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エピソード20:風聞と擬態遊戯
千貌の守護像を捕食し、不定形進化の第二段階へと到達したゼロ。その力は以前とは比較にならないほど増大し、古代遺跡の深淵から腐臭の沼へと帰還する道のりは、もはやウォーミングアップにすらならなかった。
しかし、沼地に戻って目の当たりにしたのは、自身の存在がプレイヤーコミュニティにおいて明確な『脅威』として認識され始めているという現実だった。焼け焦げ、引き裂かれた立て札の残骸が、それを雄弁に物語っている。
『擬態スライム? プレイヤーイーター? 随分と物騒な二つ名がついたものだな』
ゼロは内心で毒づいた。もっとも、プレイヤーを捕食したのは事実であり、擬態も得意としているのだから、あながち間違いではない。だが、このまま沼地に留まり続ければ、いずれ大規模な討伐隊が組まれる可能性もある。千貌の守護像クラスの存在とは単独で渡り合えるようになったとはいえ、組織化された多数のプレイヤーを相手にするのは、まだ分が悪いだろう。
それに、石板から得た断片的な情報――『エルミナ』という名、『深淵の監視者』、『選択の刻』――が、ゼロの知的好奇心を強く刺激していた。この世界の秘密に迫るためには、沼地に籠っているだけでは不十分だ。
『移動するか……』
目的地はまだ定まっていない。エルミナの手がかりを探す旅に出るか、あるいは、まずは情報収集に徹するか。プレイヤーが多く集まる街の近くは危険だが、情報もまたそこに集まる。
ゼロは、ひとまず沼地を出て、隣接するエリアへと移動することにした。それは、『忘れられた鉱山地帯』と呼ばれる場所だった。かつては活発な採掘が行われていたが、魔物の出現や資源の枯渇により放棄されたエリアだという。プレイヤーの活動も比較的少なく、隠れ潜むには都合がいいかもしれない。それに、鉱山という環境ならば、新たな鉱物系のモンスターや、地中深くに潜む未知の存在に出会える可能性もある。
沼地を抜け、荒涼とした岩場と枯れた低木が広がる鉱山地帯へと足を踏み入れる。空気は乾燥し、時折、風に乗って金属っぽい匂いが運ばれてくる。沼地とは対照的な環境だ。ゼロは早速【擬態】Lv.4を使い、周囲の赤茶けた岩肌と同化した。擬態レベルが上がったことで、質感だけでなく、温度や魔力の気配まで周囲に溶け込ませることができるようになっている。
しばらく岩陰に潜んでいると、遠くから数人のプレイヤーの声が聞こえてきた。どうやら、鉱石の採集に来た小規模なパーティのようだ。ゼロは息を潜め、彼らの会話に耳を澄ませる。
「なあ、例の『プレイヤーイーター』の噂、聞いたか?」
「ああ、沼にいるっていう、擬態する化け物のことだろ? なんか、PKerを返り討ちにして喰っちまうらしいぜ」
「マジかよ……PKerも怖いが、そいつはもっとヤバそうだな。遭遇したら絶対逃げような」
「だよな。ギルド『ジャッジメント』も、目撃情報を集めてるって話だし」
やはり、噂はかなり広まっているようだ。しかも、大手ギルド『ジャッジメント』の名前まで出てきた。プロットにあった、あの正義(あるいは独善)を振りかざすPKKギルドか。厄介な連中に目をつけられたものだ。
『しかし、プレイヤーを喰らう化け物、ね……ある意味、ロールプレイとしては面白いかもしれんが』
皮肉な笑みが、もし表情があれば浮かんでいたことだろう。プレイヤーたちは、ゼロの存在に気づくことなく、鉱石をいくつか掘り当てると、足早に去っていった。
彼らが去った後、ゼロは鉱山地帯の探索を再開した。廃坑の入り口がいくつか見つかったが、どれも崩落の危険がありそうだ。しかし、そのうちの一つ、比較的状態の良い坑道の入り口近くで、ゼロは興味深いものを発見した。
それは、誰かが置き忘れたのか、あるいは罠として設置したのか、古びた木製の宝箱だった。
『宝箱……擬態の対象としては、これ以上なく魅力的だな』
プレイヤーの射幸心を煽り、無警戒に近づかせる。これまでの岩や茂みへの擬態とは異なり、より能動的に相手を誘い込むことができる。
ゼロは早速、宝箱への【擬態】を試みた。ゲル状の体をゆっくりと変形させ、木目や金属の留め具、古びた質感を再現していく。擬態Lv.4と不定形進化(第二段階)の能力により、それは驚くほど精巧に成し遂げられた。サイズこそ元のゼロの体積に依存するため、やや小ぶりな宝箱になったが、見た目は完璧だ。魔力感知で探っても、僅かながら『アイテムが入っている』かのような魔力の揺らぎまで偽装している。
擬態を完了し、ゼロは宝箱として坑道の入り口脇に鎮座した。あとは、獲物(あるいは実験台)がかかるのを待つだけだ。
しばらくすると、ソロで行動しているらしい、軽装の盗賊風プレイヤーが坑道にやってきた。彼は周囲を警戒しながらも、ゼロ(宝箱)の存在に気づくと、目を輝かせた。
「おっと、こんな所にお宝発見!」
彼は罠を警戒する様子もなく、いそいそと宝箱に駆け寄ってくる。そして、蓋を開けようと手をかけた、その瞬間。
バコンッ!!
ゼロは擬態を維持したまま、宝箱の『蓋』の部分を勢いよく開閉させ、プレイヤーの手を挟み込んだ!
「ぎゃあああっ!? い、痛てぇ! なんだこれ!?」
プレイヤーは驚き、悲鳴を上げる。ゼロはさらに、宝箱の内部から【粘性操作】で作り出した粘液の触手を伸ばし、プレイヤーの腕に絡みつかせた。
「ひぃぃぃ! お、お化け箱か!? いや、違う、なんだこのネバネバ!?」
プレイヤーはパニックに陥り、必死に腕を引き抜こうとするが、粘液と宝箱の蓋(ゼロの体の一部)に阻まれて逃げられない。
ゼロは、このまま捕食することもできた。だが、今は力を誇示することよりも、情報を集め、自身の存在をコントロールすることの方が重要だと判断した。それに、ここで騒ぎを起こせば、他のプレイヤーや、あるいはジャッジメントの注意を引いてしまうかもしれない。
ゼロは粘液の拘束を解き、蓋を解放した。プレイヤーは転がるようにして宝箱から離れ、恐怖に引きつった顔でゼロ(宝箱)を睨みつける。
「な、なんなんだよ、お前……! まさか、噂の……!?」
ゼロは何も答えず、ただ宝箱の姿のまま、そこに鎮座している。プレイヤーはしばらく警戒していたが、やがて武器を拾うと、一目散に坑道の外へと逃げ去っていった。
『ふむ、宝箱擬態は有効だな。精神的なダメージも大きいようだ』
ゼロは擬態を解除し、元の不定形の姿に戻った。プレイヤーをからかうのは、思った以上に楽しいかもしれない。だが、同時に、自分の行動がさらなる噂を生み、危険を招く可能性も理解していた。
鉱山地帯の探索を続け、ゼロはいくつかの坑道に入ってみた。内部には、コウモリ型のモンスターや、岩石に擬態した小型ゴーレム、あるいは金属質の鉱石を捕食して生きるスライムなど、新たな捕食対象がいた。それらを狩り、ステータスを微増させながら、【石材知識】や【ゴーレムコア解析】のスキル経験を積んでいく。
ある坑道の奥深くで、ゼロは偶然、地底湖のような空間を発見した。遺跡の地底湖ほどではないが、水は澄んでおり、壁面には青白く光る鉱石がびっしりと埋まっている。美しい光景だが、同時に強い魔力が満ちており、水の中には強力な水棲モンスターの気配も感じられた。
『ここを当面の拠点にするのも悪くないかもしれないな』
入り口が狭く、内部は広い。水も利用できるし、光る鉱石は【光合成】の助けにもなるだろう。プレイヤーがここまで到達する可能性も低い。
ゼロは、その地底湖のある坑道を仮の拠点と定め、周辺の探索と自己強化を続けることにした。石板にあった『エルミナ』の手がかりは見つからないが、焦る必要はない。力を蓄え、情報を集め、来るべき『選択の刻』に備える。それが今のゼロにできる最善のことだ。
廃鉱の闇の中、虹色に揺らめく不定形のモンスターは、静かに、しかし着実に、その牙を研ぎ澄ませていく。プレイヤーたちの間で囁かれる『プレイヤーイーター』の噂は、まだ序章に過ぎないのかもしれない。本当の『遭遇』は、これから始まるのだから。
---
名前: ゼロ
種族: 名無し(進化体)
称号: 千貌を喰らう者
所属: 未定義
【能力値】
体力: 55
魔力容量: 40
物理攻撃力: 15
物理防御力: 35
魔法攻撃力: 18
魔法防御力: 30
素早さ: 8
【スキル】
(※前話からの変化なし)
しかし、沼地に戻って目の当たりにしたのは、自身の存在がプレイヤーコミュニティにおいて明確な『脅威』として認識され始めているという現実だった。焼け焦げ、引き裂かれた立て札の残骸が、それを雄弁に物語っている。
『擬態スライム? プレイヤーイーター? 随分と物騒な二つ名がついたものだな』
ゼロは内心で毒づいた。もっとも、プレイヤーを捕食したのは事実であり、擬態も得意としているのだから、あながち間違いではない。だが、このまま沼地に留まり続ければ、いずれ大規模な討伐隊が組まれる可能性もある。千貌の守護像クラスの存在とは単独で渡り合えるようになったとはいえ、組織化された多数のプレイヤーを相手にするのは、まだ分が悪いだろう。
それに、石板から得た断片的な情報――『エルミナ』という名、『深淵の監視者』、『選択の刻』――が、ゼロの知的好奇心を強く刺激していた。この世界の秘密に迫るためには、沼地に籠っているだけでは不十分だ。
『移動するか……』
目的地はまだ定まっていない。エルミナの手がかりを探す旅に出るか、あるいは、まずは情報収集に徹するか。プレイヤーが多く集まる街の近くは危険だが、情報もまたそこに集まる。
ゼロは、ひとまず沼地を出て、隣接するエリアへと移動することにした。それは、『忘れられた鉱山地帯』と呼ばれる場所だった。かつては活発な採掘が行われていたが、魔物の出現や資源の枯渇により放棄されたエリアだという。プレイヤーの活動も比較的少なく、隠れ潜むには都合がいいかもしれない。それに、鉱山という環境ならば、新たな鉱物系のモンスターや、地中深くに潜む未知の存在に出会える可能性もある。
沼地を抜け、荒涼とした岩場と枯れた低木が広がる鉱山地帯へと足を踏み入れる。空気は乾燥し、時折、風に乗って金属っぽい匂いが運ばれてくる。沼地とは対照的な環境だ。ゼロは早速【擬態】Lv.4を使い、周囲の赤茶けた岩肌と同化した。擬態レベルが上がったことで、質感だけでなく、温度や魔力の気配まで周囲に溶け込ませることができるようになっている。
しばらく岩陰に潜んでいると、遠くから数人のプレイヤーの声が聞こえてきた。どうやら、鉱石の採集に来た小規模なパーティのようだ。ゼロは息を潜め、彼らの会話に耳を澄ませる。
「なあ、例の『プレイヤーイーター』の噂、聞いたか?」
「ああ、沼にいるっていう、擬態する化け物のことだろ? なんか、PKerを返り討ちにして喰っちまうらしいぜ」
「マジかよ……PKerも怖いが、そいつはもっとヤバそうだな。遭遇したら絶対逃げような」
「だよな。ギルド『ジャッジメント』も、目撃情報を集めてるって話だし」
やはり、噂はかなり広まっているようだ。しかも、大手ギルド『ジャッジメント』の名前まで出てきた。プロットにあった、あの正義(あるいは独善)を振りかざすPKKギルドか。厄介な連中に目をつけられたものだ。
『しかし、プレイヤーを喰らう化け物、ね……ある意味、ロールプレイとしては面白いかもしれんが』
皮肉な笑みが、もし表情があれば浮かんでいたことだろう。プレイヤーたちは、ゼロの存在に気づくことなく、鉱石をいくつか掘り当てると、足早に去っていった。
彼らが去った後、ゼロは鉱山地帯の探索を再開した。廃坑の入り口がいくつか見つかったが、どれも崩落の危険がありそうだ。しかし、そのうちの一つ、比較的状態の良い坑道の入り口近くで、ゼロは興味深いものを発見した。
それは、誰かが置き忘れたのか、あるいは罠として設置したのか、古びた木製の宝箱だった。
『宝箱……擬態の対象としては、これ以上なく魅力的だな』
プレイヤーの射幸心を煽り、無警戒に近づかせる。これまでの岩や茂みへの擬態とは異なり、より能動的に相手を誘い込むことができる。
ゼロは早速、宝箱への【擬態】を試みた。ゲル状の体をゆっくりと変形させ、木目や金属の留め具、古びた質感を再現していく。擬態Lv.4と不定形進化(第二段階)の能力により、それは驚くほど精巧に成し遂げられた。サイズこそ元のゼロの体積に依存するため、やや小ぶりな宝箱になったが、見た目は完璧だ。魔力感知で探っても、僅かながら『アイテムが入っている』かのような魔力の揺らぎまで偽装している。
擬態を完了し、ゼロは宝箱として坑道の入り口脇に鎮座した。あとは、獲物(あるいは実験台)がかかるのを待つだけだ。
しばらくすると、ソロで行動しているらしい、軽装の盗賊風プレイヤーが坑道にやってきた。彼は周囲を警戒しながらも、ゼロ(宝箱)の存在に気づくと、目を輝かせた。
「おっと、こんな所にお宝発見!」
彼は罠を警戒する様子もなく、いそいそと宝箱に駆け寄ってくる。そして、蓋を開けようと手をかけた、その瞬間。
バコンッ!!
ゼロは擬態を維持したまま、宝箱の『蓋』の部分を勢いよく開閉させ、プレイヤーの手を挟み込んだ!
「ぎゃあああっ!? い、痛てぇ! なんだこれ!?」
プレイヤーは驚き、悲鳴を上げる。ゼロはさらに、宝箱の内部から【粘性操作】で作り出した粘液の触手を伸ばし、プレイヤーの腕に絡みつかせた。
「ひぃぃぃ! お、お化け箱か!? いや、違う、なんだこのネバネバ!?」
プレイヤーはパニックに陥り、必死に腕を引き抜こうとするが、粘液と宝箱の蓋(ゼロの体の一部)に阻まれて逃げられない。
ゼロは、このまま捕食することもできた。だが、今は力を誇示することよりも、情報を集め、自身の存在をコントロールすることの方が重要だと判断した。それに、ここで騒ぎを起こせば、他のプレイヤーや、あるいはジャッジメントの注意を引いてしまうかもしれない。
ゼロは粘液の拘束を解き、蓋を解放した。プレイヤーは転がるようにして宝箱から離れ、恐怖に引きつった顔でゼロ(宝箱)を睨みつける。
「な、なんなんだよ、お前……! まさか、噂の……!?」
ゼロは何も答えず、ただ宝箱の姿のまま、そこに鎮座している。プレイヤーはしばらく警戒していたが、やがて武器を拾うと、一目散に坑道の外へと逃げ去っていった。
『ふむ、宝箱擬態は有効だな。精神的なダメージも大きいようだ』
ゼロは擬態を解除し、元の不定形の姿に戻った。プレイヤーをからかうのは、思った以上に楽しいかもしれない。だが、同時に、自分の行動がさらなる噂を生み、危険を招く可能性も理解していた。
鉱山地帯の探索を続け、ゼロはいくつかの坑道に入ってみた。内部には、コウモリ型のモンスターや、岩石に擬態した小型ゴーレム、あるいは金属質の鉱石を捕食して生きるスライムなど、新たな捕食対象がいた。それらを狩り、ステータスを微増させながら、【石材知識】や【ゴーレムコア解析】のスキル経験を積んでいく。
ある坑道の奥深くで、ゼロは偶然、地底湖のような空間を発見した。遺跡の地底湖ほどではないが、水は澄んでおり、壁面には青白く光る鉱石がびっしりと埋まっている。美しい光景だが、同時に強い魔力が満ちており、水の中には強力な水棲モンスターの気配も感じられた。
『ここを当面の拠点にするのも悪くないかもしれないな』
入り口が狭く、内部は広い。水も利用できるし、光る鉱石は【光合成】の助けにもなるだろう。プレイヤーがここまで到達する可能性も低い。
ゼロは、その地底湖のある坑道を仮の拠点と定め、周辺の探索と自己強化を続けることにした。石板にあった『エルミナ』の手がかりは見つからないが、焦る必要はない。力を蓄え、情報を集め、来るべき『選択の刻』に備える。それが今のゼロにできる最善のことだ。
廃鉱の闇の中、虹色に揺らめく不定形のモンスターは、静かに、しかし着実に、その牙を研ぎ澄ませていく。プレイヤーたちの間で囁かれる『プレイヤーイーター』の噂は、まだ序章に過ぎないのかもしれない。本当の『遭遇』は、これから始まるのだから。
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名前: ゼロ
種族: 名無し(進化体)
称号: 千貌を喰らう者
所属: 未定義
【能力値】
体力: 55
魔力容量: 40
物理攻撃力: 15
物理防御力: 35
魔法攻撃力: 18
魔法防御力: 30
素早さ: 8
【スキル】
(※前話からの変化なし)
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