モブモンスターですが何か? ~VRMMOで魔物ロールプレイを満喫していたら、いつの間にか災害級になっていた件~

夏見ナイ

文字の大きさ
5 / 89

エピソード5:森の恵みと、ざわめき

しおりを挟む
洞窟のひんやりとした湿気とは違う、生暖かく、濃密な生命の匂いがゼロの体を包み込む。太陽の光は眩しいほどで、半透明のゲル状の体を通して、地面の土の温かさまで伝わってくるようだ。風が木々の葉を揺らす音、遠くで響く鳥のさえずり、足元で草が擦れる微かな音。洞窟の中の静寂とは対照的な、賑やかで、しかしどこか油断のならない世界。

『さて、どこから手をつけるか……』

ゼロは、まず周囲の安全を確認することにした。幸い、すぐ近くに他の生物の気配はない。広大な森は、捕食対象の宝庫であると同時に、危険な捕食者も多く潜んでいるだろう。洞窟でのゴブリン遭遇の教訓は、ゼロの行動原理に深く刻み込まれている。

手始めに、足元に生えている見慣れない草を【捕食】してみる。シャキシャキとした繊維質な感触と共に、青臭い『味』が広がった。ステータスに変化はない。どうやら、ありふれた植物からは、大きな変化は得られないらしい。

次に、近くの木の幹に張り付いていた、カタツムリのような生物を捕食した。硬い殻ごと体内に取り込む。殻が砕け、中の柔らかい身が吸収されていく。粘り気のある体液の感覚が残った。

【スキル】
・捕食 Lv.1
・自己修復 Lv.2
・擬態 Lv.1
・微光 Lv.2
・**粘液分泌 Lv.1 (New!)**

新しいスキルを獲得した! 【粘液分泌】。これは、文字通り粘液を出すスキルだろうか? 試しに意識してみると、ゼロの体表から、ねばり気のある透明な液体がじわりと滲み出した。地面に垂らすと、糸を引くような粘度がある。

『これは……使えるかもしれないな』

足止めや、あるいは壁を登る際の補助になるかもしれない。攻撃力ゼロのゼロにとって、直接的なダメージを与えられなくても、相手の動きを阻害できる手段は貴重だ。

気を良くしたゼロは、さらに森の探索を進める。地面を這う甲虫、木の枝で休む翅の大きな蛾、色鮮やかな毒々しいキノコ。目につくものを手当たり次第に【捕食】していく。

甲虫からは物理防御力が微増。蛾からは……特に変化なし。毒キノコは、以前洞窟で食べたものとは違う種類だったらしく、強い痺れと共に一時的なステータス低下に見舞われたが、【自己修復】Lv.2のおかげか、あるいは以前獲得した耐性のおかげか、すぐに回復し、結果的に毒耐性がわずかに強化されたようだった。

『毒キノコはリスクが高いな……迂闊に手を出すべきじゃない』

学びながら、ゼロは森の生態系に適応していく。擬態も、岩や地面だけでなく、草むらや木の根元など、周囲の環境に合わせて使い分けるようになってきた。

ふと、茂みの奥で何かが動く気配を感じた。ゼロは即座に動きを止め、近くの木の根元に【擬態】する。

ガサガサ、と音を立てて現れたのは、ウサギに似た小動物だった。長い耳を持ち、警戒するように周囲を見回している。体力は低そうだが、素早さはかなりのものだろう。これまでの虫やカタツムリとは違い、逃げ足が速そうだ。

『……仕留められるか?』

ゼロは、擬態したままじっとチャンスを窺う。ウサギ(仮)は、地面の草を食んでいる。無防備な瞬間。

今だ!

ゼロは擬態を解除すると同時に、【粘液分泌】を発動。ゲル状の体から粘液を飛ばし、ウサギの足元に撒き散らす。驚いたウサギが飛び跳ねようとするが、足が粘液に取られて一瞬動きが鈍る。

その隙を逃さず、ゼロは素早さ『2』を生かしてウサギに飛びかかった。ゲル状の体がウサギを完全に包み込む。暴れるウサギの感触がダイレクトに伝わってくる。しばらくもがいていたが、やがて動かなくなった。

【捕食】開始。
これまでとは違う、温かく、生々しい感覚。筋肉、骨、血液。生命そのものを吸収していくような、強烈な充足感があった。

【能力値】
体力: 4 → 6 (+2)
魔力容量: 3
物理攻撃力: 0
物理防御力: 3 → 4 (+1)
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: 2
素早さ: 2 → 3 (+1)

初めて、素早さが上昇した! やはり、捕食対象の特性が反映されるようだ。俊敏なウサギを喰らったことで、ゼロ自身の動きも少しだけ速くなった。体力も2ポイント上昇し、粘り強さが増した。これは大きな収穫だ。

『やはり、動物系の捕食は効率がいいな』

だが、同時に、ゼロは別の種類の『ざわめき』も感じていた。それは、森の奥から聞こえてくる、微かな音。

人の声…?

いや、断定はできない。風の音か、あるいは別のモンスターの声かもしれない。だが、それはゼロが洞窟で聞いていたどんな音とも異なっていた。複数の声が重なっているような、言葉を発しているような……。

『プレイヤーか……?』

ゼロは、本能的に身を低くした。初めてプレイヤーと遭遇する可能性。洞窟でのゴブリン遭遇とは比較にならない緊張感が走る。今の自分は、あのウサギより少し強い程度だ。プレイヤーに見つかれば、経験値稼ぎの良いカモにされるのが関の山だろう。

音は、まだ遠い。だが、確実にこちらに近づいてきているわけではないようだ。別の方向へ移動しているのかもしれない。

ゼロは、その場から動けずにいた。森の恵みによる確かな成長の実感と、すぐそこに潜むかもしれない人間という脅威。光と影が隣り合わせになったこの世界で、ゼロは再び選択を迫られていた。

音のする方向へ近づき、情報を得るか? それとも、危険を避けて別の場所へ移動するか?

ゼロは、音のする方向とは逆へ、ゆっくりと体を動かし始めた。今はまだ、その時ではない。もっと力をつけ、情報を集め、慎重に行動すべきだ。好奇心は、時として身を滅ぼす。

森の奥深くへと、名もなきモンスターは再び姿を隠していく。その体には、新たなスキルとわずかなステータス上昇という確かな『収穫』が刻まれていたが、心には人間への警戒心という新たな『棘』が刺さったままだった。

---

名前: ゼロ
種族: 名無し
称号: なし
所属: 未定義

【能力値】
体力: 6
魔力容量: 3
物理攻撃力: 0
物理防御力: 4
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: 2
素早さ: 3

【スキル】
・捕食 Lv.1
・自己修復 Lv.2
・擬態 Lv.1
・微光 Lv.2
・粘液分泌 Lv.1
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...