Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第32話 初陣、ゴブリンの巣

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アークライトの街を出て東へ半日ほど歩くと、森の木々が深くなり、古びた石造りの砦が姿を現した。かつては国境を守るための要塞だったらしいが、今ではその壁のほとんどが崩れ落ち、蔦や苔に覆われた不気味な廃墟と化している。ここが、ゴブリンたちの巣窟だった。

「ひどい有様だな。夜中に一人で来たくはない場所だ」
ソフィアが、忌々しげに吐き捨てた。砦の周囲には、獣の骨や食べかすが散乱し、酸っぱい腐臭が漂っている。

「油断するな。ゴブリンは弱いが、知能は高い。罠を仕掛けている可能性もある」
カイが、周囲の地面や木々を鋭い目つきで観察しながら警告した。彼の全身からは、すでに狩人の気配が立ち上っている。

「さて、どう攻める?」
ソフィアがアレンに視線を向けた。彼女は、このパーティの頭脳がアレンであることを、すでに認めていた。
アレンは砦の全体像を冷静に見定めると、静かに口を開いた。

「まずは、敵の数と配置を知る必要がある。カイ、偵察を頼めるか。無理はするな。情報は、得られる範囲でいい」

「……了解」
カイは短く答えると、その姿がすっと掻き消えた。まるで森の影に溶け込んだかのように、彼の気配は完全に消え失せる。ソフィアは、何度見ても慣れないその神業に、小さく息を呑んだ。

残されたアレンとソフィアは、砦から少し離れた茂みに身を隠し、カイの帰りを待った。手持ち無沙汰になったソフィアが、ぽつりと呟いた。
「……あんたは、怖くないのか?」
「何がだ?」
「俺たちみたいな訳ありの連中を、いきなり信じて背中を預けるのが、だ。俺も、あいつも、いつ裏切るか分からんような奴だぞ」

その問いに、アレンは少しだけ考えた後、穏やかに答えた。
「裏切りなら、もう経験済みだ。だから、怖くはない。それに……」
彼は、カイが消えた方向を見つめた。
「あんたたちの瞳は、俺を裏切った奴らの目とは違う。それだけは、分かる」

その言葉に、ソフィアは何も言えなくなった。ただ、ふいと顔を背け、自分の剣の柄を握りしめるだけだった。

しばらくして、カイが音もなく二人の背後に現れた。
「戻った」
「うわっ!……気配を消して近づくなと言ってるだろう!」
ソフィアが心臓を押さえて抗議するが、カイは意に介さない。

「砦内部のゴブリンは、ざっと見て三十匹前後。ほとんどが入り口近くの大広間に集まっている。見張りは、崩れた城壁の上に二匹。奥に、他より一回り大きいリーダー格の個体がいるのを感じる。罠の類は、見当たらなかった。奴らも、ここが安全だと油断しきっているらしい」

完璧な報告だった。アレンはカイからもたらされた情報を頭の中で整理し、即座に作戦を組み立てた。

「よし、作戦を伝える。まず、カイが城壁の見張りを音もなく始末する。その後、ソフィアが正面から突入し、大広間のゴブリンたちの注意を全て引きつけてくれ」
「また囮役か。まあ、いいだろう。全員まとめて斬り伏せてやる」
ソフィアは、好戦的な笑みを浮かべた。

「カイは、ソフィアが突入した混乱に乗じて、砦の側壁を登り、二階部分から侵入。上からの奇襲で、敵の陣形をさらにかき乱してくれ」
「……了解した」

「そして俺は、後方から二人を支援し、全体の指揮を執る。いいか、絶対に無理はするな。俺の指示を待て。特にソフィア、深追いは禁物だ」
アレンの目は、リーダーとしての厳しさを帯びていた。ソフィアは少し不満そうだったが、黙って頷いた。

作戦は決まった。
三人は静かに砦へと近づく。カイが、まるで蜘蛛のように崩れた城壁をスルスルと登っていった。そして、数秒後。見張り台に立っていた二匹のゴブリンが、悲鳴を上げる間もなく、首から血を噴き出して崩れ落ちた。カイの投げた短剣が、寸分の狂いもなく二匹の急所を貫いたのだ。

見張りの排除を確認し、アレンがソフィアに合図を送る。
ソフィアは大きく息を吸い込むと、獣のような雄叫びを上げて砦の入り口から大広間へと突進した。

「ヒャッハー!雑魚ども、掃除の時間だぜ!」

突然の襲撃者に、大広間でだらけていたゴブリンたちは、一瞬呆気にとられた。錆びた剣や棍棒を手に、慌てて迎撃態勢を取ろうとする。だが、ソフィアの剣は、それよりも遥かに速かった。

彼女の長剣が一閃するごとに、ゴブリンの首が宙を舞い、胴体が二つに分かたれる。まさに、獅子奮迅の活躍。しかし、敵の数は多い。四方八方から、金切り声を上げてゴブリンたちが殺到する。

その時、アレンの声がソフィアの頭に響いた。
「ソフィア!右後方、三匹!弓持ちだ!」

アレンは、入り口近くの物陰から戦況を冷静に観察していた。《オーバーヒール・ブースト》で極限まで高められた彼の知覚は、乱戦の中でも敵味方の全ての動きを正確に捉えている。
ソフィアはアレンの指示に即座に反応し、振り返りざまに剣を薙いだ。放たれた剣圧が、矢を番えようとしていたゴブリンたちをまとめて薙ぎ払う。

「助かったぜ、アレン!」
「油断するな!天井だ!」

アレンの次の警告と同時に、頭上から影が舞い降りた。カイだ。彼は天井の梁から飛び降りると、ソフィアに気を取られていたゴブリンたちの背後に音もなく着地した。そして、黒い旋風となって敵陣を駆け抜ける。カイが通り過ぎた後には、喉を掻き切られたゴブリンたちが、ばたばたと倒れていった。

完璧な連携だった。
ソフィアが正面で敵の攻撃を受け止め、ヘイトを集める『タンク』役を。
カイが死角から敵の数を減らし、厄介な遠距離攻撃を潰す『アタッカー』兼『アサシン』役を。
そしてアレンが、戦場全体を俯瞰し、二人に的確な指示と支援を送る『司令塔』兼『ヒーラー』役を。

最初は、ただ個々の能力に任せて戦っていた三人。だが、アレンという絶対的な司令塔を得たことで、彼らの力は足し算ではなく、掛け算となって爆発的な破壊力を生み出していた。

ソフィアの腕に、ゴブリンの剣が浅く切り傷を作る。だが、その傷は血が滲むよりも早く、緑色の光に包まれて塞がっていく。
カイが敵の攻撃を避けた先に、別のゴブリンが待ち構えている。だが、アレンの「左だ!」という一言で、彼は危険を事前に察知し、難なく回避する。

戦いは、もはや一方的な蹂躙だった。
ゴブリンたちは、自分たちの巣に現れた三人の侵入者に、なすすべもなく数を減らしていく。彼らにとって、それは理解不能な悪夢だっただろう。正面の女剣士はいくら攻撃しても倒れず、影から現れる獣人は神出鬼没。そして、その全てを操っているかのような、後方のヒーラー。

やがて、大広間に立っているゴブリンは、一匹もいなくなった。
夥しい数の死体が転がる中で、三人は静かに呼吸を整える。誰一人、まともな傷を負っていない。

「……はっ。大したことなかったな」
ソフィアは、まるでウォーミングアップが終わっただけだというように、平然と言ってのけた。だが、その目には、アレンの指揮能力に対する驚愕の色が隠せないでいた。
カイも、黙ってアレンの方を見つめている。彼の金色の瞳が、このパーティの本当の強さがどこにあるのかを、正確に理解したと告げていた。

「まだだ」
アレンは、大広間の奥へと続く、暗い通路を指さした。
「親玉が、奥で待っている」

彼の言葉に、二人は静かに頷いた。
嘲笑の中から始まった、彼らの初陣。それは、Dランク依頼というには、あまりにも完璧で、そして圧倒的な勝利への序曲に過ぎなかった。
【黎明の翼】は、その本当の力を、まだ見せ始めてもいない。
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