スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第94-96話:邪神復活

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セレスティアの魂が光となって消滅した、その瞬間。
邪神の心臓は、彼女のあまりにも純粋で強大な聖なる魂のエネルギーを、最後の『鍵』として暴走的に吸収した。
そして、アルカディアの中央広場、黒く染まった聖銀樹の中心部で、漆黒の『穴』――異次元へのゲートが完全にその姿を現した。

ゴオオオオオオオオ……。
ゲートの向こう側から、空気が吸い込まれていく。
いや、違う。
この世界の光が、音が、時間さえもが、あの絶対的な『無』の中へと引きずり込まれていくのだ。
アルカディアの空を覆っていた禍々しい紫色の暗雲が、渦を巻きながらゲートへと吸い込まれていく。
まるで星そのものが悲鳴を上げているかのようだった。

俺はセレスティアの自己犠牲によって、聖銀樹の内部から弾き出されていた。
俺の目の前で、仲間たちが、村人たちが、そして俺が愛したこの国が、終焉を迎えようとしている。

「……アルフォンス!」
「お頭!」
シルフィとリズベットが駆け寄ってくる。彼女たちの顔にも絶望の色が浮かんでいた。
「儀式は……止められなかったのですね……」
「くそっ! あれが、邪神……かよ……」

ゲートの漆黒の闇の中から、ゆっくりとそれが姿を現し始めた。
それは定まった形を持たなかった。
触手とも、翼とも、無数の目玉ともつかない、名状しがたい混沌の塊。
見る者の正気をその根底から揺さぶる冒涜的な幾何学模様。
その存在は、この世界の物理法則を完全に無視していた。

ただそこに『在る』だけで、周囲の空間が悲鳴を上げて歪んでいく。
大地は裂け、建物は砂のように崩れ落ちていく。
俺たちが築き上げたアルカディアが、邪神の圧倒的な存在圧の前にいともたやすく崩壊していく。

『…………』
邪神は声を発しない。
意思も感情もそこにはない。
ただ、すべてを無に還すという宇宙の冷徹な法則が具現化しただけの存在。
それが邪神アザトースの本質だった。

連合軍の兵士たちが恐怖に叫び声を上げる。
「だめだ……勝てねえ……」
「あれは神だ……俺たち人間がどうこうできる相手じゃねえ……!」
戦意は完全に砕け散っていた。
誰もがただ、世界の終わりを呆然と見つめることしかできなかった。

俺の心も折れかけていた。
仲間たちの命がけの奮戦も、セレスティアの尊い犠牲も、すべてが無駄だったのか。
俺たちが信じた希望は、この絶対的な絶望の前に無力だったのか。

その時だった。
俺の足元がふわりと温かい光に包まれた。
見ると、広場の崩れた石畳の隙間から、一本の小さな双葉が芽吹いていた。
それは、この絶望的な状況の中にあってもなお生きようとする生命の輝きだった。
アルカディアの大地の最後の抵抗。

俺の脳裏にガイアの声が響いた。
『……まだ、終わりではない。我が子よ……』
その声は弱々しかったが、確かな意志を宿していた。
『……希望は、まだ残っている……。汝の、その手に……』

俺は自分の手のひらを見つめた。
そこに握られているガイアズ・エッジ。
そして俺自身が持つスキル【神の農園】。
そうだ。
まだだ。
まだ俺には、やれることが残っている。

俺は顔を上げた。
そして絶望に沈む仲間たちと、世界中の人々に向かって叫んだ。
「――まだ諦めるな!」

俺の声は魔力によって増幅され、混沌の渦巻く戦場に響き渡った。
「顔を上げろ! 俺たちの戦いはまだ終わっちゃいない!」
俺はガイアズ・エッジを天に掲げた。
その黄金の刃は、邪神の闇の中にあってもなお気高い希望の光を放っていた。

「あいつがすべてを無に還す神だというのなら!」
俺は叫んだ。
「俺は、すべてを生み出し育む大地の神となる!」
「俺たちの、この星の生命の力を、今ここで見せつけてやる!」

俺の魂からの咆哮。
それは人々の砕け散った心に、再び小さな勇気の火を灯した。
シルフィが、リズベットが俺の隣に並び立つ。
彼女たちの瞳にも再び闘志の炎が宿っていた。

「……そうだな。まだくたばるわけにはいかねえよな!」
「ええ。私たちの故郷は、私たちが守るのです!」

俺たちは三人並んで、天に座す邪神と対峙した。
絶望的な戦力差。
神と人間。
だが、俺たちの心にはもはや一片の恐怖もなかった。
あるのはただ、愛するものを守り抜くという揺るぎない覚悟だけ。

『…………』
邪神が、その無数の混沌の触手を俺たちへと伸ばしてきた。
世界の終わりを告げる審判の一撃。
それは星さえも砕くほどの絶対的な破壊の力。

俺は仲間たちと顔を見合わせ、頷き合った。
そして俺たちの最後にして最大の力を解放した。
「――来い、邪神」
「俺たちの世界の底力を、その身に刻みつけてやれ」

アルカディアの最後の反撃。
世界の存亡を賭けた本当の最終決戦の火蓋が、今、切って落とされた。
俺たちの小さな、しかし何よりも尊い希望の光が、絶対的な絶望の闇へと立ち向かっていく。
その結末を、まだ誰も知らなかった。
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