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エピソード50:邂逅、戦場のヒール
精霊の森を後にしたゼロは、システムの監視の目と、ジャッジメントの追跡網を警戒しつつ、次なる目的地を模索していた。災害級認定――それは、もはや単独のプレイヤーやギルドだけでなく、EFOという世界のシステムそのものがゼロを敵と見なしたことを意味する。隠れ潜むだけでは、いずれ追い詰められるだろう。
(ならば、攻めるしかないのか……? だが、どこを? 誰を?)
ジャッジメントの本拠地に乗り込む? セラフィナという最大の脅威は不在かもしれないが、それでもギルド全体の戦力は侮れない。それに、本拠地の場所すら正確には掴めていない。
あるいは、アルトを探し出し、決着をつける? 彼の実力は本物だが、今のゼロならば勝機はある。トップランカーを捕食すれば、さらなる進化と、プレイヤー社会への大きな示威行為になるだろう。だが、彼の居場所もまた不明だ。
エルミナに会うのも選択肢だが、星見の塔への道は遠く、再び辿り着ける保証はない。
ゼロが思案に暮れながら、比較的人里離れた山岳地帯を飛行していると、不意に大規模な戦闘の気配を【魔力感知(上級)】が捉えた。それは、単なるプレイヤー同士の小競り合いや、モンスター狩りではない。複数のパーティ、それもかなりの実力者たちが、一つの強大な存在と激しくぶつかり合っているような、混沌としたエネルギーの渦だった。
『レイド戦か……?』
興味を惹かれたゼロは、【万象擬態】で雲に同化しながら、戦闘の中心地へと近づいていった。
眼下に広がっていたのは、山頂付近にある巨大なクレーター状の盆地だった。その中心には、山脈そのものが擬人化したかのような、超巨大な岩石の巨人――マウンテン・タイタンがそびえ立ち、周囲を取り囲む多数のプレイヤーたちと激しい戦闘を繰り広げていた。
タイタンの一撃は大地を割り、プレイヤーたちの防御陣形を容易く打ち砕く。プレイヤーたちも、剣士が盾となり、魔法使いが遠距離から攻撃し、ヒーラーが必死に回復を飛ばすが、タイタンの圧倒的な体力と防御力の前に、ジリ貧に追い込まれているように見えた。いくつかのトップギルドの旗印も見えるが、連携は乱れ、統率が取れていないようだ。
(なるほど、エリアボス級、いや、それ以上のレイドボスか。プレイヤーたちも苦戦しているな)
ゼロは、高みの見物を決め込むつもりだった。プレイヤー同士が潰し合ってくれれば好都合だ。あるいは、タイタンが弱ったところを漁夫の利で捕食するという選択肢もある。
しかし、その時、ゼロの視線はある一点に釘付けになった。
戦闘の最前線、タイタンの巨大な足元で、必死に回復魔法を飛ばしている一人のヒーラー。見覚えのある、栗色の髪と、簡素だが丁寧に手入れされたローブ。
リリアだった。
彼女は、カイトやサラといった見慣れた仲間たちと共に、別のギルドのメンバーとも協力しながら、懸命に戦線を支えていた。だが、戦況は明らかに不利だ。タイタンの広範囲攻撃がパーティを襲い、カイトが庇うように前に出るが、盾ごと吹き飛ばされる! サラも戦斧で応戦するが、タイタンの腕の一薙ぎで地面に叩きつけられる!
「カイトさん! サラさん!」
リリアが悲鳴を上げ、二人に駆け寄ろうとするが、別のプレイヤーがそれを制止する。
「危ない! ヒーラーは前に出るな!」
「でも……!」
リリアの瞳には涙が浮かんでいる。それでも、彼女は杖を握りしめ、回復魔法を唱え続ける。仲間を、そして見知らぬ他のプレイヤーたちをも、必死に救おうとしている。
その姿を見て、ゼロの【混沌核】が、わずかに、しかし確かに揺らいだ。
(……面倒な)
なぜ、彼女がここにいるのか。なぜ、いつも危険な場所に首を突っ込んでいるのか。そして何より、なぜ、自分はこの状況を無視できないのか。
合理的に考えれば、介入するメリットは何もない。リリアを助けたところで、情報を得られる以上の見返りはないだろう。むしろ、ジャッジメントに再び位置を知られ、レイドに参加している多数のプレイヤーから敵意を向けられるリスクの方が遥かに大きい。
だが、ゼロの思考回路――元・神代零としての断片か、あるいは原初の不定形としての未知の衝動か――が、合理性を上回る何かを囁いていた。
あの時、沼地で。
あの時、鉱山地帯で。
そして、古代図書館で。
彼女は、ゼロを化け物として恐れながらも、どこかで信じようとしていた。その真っ直ぐな、ある意味で愚かしいほどの想いが、ゼロの中に僅かに残っていた『何か』を刺激する。
『……一度だけだ。これで、借りはなくなる』
ゼロは、誰にともなく、心の中で呟いた。そして、【万象擬態】を解除! 巨大な竜化進化体としての姿を、戦場の全ての者たちの前に晒した!
「な、なんだ!?」
「あの姿は……まさか、キマイラスライム!?」
「いや、噂より遥かにデカいぞ! 竜みたいだ!」
「敵か!? 味方か!?」
プレイヤーたちが騒然となる。ジャッジメントのメンバー(このレイドにも参加していたようだ)は、即座にゼロに敵意を向けるが、タイタンとの戦闘中で身動きが取れない。
ゼロは、彼らの混乱を意に介さず、一直線にタイタンへと向かった! 目標は、タイタンの動きを一瞬止め、リリアたちが体勢を立て直す時間を作ること。
【竜の威圧(低級)】を最大解放! さらに【感情波(中級)】を叩きつける! 物理的な攻撃ではないが、タイタンのような巨大な存在にも、精神的なプレッシャーは有効なはずだ。
「グ……オ……?」
タイタンの動きが、わずかに鈍る。その隙を突き、ゼロは【飛行(竜翼)】で高速接近し、【形態変化戦闘(竜技)】で形成した超硬度の竜角を、タイタンの巨大な膝関節に叩き込んだ!
ゴギャァァン!!!
タイタンの膝が砕け、巨体がバランスを崩して大きくよろめく!
「今だ! 総攻撃!」
「チャンスだぞ!」
プレイヤーたちが、ゼロが作り出した好機を逃さず、一斉に攻撃を仕掛ける! 魔法が、矢が、剣技が、タイタンの弱点へと集中する!
ゼロは、それ以上の攻撃には加わらなかった。リリアが、カイトとサラ、そして他の負傷者たちに回復魔法をかけ、体勢を立て直しているのを確認する。
リリアが、一瞬だけ、空中のゼロを見上げた。その瞳には、驚きと、感謝と、そして以前よりも強い、何か複雑な感情が浮かんでいた。
ゼロは、彼女の視線を受け止めると、すぐに背を向けた。そして、【飛行(竜翼)】で再び空高く舞い上がり、【万象擬態】で雲の中へと姿を消した。
「……行っちゃった……」
リリアは、ゼロが消えた空を見つめて呟いた。
「おい、リリア! ぼさっとするな! ボスはまだ倒しちゃいねえぞ!」
カイトが声をかける。
「……アイツ、一体何なんだ……? 敵じゃ……ないのか……?」
サラも、困惑した表情で空を見上げていた。
ジャッジメントのメンバーは、突然現れてボスに大ダメージを与え、そして嵐のように去っていったゼロの行動に、警戒と混乱を深めていた。
「……報告しろ。目標はレイドボスに干渉、プレイヤーへの直接的な敵対行動は確認できず。目的不明。ただし、その戦闘能力は、想定を遥かに超えている……!」
ゼロの介入は、結果的にプレイヤーたちがレイドボスを討伐する一助となったかもしれない。だが、ゼロの真意は誰にも分からない。気まぐれか、計算か、それとも――。
ただ一つ確かなことは、ゼロという存在が、もはや単なる討伐対象のモンスターではなく、この世界のパワーバランスや、プレイヤーたちの感情をも揺るがす、極めて異質で、予測不能な『何か』へと変貌しつつあるということだった。
孤独な捕食者は、誰とも交わらず、誰にも理解されず、ただ己の道を往く。その道が、どこへ続いているのかを知る者は、まだ誰もいない。
---
名前: ゼロ
種族: 名無し(原初の不定形)
称号: 千貌を喰らう者、星屑を宿す者、竜を喰らう者、嵐を喰らう者
所属: 未定義
【能力値】
体力: 108
魔力容量: 85
物理攻撃力: 38
物理防御力: 64
魔法攻撃力: 43
魔法防御力: 59
素早さ: 18
【スキル】
(※前話からの変化なし)
(ならば、攻めるしかないのか……? だが、どこを? 誰を?)
ジャッジメントの本拠地に乗り込む? セラフィナという最大の脅威は不在かもしれないが、それでもギルド全体の戦力は侮れない。それに、本拠地の場所すら正確には掴めていない。
あるいは、アルトを探し出し、決着をつける? 彼の実力は本物だが、今のゼロならば勝機はある。トップランカーを捕食すれば、さらなる進化と、プレイヤー社会への大きな示威行為になるだろう。だが、彼の居場所もまた不明だ。
エルミナに会うのも選択肢だが、星見の塔への道は遠く、再び辿り着ける保証はない。
ゼロが思案に暮れながら、比較的人里離れた山岳地帯を飛行していると、不意に大規模な戦闘の気配を【魔力感知(上級)】が捉えた。それは、単なるプレイヤー同士の小競り合いや、モンスター狩りではない。複数のパーティ、それもかなりの実力者たちが、一つの強大な存在と激しくぶつかり合っているような、混沌としたエネルギーの渦だった。
『レイド戦か……?』
興味を惹かれたゼロは、【万象擬態】で雲に同化しながら、戦闘の中心地へと近づいていった。
眼下に広がっていたのは、山頂付近にある巨大なクレーター状の盆地だった。その中心には、山脈そのものが擬人化したかのような、超巨大な岩石の巨人――マウンテン・タイタンがそびえ立ち、周囲を取り囲む多数のプレイヤーたちと激しい戦闘を繰り広げていた。
タイタンの一撃は大地を割り、プレイヤーたちの防御陣形を容易く打ち砕く。プレイヤーたちも、剣士が盾となり、魔法使いが遠距離から攻撃し、ヒーラーが必死に回復を飛ばすが、タイタンの圧倒的な体力と防御力の前に、ジリ貧に追い込まれているように見えた。いくつかのトップギルドの旗印も見えるが、連携は乱れ、統率が取れていないようだ。
(なるほど、エリアボス級、いや、それ以上のレイドボスか。プレイヤーたちも苦戦しているな)
ゼロは、高みの見物を決め込むつもりだった。プレイヤー同士が潰し合ってくれれば好都合だ。あるいは、タイタンが弱ったところを漁夫の利で捕食するという選択肢もある。
しかし、その時、ゼロの視線はある一点に釘付けになった。
戦闘の最前線、タイタンの巨大な足元で、必死に回復魔法を飛ばしている一人のヒーラー。見覚えのある、栗色の髪と、簡素だが丁寧に手入れされたローブ。
リリアだった。
彼女は、カイトやサラといった見慣れた仲間たちと共に、別のギルドのメンバーとも協力しながら、懸命に戦線を支えていた。だが、戦況は明らかに不利だ。タイタンの広範囲攻撃がパーティを襲い、カイトが庇うように前に出るが、盾ごと吹き飛ばされる! サラも戦斧で応戦するが、タイタンの腕の一薙ぎで地面に叩きつけられる!
「カイトさん! サラさん!」
リリアが悲鳴を上げ、二人に駆け寄ろうとするが、別のプレイヤーがそれを制止する。
「危ない! ヒーラーは前に出るな!」
「でも……!」
リリアの瞳には涙が浮かんでいる。それでも、彼女は杖を握りしめ、回復魔法を唱え続ける。仲間を、そして見知らぬ他のプレイヤーたちをも、必死に救おうとしている。
その姿を見て、ゼロの【混沌核】が、わずかに、しかし確かに揺らいだ。
(……面倒な)
なぜ、彼女がここにいるのか。なぜ、いつも危険な場所に首を突っ込んでいるのか。そして何より、なぜ、自分はこの状況を無視できないのか。
合理的に考えれば、介入するメリットは何もない。リリアを助けたところで、情報を得られる以上の見返りはないだろう。むしろ、ジャッジメントに再び位置を知られ、レイドに参加している多数のプレイヤーから敵意を向けられるリスクの方が遥かに大きい。
だが、ゼロの思考回路――元・神代零としての断片か、あるいは原初の不定形としての未知の衝動か――が、合理性を上回る何かを囁いていた。
あの時、沼地で。
あの時、鉱山地帯で。
そして、古代図書館で。
彼女は、ゼロを化け物として恐れながらも、どこかで信じようとしていた。その真っ直ぐな、ある意味で愚かしいほどの想いが、ゼロの中に僅かに残っていた『何か』を刺激する。
『……一度だけだ。これで、借りはなくなる』
ゼロは、誰にともなく、心の中で呟いた。そして、【万象擬態】を解除! 巨大な竜化進化体としての姿を、戦場の全ての者たちの前に晒した!
「な、なんだ!?」
「あの姿は……まさか、キマイラスライム!?」
「いや、噂より遥かにデカいぞ! 竜みたいだ!」
「敵か!? 味方か!?」
プレイヤーたちが騒然となる。ジャッジメントのメンバー(このレイドにも参加していたようだ)は、即座にゼロに敵意を向けるが、タイタンとの戦闘中で身動きが取れない。
ゼロは、彼らの混乱を意に介さず、一直線にタイタンへと向かった! 目標は、タイタンの動きを一瞬止め、リリアたちが体勢を立て直す時間を作ること。
【竜の威圧(低級)】を最大解放! さらに【感情波(中級)】を叩きつける! 物理的な攻撃ではないが、タイタンのような巨大な存在にも、精神的なプレッシャーは有効なはずだ。
「グ……オ……?」
タイタンの動きが、わずかに鈍る。その隙を突き、ゼロは【飛行(竜翼)】で高速接近し、【形態変化戦闘(竜技)】で形成した超硬度の竜角を、タイタンの巨大な膝関節に叩き込んだ!
ゴギャァァン!!!
タイタンの膝が砕け、巨体がバランスを崩して大きくよろめく!
「今だ! 総攻撃!」
「チャンスだぞ!」
プレイヤーたちが、ゼロが作り出した好機を逃さず、一斉に攻撃を仕掛ける! 魔法が、矢が、剣技が、タイタンの弱点へと集中する!
ゼロは、それ以上の攻撃には加わらなかった。リリアが、カイトとサラ、そして他の負傷者たちに回復魔法をかけ、体勢を立て直しているのを確認する。
リリアが、一瞬だけ、空中のゼロを見上げた。その瞳には、驚きと、感謝と、そして以前よりも強い、何か複雑な感情が浮かんでいた。
ゼロは、彼女の視線を受け止めると、すぐに背を向けた。そして、【飛行(竜翼)】で再び空高く舞い上がり、【万象擬態】で雲の中へと姿を消した。
「……行っちゃった……」
リリアは、ゼロが消えた空を見つめて呟いた。
「おい、リリア! ぼさっとするな! ボスはまだ倒しちゃいねえぞ!」
カイトが声をかける。
「……アイツ、一体何なんだ……? 敵じゃ……ないのか……?」
サラも、困惑した表情で空を見上げていた。
ジャッジメントのメンバーは、突然現れてボスに大ダメージを与え、そして嵐のように去っていったゼロの行動に、警戒と混乱を深めていた。
「……報告しろ。目標はレイドボスに干渉、プレイヤーへの直接的な敵対行動は確認できず。目的不明。ただし、その戦闘能力は、想定を遥かに超えている……!」
ゼロの介入は、結果的にプレイヤーたちがレイドボスを討伐する一助となったかもしれない。だが、ゼロの真意は誰にも分からない。気まぐれか、計算か、それとも――。
ただ一つ確かなことは、ゼロという存在が、もはや単なる討伐対象のモンスターではなく、この世界のパワーバランスや、プレイヤーたちの感情をも揺るがす、極めて異質で、予測不能な『何か』へと変貌しつつあるということだった。
孤独な捕食者は、誰とも交わらず、誰にも理解されず、ただ己の道を往く。その道が、どこへ続いているのかを知る者は、まだ誰もいない。
---
名前: ゼロ
種族: 名無し(原初の不定形)
称号: 千貌を喰らう者、星屑を宿す者、竜を喰らう者、嵐を喰らう者
所属: 未定義
【能力値】
体力: 108
魔力容量: 85
物理攻撃力: 38
物理防御力: 64
魔法攻撃力: 43
魔法防御力: 59
素早さ: 18
【スキル】
(※前話からの変化なし)
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