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エピソード75:最後の選択、星々の囁き
星の災厄は去った。いや、正確にはゼロという存在に喰われ、その一部となった。次元の亀裂は閉じ、深紅に染まっていた空は元の色を取り戻した。しかし、EFO世界に残された傷跡は深く、各地で復興と混乱が続いていた。異次元の法則に侵食された土地はすぐには元に戻らず、狂乱したモンスターや、法則の歪みから生まれた新たな脅威も各地に出現していた。
プレイヤーたちは、突然の災厄の終息に安堵しつつも、その原因となったゼロという存在への畏怖と、そして世界の不安定さへの不安を抱えていた。運営(システム)からの公式なアナウンスは途絶え、GMキャラクターの姿も見えなくなった。まるで、世界が一時的に管理者不在の状態に陥ったかのようだった。
その間、ゼロはEFO世界の辺境、未踏の浮遊大陸のさらに上空、大気圏外に限りなく近い絶対的な静寂の中にいた。【万象擬態】で宇宙空間そのものに溶け込み、眼下に広がる青い惑星――EFO世界――を見下ろしながら、自身の内に起こった変化と、得た膨大な知識を整理していた。
超越進化。それは、ゼロを個としての限界から解き放った。もはや、ステータスという数値で測れる存在ではない。世界の法則を解析し、書き換え、時には無効化し、あるいは創造することすら可能だ。【混沌核】は、あらゆるエネルギーと情報を吸収・変換し、無限に近いリソースを供給する。時間も空間も、ゼロの意思の前にはもはや絶対的な壁ではない。
全能感。世界を意のままにできるという感覚。
しかし、同時に、深い孤独感もゼロを包んでいた。もはや、この世界に自分と対等に渡り合える存在はいない。かつて好敵手と認めたアルトも、奇妙な縁を感じたリリアも、世界の秘密を共有したエルミナでさえ、今のゼロから見れば、遥か下方の、矮小な存在に見えてしまう。
(……これが、頂点か? 何もない、ただ広いだけの場所だ)
ゼロは、元・人間、神代零としての思考の残滓で、そんな感傷に似たものを感じていた。力を求め、進化を渇望し、世界の全てを喰らおうとした。その果てにたどり着いた場所が、この絶対的な孤独だとしたら、それは果たして望んだ結末だったのだろうか?
そんなゼロの思考に、懐かしい声が響いた。
《……ゼロ……聞こえますか?》
エルミナだ。システムの監視が弱まった今、彼女は再びゼロに接触してきた。その声には、以前のような緊張感はなく、むしろ安堵と、そして一抹の寂しさのような響きが感じられた。
『エルミナか。災厄は去ったようだな。お前の役目も終わったのか?』
《いいえ……私の役目は、まだ終わっていません。そして、あなたの物語も》
エルミナは静かに答える。
《あなたは、災厄を喰らい、システムすらも超越した。もはや、この世界の法則に縛られることはないでしょう。しかし、それは新たな『選択』の始まりでもあるのです》
『選択……?』
《ええ。あなたはこの世界をどうしますか? その力で、新たな法則を敷き、神として君臨しますか? それとも、全てを破壊し、混沌へと還しますか? あるいは……》
エルミナは言葉を切った。
《この『箱舟』たる世界を見限り、別の次元へと旅立ちますか? あなたには、その全てが可能でしょう》
エルミナの問いは、ゼロが漠然と感じていた疑問を、明確な形で突きつけてきた。頂点に立った今、自分は何をしたいのか?
神として君臨する? プレイヤーたちを支配し、新たな秩序を築く? それは、かつて自身が反発したシステムと同じことを繰り返すだけではないのか? 退屈そうだ。
全てを破壊し、混沌へ? それもまた、虚しい選択に思えた。破壊の先に何があるというのか。無か? それを確かめる意味はあるのか?
別の次元へ旅立つ? この世界を捨てる? それは魅力的な選択肢かもしれない。未知の世界、新たな法則、更なる進化の可能性。だが、それで本当に満たされるのだろうか? この世界で得たもの、感じたもの、そして微かに残る繋がりを、完全に断ち切ることができるのか?
ゼロの思考の中に、アルトの好戦的な笑みや、リリアの困惑しながらも真っ直ぐな瞳がよぎる。彼らは、今のゼロにとっては取るに足らない存在かもしれない。だが、ゼロという存在が形成される過程において、無視できない影響を与えた存在でもある。
《……あるいは、第四の選択肢もあります》
エルミナが、ゼロの葛藤を見透かしたかのように続けた。
《この世界を、このまま『存続』させること。システムの軛(くびき)から解放され、創造主の意図からも自由になった、新たな可能性を持つ世界として》
『存続……? だが、システムは俺を脅威と見なしている。いずれ、また排除しようとするだろう』
《システムは……もはや以前のシステムではありません》
エルミナの声に、わずかな変化があった。
《あなたがGM部隊を壊滅させ、その権限を簒奪したことで、システムの統制力は大きく低下しました。そして、災厄の再来という緊急事態を経て、システム自身もまた、『変化』の必要性を認識し始めているのかもしれません。あなたという存在を、排除すべきバグではなく、新たな法則をもたらす『触媒』として……》
『触媒……?』
《ええ。この世界は、停滞していました。予定された物語を繰り返し、緩やかに摩耗していくだけだった。しかし、あなたという混沌が現れたことで、その停滞は打ち破られた。災厄という危機はありましたが、それを乗り越えた(喰らった)ことで、この世界は新たな進化の可能性を得たのです》
エルミナは続ける。
《あなたが望むなら、この世界を、システムや創造主の支配から完全に解き放ち、そこに生きる者たち――プレイヤーも、NPCも、そしてモンスターすらも――が、自らの意志で未来を紡いでいく、真に自由な世界へと『再誕』させることも可能かもしれません》
真に自由な世界。それは、ゼロが当初求めていた『非日常』の、究極の形なのかもしれない。
『……そのために、俺は何をすればいい?』
《あなたの力で、世界の法則にかけられた最後の『枷』――創造主が遺した、この世界を箱舟として縛り付けるための制御プログラム――を破壊することです。それは、おそらく、この世界のどこかに物理的な形で存在しているはず……。あるいは、概念的な『核』として》
最後の枷。それを破壊すれば、この世界は真の自由を得る。だが、それは同時に、創造主の意図に完全に反する行為であり、システム、あるいはその背後にいるかもしれない存在からの、最後の抵抗を招くことになるだろう。
《どちらを選ぶかは、あなた次第です、ゼロ》
エルミナは静かに告げた。
《神となるか、破壊者となるか、超越者となるか、あるいは……解放者となるか。あなたの選択が、この世界の、そしてあなた自身の未来を決定します》
エルミナからの接触は、そこで途絶えた。彼女は、最後の選択を、完全にゼロに委ねたのだ。
ゼロは、再び眼下の青い惑星を見つめた。そこに生きる、無数の魂たち。彼らが織りなす、喜劇と悲劇。停滞していたかもしれないが、確かに存在した物語。
(……退屈は、もうこりごりだ)
ゼロは、自身のコアに問いかけた。そして、答えは出ていた。頂点に立つことよりも、破壊することよりも、超越することよりも、もっと『面白い』ことが、まだこの世界には残っている。
『解放者、か。柄じゃないが……まあ、いいだろう』
ゼロは、最後の目標を定めた。世界の枷を破壊し、このEFO世界を真のフロンティアへと解き放つ。そして、その自由になった世界で、自らもまた、新たな進化と混沌を追い求める。
その決意を固めた瞬間、ゼロの【混沌核】が、かつてないほどの輝きを放った。それは、破壊や支配ではなく、『創造』への意志の輝きだったのかもしれない。
最終目的地は定まった。世界の枷の在り処を探し出し、それを破壊する。それは、おそらくシステムとの最後の全面対決となるだろう。
ゼロは、超越的な力をその身に秘め、静かに地上へと降下を開始した。最後の戦いの舞台へと向かうために。そして、その戦いの果てに、新たな世界の夜明けを見るために。
原初の混沌は、解放者としての道を歩み始めた。その選択がもたらす未来は、まだ誰にも分からない。ただ、星々だけが、その行く末を静かに見守っているかのようだった。
---
名前: ゼロ
種族: ??? (超越進化体)
称号: ??? (全ての称号を超越、あるいは統合)
所属: 未定義
【能力値】
全て測定不能、あるいは状況に応じて無限に変動
【スキル】
(※前話からの変化なし、ただしゼロの目的意識と精神状態が大きく変化)
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その間、ゼロはEFO世界の辺境、未踏の浮遊大陸のさらに上空、大気圏外に限りなく近い絶対的な静寂の中にいた。【万象擬態】で宇宙空間そのものに溶け込み、眼下に広がる青い惑星――EFO世界――を見下ろしながら、自身の内に起こった変化と、得た膨大な知識を整理していた。
超越進化。それは、ゼロを個としての限界から解き放った。もはや、ステータスという数値で測れる存在ではない。世界の法則を解析し、書き換え、時には無効化し、あるいは創造することすら可能だ。【混沌核】は、あらゆるエネルギーと情報を吸収・変換し、無限に近いリソースを供給する。時間も空間も、ゼロの意思の前にはもはや絶対的な壁ではない。
全能感。世界を意のままにできるという感覚。
しかし、同時に、深い孤独感もゼロを包んでいた。もはや、この世界に自分と対等に渡り合える存在はいない。かつて好敵手と認めたアルトも、奇妙な縁を感じたリリアも、世界の秘密を共有したエルミナでさえ、今のゼロから見れば、遥か下方の、矮小な存在に見えてしまう。
(……これが、頂点か? 何もない、ただ広いだけの場所だ)
ゼロは、元・人間、神代零としての思考の残滓で、そんな感傷に似たものを感じていた。力を求め、進化を渇望し、世界の全てを喰らおうとした。その果てにたどり着いた場所が、この絶対的な孤独だとしたら、それは果たして望んだ結末だったのだろうか?
そんなゼロの思考に、懐かしい声が響いた。
《……ゼロ……聞こえますか?》
エルミナだ。システムの監視が弱まった今、彼女は再びゼロに接触してきた。その声には、以前のような緊張感はなく、むしろ安堵と、そして一抹の寂しさのような響きが感じられた。
『エルミナか。災厄は去ったようだな。お前の役目も終わったのか?』
《いいえ……私の役目は、まだ終わっていません。そして、あなたの物語も》
エルミナは静かに答える。
《あなたは、災厄を喰らい、システムすらも超越した。もはや、この世界の法則に縛られることはないでしょう。しかし、それは新たな『選択』の始まりでもあるのです》
『選択……?』
《ええ。あなたはこの世界をどうしますか? その力で、新たな法則を敷き、神として君臨しますか? それとも、全てを破壊し、混沌へと還しますか? あるいは……》
エルミナは言葉を切った。
《この『箱舟』たる世界を見限り、別の次元へと旅立ちますか? あなたには、その全てが可能でしょう》
エルミナの問いは、ゼロが漠然と感じていた疑問を、明確な形で突きつけてきた。頂点に立った今、自分は何をしたいのか?
神として君臨する? プレイヤーたちを支配し、新たな秩序を築く? それは、かつて自身が反発したシステムと同じことを繰り返すだけではないのか? 退屈そうだ。
全てを破壊し、混沌へ? それもまた、虚しい選択に思えた。破壊の先に何があるというのか。無か? それを確かめる意味はあるのか?
別の次元へ旅立つ? この世界を捨てる? それは魅力的な選択肢かもしれない。未知の世界、新たな法則、更なる進化の可能性。だが、それで本当に満たされるのだろうか? この世界で得たもの、感じたもの、そして微かに残る繋がりを、完全に断ち切ることができるのか?
ゼロの思考の中に、アルトの好戦的な笑みや、リリアの困惑しながらも真っ直ぐな瞳がよぎる。彼らは、今のゼロにとっては取るに足らない存在かもしれない。だが、ゼロという存在が形成される過程において、無視できない影響を与えた存在でもある。
《……あるいは、第四の選択肢もあります》
エルミナが、ゼロの葛藤を見透かしたかのように続けた。
《この世界を、このまま『存続』させること。システムの軛(くびき)から解放され、創造主の意図からも自由になった、新たな可能性を持つ世界として》
『存続……? だが、システムは俺を脅威と見なしている。いずれ、また排除しようとするだろう』
《システムは……もはや以前のシステムではありません》
エルミナの声に、わずかな変化があった。
《あなたがGM部隊を壊滅させ、その権限を簒奪したことで、システムの統制力は大きく低下しました。そして、災厄の再来という緊急事態を経て、システム自身もまた、『変化』の必要性を認識し始めているのかもしれません。あなたという存在を、排除すべきバグではなく、新たな法則をもたらす『触媒』として……》
『触媒……?』
《ええ。この世界は、停滞していました。予定された物語を繰り返し、緩やかに摩耗していくだけだった。しかし、あなたという混沌が現れたことで、その停滞は打ち破られた。災厄という危機はありましたが、それを乗り越えた(喰らった)ことで、この世界は新たな進化の可能性を得たのです》
エルミナは続ける。
《あなたが望むなら、この世界を、システムや創造主の支配から完全に解き放ち、そこに生きる者たち――プレイヤーも、NPCも、そしてモンスターすらも――が、自らの意志で未来を紡いでいく、真に自由な世界へと『再誕』させることも可能かもしれません》
真に自由な世界。それは、ゼロが当初求めていた『非日常』の、究極の形なのかもしれない。
『……そのために、俺は何をすればいい?』
《あなたの力で、世界の法則にかけられた最後の『枷』――創造主が遺した、この世界を箱舟として縛り付けるための制御プログラム――を破壊することです。それは、おそらく、この世界のどこかに物理的な形で存在しているはず……。あるいは、概念的な『核』として》
最後の枷。それを破壊すれば、この世界は真の自由を得る。だが、それは同時に、創造主の意図に完全に反する行為であり、システム、あるいはその背後にいるかもしれない存在からの、最後の抵抗を招くことになるだろう。
《どちらを選ぶかは、あなた次第です、ゼロ》
エルミナは静かに告げた。
《神となるか、破壊者となるか、超越者となるか、あるいは……解放者となるか。あなたの選択が、この世界の、そしてあなた自身の未来を決定します》
エルミナからの接触は、そこで途絶えた。彼女は、最後の選択を、完全にゼロに委ねたのだ。
ゼロは、再び眼下の青い惑星を見つめた。そこに生きる、無数の魂たち。彼らが織りなす、喜劇と悲劇。停滞していたかもしれないが、確かに存在した物語。
(……退屈は、もうこりごりだ)
ゼロは、自身のコアに問いかけた。そして、答えは出ていた。頂点に立つことよりも、破壊することよりも、超越することよりも、もっと『面白い』ことが、まだこの世界には残っている。
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ゼロは、最後の目標を定めた。世界の枷を破壊し、このEFO世界を真のフロンティアへと解き放つ。そして、その自由になった世界で、自らもまた、新たな進化と混沌を追い求める。
その決意を固めた瞬間、ゼロの【混沌核】が、かつてないほどの輝きを放った。それは、破壊や支配ではなく、『創造』への意志の輝きだったのかもしれない。
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