クラスごと異世界転移したら、俺だけジョブが『魔王』だったんだが? ~虐めてきた勇者(笑)ども、今からお前らを支配してやろうか~

夏見ナイ

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第35話 統率されし魔物

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「な……なんだ、あいつらは……」

剣士の田中が、震える声で呟いた。目の前に立つ、オークジェネラルとガロウ。その二体から放たれる圧倒的なプレッシャーは、これまで彼らが戦ってきたどの魔物とも比較にならなかった。特に、腕を組んで静かにこちらを見下ろすガロウの存在感は、勇者である赤城にすら匹敵する、あるいはそれ以上のものに感じられた。

斥候の佐藤は、完全に思考が停止していた。
なぜだ。なぜ、こんな化け物が、森のこんな浅い場所にいる。斥候として、これほどの存在の気配に気づけなかった自分の未熟さ。いや、それ以上に、相手の隠密能力が異常なのだ。

「……さて」
ガロウが、退屈そうに口を開いた。
「お前たちを、どう料理してやろうか。魔王様からは、殺すなと仰せつかっているが……腕の一本や二本、土産に持たせてやるくらいは許されるだろう」

その言葉に、三人の顔が恐怖に引きつった。

「ふ、ふざけるな! 俺たちは、エルトリア王国の勇者だぞ!」
魔術師の加藤が、恐怖を振り払うように虚勢を張って叫んだ。
「俺たちに手を出せば、王国が黙っていないぞ!」

だが、ガロウはそれを鼻で笑った。
「勇者? 王国? 知ったことか。ここは、魔王レオン様の支配領域だ。人間の法律など、ここでは紙切れにも劣る」

ガロウは、顎でオークたちに指示を出した。
「やれ。だが、殺すな。半殺しで遊んでやれ」

「「「グオオオオ!」」」

オークたちが、一斉に雄叫びを上げて襲いかかってきた。その動きは、もはやただの突進ではない。前衛の盾を持ったオークが壁を作り、その後ろから棍棒を持ったオークが攻撃を仕掛ける。左右に回り込んだ別のオークが、退路を断つ。
それは、教科書に載っているかのような、完璧な集団戦術だった。

「くそっ!」
田中は、迫り来るオークの盾に必死に剣を叩きつけるが、魔力を帯びた盾はびくともしない。逆に、盾の隙間から突き出された棍棒が、彼の肩を強打した。

「ぐあっ!」
骨が砕けるような鈍い痛み。田中は、その場に片膝をついた。

「ファイアボール!」
加藤が、詠唱を完了させて魔法を放つ。だが、オークたちは密集することなく、巧みに散開して直撃を避けた。数体が火傷を負ったが、致命傷には程遠い。

「まずい! MPが……!」
加藤は、これまでの戦闘で既に魔力を消耗していた。強力な魔法を連発することはできない。

「逃げるぞ!」
佐藤が叫び、煙玉を地面に叩きつけた。煙が広がり、視界が一瞬だけ遮られる。その隙に、三人は背後へと脱兎のごとく逃げ出した。

だが、その逃走経路は、既に見抜かれていた。
「そっちは、コボルトの狩場だぜ」
ガロウが、面白そうに呟く。

森の奥深くへと逃げ込んだ三人を待ち受けていたのは、木々の枝や茂みの中に潜んでいた無数の影だった。
ヒュッ、と風を切る音と共に、無数の矢が彼らに降り注ぐ。

「うわっ!」
「ぎゃあ!」

矢は、彼らの鎧の隙間、手足を正確に狙っていた。殺意はない。だが、確実に動きを奪うための、冷徹な攻撃だった。
足に矢を受けた加藤が転倒し、腕を射抜かれた田中が剣を落とす。佐藤も、肩を掠めた矢の痛みによろめいた。

「な、なんだよ、こいつら……!」
木々の間から、次々と姿を現すコボルトたち。その数は、三十を超える。彼らは弓や槍を構え、じりじりと三人を追い詰めていく。その動きもまた、オークたちと同様に、完璧な連携が取れていた。

ある者は陽動として正面から注意を引き、別の者は背後や側面から静かに忍び寄る。まるで、熟練の猟師が獲物を狩るかのように、無駄のない動きで三人の逃げ場を塞いでいく。

「……もう、だめだ……」
加藤が、地面に突っ伏したまま、絶望の声を漏らした。
田中も、武器を失い、負傷した腕を押さえて蹲るしかない。
佐藤だけが、まだ短剣を構えて抵抗の意思を見せていたが、その顔は既に死人のように蒼白だった。

彼らは、ようやく理解した。
自分たちが戦っている相手は、野生の魔物ではない。
統率され、訓練され、明確な目的を持って動く『軍隊』なのだと。
そして、自分たちは、その軍隊の掌の上で、ただ踊らされているだけの、哀れな獲物に過ぎないのだと。

やがて、コボルトたちの包囲が割れ、ガロウがゆっくりと姿を現した。彼の後ろには、オークジェネラルも控えている。

「……さて。鬼ごっこは、もう終わりだ」
ガロウは、完全に戦意を喪失した三人を見下ろし、冷たく言い放った。

「お前たちには、伝言を頼みたい。我が主君、魔王レオン様からのな」

ガロウは、佐藤の目の前に屈み込み、その髪を鷲掴みにして顔を無理やり上げさせた。
「よく聞け、小僧」
ガロウの隻眼が、至近距離から佐藤の魂を射抜く。

「『お前たちのままごとは、もう終わりだ』」
「『次にこの森に足を踏み入れる時は、人間と魔族の、全面戦争の時だと思え』」
「『首を洗って待っていろ、偽りの勇者ども』……とな」

その言葉は、死の宣告よりも重く、三人の心に突き刺さった。

「……分かったら、さっさと失せろ。お前たちのような雑魚を殺しても、我が槍が汚れるだけだ」

ガロウが手を離すと、佐藤は尻餅をついた。
オークたちも、コボルトたちも、まるで興味を失ったかのように、包囲を解いて森の奥へと姿を消していく。

後に残されたのは、心身ともに打ちのめされた、三人のクラスメイトだけだった。
彼らは、互いの無残な姿を見つめ、ただ呆然とするしかなかった。

魔王軍。
その脅威は、もはや一個人の特殊能力などというレベルではない。
それは、国家と、あるいは世界と敵対しうる、本物の『軍事力』だった。

勇者一行は、初めて本当の意味での『敵』の姿を、その身をもって知ることになったのだ。
この日の恐怖と屈辱は、彼らが王都に持ち帰る、最悪の土産物となった。
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