無能と追放された僕の【鑑定】スキル、実は世界の理を読み解く『神眼』でした〜追放したパーティーを尻目に、伝説の仲間と世界最強になります〜

夏見ナイ

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第八話 対等な契約

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翌朝、俺が目を覚ますと、リリアは既に起きていた。
ベッドの端にちょこんと座り、自分の手を見つめている。その表情からは、まだ戸惑いと不安が読み取れた。
俺が身じろぎした音に気づき、彼女はびくりと肩を震わせた。その仕草は、まだ怯えが抜けていないことを示している。

「おはよう、リリア。よく眠れたか?」

俺が声をかけると、彼女はこくりと小さく頷いた。昨日よりは、少しだけ反応が良くなっている。
俺はベッドから起き上がると、椅子に腰かけた。そして、これからする話が大切なものであることを示すように、真剣な眼差しで彼女を見つめた。

「まず、改めて自己紹介をさせてくれ。俺の名前はレイン。ただの冒険者だ」
「……レイン」

彼女が初めて、俺の名前を口にした。か細く、掠れた声だったが、確かにそう聞こえた。

「俺は君を奴隷として買ったわけじゃない。だから、君はもう誰かに従う必要はないんだ。君は自由だ」
「……じゆう?」

リリアは、その言葉の意味が分からないといった顔で首を傾げた。
無理もない。生まれた時から自由を知らない人間に、その価値を説くのは難しい。
だから俺は、もっと具体的な話をすることにした。

「君には、これから二つの道がある」

俺は指を一本立てる。
「一つは、ここで俺と別れる道だ。君が一人で生きていけるように、当面の生活費は俺が渡す。好きな街で、好きなように生きればいい」
リリアの目が、信じられないというように見開かれた。奴隷が、主から金をもらって解放されるなど、ありえないことだからだ。
俺は続けて、二本目の指を立てた。

「もう一つは、俺の『仲間』になる道だ」
「……なかま?」
「ああ。主従じゃない。対等なパートナーとして、俺と一緒に冒険者として歩んでいく。危険なこともあるだろう。辛いこともあるかもしれない。だが、俺は仲間を決して見捨てない」

俺は真っ直ぐに彼女の瞳を見て言った。
「どちらを選ぶかは、君が決めることだ。俺は君の意思を尊重する」

リリアは何も言わず、ただ黙り込んでしまった。
その小さな頭の中で、必死に俺の言葉を理解しようとしているのが伝わってくる。
彼女はずっと、誰かの所有物として生きてきた。命令され、殴られ、搾取されるだけの存在だった。そんな彼女にとって、「自分で決める」という行為そのものが、初めての経験だったのだろう。
長い沈黙が、部屋を支配した。
やがて、リリアはおそるおそる口を開いた。

「……どうして?」
「ん?」
「どうして……わたしをたすけたの?わたしは、『けっかんひん』だって……」

その言葉に、胸が締め付けられるような痛みを覚えた。
あの奴隷商人が吐いた言葉を、彼女は信じ込んでしまっているのだ。
俺は静かに首を振った。

「欠陥品なんかじゃない。俺には分かるんだ。君の中には、誰にも負けないくらい、強くて綺麗な力が眠っている」

俺は【神眼】のことは伏せた。そんな突飛な話をしても、今の彼女には理解できないだろう。
だから、もっとシンプルな言葉を選んだ。

「俺は、君のその力に惹かれた。君という人間に、可能性を感じたんだ。だから、助けたいと思った。それだけだよ」

嘘偽りのない、俺の本心だった。
俺の言葉を聞いて、リリアの瞳がわずかに揺れた。そして、その瞳から、またぽろりと涙が一粒こぼれ落ちた。
だが、昨日の涙とは違う。それは、悲しみや安堵だけではない、もっと複雑な感情が混じった涙に見えた。

「……わたし、つよくなれる?」
「なれる。俺が保証する」

俺は力強く頷いた。
【神眼】が示した彼女の才能は、絶対だ。

「君が望むなら、俺が君を世界で一番強い剣士にしてやる」

世界一。
その言葉に、リリアはごくりと喉を鳴らした。
彼女はぎゅっと、自分の小さな拳を握りしめる。その手は、まだ微かに震えていた。
だが、その瞳に宿る光は、明らかに変わっていた。
これまでは恐怖と警戒の色が強かった瞳に、初めて「希望」という名の光が灯ったのだ。

「……わたし、たたかう」

はっきりと、そう言った。

「もう、だれにもまけたくない。だれかに、なぐられるのはいや。わたしは……あなたの『なかま』になりたい」

その言葉は、俺の心に深く、深く突き刺さった。
彼女は、自分の意志で選んだのだ。虐げられるだけの弱い自分と決別し、戦う道を選ぶことを。
そして、俺をパートナーとして選んでくれたことを。

「……分かった。よろしくな、リリア」

俺は彼女に向かって、手を差し出した。
リリアは一瞬ためらった後、その小さな手を、俺の掌にしっかりと重ねた。
その手は、まだ少し冷たかった。だが、昨日とは違う、確かな温もりがそこにはあった。
これが、俺たちの契約。
血でも魔法でもなく、ただ互いの信頼だけで結ばれた、対等な仲間としての約束だ。

「それじゃあ、早速始めようか」
俺は笑って言った。
「まずは君の力を知るために、簡単な訓練からだ。準備ができたら、街の外れにある訓練場へ行こう」

リリアは力強く頷いた。その顔には、もう迷いはなかった。
無能と追放された鑑定士と、檻の中にいた未来の剣聖。
二人の冒険が、今、この瞬間、本当の意味で始まった。
空はどこまでも青く、まるで俺たちの未来を祝福しているかのようだった。
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