隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第84話 イヴの贈り物、あるいは時を超える腕時計

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そして運命の十二月二十四日、クリスマス・イヴがやってきた。
空は冬らしくどこまでも澄み渡り、吐く息は白く空気に溶けていく。
俺はクローゼットの前で、いつもよりも少しだけ時間をかけて服を選んだ。
冬花と二人で練り上げた『最高の決起集会』のための一張羅だ。
待ち合わせ場所の駅前の時計台に着くと、彼女はもうそこに来ていた。
白いふわふわのコートに身を包み、首には俺がプレゼントした赤いマフラーを巻いている。その姿はまるで冬の妖精のようだった。
「……待たせたか?」
「いいえ。私も今来たところです」
彼女はそう言ってふわりと微笑んだ。
その笑顔にはもう一片の翳りもなかった。

俺たちのデートは、俺が想像していた以上に穏やかで、そして幸せな時間だった。
昼間はクリスマスマーケットを冷やかし、ホットワイン(俺はジュース)で乾杯した。
映画館ではベタな恋愛映画を見て、二人して少しだけ涙ぐんだ。
レストランでは未来の俺が熱望したという、少しだけ豪華な七面鳥のローストを分け合って食べた。
その一つ一つの時間が、あまりにも温かくて愛おしくて。
俺は何度も、これが俺たちの日常なんだと錯覚しそうになった。
だが、時折彼女の瞳の奥に静かな、しかし燃えるような決意の光が宿るのを見るたびに、俺は思い出す。
これは戦いだ。
俺たちの未来を懸けた聖なる戦いなのだ、と。

日が暮れ、街がイルミネーションの光で輝き始める頃。
俺たちは計画の最終目的地である展望台へと向かっていた。
手を繋いで歩く。
その繋がれた手のひらから伝わる温もりだけが、この夢のような時間の唯一のリアリティだった。
展望台のエレベーターの中で、俺はポケットの中に忍ばせていた小さな箱の感触を確かめた。
心臓が少しだけ速く脈打つ。
これは俺から彼女へのささやかな贈り物。
そして俺の覚悟の証だった。

展望台から見下ろす夜景は、まさに絶景だった。
無数の宝石を散りばめたかのような街の灯り。
そのあまりにもロマンチックな光景に、俺たちはしばらくの間言葉もなく見入っていた。
「……きれいだな」
俺がぽつりと呟くと、隣の彼女もこくりと頷いた。
「はい。未来で見たどの夜景よりも……」
彼女はそこで言葉を切ると、悪戯っぽく笑った。
「いえ。未来の話はもうしない約束でしたね」
その笑顔に俺もつられて笑った。
そうだ。
俺たちが見ているのは未来じゃない。
今、この瞬間なんだ。

「……冬花」
俺は意を決して彼女の名前を呼んだ。
そしてポケットから、あの小さな箱を取り出した。
「これ、俺から」
俺がそれを彼女の前に差し出すと、彼女は驚いたように目を丸くした。
「……これは?」
「開けてみてくれ」
彼女はおそるおそるというように、その箱を受け取った。
そしてゆっくりとその蓋を開ける。
箱の中に収まっていたのは、一本のシンプルな腕時計だった。
銀色の華奢なブレスレットタイプ。
文字盤には小さな雪の結晶のモチーフがあしらわれている。
それは俺がなけなしの小遣いを全てはたいて買ったものだった。
彼女に似合うと思って。
そして何よりも伝えたかった。
俺たちの『時間』はこれから始まるんだ、と。

彼女はその腕時計をただじっと見つめていた。
そしてその瞳からぽろり、ぽろりとまた涙がこぼれ落ちていく。
「……どうして」
彼女の震える声が問いかける。
「どうして、これを……」
「え?」
俺がきょとんとしていると、彼女は自分のバッグの中から震える手で一つの小さな包みを取り出した。
そしてそれを俺の前に差し出す。
「……私も、あなたにプレゼントを用意していました」
俺は促されるままにその包みを開いた。
中から出てきたのは。

一本の腕時計だった。

黒い革のベルト。
シンプルなクロノグラフ。
それは俺の好みど真ん中のデザインだった。
俺は声もなく固まった。
なんだ、これは。
偶然?
いや、そんな偶然なんてあるはずがない。
俺が呆然と彼女の顔を見ると、彼女は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、それでも幸せそうに微笑んでいた。

「……これは未来で、あなたがずっと使っていた腕時計です」
彼女は静かに語り始めた。
「あなたが私との記憶を失ってからも……。あなたはなぜかこの腕時計だけは肌身離さず、ずっと着け続けていた」
「私はそれが唯一の希望でした。いつかあなたがこの腕時計を見て、何かを思い出してくれるんじゃないかって……」
「だから私はこの時代に来る時、これだけを持ってきました。あなたとの唯一の繋がりの証として」
そのあまりにも切実で、あまりにも一途な想い。
俺は胸が締め付けられるようだった。
俺たちがお互いに用意した贈り物。
それは偶然なんかじゃない。
時を超えて惹かれ合う俺たちの魂が起こした、必然の奇跡だったのだ。

「……つけてくれるか?」
俺が言うと、彼女は力強く頷いた。
俺は彼女の細い手首に雪の結晶の腕時計をつけてやる。
彼女も俺の無骨な手首に、未来から来た腕時計をつけてくれた。
カチリと留め金が留まる音。
その音はまるで俺たちの運命が固く結ばれた音のように聞こえた。
俺たちは、お揃いの時を刻む証を手に入れた。
もう何も怖くない。
俺は彼女を力強く引き寄せた。
そしてその涙に濡れた唇に、もう一度深く、深くキスをした。
光り輝く夜景の中で。
俺たちの時間は今、確かに一つになったのだから。
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