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エピソード31:星見の塔の賢者
星屑が舞う静寂な空間。眼下に広がる青い惑星。そして、目の前に立つ、賢者エルミナと名乗る存在。ゼロは、その圧倒的なまでの存在感と、全てを見透かすかのような深い瞳に見つめられ、わずかに身じろぎした。
《――よくぞ辿り着きました、名を失いし子。私はエルミナ。この『星見の塔』にて、あなたを待っていました》
エルミナの声は、ゼロの心に直接響いた。それは、ゼロがサイコ・クリスタルから得た【精神感応(テレパシー)(初級)】とは比較にならないほど、クリアで、自然な意思の伝達だった。
『……俺を、待っていた? なぜ?』
ゼロは、獲得したばかりのテレパシースキルを使い、疑問をエルミナに向けて発した。言葉ではなく、純粋な思考の形で。スキルレベルはまだ初級だが、エルミナほどの存在ならば、この拙い意思疎通も受け取れるはずだ。
エルミナは穏やかに微笑む。その瞳は、ゼロの不定形の体の奥、揺らめく虹色のコアを見つめているようだった。
《あなたのような存在が現れることは、星々の運行が、そしてこの世界の法則が、予感させていました。システムが生み出した、予定調和の物語。その織物の中に紛れ込んだ、一本の異質な糸。それが、あなた――『名無し』です》
『異質な糸……システム……? やはり、俺の存在はバグのようなものなのか?』
《バグ、エラー、あるいは可能性。捉え方は様々でしょう。ですが、一つ確かなことは、あなたはこの世界の法則に縛られながらも、その外側から影響を与えることができる、稀有な存在だということです》
エルミナはゆっくりと杖を掲げ、眼下の惑星を指し示した。
《この世界『エターナル・フロンティア』は、高度なシステムによって管理され、運営されています。プレイヤーと呼ばれる異世界からの魂たちは、定められた法則の中で活動し、物語を紡いでいく。しかし、あなたは違う。レベルではなく捕食によって進化し、定められた種族の枠を超え、システムの想定を超えた力を獲得していく》
エルミナの言葉は、ゼロが漠然と感じていた自身の特異性を裏付けるものだった。
『あなたは、一体何者なんだ? なぜ、そんなことを知っている?』
ゼロは問いかける。この世界の秘密を知る賢者。彼女は何を目的とし、なぜ自分を待っていたのか。
《私は、そうですね……強いて言うならば、この世界の『観測者』であり、時に『調律者』となる者、とでも言っておきましょうか。はるか昔、この世界が形作られる以前から、星々の流れと、そこに生まれるであろう物語を見守ってきました》
エルミナはわずかに目を伏せる。
《そして、あなたのような『名を失いし者』が、この世界の未来において、重要な役割を果たすであろうことも……》
『重要な役割? 俺が?』
《ええ。システムは、自身の安定を揺るがす異物を許しません。いずれ、より強力な『排除機構』――例えば、ジャッジメントのような尖兵や、あるいはゲームマスターと呼ばれる存在――が、あなたを排除、あるいは捕獲しようと動き出すでしょう》
エルミナの言葉は、ゼロが既に経験した事実と一致していた。
《ですが、その異質さ故に、あなたはこの世界の『停滞』を打ち破り、新たな可能性をもたらす鍵ともなり得るのです》
『停滞……?』
《この世界は、ある種の袋小路に入りつつあります。繰り返される英雄譚、予定された災厄。システムが生み出す物語は、やがて摩耗し、色褪せていく。あなたはその流れを変えるかもしれない、一つの『変数』なのです》
エルミナの言葉は、壮大で、掴みどころがない。だが、ゼロは彼女が嘘を言っているとは思えなかった。
『ならば、教えてくれ。俺はどうすればいい? この世界の秘密とは? 俺のような存在は、他にいるのか?』
ゼロは矢継ぎ早に問いを発する。
エルミナは静かに首を横に振った。
《全ての答えを、今ここであなたに与えることはできません。知るためには、あなた自身が成長し、この世界の深淵に触れ、真実を見極めるための『資格』を得る必要があります》
『資格……?』
《ええ。そのための『試練』を、あなたに与えましょう。それは、あなたの持つ力――捕食と進化、そして知恵を試すものとなるでしょう》
エルミナは杖を軽く振るうと、ゼロの目の前に星屑が集まり、一つのイメージを形作った。それは、巨大な竜のような生物の姿だった。だが、その体は生身ではなく、まるで流星や星雲そのもので構成されているかのような、幻想的な姿だ。
《星詠みの竜、アストラル・ドレイク。かつてこの星見の塔に仕え、星々の知識を守護していた存在です。しかし、長い年月の間にその力は暴走し、今は塔の下層、時の狭間とも言うべき空間を彷徨っています》
エルミナは続ける。
《試練は、このアストラル・ドレイクを見つけ出し、その核――『星屑の心臓』を捕食し、ここに持ち帰ることです》
『星詠みの竜……その心臓を捕食しろ、と?』
千貌の守護像を超えるであろう、強大な存在。それを狩ることが試練だというのか。
《アストラル・ドレイクは、物理的な攻撃だけでなく、時間や空間に干渉する特殊な能力を持っています。力押しだけでは勝てないでしょう。あなたの持つ全てのスキルと知恵を総動員し、そして何よりも、その『捕食』能力の本質を理解する必要があります》
エルミナの瞳が、ゼロのコアを射抜くように見つめる。
《『捕食』は、単に対象を喰らい、力を奪うだけの行為ではありません。それは、対象の存在、記憶、知識、そしてその在り方そのものを取り込み、自らの一部として再構築する、創造と破壊の根源的な力。それを正しく理解し、制御できた時、あなたは更なる進化を遂げるでしょう》
『……』
ゼロは黙ってエルミナの言葉を聞いていた。捕食の本質。それは、漠然と感じてはいたが、明確に意識したことはなかった。
《試練を達成した暁には、あなたに更なる知識を与えましょう。『名無し』の起源、この世界の真の姿、そして、あなたがこれから進むべき道について……。そして、ささやかながら、あなたのコアの安定と進化を助ける『祝福』も授けます》
エルミナは手を差し伸べるように、ゼロに選択を促す。
ゼロに迷いはなかった。情報を得るため、そして、さらなる進化のため。この試練を受けるしかない。
『……分かった。その試練、受けよう』
ゼロはテレパシーで明確な意思を伝えた。
《よろしい》
エルミナは満足そうに頷くと、再び杖を振るった。ゼロの足元に、転送魔法陣が輝き始める。
《アストラル・ドレイクは、塔の下層、かつて『時の観測室』と呼ばれた空間にいます。そこへ繋がる道は、今、開かれました。ただし、内部の時間は不安定です。過去の幻影や、未来の可能性が、あなたを惑わすかもしれません。ご注意なさい》
そして、エルミナは最後に、慈愛とも憐憫ともつかない、複雑な表情でゼロを見つめた。
《……孤独な旅路となるでしょう、名を失いし子。ですが、あなたの選択が、この世界の未来を、星々の運命をも変えるかもしれません。どうか、あなた自身の『答え』を見つけ出してください》
その言葉を最後に、ゼロの体は転送魔法の光に包まれ、星見の塔の最上階から姿を消した。
後に残されたエルミナは、眼下の惑星を静かに見つめながら、小さく呟いた。
「さあ、紡ぎなさい、あなただけの物語を。法則の外で輝く、混沌の星よ……」
その声は、星々の瞬きの中に、静かに溶けていった。
---
名前: ゼロ
種族: 名無し(進化体)
称号: 千貌を喰らう者
所属: 未定義
【能力値】
体力: 70
魔力容量: 53
物理攻撃力: 20
物理防御力: 40
魔法攻撃力: 26
魔法防御力: 38
素早さ: 11
【スキル】
(※前話からの変化なし。ただしエルミナから世界の秘密や「名無し」に関する情報を得たことで、知識・認識レベルが向上)
《――よくぞ辿り着きました、名を失いし子。私はエルミナ。この『星見の塔』にて、あなたを待っていました》
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『……俺を、待っていた? なぜ?』
ゼロは、獲得したばかりのテレパシースキルを使い、疑問をエルミナに向けて発した。言葉ではなく、純粋な思考の形で。スキルレベルはまだ初級だが、エルミナほどの存在ならば、この拙い意思疎通も受け取れるはずだ。
エルミナは穏やかに微笑む。その瞳は、ゼロの不定形の体の奥、揺らめく虹色のコアを見つめているようだった。
《あなたのような存在が現れることは、星々の運行が、そしてこの世界の法則が、予感させていました。システムが生み出した、予定調和の物語。その織物の中に紛れ込んだ、一本の異質な糸。それが、あなた――『名無し』です》
『異質な糸……システム……? やはり、俺の存在はバグのようなものなのか?』
《バグ、エラー、あるいは可能性。捉え方は様々でしょう。ですが、一つ確かなことは、あなたはこの世界の法則に縛られながらも、その外側から影響を与えることができる、稀有な存在だということです》
エルミナはゆっくりと杖を掲げ、眼下の惑星を指し示した。
《この世界『エターナル・フロンティア』は、高度なシステムによって管理され、運営されています。プレイヤーと呼ばれる異世界からの魂たちは、定められた法則の中で活動し、物語を紡いでいく。しかし、あなたは違う。レベルではなく捕食によって進化し、定められた種族の枠を超え、システムの想定を超えた力を獲得していく》
エルミナの言葉は、ゼロが漠然と感じていた自身の特異性を裏付けるものだった。
『あなたは、一体何者なんだ? なぜ、そんなことを知っている?』
ゼロは問いかける。この世界の秘密を知る賢者。彼女は何を目的とし、なぜ自分を待っていたのか。
《私は、そうですね……強いて言うならば、この世界の『観測者』であり、時に『調律者』となる者、とでも言っておきましょうか。はるか昔、この世界が形作られる以前から、星々の流れと、そこに生まれるであろう物語を見守ってきました》
エルミナはわずかに目を伏せる。
《そして、あなたのような『名を失いし者』が、この世界の未来において、重要な役割を果たすであろうことも……》
『重要な役割? 俺が?』
《ええ。システムは、自身の安定を揺るがす異物を許しません。いずれ、より強力な『排除機構』――例えば、ジャッジメントのような尖兵や、あるいはゲームマスターと呼ばれる存在――が、あなたを排除、あるいは捕獲しようと動き出すでしょう》
エルミナの言葉は、ゼロが既に経験した事実と一致していた。
《ですが、その異質さ故に、あなたはこの世界の『停滞』を打ち破り、新たな可能性をもたらす鍵ともなり得るのです》
『停滞……?』
《この世界は、ある種の袋小路に入りつつあります。繰り返される英雄譚、予定された災厄。システムが生み出す物語は、やがて摩耗し、色褪せていく。あなたはその流れを変えるかもしれない、一つの『変数』なのです》
エルミナの言葉は、壮大で、掴みどころがない。だが、ゼロは彼女が嘘を言っているとは思えなかった。
『ならば、教えてくれ。俺はどうすればいい? この世界の秘密とは? 俺のような存在は、他にいるのか?』
ゼロは矢継ぎ早に問いを発する。
エルミナは静かに首を横に振った。
《全ての答えを、今ここであなたに与えることはできません。知るためには、あなた自身が成長し、この世界の深淵に触れ、真実を見極めるための『資格』を得る必要があります》
『資格……?』
《ええ。そのための『試練』を、あなたに与えましょう。それは、あなたの持つ力――捕食と進化、そして知恵を試すものとなるでしょう》
エルミナは杖を軽く振るうと、ゼロの目の前に星屑が集まり、一つのイメージを形作った。それは、巨大な竜のような生物の姿だった。だが、その体は生身ではなく、まるで流星や星雲そのもので構成されているかのような、幻想的な姿だ。
《星詠みの竜、アストラル・ドレイク。かつてこの星見の塔に仕え、星々の知識を守護していた存在です。しかし、長い年月の間にその力は暴走し、今は塔の下層、時の狭間とも言うべき空間を彷徨っています》
エルミナは続ける。
《試練は、このアストラル・ドレイクを見つけ出し、その核――『星屑の心臓』を捕食し、ここに持ち帰ることです》
『星詠みの竜……その心臓を捕食しろ、と?』
千貌の守護像を超えるであろう、強大な存在。それを狩ることが試練だというのか。
《アストラル・ドレイクは、物理的な攻撃だけでなく、時間や空間に干渉する特殊な能力を持っています。力押しだけでは勝てないでしょう。あなたの持つ全てのスキルと知恵を総動員し、そして何よりも、その『捕食』能力の本質を理解する必要があります》
エルミナの瞳が、ゼロのコアを射抜くように見つめる。
《『捕食』は、単に対象を喰らい、力を奪うだけの行為ではありません。それは、対象の存在、記憶、知識、そしてその在り方そのものを取り込み、自らの一部として再構築する、創造と破壊の根源的な力。それを正しく理解し、制御できた時、あなたは更なる進化を遂げるでしょう》
『……』
ゼロは黙ってエルミナの言葉を聞いていた。捕食の本質。それは、漠然と感じてはいたが、明確に意識したことはなかった。
《試練を達成した暁には、あなたに更なる知識を与えましょう。『名無し』の起源、この世界の真の姿、そして、あなたがこれから進むべき道について……。そして、ささやかながら、あなたのコアの安定と進化を助ける『祝福』も授けます》
エルミナは手を差し伸べるように、ゼロに選択を促す。
ゼロに迷いはなかった。情報を得るため、そして、さらなる進化のため。この試練を受けるしかない。
『……分かった。その試練、受けよう』
ゼロはテレパシーで明確な意思を伝えた。
《よろしい》
エルミナは満足そうに頷くと、再び杖を振るった。ゼロの足元に、転送魔法陣が輝き始める。
《アストラル・ドレイクは、塔の下層、かつて『時の観測室』と呼ばれた空間にいます。そこへ繋がる道は、今、開かれました。ただし、内部の時間は不安定です。過去の幻影や、未来の可能性が、あなたを惑わすかもしれません。ご注意なさい》
そして、エルミナは最後に、慈愛とも憐憫ともつかない、複雑な表情でゼロを見つめた。
《……孤独な旅路となるでしょう、名を失いし子。ですが、あなたの選択が、この世界の未来を、星々の運命をも変えるかもしれません。どうか、あなた自身の『答え』を見つけ出してください》
その言葉を最後に、ゼロの体は転送魔法の光に包まれ、星見の塔の最上階から姿を消した。
後に残されたエルミナは、眼下の惑星を静かに見つめながら、小さく呟いた。
「さあ、紡ぎなさい、あなただけの物語を。法則の外で輝く、混沌の星よ……」
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