Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第34話 死なないパーティ

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ゴブリンキング討伐の一件は、【黎明の翼】に対するアークライトの冒険者たちの評価を、一夜にして変えた。
嘲笑は消え、代わりに好奇と、わずかな畏怖を含んだ視線が彼らに注がれるようになった。ギルドの酒場で彼らがテーブルにつくと、周囲の喧騒がわずかに静まり、誰もが遠巻きに彼らの様子を窺っている。

「……気色の悪いもんだな。昨日まではゴミを見るような目つきだったくせに」
ソフィアは、エールのジョッキを傾けながら悪態をついた。だが、その口調に以前のような刺々しさはない。むしろ、その状況を楽しんでいるかのようだった。

「結果を出せば、評価は変わる。単純なことだ」
カイが、壁に寄りかかったまま静かに言った。彼の視線は、ギルドに集う冒訪者たちの力関係や人間模様を、冷静に分析しているようだった。

「さて、次は何をやる?」
ソフィアが、リーダーであるアレンに問いかける。彼女の目には、早く次の獲物を狩りたいという、戦士の飢えが浮かんでいた。
周囲の冒険者たちも、息を殺してアレンの選択に注目していた。ゴブリンキングを討伐した彼らが、次にどんな高ランクの依頼に挑むのか。誰もが興味津々だった。

しかし、アレンの選択は、またしても彼らの予想を裏切るものだった。
彼は掲示板から、数枚の依頼書を剥がしてテーブルに戻ってきた。

「『地下水道の巨大ネズミ掃討』ランクD+」
「『湿地帯のリザードマン斥候部隊の撃退』ランクC」
「『風切り谷のハーピィ討伐』ランクC」

どれも、Bランク冒険者にとっては物足りない、地味な依頼ばかりだった。
「おいおい、アレン。またこんな雑魚狩りか?」
ソフィアが、あからさまに不満そうな顔をする。
「俺たちの実力なら、もっと……」

「まだだ」
アレンは、彼女の言葉を静かに遮った。
「俺たちの連携は、まだ完璧じゃない。ゴブリンの巣での戦いは、あくまで奇襲が成功しただけだ。もっと様々な状況を経験し、互いの動きを体に染み込ませる必要がある」

彼は、ソフィアとカイの目をまっすぐに見つめた。
「俺たちが目指すのは、ただの強力なパーティじゃない。どんな状況でも、誰一人として死なない、完璧なパーティだ。そのためには、基礎訓練が必要不可欠だ」

その言葉には、有無を言わせぬ説得力があった。ソフィアは唇を尖らせながらも、結局は「……分かったよ。リーダーの言う通りにしてやる」と頷いた。カイも、異論はないようだった。

こうして、【黎明の翼】の地道な依頼達成の日々が始まった。
彼らの戦いぶりは、他の冒険者たちから見れば、異様そのものだった。

地下水道での巨大ネズミ掃討。
入り組んだ狭い通路では、大柄なソフィアの剣は振るいにくい。だが、そこで真価を発揮したのはカイだった。彼は壁や天井を自在に駆け巡り、まるで黒い疾風のようにネズミの群れを切り裂いていく。時折、死角から襲いかかるネズミがいれば、アレンの「右下!」という的確な警告が飛ぶ。カイはそれに完璧に反応し、一度も牙にかかることなく、巣の女王ネズミまでをあっさりと仕留めてみせた。

湿地帯でのリザードマン斥候部隊の撃退。
足場の悪い泥濘の中、ソフィアはまるで平地を駆けるがごとく、リザードマンたちを蹂躙した。アレンの《オーバーヒール・ブースト》が、彼女の体幹とバランス感覚を常人離れしたレベルにまで引き上げていたからだ。リザードマンが放つ毒の吹き矢が彼女の腕を掠めても、アレンの《デトックス》が即座に毒を浄化する。彼女は一度も動きを止めることなく、部隊を完璧に壊滅させた。

風切り谷でのハーピィ討伐。
空中から素早い奇襲を仕掛けてくる厄介な敵。多くのパーティが、その素早さと立体的な攻撃に苦戦させられる。しかし、【黎明の翼】は違った。カイが先に谷の崖を登り、ハーピィの巣の位置を特定。ソフィアが崖の下で大声で叫び、ハーピィたちの注意を自分に引きつけた。その隙に、アレンがソフィアにかけた身体強化を応用し、彼女の跳躍力を極限まで高める。ソフィアは、まるで砲弾のように崖を駆け上がり、驚くハーピィの群れのど真ん中に飛び込んで、一網打尽にした。

どの依頼も、彼らは完璧にこなした。
そして、ギルドに報告に戻ってくる時、彼らは常に『無傷』だった。
最初は、誰もがそれを「簡単な依頼ばかりだからだ」と笑っていた。しかし、Cランク級の依頼をいくつも、それも全く違う環境、違う敵を相手に、一度の失敗もなく、誰一人として傷一つ負わずに帰還するパーティなど、前代未聞だった。

やがて、ギルドの中で【黎明の翼】に関する噂が、囁かれるようになった。

「おい、また『黎明の翼』が依頼を達成したらしいぞ。もちろん、無傷でだ」
「信じられん。あいつら、本当に人間なのか?」
「あのヒーラーが鍵らしい。どんな傷も一瞬で治しちまうって話だ。死にかけても、次の瞬間にはピンピンしてるってよ」
「それだけじゃねえ。リーダーとして、戦況を読む目も異常だ。まるで、未来でも見えてるみてえに、的確な指示を出すらしい」

噂は、尾ひれがついて急速に広まっていった。
いつしか、彼らのパーティは、ある異名で呼ばれるようになっていた。

ある夜、ギルドの酒場で一人のベテラン冒険者が、酔った勢いで言った。
「あいつらは……『死なないパーティ』だ。いや、違うな。あのヒーラーがいる限り、あいつらは『死ねない』んだ。まるで、不死鳥のようにな……」

その言葉は、妙な説得力を持って、その場にいた者たちの間に染み渡った。
【黎明の翼】。
その名を知る冒険者たちは、彼らを畏怖と、少しの不気味さを込めて、こう呼ぶようになった。
―――不死鳥の翼、と。

当のアレンたちは、そんな噂などどこ吹く風で、自分たちのやるべきことに集中していた。
依頼で得た報酬は、三等分された。ソフィアとカイは、その金で自分たちの装備を新調し、残りは貯蓄に回した。アレンは、故郷の村へ定期的に仕送りをしていた。リーナがお菓子を買えるように、というささやかな願いを込めて。

宿屋での食事は、彼らにとって唯一の安らぎの時間だった。
「おいカイ、てめえ、俺の肉を食っただろ!」
「……気のせいだ」
「この黒猫野郎!」
そんな軽口の応酬も、今では日常の風景だ。アレンは、それを穏やかな笑みで見守っている。ただの仕事仲間ではない。家族のような、温かい絆が、彼らの間に確かに育まれていた。

ソフィアは、無駄な酒を飲むのをやめた。その代わりに、早朝から剣の素振りをするのが日課になった。彼女の剣は、日に日に鋭さと輝きを取り戻している。
カイも、以前よりはるかに口数が増えた。時には、作戦に対して自分の意見を述べることさえある。彼の閉ざされていた心は、少しずつ開き始めていた。

アレンは、そんな二人の変化を、リーダーとして、そして仲間として、心から嬉しく思っていた。
追放されたあの日、全てを失ったと思っていた。だが、今、彼の周りには、かけがえのない仲間がいる。守るべき故郷がある。
彼の人生は、今、確かに輝いていた。

そんなある日、彼らがギルドで次の依頼を探していると、受付の女性職員が、一枚の羊皮紙を持って慌てた様子で駆け寄ってきた。
「【黎明の翼】の皆さん!ギルドマスターがお呼びです!皆さんを名指しでの、特別な依頼が入りました!」

その依頼書には、Cランクへの昇格試験を兼ねる、という一文が添えられていた。
地道に実績を積み重ねてきた彼らに、ようやく次のステージへの扉が開かれようとしていた。
アレンは、その依頼書を静かに受け取った。
彼の目は、その先に待つ、新たな戦いと仲間との未来を、すでに見据えていた。
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