Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第二十八話 再会、そして侮蔑

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辺境の街フロンティア。その入り口で交錯する、二つの視線。
一方は、絶望の淵から這い上がり、最強の力をその身に宿した元鑑定士。
もう一方は、栄光の頂から転がり落ち、再起の望みを求めて辺境に流れ着いた元英雄。
時が、止まったかのように感じられた。

最初に沈黙を破ったのは、アレクシスだった。
彼の顔には、驚愕、混乱、そして理解不能なものを見るかのような色が浮かんでいた。
「カイン……!? なぜ、お前がこんな場所に……。その装備は、一体どうしたんだ?」

彼の視線は、俺が身につけたミスリルの鎧と、背負ったソウルイーターに釘付けになっている。かつて見下していた荷物持ちが、自分たちよりも遥かに優れた装備を身につけている。その事実が、彼のプライドを激しく揺さぶっていた。

だが、彼はすぐに傲慢な笑みを浮かべて、その動揺を隠した。
「ふん、まあいい。ちょうどいいところにいたな、カイン。お前が土下座して謝るなら、俺たちのパーティーに戻してやってもいい。この俺の温情に、感謝するがいい」

その言葉は、彼の焦りの裏返しだった。彼は、俺が辺境で噂の『銀色の流星』その人であるとは、まだ気づいていない。ただ、都合のいい駒が目の前に現れたとしか思っていないのだ。
そのあまりにも傲慢な物言いに、俺の隣に立つシルフィの眉がぴくりと動いた。
「カイン、この者たちは?」
彼女の声には、明確な敵意が宿っている。

俺はアレクシスの言葉を、鼻で笑って一蹴した。
「今さら、何を言っているんだ? アレクシス」
俺の呼び捨てに、彼の顔が怒りに染まる。
「あんたたちが盛大に追い出してくれたおかげで、俺は今、とても快適にやっている。あんたたちのパーティーに、俺のような『役立たず』はもう必要ないだろう?」

俺は、かつて彼らが俺に投げつけた言葉を、そのまま投げ返した。
その言葉に、アレクシスの後ろにいたリリアナとドラン、そしてソフィアの顔色が変わる。
リリアナは侮蔑の目で俺を睨みつけ、ドランはバツが悪そうに目をそらす。ソフィアだけが、罪悪感に苛まれたように、顔を伏せて震えていた。

「貴様……! 俺に口答えする気か!」
アレクシスが、怒りのあまり剣の柄に手をかける。
だが、俺は全く動じなかった。代わりに、俺は【神の眼】で彼らの惨状を、改めてじっくりと観察した。

「その腕の呪い、かなり厄介そうだな。魔力だけでなく、魂そのものを蝕んでいる。神殿の神官でも、手は出せないんじゃないか?」
俺の指摘に、アレクシスは息を呑んだ。
「あんたの足も酷い火傷だ。高位のポーションをいくつか使ったようだが、呪詛が絡みついていて、完全に治すのは難しいだろうな」
俺の視線を受けたドランが、びくりと肩を震わせる。

「なぜ、お前がそれを……」
「鑑定士だからな。それくらいは、見ただけで分かる」
俺は肩をすくめ、彼らにとどめの一撃を放った。
「ちなみに、その呪いを解くアーティファクトも、火傷を完治させる霊薬も、俺はその在処に心当たりがある。……まあ、もうあんたたちには関係のない話だが」

その言葉は、彼らの心に突き刺さる最も鋭い刃だった。
彼らが喉から手が出るほど欲している救済の道が、かつて自分たちが無価値だと切り捨てた男の手の中にある。これほどの皮肉があるだろうか。

「……黙れ」
アレクシスの口から、絞り出すような声が漏れた。
「黙れ黙れ黙れ! 役立たずの鑑定士風情が、知ったような口を!」
彼はついに理性の箍を外し、剣を抜き放って俺に斬りかかってきた。
だが、その動きは、あまりにも遅い。呪いに蝕まれ、彼の剣技はかつての輝きを完全に失っていた。

俺は一歩も動かない。
ただ、背負っていたソウルイーターから、わずかに闘気を放っただけだ。
Sランクの魔剣が放つ圧倒的なプレッシャーが、アレクシスの体を金縛りにあったかのように縫い止める。彼は俺の目の前で剣を振り上げたまま、硬直した。その瞳には、恐怖と、信じられないものを見たという絶望の色が浮かんでいた。

「……消えろ」
俺は、凍てつくような声で言い放った。
「あんたたちの顔を見ていると、反吐が出る。次に俺の前に姿を現したら、その時は容赦しない」

それは、完全な決別の言葉だった。
俺はもはや、彼らに何の感情も抱いていない。あるのは、道端の石ころを見るような、無関心と侮蔑だけだ。
俺は彼らに背を向け、シルフィとフェンと共に、その場を去った。

周囲で見ていた街の人々が、道を開ける。彼らの視線は、俺たち『銀色の流星』には尊敬の念を、そして残された『ブレイジング・ソード』には冷ややかな軽蔑を向けていた。
「……待て」
背後から、アレクシスの掠れた声が聞こえた。
「待ってくれ、カイン! 俺が悪かった! だから、戻ってきてくれ! お前が必要なんだ!」

初めて聞く、彼の弱々しい懇願。
だが、俺の心は一ミリも動かなかった。俺は振り返ることなく、ただ一言だけ、言い放った。
「今さら、もう遅い」

その言葉は、彼らにとっての最終宣告となった。
頼みの綱であった辺境の鑑定士は、自分たちが捨てたカインその人であり、もはや手の届かない存在となってしまった。
栄光、名声、そして最後の希望さえも失った英雄たちは、辺境の街の夕暮れの中、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
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