クラスごと異世界転移したら、俺だけジョブが『魔王』だったんだが? ~虐めてきた勇者(笑)ども、今からお前らを支配してやろうか~

夏見ナイ

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第90話 魔王という名の創造主

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平和条約の締結から、さらに五年という歳月が流れた。
大陸の姿は、あの最終決戦の日から様変わりしていた。

俺が治める国アーク・ノヴァは、今や大陸で最も豊かで最も進んだ国家としてその名を轟かせていた。
人間国家との交易は活発化し、アーク・ノヴァが産出する魔法金属やヴェスパーとエルウィンが開発した新たな魔導技術は、世界中の人々の生活を劇的に向上させた。
かつて魔王の脅威と恐れられた黒森は、今や『共存の森』と呼ばれ、多くの種族が行き交う平和の象徴となっていた。

俺、レオン・アークライトは国王として、この国の発展を見守り続けてきた。
復讐のために手に入れた魔王の力は、今や国を築き民を守るための創造の力として使われている。

ある晴れた日の午後。
俺は王城ノヴァの最も高い塔のバルコニーで、眼下に広がる自らの国を眺めていた。
城下町は五年前とは比べ物にならないほどに拡大し、その活気は王都エルトリアをも凌駕している。遠くにはゴーレム工兵部隊が建設した白亜の学術都市や、竜人族の飛行部隊が発着する巨大な飛行場も見えた。

「――素晴らしい眺めですね、陛下」

静かな声と共に、隣に一人の女性が立った。
長い銀髪を風になびかせ、その赤い瞳は穏やかな光を宿している。リリアナだった。
彼女は外務大臣として人間国家との複雑な外交交渉を見事にこなし、アーク・ノヴァの国際的な地位を確立させた最大の功労者の一人だ。

「ああ。だが、まだ道半ばだ」
俺は静かに応じた。
「この平和はまだ脆い。我々が努力し続けなければすぐに崩れてしまう」

「ふふ。あなた様はいつもご自分に厳しい」
リリアナは優雅に微笑んだ。その表情は初めて出会った頃の氷のような仮面をつけた彼女とは全く違う、温かいものだった。

俺たちの背後から賑やかな声が近づいてくる。
「おう、陛下! こんなところにおられたか!」
豪快な声の主は国防大臣となったガロウだ。彼の隣には宰相のヴェスパーと魔導大臣のエルウィンもいる。俺の四天王。今やこの国を支える、かけがえのない柱たちだ。

「また一人で考え事ですかな?」
ヴェスパーがカラカラと笑う。
「たまには肩の力を抜かねば、体が持ちませぬぞ」

「全くだ。陛下は少し働きすぎだ」
エルウィンも呆れたようにため息をついた。

彼らの気遣いが俺の心を温かくする。
俺はもはや孤独な王ではない。信頼できる仲間たちと共にこの国を背負っている。

「……そういえば、紬はどうした?」
俺が尋ねると、リリアナが答えた。

「白石紬殿なら先ほどエルトリア王国から来た医療使節団の案内をしていましたわ。彼女が開発した新しいポーションの製法を人間たちに教えるのだとか。今や大陸で最も尊敬される『聖女』は彼女の方かもしれませんわね」

その言葉に俺は静かに頷いた。
彼女もまた自分の道を見つけ、力強く歩んでいる。

俺たちはしばらくの間、眼下に広がる平和な国を共に眺めていた。
様々な種族が笑い合い、助け合い、生きている。
俺が守りたかった、そして創りたかった世界が確かにここにあった。

「……なあ、レオン」
不意にガロウが改まった口調で俺の名を呼んだ。
「あんたは後悔していないか?」

「……何がだ?」

「あんたの復讐のことだ」
ガロウは真剣な目で俺を見つめた。
「あんたは多くの者を断罪し、地獄へ突き落とした。だが、その結果としてこの平和が生まれた。あんたは自分のやったことをどう思っているんだ?」

それは誰もが心のどこかで思っていた、しかし決して口には出さなかった問いだった。
俺はその問いに少しの間目を閉じた。
そして、ゆっくりと答える。

「……後悔はしていない」

俺は目を開き、澄み切った空を見上げた。

「俺がやったことは許されることではないだろう。俺は多くの憎しみをこの手で生み出した。その罪を俺は一生背負って生きていく」
「だが」
俺は言葉を続けた。
「あの道を通らなければ俺は王にはなれなかった。お前たちと出会うことも、この国を創ることもできなかっただろう。俺の過去は俺という人間を形作る消せない一部だ」

復讐者としての魔王レオン。
そして創造主としての国王レオン。
そのどちらもが俺なのだ。

「俺は復讐を乗り越えたわけじゃない。ただ、復讐よりももっと大きな守るべきものを見つけた。それだけのことだ」

俺の答えに四天王たちは何も言わなかった。
ただ静かに、そして深く頷いていた。

俺たちの視線の先、城下の広場で何やら大きな人だかりができていた。
広場の中央では旅芸人の一座が、一つの物語を演じているようだった。

それは異世界から来た偽りの勇者と、真の王の物語。
狡猾な賢者が国を腐敗させ、傲慢な勇者が仲間を見殺しにする。
そこに漆黒の魔王が現れ、悪を断罪し世界を救う。
それはこの数年で大陸中に広まった、最も人気の高い英雄譚だった。

物語のクライマックス。
魔王が世界の捕食者を打ち破り、平和を取り戻す場面で観客から万雷の拍手が沸き起こった。

その光景を俺たちは静かに見下ろしていた。

「……俺は英雄などではない」
俺は誰にともなく呟いた。
「ただ、俺のやり方で俺の世界を創っただけだ」

虐げられ全てを失った一人の少年。
彼は復讐の果てに、一つの世界を創造する王となった。
彼の物語はここで一つの結末を迎える。

だが、彼が創ったこの世界の物語は。
様々な種族が手を取り合い、未来を紡いでいくこの国の物語は。

まだ始まったばかりである。

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