無能と追放された僕の【鑑定】スキル、実は世界の理を読み解く『神眼』でした〜追放したパーティーを尻目に、伝説の仲間と世界最強になります〜

夏見ナイ

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第十二話 ざわめく酒場と最初の報酬

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森から街へと続く帰り道。リリアは何度も、腰に提げた牙の入った袋に触れていた。
それは彼女が初めて自分の力で手に入れた戦利品。汚れた布切れではない、誇るべき成果の証だ。
その横顔は、少し前までの怯えた少女の面影はなく、確かな自信と達成感に満ちていた。

冒険者ギルドの扉を開けると、昼下がりの時間帯ということもあり、中は多くの冒険者で賑わっていた。
俺たちが中に入ると、一瞬、ざわめきが静まり、全ての視線が俺たちに注がれる。
昨日までの視線とは、明らかに質が違った。
好奇心、驚愕、そして嫉妬。
俺の隣を歩く、血と泥に汚れた獣人の少女。そして、俺たちが背負う、ずっしりと膨らんだ袋。
それらが何を意味するのか、ここにいる者たちなら誰でも理解できた。
俺たちはその視線を意にも介さず、まっすぐ受付カウンターへと向かった。
対応してくれたのは、またミリアさんだった。彼女は俺たちの姿を見ると、ぱっと顔を輝かせた。

「レインさん、リリアちゃん!お帰りなさい!ご無事だったんですね!」
「ああ、依頼は完了した」

俺はカウンターの上に、討伐の証である牙の入った袋を置いた。ずしり、と重い音が響く。
ミリアさんが袋の中身を確認し、目を見開いた。

「すごい数……!依頼は五体以上でしたが、これは……七体分ありますね。それに、この一際大きな牙は……まさか、アルファウルフ!?」
彼女の驚きの声に、周囲の冒険者たちがさらにざわめく。
「アルファウルフだと!?」
「あのガキが倒したっていうのか……?」
「冗談だろ……Dランクのパーティーでも苦戦する相手だぞ」

アルファウルフは、この近辺の森ではちょっとした有名人だったらしい。多くの冒険者がその牙を狙い、返り討ちにあっていたようだ。
ミリアさんは興奮した様子で鑑定用の魔道具を取り出し、牙の魔力を測定し始めた。

「間違いありません!素晴らしい成果です!基本報酬の銀貨二十枚に、追加討伐分と、アルファウルフ討伐の特別報酬を合わせて……金貨三枚と銀貨五枚になります!」

金貨三枚。
リリアがその金額を聞いて、小さな口をあんぐりと開けている。彼女にとって、それは想像もつかないような大金だろう。
ミリアさんは輝く硬貨をカウンターに並べると、にこやかに言った。
「レインさん、リリアちゃん。今回の功績で、お二人の冒険者ランクをEランクに昇格させたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「やった……!」

リリアが、小さな声でそう呟いた。
冒険者ランク。それは、ギルドからの信頼の証だ。俺たちは、正式に冒険者としての第一歩を踏み出したのだ。
俺は金貨と銀貨を受け取ると、その中から金貨一枚と銀貨数枚をリリアの手に握らせた。

「これは、君が稼いだ金だ」
「わ、わたしの……?」
「そうだ。君の力で手に入れた、最初の報酬だ」

リリアは、自分の掌にある硬貨を、信じられないといった顔でじっと見つめていた。
そして、ぎゅっと、大切そうにそれを握りしめる。その瞳は、嬉しさで潤んでいた。
俺たちはギルドを後にし、その足で「風凪ぎ亭」の食堂へと向かった。
祝勝会だ。
俺は一番高いコース料理を注文した。次々と運ばれてくる豪華な食事に、リリアは目を輝かせている。

「うまいか?」
「うん!世界で一番おいしい!」

夢中で肉料理にがっつくリリアの姿は、見ていて飽きなかった。
その時だった。隣のテーブルに座っていた冒険者たちの会話が、ふと耳に入ってきた。

「聞いたか?『赤きグリフォン』の話」
「ああ、また『深淵の迷宮』で失敗したんだってな。今度は盾役のゴードンが重傷を負ったらしい」
「あのパーティーも落ち目だな。レインとかいう鑑定士を追い出してから、どうも歯車が噛み合ってないらしいぜ」
「新しい鑑定士を入れたらしいが、全然使い物にならんとか。罠も見抜けず、魔物の弱点も分からない。そりゃあ、Sランクのダンジョンじゃ通用しねえよ」

その会話に、俺は思わずナイフを握る手に力を込めた。
リリアが、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「……レイン?」
「……なんでもない」
俺はそう言って、無理やり笑ってみせた。
ざまぁみろ、という気持ちがないわけではない。むしろ、胸がすくような思いだ。
だが、同時に妙な虚しさも感じていた。彼らがどうなろうと、俺の失った時間は戻ってこない。
俺の居場所は、もうあそこにはないのだ。
俺の居場所は、今、ここだ。
目の前で、美味しそうに食事を頬張るこの少女の隣。それが、今の俺の全てだった。

「レイン」
リリアが、フォークを置いて俺を真っ直ぐに見つめてきた。
「わたし、もっとたたかいたい。もっとつよくなって、あなたをまもりたい」
「……俺を?」
「うん。あなたは、わたしをたすけてくれた。こんどは、わたしがあなたをたすける番」

その真っ直ぐな言葉に、俺は不意を突かれた。
守る?この俺を?
なんて健気で、そして力強い言葉だろう。
俺は思わず吹き出してしまった。
そして、彼女の頭を優しく撫でた。
「ありがとう、リリア。お前のその気持ちだけで、俺は十分だ」
「でも……」
「分かってる。だから、もっと強くしてやる。次はダンジョンにでも行ってみるか。もっと強い敵と戦えば、お前はさらに成長できる」

俺の言葉に、リリアの瞳がキラキラと輝いた。
ダンジョン。それは冒険者にとって、本当の冒険の始まりを意味する場所だ。
俺たちの前には、無限の可能性が広がっている。
元いたパーティーのことなど、もうどうでもいい。
俺は、俺たちの未来だけを見て進む。
夕暮れの光が差し込む食堂で、俺とリリアは次の冒険に思いを馳せながら、温かい食事を続けた。
その穏やかな時間は、嵐の前の静けさのように、心地よく過ぎていった。
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