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第66話:究極のスキル進化
しおりを挟むグライフ帝国軍が敗残兵のように撤退していく。
その長い列が地平線の彼方に消えるまで、俺たちは壁の上からただ黙って見送っていた。
戦いは終わった。
アルカディアは、その独立を大陸最強の軍事国家に対して力をもって認めさせたのだ。
壁の内側からわあっと歓声が上がった。
勝利を確信した村人たちが広場へと駆け出してきて、互いに抱き合い涙を流して喜んでいる。義勇軍の兵士たちは武器を天に突き上げ、勝利の雄叫びを上げた。
村全体が建国を祝うかのような熱狂的な喜びに包まれていた。
「……へっ、やったじゃねえか、お頭!」
リズベットが俺の背中を力いっぱい叩いた。「あの鉄クズ野郎どもに、アタシたちの国のすごさを思い知らせてやったな!」
「ええ。ですが、無用な血が流れなくて本当に良かった……」
シルフィも安堵のため息をつきながら、穏やかに微笑んだ。
仲間たちの言葉に俺も頷いた。
だが、俺の心は村人たちのような純粋な喜びに浸ることはできなかった。
勝利の安堵と共に、俺の肩にはこれまで感じたことのないほどの重い『責任』がのしかかっていたのだ。
俺は領主として、この村の独立を宣言した。
それはもう、ただのスローライフの延長線上にあるものではない。
この地に住む百数十人の民の命運を、その未来のすべてを俺が背負うということ。
帝国との戦いに勝った今、アルカディアの名は良くも悪くも大陸中に知れ渡るだろう。そうなれば次なる脅威がいつ、どこから現れるか分からない。
そして何よりも、セレスティアと邪教団という世界の理の外にいる本当の敵が存在する。
この村を、この国を永続させるために俺は何をすべきなのか。
この強大すぎる力は、どう使うべきなのか。
俺は民の歓声を聞きながら、一人その重い問いと向き合っていた。
その夜。
祝勝の宴で盛り上がる村を少し離れ、俺は中央広場にそびえる聖銀樹の下に一人で座っていた。
月明かりを浴びて、銀色の葉がさらさらと優しい音を立てている。
俺は、その幹に背を預け目を閉じて、意識を深く、深く大地へと沈めていった。
俺のスキル【神の農園】は、このアルカディアの大地と完全に一体化している。
俺は、この国で起こる全てのことを感じることができた。
土の中で眠る種子の息吹。
地下を流れるマナウォーターの脈動。
家々で眠る村人たちの穏やかな寝息。
そして、彼らがこの土地に向けてくれる温かい感謝と信頼の念。
そのすべてが心地よいエネルギーとなって俺の中に流れ込んでくる。
ああ、そうだ。
俺は一人じゃない。
俺は、この大地とここに住む皆と共に在るのだ。
俺が守るべきは俺だけの平穏ではない。この愛すべきすべてだ。
その思いが確固たる『覚悟』へと変わった、瞬間だった。
『――汝の覚悟、しかと受け取った』
再びあの荘厳な声が、俺の魂に直接響き渡った。
『王よ。汝はただ恵みを受ける者から、恵みを与え育み、そして守り抜く者へとその魂を昇華させた』
『その大いなる責任に応え、汝のスキル【神の農園】に新たなる権能を解放しよう』
俺の体から金色のオーラがこれまで以上に力強く溢れ出した。
その光は聖銀樹と共鳴し天へと昇っていく。そしてアルカディアの上空で、目には見えない巨大なドーム状の光となって国全体を優しく包み込んだ。
俺の脳裏にスキルの新たな側面が奔流のように流れ込んでくる。
それはもはや農業や戦闘というレベルを超えた、まさしく国を治め世界を創造するための『神の権能』とでも呼ぶべき力だった。
一つは【ガイア・ウェザー】。
アルカディアの領内に限り天候を俺の意のままに操る力。
雨を降らせ、風を吹かせ、霧を発生させる。これを使えば作物の育成は天候に左右されることなく常に完璧な状態で行える。そして万が一敵が侵攻してきた際には、局地的な豪雨でぬかるみを作り濃霧で視界を奪うことも可能だ。
一つは【マザー・アース】。
大地から直接資源を生成する力。
これまではダンジョンからしか得られなかった鉱物資源を、俺が望めばアルカディアの土の中から直接生み出すことができる。鉄や銅といった基本的な金属から、石炭、硫黄といった工業資源まで。これによりアルカディアは資源的にも完全に外部の世界から独立することが可能になる。
そして最後の一つが【ガーディアン・テリトリー】。
アルカディアの国土そのものを一つの巨大な自律型の防衛システムへと変える力。
俺が構築した大地の結界と神経網がさらに進化し、国土に侵入したあらゆる敵性存在を自動的に探知し分析し、そして最適な方法で迎撃する。
地形操作による罠の自動生成。
状況に応じた最適なゴーレムの自動生成と配置。
それは俺が意識せずとも、この国が自らの意志で自らを守るための究極の防衛機能だった。
「……これが、【神の農園】の本当の力……」
俺はゆっくりと目を開けた。
世界が違って見えた。
アルカディアの木々の一本一本、石ころの一つ一つが俺の体の一部のように感じられる。
俺は、この国そのものと一体化したのだ。
この力があれば邪教団の脅威にも十分に対抗できる。
いや、それ以上のまだ見ぬいかなる脅威からも、俺は、この国を守り抜くことができるだろう。
俺は静かに立ち上がった。
そして眼下に広がる祝宴に沸く、愛すべき我が国を見下ろした。
俺が望んだのは小さな畑での静かなスローライフだった。
だが運命は俺にそれ以上のものを与えた。
一つの国を、一つの理想郷を、その手で創り上げるという途方もなく、しかし何物にも代えがたいやりがいを。
「……やるべきことは変わらない」
俺は静かに呟いた。
畑を耕し、種を蒔き、仲間たちと笑い合う。
ただ、その畑が少しだけ大きくなった。
『アルカディア』という一つの国に。
そしていずれは、この『世界』という広大な畑に平和の種を蒔く日が来るのかもしれない。
俺は新たなそして究極の力を手に、静かに、しかしこれまで以上に強く固い決意を心に刻んだ。
この国を、そしてそこに住む皆の笑顔を、この俺が必ず守り抜いてみせる、と。
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