夜会でそのティアラを身に着けて現れたのだ。蘇ったティアラが放つ神々しいまでの輝きと、それにまつわる奇跡の物語は、貴族たちの間で瞬く間に大きな話題となった。
私の評判は、もはや揺るぎないものとなっていた。
ただ伝説の聖剣を修復しただけの遠い存在だった『聖女』が、今や貴族たちの個人的な悩みや願いさえも叶えてくれる、身近で慈愛に満ちた存在として認識され始めたのだ。
公爵邸に届く手紙の量は、以前にも増して増え続けていた。

そんなある日、思いもよらない人物が公爵邸を訪れた。
第二王子エドワード。
国王陛下から謹慎を言い渡されていたはずの彼が、何の事前連絡もなく突然私の名を指名して面会を求めてきたのだ。
その報せを聞いたアシュレイ様は、眉間に深い皺を刻み、即座に「追い返せ」と命じようとした。
しかし、それを制したのは意外にも私自身だった。
「……アシュレイ様。お会いしてみます」
「リナリア!? 何を言う。あの男がまともな用件で来るはずがないだろう」
アシュレイ様は心底心配そうな顔で私を見た。
「はい、分かっています。ですが、私はもう逃げてばかりの私ではいたくありません。彼が何を企んでいるのか、この目で確かめたいのです。それに……」
私は彼の目をまっすぐに見つめた。
「私の隣にはアシュレイ様がいてくださいますから」
その言葉に、アシュレイ様の厳しい表情がふっと和らいだ。彼は深く、深く息をつくと、観念したように頷いた。
「……分かった。だが、決して無理はするな。少しでも危険を感じたらすぐに私の後ろに隠れるんだ。いいな」
「はい」
こうして、私はアシュレイ様の同席のもと、応接室でエドワード王子と会うことになった。

応接室に現れたエドワード王子は、以前の傲慢な姿が嘘のように憔悴しきっていた。顔色も悪く、その瞳にはかつての自信に満ちた輝きは欠片もない。
彼は部屋に入るなり、私とアシュレイ様の前に立つと、何のためらいもなくその場に深く膝を折った。
「……リナリア嬢。そして、アシュレイ公爵閣下」
その声はか細く、そして情けないほどに震えていた。
「先日の謁見では、私のあまりにも愚かで浅はかな行いにより、お二方に、そして国王陛下に大変なご迷惑をおかけしてしまった。この罪、万死に値する。……心からお詫び申し上げる」
彼はそう言うと、床に額を擦り付けんばかりに深く、深く頭を下げた。
そのあまりの豹変ぶりに、私は言葉を失ってしまった。アシュレイ様もまた、その芝居がかった謝罪を冷ややかな目で見つめている。
エドワード王子はしばらくそうしていたが、やがて顔を上げた。その瞳は涙で潤んでいた。
「私は嫉妬していたのだ。アシュレイ公爵の、その類稀なる才能と人望に。そしてリナリア嬢、君が持つ真の奇跡の力に。その醜い嫉妬心が私の目を曇らせてしまった」
彼はまるで懺悔する罪人のように、自らの罪を告白し始めた。
「だが、謹慎中に私は己の過ちを深く、深く反省した。そして気づいたのだ。私がすべきことは君たちを妬むことではない。君たちが持つその素晴らしい力を、国の未来のために生かす手伝いをすることこそが、王族としてのあるべき姿なのだと」
その言葉は、あまりにも出来すぎていた。
まるで誰かに書かされた台本を、必死に読み上げているかのようだった。
彼は涙ながらに続けた。
「リナリア嬢。どうかこの愚かな私を許してはもらえないだろうか。そしてもう一度私にチャンスをくれないか。これからは私も君の力を支える一人として尽力したいのだ」
彼はそう言うと、私に向かってすがるような視線を向けた。その瞳はあまりにも必死で、哀れでさえあった。
もし、以前の私だったら。
人の善意を疑うことを知らなかった、かつての私だったら。
彼のこの涙と謝罪に、心を動かされてしまっていたかもしれない。
けれど、今の私はもう違う。
アシュレイ様と共に過ごす中で、私は人の心の裏側にある複雑な感情や思惑を少しだけ学んでいた。
彼の言葉は美しい。
けれど、その瞳の奥底にほんの一瞬だけ、ちらりと見えたものがあった。
それは反省の色などではない。
焦りと、そして私という存在を再び自分のコントロール下に置きたいという、どす黒い『執着』の色。
私は何も言わなかった。
ただ静かに、アシュレイ様の方へと視線を移した。
アシュレイ様は腕を組み、完璧なポーカーフェイスでその茶番を眺めていた。しかし彼の瞳は絶対零度の光を宿し、エドワード王子の心の奥底まで完全に見透かしている。
エドワード王子は私の沈黙を、どう受け取ったのだろうか。
彼は畳み掛けるように、さらに芝居がかった言葉を紡いだ。
「君のその慈愛に満ちた心は、世界樹さえも癒したと聞く。ならばこの過ちを犯した哀れな男の心も、癒してはくれまいか。リナリア嬢。君のその清らかな手で、私に、もう一度……」
彼はそう言って跪いたまま、私に向かってそっと手を伸ばしてきた。
私の手に触れようと、その指先がゆっくりと近づいてくる。
その、瞬間だった。
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