モブモンスターですが何か? ~VRMMOで魔物ロールプレイを満喫していたら、いつの間にか災害級になっていた件~

夏見ナイ

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エピソード3:闇に潜むモノ

最初の『味』を知ってから、ゼロの行動は明確な目的を持ったものに変わった。暗く湿った洞窟は、絶望の牢獄から一転して、未知の餌が潜む狩り場へとその意味合いを変えたのだ。

『喰う。そして、強くなる』

そのシンプルな目標が、ゼロの原動力となった。

ゲル状の体をずるずると引きずるように、壁際を這い進む。自身の【微光】スキルが放つ淡い光だけが頼りだ。視界は相変わらず狭いが、それでも先ほどよりは周囲の凹凸や質感を認識できるようになった気がする。これも、最初の虫を捕食した影響だろうか? 微々たるものだが、進化は確実に始まっている。

壁には、べっとりと湿った緑色の苔が生えている箇所があった。これも喰えるだろうか? 試しに体の一部を押し当て、【捕食】を意識する。じわり、と苔がゼロの体に取り込まれていく。虫の時のような強烈な感覚はない。ただ、微かに青臭いような、土っぽいような『味』がした。

ステータスを確認する。

【能力値】
体力: 3
魔力容量: 2 → 3 (+1)
物理攻撃力: 0
物理防御力: 2
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: 1 → 2 (+1)
素早さ: 2

今度は魔力容量と魔法防御力が上がった。どうやら、捕食対象によって上昇するステータスに傾向があるらしい。虫は物理的な耐久力、苔は魔力的な何かに作用した、ということか。

『面白い……』

だとしたら、様々な種類のものを捕食していくことで、バランス良く、あるいは特化させて能力を伸ばしていくことが可能かもしれない。もっと多様な『餌』を探さなくては。

ゼロは、擬態能力も積極的に活用し始めた。少し開けた場所に出る前には、近くの岩陰や壁のくぼみに身を寄せ、【擬態】で岩や染みに化ける。まだレベル1のスキルなので完璧とはいかないだろうが、何もしないよりは遥かに安全だ。この洞窟にいるのは、先ほどの虫や壁の苔だけではないはずだ。もっと危険な生物がいる可能性を常に考慮しなければならない。

しばらく進むと、壁の裂け目のような場所から、さらに微かな光が漏れているのを見つけた。それはゼロ自身の光とは異なり、青白い、点滅するような光だった。近づいてみると、それは発光性の小さなキノコ、あるいは粘菌のようなものだった。これも捕食対象だ。

【捕食】を実行。キノコ(仮)はすぐにゼロの体内に吸収された。今度は、微弱な電流が走るような、ピリピリとした感覚があった。

ステータス変化は……ない。だが、代わりにスキル欄に変化があった。

【スキル】
・捕食 Lv.1
・自己修復 Lv.1
・擬態 Lv.1
・微光 Lv.1 → Lv.2

【微光】スキルのレベルが上がった! それに伴い、ゼロの周囲を照らす光が明らかに強くなり、視界が広がった。半径3メートルほどは、はっきりと周囲の状況が見えるようになった。これは大きな進歩だ。どうやら、捕食によってステータスだけでなく、関連するスキルが成長することもあるらしい。発光生物を喰らったから【微光】が強化された、というのは理に適っている。

『なるほど、こういう成長パターンもあるのか。なら、積極的に特定の能力を持ったものを狙うのもアリだな』

俄然、探索に熱が入る。強化された視界で周囲を見渡すと、これまで気づかなかった洞窟の細部が見えてきた。天井からは鍾乳石が垂れ下がり、地面には小さな水たまりができている。空気はひんやりとしており、どこかからか水の滴る音が反響している。

その時だった。

カツン、という硬い音が、洞窟の奥から響いてきた。

ゼロは即座に動きを止め、近くの岩陰に滑り込み、【擬態】を発動した。岩の一部となり、息を潜める。

音は一つではない。カツン、カツン、と不規則な間隔で、何かが歩いてくるような音。そして、それに混じって、低い唸り声のような、あるいは何かを咀嚼しているかのような、不快な音も聞こえる。

ゼロは擬態したまま、音のする方向を凝視した。強化された視界のおかげで、以前よりは遠くまで見通せる。やがて、その姿が闇の中から現れた。

『ゴブリン……!』

ファンタジー世界の定番モンスター。緑色の肌、尖った耳、ぼろ布を腰に巻いただけの貧相な体躯。だが、その手には粗末ながらも先端が尖った木の棍棒が握られており、濁った小さな目はこちらを探るようにキョロキョロと動いている。身長は1メートルほどだろうか。今のゼロから見れば、間違いなく『格上』の存在だ。

(まずい……!)

心臓が、もしあれば、早鐘のように打っていたことだろう。体力『3』、防御力『2』のゼロにとって、あの棍棒の一撃は致命傷になりかねない。物理攻撃力『0』のこちらには、反撃の手段すらない。

幸い、ゴブリンはまだゼロの存在には気づいていないようだ。鼻をくんくんさせながら、何かを探すようにゆっくりと歩いている。時折、壁の虫か何かを見つけては、汚い手で掴んで口に放り込んでいる。咀嚼音はそれだったらしい。

(頼む、あっちへ行ってくれ……!)

ゼロは、ただただ祈るしかなかった。擬態しているとはいえ、完璧ではないだろう。近づかれれば、その異質さに気づかれるかもしれない。

ゴブリンは、ゼロが擬態している岩のすぐそばまでやってきた。生臭いような、獣のような臭いが漂ってくる。ゼロは、存在感を極限まで消そうと意識を集中させた。動くな。気配を出すな。ただの岩になれ。

ゴブリンは、ゼロが擬態している岩の前で立ち止まった。そして、汚れた指で岩の表面をぺたぺたと触り始めた。

(やばい、やばい、やばい……!)

冷や汗が、もし汗腺があれば、全身から噴き出していたことだろう。このまま正体がバレたら、どうなる? 逃げ切れるか? 素早さ『2』で、あのゴブリンから?

だが、ゴブリンは特に何も気づかなかったようだ。しばらく岩肌を触っていたが、興味を失ったのか、あるいは探しているものではなかったのか、再び唸り声を上げながら洞窟の奥へと歩き去っていった。

カツン、カツン、という足音が遠ざかっていく。やがて、それも聞こえなくなり、洞窟には再び静寂が戻った。

ゼロは、それでもしばらく擬態を解かずにいた。ゴブリンが戻ってくる可能性も考えてのことだ。数分後、完全に安全だと判断してから、ようやく擬態を解除し、ぷるん、と元のゲル状の姿に戻った。

『……助かった……』

全身の力が抜けるような感覚。もし呼吸をしていたなら、大きく息を吐き出していたところだ。

これが、この世界の現実。弱者は、強者に見つかれば一方的に蹂躙される。スキルやステータスだけではない。知恵や、あるいは運も、生存には不可欠な要素なのだ。

同時に、ゼロは強い渇望を覚えた。

(もっと……強くならなければ)

ゴブリン一体に、ここまで肝を冷やさなければならない現状。これでは、この先、洞窟の外に出たとしても、まともに生きていくことなどできはしないだろう。プレイヤーと遭遇したら? もっと強いモンスターに出くわしたら?

捕食しなければ。あらゆるものを糧にして、この矮小な存在から脱却しなければ。

ゼロは、ゴブリンが去っていった方向とは逆、つまり洞窟の入り口があるであろう方向へと、再びゆっくりと動き出した。恐怖は、ゼロの進化への渇望を、さらに強く燃え上がらせる燃料となった。今はまだ、闇に潜む弱い存在でしかない。だが、いつか――。そんな思いを胸に秘めながら。

---

名前: ゼロ
種族: 名無し
称号: なし
所属: 未定義

【能力値】
体力: 3
魔力容量: 3
物理攻撃力: 0
物理防御力: 2
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: 2
素早さ: 2

【スキル】
・捕食 Lv.1
・自己修復 Lv.1
・擬態 Lv.1
・微光 Lv.2
感想 4

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