モブモンスターですが何か? ~VRMMOで魔物ロールプレイを満喫していたら、いつの間にか災害級になっていた件~

夏見ナイ

文字の大きさ
34 / 89

エピソード34:賢者の知識と祝福

星屑の光に包まれる感覚が消え、ゼロは再び星見の塔の最上階、エルミナの立つ場所へと戻っていた。眼下には変わらず青い惑星が輝き、周囲には宇宙の静寂が満ちている。

エルミナは、アストラル・ドレイクの力を取り込み、その存在感をさらに増したゼロを見て、満足そうに深く頷いた。

《――見事に試練を乗り越えましたね、名を失いし子。あなたのコアに宿る星屑の輝き、そして時間の揺らぎ。アストラル・ドレイクの力を、あなたは確かにその身に取り込んだようです》
エルミナの声が、ゼロの心に直接響く。

『ああ。容易ではなかったがな』
ゼロは【精神感応(テレパシー)(初級)】で返す。まだ拙い意思疎通だが、エルミナは正確に受け取っているようだ。

《容易でないからこその試練です。あなたは力だけでなく、捕食という行為の本質――対象の在り方そのものを取り込むという側面――を、身をもって理解し始めた。それは大きな進歩です》

エルミナは、アストラル・ドレイクを討伐したこと以上に、ゼロが捕食の本質に触れたことを評価しているようだった。

『約束通り、教えてもらおう。俺は、そしてこの世界は、一体何なんだ?』
ゼロは核心に迫る問いを発した。

エルミナはしばし黙考するように目を伏せ、やがてゆっくりと語り始めた。

《この世界『エターナル・フロンティア』は、遥か古代、強大な力を持つ存在――我々が『創造主』と呼ぶ者たち――によって、ある目的のために創られました。それは、新たな『神』、あるいは世界を統べる『法則』そのものを生み出すための、壮大な実験場なのです》

『神を……生み出す?』

《ええ。創造主たちは、様々な世界から魂を呼び寄せ――それが、あなたたちがプレイヤーと呼ぶ存在です――この仮想世界で競わせ、成長させ、試練を与えることで、究極の進化を促そうとしました。レベル、スキル、クエスト、それらは全て、魂を効率的に鍛え上げ、選別するためのシステムです》

ゼロの脳裏に、EFOの宣伝文句や、プレイヤーたちの会話が蘇る。彼らは皆、ゲームとして楽しみ、強さを求めているが、その裏では、神を生み出すための壮大な実験に参加させられていたというのか。

《しかし、実験は完全ではありませんでした。システムには歪みが生じ、予期せぬ存在が生まれることがあります。それが、あなたのような『名無し』――システムに登録されず、レベルを持たず、捕食によって進化するイレギュラーな存在です》

『俺たちは、システムの想定外の産物……ということか』

《そうとも言えます。ですが、見方を変えれば、あなたたちはシステムに縛られない自由な進化の可能性を秘めているとも言える。創造主たちの意図を超え、全く新しい存在へと至るかもしれない……そんな危険な可能性を》

エルミナの言葉は、ゼロの存在意義を根底から揺さぶるものだった。単なるバグではなく、新たな可能性。しかし、それは同時に、システムにとって排除すべき脅威であることをも意味している。

『俺のような「名無し」は、他にもいるのか?』

《過去には存在したかもしれません。しかし、システムの自動修復機能や、あるいは『調律者』によって、その多くは消滅するか、システムに再統合されていったでしょう。現在、この世界であなたほど明確な自我と力を持って活動している『名無し』は、おそらくあなただけのはずです》

孤独。その事実が、改めてゼロに重くのしかかる。

『あなたは……調律者、なのか? 俺を排除するつもりは?』

《私は観測者であり、時に調律者となります。ですが、私の役目は、世界の『可能性』を見守り、それが閉ざされぬように導くこと。あなたを一方的に排除することは、私の本意ではありません。むしろ、あなたがもたらす変化に期待している部分すらあります》
エルミナは杖を軽くつき、言葉を続ける。
《ただし、あなたが世界の破滅を招くような存在へと変貌したならば、その時は……私も調律者としての役目を果たさねばならなくなるでしょう》

それは、忠告であり、警告でもあった。ゼロの力の使い方次第では、エルミナも敵に回りうるということだ。

『……分かった。では、最後の質問だ。俺がこれから進むべき道とは?』

《それは、あなた自身が決めることです》
エルミナは即答した。
《システムの実験体として新たな神を目指す道。システムに抗い、自由な存在として頂点を極める道。あるいは、全てを破壊し、混沌へと回帰する道。あなたには、その選択の自由がある。ただし……》

エルミナは一旦言葉を切り、ゼロのコアを真っ直ぐに見つめた。
《どの道を選ぶにせよ、あなたは多くの存在と対峙することになるでしょう。プレイヤー、他のモンスター、ジャッジメントのような組織、運営、そしていずれは……創造主たちの遺した思念や、あるいは彼ら自身と》

それは、茨の道であるという宣告だった。

《ですが、恐れることはありません。あなたの進化は、まだ始まったばかり。捕食し、学び、変化し続ける限り、あなたの可能性は無限です》

エルミナはそう言うと、杖の先端に星屑のような光を集め始めた。
《約束通り、あなたに知識と祝福を授けましょう。まずは、あなたがこれから出会うであろう、いくつかの重要な存在と場所に関する知識を》

エルミナの杖から放たれた光が、ゼロのコアに流れ込んでくる。それは、特定のスキルというよりも、膨大な情報の断片だった。ジャッジメントの内部構造や主要メンバーに関する情報。いくつかの高難易度ダンジョンやエリアに関する地理的・生態的知識。そして、『星見の塔』や『古代図書館』以外にも存在する、世界の秘密に関わる古代遺跡の場所や伝承。さらに、トップランカープレイヤーたちの名前と特徴、彼らが持つユニークスキルや装備に関する断片的な情報も含まれていた。

これは、今後のゼロの行動において、計り知れない価値を持つ情報だ。

《次に、祝福を。あなたのコアの安定性をさらに高め、進化の可能性を広げるための、ささやかな助けです》

再び杖から光が放たれ、ゼロのコアを優しく包み込む。温かく、清浄なエネルギーがコアに浸透し、その構造をより強固に、そして柔軟にしていくのを感じた。コア制御スキルがさらに洗練され、不定形進化の方向性にも新たな広がりが生まれたような感覚があった。具体的にスキルレベルが上がったわけではないが、潜在能力が底上げされたような状態だ。

《知識と祝福は授けました。これからは、あなた自身の力で道を選び、進んでください》
エルミナは告げる。
《ただし、一つだけ助言を。あなたの存在は、既に多くの者に知られ、警戒されています。特に、ジャッジメントのリーダー、セラフィナは、あなたを最大の脅威と見なし、あらゆる手段を用いて排除しようとするでしょう。彼女の持つ『聖なる力』は、今のあなたにとっても依然として脅威です。決して油断なきよう》

『……肝に銘じておく』

《いずれ、また会うこともあるでしょう。あなたが更なる進化を遂げ、新たな問いを抱いた時に……。あるいは、世界の選択が迫られた時に》

エルミナはそう言うと、再び転送魔法陣を起動させた。
《行き先は? 地上に戻りますか? それとも、あなたが望む場所へ?》

ゼロはしばし考えた。ジャッジメントの追跡は続いているだろう。地上に戻るのはまだ危険だ。それに、エルミナから得た情報の中に、特に気になる場所があった。それは、プレイヤーがほとんど足を踏み入れないという、火山地帯の奥深くに存在する『竜の巣』と呼ばれるエリアだ。そこには、古代の竜種、あるいはその末裔が生息しているという。竜種の捕食は、ゼロに更なる飛躍的な進化をもたらすかもしれない。

『……南方の火山地帯、『竜の巣』と呼ばれる場所の近くへ』
ゼロは目的地を告げた。

《承知しました。ですが、竜種は誇り高く、そして強大な存在です。くれぐれも慎重に》
エルミナは忠告と共に、転送魔法を発動した。

再び光に包まれながら、ゼロはエルミナの言葉を反芻していた。創造主、神を生み出す実験、システムの歪み、選択の刻。世界の秘密は、ゼロが想像していた以上に深く、そして壮大だった。そして、その中で自分が果たすべき役割、あるいは選び取るべき道。

孤独な捕食者の旅は、新たな知識と祝福、そして重い宿命を背負い、灼熱の地へと向かう。星々の輝きに見送られながら。

---

名前: ゼロ
種族: 名無し(進化体・時喰)
称号: 千貌を喰らう者、星屑を宿す者
所属: 未定義

【能力値】
体力: 75
魔力容量: 60
物理攻撃力: 20
物理防御力: 42
魔法攻撃力: 28
魔法防御力: 40
素早さ: 12

【スキル】
(※スキルレベルの変化はないが、エルミナの祝福によりコア性能と進化ポテンシャルが向上。ジャッジメントや世界の秘密に関する知識レベルが大幅に上昇)
感想 4

あなたにおすすめの小説

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】