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第27話 魔王の来訪
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灼熱の荒野に、張り詰めた空気が満ちていた。
三十を超える竜人族の戦士たちが向ける、剥き出しの敵意と殺意。その全てを、俺は真正面から受け止めていた。彼らのリーダーと思わしき、顔に傷のある男が突きつけてくる槍の切っ先は、微塵も揺らいでいない。
「帰れ、魔王」
男は、地の底から響くような低い声で、再び警告した。
「我らは、もう誰の駒にもならん」
その言葉に、背後に控える竜人族たちも、同意するように唸り声を上げる。彼らの瞳に宿るのは、長年にわたる絶望と、裏切られた者だけが持つ深い不信感。
隣に立つリリアナが、俺を守るように一歩前に出ようとした。だが、俺はそれを手で制した。
これは、俺が対峙すべき問題だ。
俺は、武器を構える彼らを前にして、一切の敵意を見せなかった。ただ、静かに、そしてゆっくりと口を開く。
「お前たちの怒りは、もっともだ」
俺の第一声は、彼らの予想とは違うものだったのだろう。竜人族たちの間に、僅かな戸惑いの空気が流れた。
「先代魔王は敗れ、魔王軍は崩壊した。その結果、お前たちは同胞からも見捨てられ、人間どもに狩られ、故郷を追われた。この不毛の地で、飢えと屈辱に耐える日々を強いられてきた。違うか?」
俺の言葉は、彼らが決して忘れることのない、 painfulな記憶を抉った。何人かの戦士が、悔しそうに唇を噛み締め、武器を握る手に力を込める。
「その怒りを、憎しみを、俺に向けろというのなら、甘んじて受けよう。だが、聞け」
俺は、一歩前に踏み出した。切っ先が、俺の喉元に食い込む寸前で止まる。俺は、その鋭い刃先から目を逸らさなかった。
「俺は、お前たちを支配するためにここに来たのではない」
俺の声に、魔王としてのカリスマを乗せる。それは、ただの大声ではない。聞く者の魂に直接語りかける、王の力だ。
「俺は、虐げられた全ての魔族を束ね、新たな王国を築くために来た。誰にも脅かされず、誰にも見捨てられず、我ら魔族が誇りを持って生きられる国を創る。そのために、お前たちの力が必要だ。俺の駒としてではなく、共に国を創る同胞として、お前たちを迎えに来た」
静寂が、荒野を支配した。
竜人族たちは、俺の言葉をどう受け止めていいのか分からず、戸惑いの表情を浮かべている。
彼らのリーダーである男も、その隻眼で、俺の真意を探るようにじっと見つめていた。
やがて、彼は槍をゆっくりと下ろした。だが、敵意が消えたわけではない。
「……戯言を」
男は、吐き捨てるように言った。
「言葉だけなら、何とでも言える。俺たちは、甘い言葉で裏切られるのはもううんざりなんだ。お前が本当に王の器たる男なのか、俺たちに未来を託す価値があるのか。それを、どうやって証明するというのだ?」
「どうすれば、お前たちは俺を信じる?」
俺が問い返すと、男はふん、と鼻を鳴らした。そして、自分の胸を鉤爪のついた指で叩く。
「俺たち竜人族が信じるのは、ただ一つ。『力』だ」
彼は、手に持った槍を地面に突き立てた。
「力なき王に、我らが未来を託せるものか。理想を語るだけでは、腹は膨れん。仲間を守ることもできん」
男は、集落の奥、痩せこけた子供や老人たちに一瞬だけ視線をやった。その目には、リーダーとしての深い苦悩と、仲間を想う優しさが滲んでいた。
「俺はガロウ。この集落の長だ」
男――ガロウは、初めて名乗った。
「新たなる魔王とやら。お前の覚悟が本物だというのなら、ここで俺と戦え」
ガロウの言葉に、周囲の竜人族たちが再び殺気立つ。
「ガロウ様!」
「そいつを、ここで!」
だが、ガロウはそれを手で制した。彼の目は、真っ直ぐに俺だけを見ている。
「俺を倒してみせろ。もし、お前が俺に勝てるほどの力と覚悟を示すことができたなら、その時は……」
ガロウは言葉を区切り、続けた。
「お前の言葉を、少しは信じてやってもいい」
それは、決闘の申し込みだった。
彼ら竜人族にとって、最もシンプルで、最も雄弁な対話の方法。
「レオン様、いけません! お受けになる必要はありません!」
リリアナが、俺の袖を引いて囁いた。
「彼らの挑発に乗ることはありません。一度引いて、態勢を立て直すべきです!」
彼女の言うことも、一つの理だ。だが、俺はここで引く気はなかった。
俺が王として、彼らの前に立った最初の試練。ここから逃げれば、俺は永遠に彼らの信頼を得ることはできないだろう。
俺は、リリアナの手にそっと自分の手を重ね、彼女を安心させるように小さく頷いた。
そして、ガロウに向き直る。
「……いいだろう」
俺の口から放たれたその言葉に、その場の誰もが息を呑んだ。
「その挑戦、受けて立つ」
俺は、身にまとっていたローブを脱ぎ捨てた。その下から現れたのは、質素だが動きやすい黒い戦闘服。
「ガロウ。お前が信じる『力』で、俺の『覚悟』を量るがいい」
俺の返答に、ガロウの隻眼が、獰猛な光を宿した。
それは、獲物を見つけた竜の目だった。
「……面白い。気に入ったぞ、魔王」
ガロウの口元に、初めて笑みが浮かんだ。それは、戦士だけが浮かべることのできる、歓喜に満ちた笑みだった。
「後悔するなよ」
荒野の乾いた風が、俺とガロウの間を吹き抜けていく。
王の器を問う、神聖な決闘の火蓋が、今、切られようとしていた。
三十を超える竜人族の戦士たちが向ける、剥き出しの敵意と殺意。その全てを、俺は真正面から受け止めていた。彼らのリーダーと思わしき、顔に傷のある男が突きつけてくる槍の切っ先は、微塵も揺らいでいない。
「帰れ、魔王」
男は、地の底から響くような低い声で、再び警告した。
「我らは、もう誰の駒にもならん」
その言葉に、背後に控える竜人族たちも、同意するように唸り声を上げる。彼らの瞳に宿るのは、長年にわたる絶望と、裏切られた者だけが持つ深い不信感。
隣に立つリリアナが、俺を守るように一歩前に出ようとした。だが、俺はそれを手で制した。
これは、俺が対峙すべき問題だ。
俺は、武器を構える彼らを前にして、一切の敵意を見せなかった。ただ、静かに、そしてゆっくりと口を開く。
「お前たちの怒りは、もっともだ」
俺の第一声は、彼らの予想とは違うものだったのだろう。竜人族たちの間に、僅かな戸惑いの空気が流れた。
「先代魔王は敗れ、魔王軍は崩壊した。その結果、お前たちは同胞からも見捨てられ、人間どもに狩られ、故郷を追われた。この不毛の地で、飢えと屈辱に耐える日々を強いられてきた。違うか?」
俺の言葉は、彼らが決して忘れることのない、 painfulな記憶を抉った。何人かの戦士が、悔しそうに唇を噛み締め、武器を握る手に力を込める。
「その怒りを、憎しみを、俺に向けろというのなら、甘んじて受けよう。だが、聞け」
俺は、一歩前に踏み出した。切っ先が、俺の喉元に食い込む寸前で止まる。俺は、その鋭い刃先から目を逸らさなかった。
「俺は、お前たちを支配するためにここに来たのではない」
俺の声に、魔王としてのカリスマを乗せる。それは、ただの大声ではない。聞く者の魂に直接語りかける、王の力だ。
「俺は、虐げられた全ての魔族を束ね、新たな王国を築くために来た。誰にも脅かされず、誰にも見捨てられず、我ら魔族が誇りを持って生きられる国を創る。そのために、お前たちの力が必要だ。俺の駒としてではなく、共に国を創る同胞として、お前たちを迎えに来た」
静寂が、荒野を支配した。
竜人族たちは、俺の言葉をどう受け止めていいのか分からず、戸惑いの表情を浮かべている。
彼らのリーダーである男も、その隻眼で、俺の真意を探るようにじっと見つめていた。
やがて、彼は槍をゆっくりと下ろした。だが、敵意が消えたわけではない。
「……戯言を」
男は、吐き捨てるように言った。
「言葉だけなら、何とでも言える。俺たちは、甘い言葉で裏切られるのはもううんざりなんだ。お前が本当に王の器たる男なのか、俺たちに未来を託す価値があるのか。それを、どうやって証明するというのだ?」
「どうすれば、お前たちは俺を信じる?」
俺が問い返すと、男はふん、と鼻を鳴らした。そして、自分の胸を鉤爪のついた指で叩く。
「俺たち竜人族が信じるのは、ただ一つ。『力』だ」
彼は、手に持った槍を地面に突き立てた。
「力なき王に、我らが未来を託せるものか。理想を語るだけでは、腹は膨れん。仲間を守ることもできん」
男は、集落の奥、痩せこけた子供や老人たちに一瞬だけ視線をやった。その目には、リーダーとしての深い苦悩と、仲間を想う優しさが滲んでいた。
「俺はガロウ。この集落の長だ」
男――ガロウは、初めて名乗った。
「新たなる魔王とやら。お前の覚悟が本物だというのなら、ここで俺と戦え」
ガロウの言葉に、周囲の竜人族たちが再び殺気立つ。
「ガロウ様!」
「そいつを、ここで!」
だが、ガロウはそれを手で制した。彼の目は、真っ直ぐに俺だけを見ている。
「俺を倒してみせろ。もし、お前が俺に勝てるほどの力と覚悟を示すことができたなら、その時は……」
ガロウは言葉を区切り、続けた。
「お前の言葉を、少しは信じてやってもいい」
それは、決闘の申し込みだった。
彼ら竜人族にとって、最もシンプルで、最も雄弁な対話の方法。
「レオン様、いけません! お受けになる必要はありません!」
リリアナが、俺の袖を引いて囁いた。
「彼らの挑発に乗ることはありません。一度引いて、態勢を立て直すべきです!」
彼女の言うことも、一つの理だ。だが、俺はここで引く気はなかった。
俺が王として、彼らの前に立った最初の試練。ここから逃げれば、俺は永遠に彼らの信頼を得ることはできないだろう。
俺は、リリアナの手にそっと自分の手を重ね、彼女を安心させるように小さく頷いた。
そして、ガロウに向き直る。
「……いいだろう」
俺の口から放たれたその言葉に、その場の誰もが息を呑んだ。
「その挑戦、受けて立つ」
俺は、身にまとっていたローブを脱ぎ捨てた。その下から現れたのは、質素だが動きやすい黒い戦闘服。
「ガロウ。お前が信じる『力』で、俺の『覚悟』を量るがいい」
俺の返答に、ガロウの隻眼が、獰猛な光を宿した。
それは、獲物を見つけた竜の目だった。
「……面白い。気に入ったぞ、魔王」
ガロウの口元に、初めて笑みが浮かんだ。それは、戦士だけが浮かべることのできる、歓喜に満ちた笑みだった。
「後悔するなよ」
荒野の乾いた風が、俺とガロウの間を吹き抜けていく。
王の器を問う、神聖な決闘の火蓋が、今、切られようとしていた。
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