モブモンスターですが何か? ~VRMMOで魔物ロールプレイを満喫していたら、いつの間にか災害級になっていた件~

夏見ナイ

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エピソード28:翼持つ者の視界

リッチとカースド・ロックを捕食し、呪われた森の深淵から生還したゼロ。その身には、空を駆るための黒き翼と、闇や死霊を操る新たな力が宿っていた。もはや、地を這うだけの存在ではない。空という広大な領域が、ゼロの新たな狩場であり、逃走経路となったのだ。

ゼロは、呪われた森を後にすると、早速【飛行】スキルを試すことにした。背中から生やしたゲル状の翼は、ゼロの意思に応じて自在に形を変え、力強く空気を打ち付ける。最初はぎこちない動きだったが、【飛行戦闘(初級)】スキルと持ち前の適応能力により、すぐに滑らかな飛行が可能になった。

高度を上げるにつれて、視界が一気に開ける。眼下には、これまで断片的にしか認識できなかった世界の姿が広がっていた。鬱蒼とした森、荒涼とした鉱山地帯、湿地の広がる沼、そして遠くに見える街の輪郭。地上からでは決して得られなかったであろう、広大な世界の俯瞰図。

『これは……想像以上だな』

地形の把握だけでなく、魔力の流れやモンスターの分布なども、上空からならばより広範囲に、そして効率的に探ることができる。【魔力感知(中級)】と組み合わせれば、隠された場所や異常な魔力の集中なども発見しやすいだろう。

ゼロはしばらくの間、飛行能力の習熟に時間を費やした。高速での飛行、急旋回、空中での静止。翼の形状を変化させ、風の流れを利用する感覚を掴んでいく。そして、【形態変化戦闘(上級)】スキルを応用し、翼自体を武器として使う訓練も行った。翼を鋭い刃のように硬化させ、高速で敵を切り裂く。あるいは、翼から【腐食毒液】や【闇属性操作(初級)】によるエネルギー弾を放つ。空中戦という新たな次元での戦闘スタイルが、ゼロの中で形作られつつあった。

飛行中に、いくつかの発見もあった。険しい山脈の中腹に、明らかに人工的な建造物の入り口が見えたり、分厚い雲の上に、巨大な植物の島のようなものが浮かんでいるのが見えたりした。これらは、地上からは決して見つけることのできない、高難易度エリアへの入り口なのかもしれない。

『世界の秘密は、まだまだ隠されているということか』

しかし、今のゼロの最優先事項は、石板にあった『エルミナ』という存在の手がかりを探すことだ。あの断片的な情報が、ゼロの根源――『名無し』の秘密――に繋がっている気がしてならなかった。

エルミナに関する情報を得るためには、やはりプレイヤーが集まる場所へ行く必要がある。しかし、街の近くはジャッジメントの監視網が敷かれている可能性が高い。

『ならば、彼らが集まる別の場所……高レベルのダンジョンや、レイドボスの出現地点付近ならどうだ?』

そういった場所には、当然強力なプレイヤーが集まるためリスクは高い。だが、彼らの会話からは、最新の情報や、世界の深部に関する噂を聞き出せるかもしれない。

ゼロは、以前プレイヤーの会話で聞いた『古代図書館』の調査クエストを思い出した。世界の成り立ちに関する文献が見つかるかもしれないという噂。エルミナに関する情報がある可能性も否定できない。

ゼロは、プレイヤーたちが利用しているであろう情報サイト(もちろん直接アクセスはできないので、断片的な情報からの推測だが)や、これまでの経験から、古代図書館の位置を大まかに特定した。それは、忘れられた王国跡よりもさらに東、険しい山脈の奥深くにあるらしい。

目的地を定め、ゼロは飛行を開始した。高高度を維持し、【擬態】で雲や、あるいは大型の鳥などに姿を変えながら、慎重に進む。

古代図書館があるとされる山脈に近づくと、上空からでも複数のプレイヤーパーティが活動しているのが見えた。彼らは山脈の麓にあるダンジョンに挑んだり、強力なモンスターを狩ったりしているようだ。中には、飛行系の騎乗ペットに乗っているプレイヤーもいる。

ゼロは、彼らに気づかれないように距離を取りつつ、会話を盗み聞きできそうな場所を探した。山頂付近にある、風化した見張り塔の残骸。そこなら、周囲を見渡せるし、休憩に立ち寄るプレイヤーもいるかもしれない。

見張り塔の壁に鳥のように擬態し、ゼロはじっと待った。やがて、数人のプレイヤーパーティが見張り塔にやってきた。装備から察するに、かなりの手練れだ。

「ふぅ、やっと休憩か。この山のモンスター、地味にタフだよな」
「まったくだ。そろそろ古代図書館の調査隊と合流しないとか」
「ああ、図書館の入り口は見つかったらしいが、内部の防御機構がヤバいらしいぜ。先行したパーティがいくつか壊滅したとか」
「マジかよ……。ジャッジメントの連中もかなり苦戦してるって話だ」

やはり、古代図書館は発見されていた。そして、ジャッジメントも関与している。しかも、内部は相当な難易度らしい。

「まあ、俺たちの目的は図書館そのものじゃない。エルミナ様の使いを探すことだからな」
「そうだな。あの賢者様が、図書館の奥に何か重要なものを隠したって伝承があるらしいし」

『エルミナ!』

ゼロのコアが、微かに脈打った。やはり、エルミナはこの古代図書館と何らかの関係があるらしい。しかも、『賢者』と呼ばれている。これは重要な手がかりだ。

「しかし、エルミナ様の使いって、どんな奴なんだろうな? NPCか? それとも特殊なモンスターか?」
「さあな。ただ、『星見の塔』から遣わされた、ってことしか分からん」

『星見の塔……!』

新たなキーワード。エルミナがいる場所、あるいは彼女に関連する重要な場所の名前か?

情報収集は成功だ。ゼロは、このパーティが立ち去るのを待ち、すぐに見張り塔から飛び立った。

古代図書館、賢者エルミナ、星見の塔。点と点が繋がり始め、進むべき道筋が見えてきた気がした。

まずは、星見の塔を探し、エルミナに接触する。それが最優先だろう。古代図書館は、その後でも遅くない。

だが、ゼロが山脈を離れようとした、その時だった。

鋭い警告音のようなものが、ゼロの【魔力感知】に引っかかった。上空、はるか高みから、何かが急速に接近してくる!

見上げると、そこには銀色に輝く巨大な飛行機械――ジャッジメントの飛行艇がいた! 船体には天秤の紋章が描かれ、側面には魔力砲らしきものがいくつも並んでいる。そして、甲板には見覚えのある姿があった。銀髪をなびかせ、冷徹な瞳でこちらを見据える、セラフィナ!

『飛行艇まで持ち出してきたか! しかも、どうやって俺の位置を!?』

ゼロは舌打ちし(もし舌があればだが)、即座に回避行動に移った。【飛行】スキルで速度を上げ、雲の中に紛れ込もうとする。

「逃がしませんよ、異分子」

セラフィナの声が、拡声器を通して響き渡る。飛行艇から、対空用の追尾型魔法弾がいくつも発射された!

ゼロは空中での回避機動を駆使し、魔法弾を紙一重でかわしていく。だが、弾数は多く、しつこく追尾してくる。いくつかの魔法弾が掠め、【装甲化】された体表を削る。

さらに、飛行艇から複数のプレイヤーが飛び降りてきた! 彼らは特殊な降下装備や、飛行系の魔法を使って、ゼロを包囲しようとする。空中での戦闘に特化した部隊だ!

『まずい、完全に捕捉されている!』

ジャッジメントは、ゼロが飛行能力を獲得したことすら予測し、対策を講じていたのだ。彼らの情報網と組織力は、ゼロの想像を遥かに超えていた。

ゼロは、追撃を振り切るため、進路を急に変え、眼下の険しい山脈の谷間へと急降下した! 複雑な地形を利用し、追手の目を眩まそうという算段だ。

飛行艇は巨体ゆえに谷間には入れない。だが、降下してきたプレイヤーたちは、巧みな飛行技術でゼロを追ってくる。

谷間での高速チェイス。岩壁を掠めながら、ゼロは必死に逃げる。追ってくるプレイヤーたちも、ゼロの予測不能な動きに翻弄されながらも、徐々に距離を詰めてくる。

このままでは、いずれ捕まる。何か、状況を打開する手はないか?

ゼロは、谷底を流れる川と、その先にある滝壺に目をつけた。

『あれを利用する!』

ゼロは、追手を引きつけながら滝壺へと突っ込む! 水中に飛び込むと同時に【水中適応(中級)】スキルを発動し、水の抵抗を最小限に抑えながら川底を潜行する。

追ってきたプレイヤーたちは、ゼロが水中に逃げ込んだのを見て、躊躇した。水中での戦闘は、彼らにとっても不得手なのだろう。

その隙に、ゼロは川の流れを利用して下流へと高速で移動し、追跡を完全に振り切ることに成功した。

川から上がり、近くの森に身を隠したゼロは、改めてジャッジメントの執拗さと、セラフィナの脅威を痛感していた。

『星見の塔へ向かうのは、容易ではないな……』

だが、諦めるわけにはいかない。エルミナに会わなければ、この世界の謎も、自身の存在理由も分からないままだ。

ゼロは、ジャッジメントの追跡をさらに警戒しつつ、より隠密に、より巧妙に、星見の塔を目指すことを決意した。手に入れた飛行能力は、逃走だけでなく、奇襲や情報収集にも使えるはずだ。

翼持つ者の孤独な旅は、強大な追跡者の影に怯えながらも、星々の知識を求める賢者の塔へと、その針路を向け続ける。深淵への誘いは、ゼロをさらなる試練へと導こうとしていた。

---

名前: ゼロ
種族: 名無し(進化体)
称号: 千貌を喰らう者
所属: 未定義

【能力値】
体力: 68
魔力容量: 50
物理攻撃力: 20
物理防御力: 39
魔法攻撃力: 23
魔法防御力: 35
素早さ: 10

【スキル】
(※前話からの変化なし)
感想 4

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