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第三十四話 王都の喧騒とギルド本部
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数日間の馬車の旅を経て、俺たちはついに王都アークライトの城門の前に立っていた。
高くそびえ立つ白亜の城壁。ひっきりなしに行き交う人々。辺境のフロンティアとは比較にならないほどの規模と喧騒が、俺たちを迎えた。
「……ここが、王都か」
シルフィが、物珍しそうに周囲を見回している。森で育った彼女にとって、この人の多さと建物の密集具合は、異世界の光景に等しいだろう。
「はぐれるなよ」
俺はそう言って、シルフィの手を軽く握った。彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにこくりと頷いて、俺の手を握り返してきた。
城門をくぐり、王都のメインストリートを歩く。
俺の脳裏に、かつての記憶が蘇る。アレクシスたちと肩を並べ、英雄としてこの道を歩いた日々。人々から送られる歓声と賞賛。それらが、今はひどく空虚なものに感じられた。
「まずは、ギルド本部へ行こう。ガングさんの紹介状を使わせてもらう」
俺たちは、王都の中央にそびえ立つ、神殿のように壮麗な冒険者ギルド本部へと向かった。
中に入ると、その豪華絢爛な内装に圧倒される。フロンティアのギルドとは、何もかもが違っていた。壁には伝説級の武具が飾られ、カウンターには美しい制服に身を包んだ職員たちが並んでいる。
俺たちが受付に行くと、職員の一人が値踏みするような視線を向けてきた。
「何かご用件ですか? 依頼の斡旋でしたら、あちらの掲示板をご覧ください」
その態度は、辺境から来た田舎者を見下しているのが明らかだった。
「ギルドマスターに会いたい。フロンティアのガング殿からの紹介状を持っている」
俺がそう言ってガングの紹介状を見せると、職員の態度が一変した。
「こ、これは失礼いたしました! すぐにギルドマスターにお繋ぎします!」
職員は慌てて奥の部屋へと消えていった。現金なものだ。
しばらくして、俺たちはギルドマスター室へと通された。
そこにいたのは、ガングとは対照的な、痩身で神経質そうな印象の初老の男だった。彼は鋭い目で俺たちを品定めするように見つめていた。
「……君が、カイン君かね。ガングからの手紙は読んだよ。私は、このギルド本部のマスター、レナードだ」
レナードと名乗った男は、ガングの紹介状を手に、探るような口調で言った。
「ガングの奴が、これほどまでに人を褒めるのは珍しい。『銀色の流星』。辺境で名を上げているそうじゃないか。して、君たちがこの王都に来た目的は?」
彼の質問には、俺たちの実力を試すような響きがあった。
「王城の地下にあるという、『始まりの聖域』を探しに来ました」
俺が単刀直入に告げると、レナードの眉がわずかに動いた。
「……ほう。随分と大きく出たものだ。その聖域とやらが、おとぎ話ではなく実在すると?」
「ええ。その確証があります」
俺はシルフィが持つ『真実の書』の一部を見せ、聖域の存在を示唆する記述を説明した。
レナードは、その古代エルフの文字で書かれた書物を食い入るように見つめ、やがて深いため息をついた。
「……信じがたい話だ。だが、ガングが君たちを保証し、これだけの証拠がある以上、無視はできんか」
彼はしばらく考え込んだ後、一つの提案をしてきた。
「王城への立ち入りは、たとえSランクパーティーであっても容易ではない。だが、近々、王城で開かれる『建国記念晩餐会』に、冒険者の代表として功績ある者を推薦する枠がある。君たちが、それに値する功績をこの王都で示せば、私が君たちを推薦してやろう」
「功績、ですか」
「うむ。ちょうどいい依頼がある。最近、王都近郊に出現した、未踏のBランクダンジョン『嘆きの洞窟』。ここから強力な魔物が溢れ出し、周辺の村を脅かしている。多くのパーティーが攻略に挑んだが、誰も最深部にはたどり着けていない。このダンジョンを攻略し、脅威を取り除いてみせろ。そうすれば、文句を言う者は誰もいまい」
それは、俺たちの実力を測るための、彼からの試練だった。
「分かりました。その依頼、受けましょう」
俺が即答すると、レナードは少し意外そうな顔をしたが、やがて満足げに頷いた。
「よろしい。期待しているぞ、『銀色の流星』。君たちの力が、噂通りのものかどうか、この目で見させてもらおう」
俺たちはギルド本部を後にした。
王都での最初の目標が定まった。まずは、この『嘆きの洞窟』を攻略し、王城へ至る道を切り拓く。
その頃、王都の一角にある高級宿舎の一室。
アレクシスは、ギルド職員から手に入れた情報を前に、ほくそ笑んでいた。
「『嘆きの洞窟』か……。カインの奴、まんまとレナードの挑発に乗ったようだな」
「あのダンジョンは、ただのBランクではないわ。内部構造が複雑で、強力な幻術を使う魔物が巣食っている。私たちのパーティーでさえ、攻略には手を焼いたくらいよ」
リリアナが、自信ありげに付け加える。
「奴らがダンジョンで消耗したところを、叩く。奴らが持つ武具も、ダンジョンの宝も、すべて俺たちのものだ」
アレクシスの瞳には、嫉妬と憎悪に満ちた、暗い光が宿っていた。
「今度こそ、あいつに思い知らせてやる。俺たちに逆らったことが、どれほど愚かなことだったかをな」
彼らはまだ気づいていない。自分たちが仕掛けたつもりの罠が、逆に自らの首を絞めるだけの、無様な結末を迎えることになるということに。
王都を舞台にした、俺たちの新たな戦いが、今、静かに始まろうとしていた。
高くそびえ立つ白亜の城壁。ひっきりなしに行き交う人々。辺境のフロンティアとは比較にならないほどの規模と喧騒が、俺たちを迎えた。
「……ここが、王都か」
シルフィが、物珍しそうに周囲を見回している。森で育った彼女にとって、この人の多さと建物の密集具合は、異世界の光景に等しいだろう。
「はぐれるなよ」
俺はそう言って、シルフィの手を軽く握った。彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにこくりと頷いて、俺の手を握り返してきた。
城門をくぐり、王都のメインストリートを歩く。
俺の脳裏に、かつての記憶が蘇る。アレクシスたちと肩を並べ、英雄としてこの道を歩いた日々。人々から送られる歓声と賞賛。それらが、今はひどく空虚なものに感じられた。
「まずは、ギルド本部へ行こう。ガングさんの紹介状を使わせてもらう」
俺たちは、王都の中央にそびえ立つ、神殿のように壮麗な冒険者ギルド本部へと向かった。
中に入ると、その豪華絢爛な内装に圧倒される。フロンティアのギルドとは、何もかもが違っていた。壁には伝説級の武具が飾られ、カウンターには美しい制服に身を包んだ職員たちが並んでいる。
俺たちが受付に行くと、職員の一人が値踏みするような視線を向けてきた。
「何かご用件ですか? 依頼の斡旋でしたら、あちらの掲示板をご覧ください」
その態度は、辺境から来た田舎者を見下しているのが明らかだった。
「ギルドマスターに会いたい。フロンティアのガング殿からの紹介状を持っている」
俺がそう言ってガングの紹介状を見せると、職員の態度が一変した。
「こ、これは失礼いたしました! すぐにギルドマスターにお繋ぎします!」
職員は慌てて奥の部屋へと消えていった。現金なものだ。
しばらくして、俺たちはギルドマスター室へと通された。
そこにいたのは、ガングとは対照的な、痩身で神経質そうな印象の初老の男だった。彼は鋭い目で俺たちを品定めするように見つめていた。
「……君が、カイン君かね。ガングからの手紙は読んだよ。私は、このギルド本部のマスター、レナードだ」
レナードと名乗った男は、ガングの紹介状を手に、探るような口調で言った。
「ガングの奴が、これほどまでに人を褒めるのは珍しい。『銀色の流星』。辺境で名を上げているそうじゃないか。して、君たちがこの王都に来た目的は?」
彼の質問には、俺たちの実力を試すような響きがあった。
「王城の地下にあるという、『始まりの聖域』を探しに来ました」
俺が単刀直入に告げると、レナードの眉がわずかに動いた。
「……ほう。随分と大きく出たものだ。その聖域とやらが、おとぎ話ではなく実在すると?」
「ええ。その確証があります」
俺はシルフィが持つ『真実の書』の一部を見せ、聖域の存在を示唆する記述を説明した。
レナードは、その古代エルフの文字で書かれた書物を食い入るように見つめ、やがて深いため息をついた。
「……信じがたい話だ。だが、ガングが君たちを保証し、これだけの証拠がある以上、無視はできんか」
彼はしばらく考え込んだ後、一つの提案をしてきた。
「王城への立ち入りは、たとえSランクパーティーであっても容易ではない。だが、近々、王城で開かれる『建国記念晩餐会』に、冒険者の代表として功績ある者を推薦する枠がある。君たちが、それに値する功績をこの王都で示せば、私が君たちを推薦してやろう」
「功績、ですか」
「うむ。ちょうどいい依頼がある。最近、王都近郊に出現した、未踏のBランクダンジョン『嘆きの洞窟』。ここから強力な魔物が溢れ出し、周辺の村を脅かしている。多くのパーティーが攻略に挑んだが、誰も最深部にはたどり着けていない。このダンジョンを攻略し、脅威を取り除いてみせろ。そうすれば、文句を言う者は誰もいまい」
それは、俺たちの実力を測るための、彼からの試練だった。
「分かりました。その依頼、受けましょう」
俺が即答すると、レナードは少し意外そうな顔をしたが、やがて満足げに頷いた。
「よろしい。期待しているぞ、『銀色の流星』。君たちの力が、噂通りのものかどうか、この目で見させてもらおう」
俺たちはギルド本部を後にした。
王都での最初の目標が定まった。まずは、この『嘆きの洞窟』を攻略し、王城へ至る道を切り拓く。
その頃、王都の一角にある高級宿舎の一室。
アレクシスは、ギルド職員から手に入れた情報を前に、ほくそ笑んでいた。
「『嘆きの洞窟』か……。カインの奴、まんまとレナードの挑発に乗ったようだな」
「あのダンジョンは、ただのBランクではないわ。内部構造が複雑で、強力な幻術を使う魔物が巣食っている。私たちのパーティーでさえ、攻略には手を焼いたくらいよ」
リリアナが、自信ありげに付け加える。
「奴らがダンジョンで消耗したところを、叩く。奴らが持つ武具も、ダンジョンの宝も、すべて俺たちのものだ」
アレクシスの瞳には、嫉妬と憎悪に満ちた、暗い光が宿っていた。
「今度こそ、あいつに思い知らせてやる。俺たちに逆らったことが、どれほど愚かなことだったかをな」
彼らはまだ気づいていない。自分たちが仕掛けたつもりの罠が、逆に自らの首を絞めるだけの、無様な結末を迎えることになるということに。
王都を舞台にした、俺たちの新たな戦いが、今、静かに始まろうとしていた。
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