Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第95話 災厄竜、降臨

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黒曜石の扉がゆっくりと開かれていく。隙間から溢れ出す熱風が、三人の髪を激しく揺らした。そして彼らの目に飛び込んできたのは、想像を絶する光景だった。

広大な地底のドーム。天井は見えず、代わりに闇がどこまでも広がっている。地面はひび割れ、その亀裂の奥では赤い溶岩が川のように流れていた。空気は灼熱で、呼吸をするだけで肺が焼かれそうだ。
そして、その中央。
溶岩の川に囲まれた巨大な岩棚の上で、山のように巨大な竜がとぐろを巻いて眠っていた。

全身を覆う鱗は闇そのものを固めたかのように黒く、光を一切反射しない。閉じられた瞼の隙間から時折、内部のマグマのような赤い光が漏れ出す。背中にはまるで枯れた森のように、鋭い骨の棘が林立している。
その口元からは硫黄の匂いがする白い煙が、巨大な寝息と共に定期的に吐き出されていた。

古の災厄竜(エンシェント・ドラゴン)。
神話の存在が今、目の前にいる。
その、ただ眠っているだけで放たれる圧倒的な威圧感は、これまで彼らが対峙してきたどんな魔物とも比較にならなかった。まるで世界そのものと対峙しているかのような、絶対的な絶望感。

「……おいおい、冗談だろ……」
ソフィアの口からかすれた声が漏れた。彼女は百戦錬磨の戦士としての本能で理解してしまったのだ。目の前の存在は自分たちの力が、あるいは人類の力が果たして通用する相手なのかどうか、それさえも疑わしい次元の違う存在であると。
彼女の膝がわずかに震えていた。

カイもまた息を殺し、その全身を硬直させていた。彼は斥候としてあらゆる存在の『格』を気配で感じ取ることができる。そして目の前の竜から感じる気配は、もはや『強大』などという言葉では表現できないものだった。それは自然災害そのもの。嵐や地震といった、人の力が及ばぬ絶対的な理不尽の塊。

仲間たちの気圧される様子をアレンは肌で感じ取っていた。彼自身も足がすくみそうになるのを必死で堪えていた。
(……怯むな)
彼は心の中で自分に言い聞かせた。
(俺たちがここで折れたら、全てが終わる)

彼らが最深部に足を踏み入れたその微かな物音。
それを竜は聞き逃さなかった。
数千年の眠りの中でその聴覚は、僅かな塵の落ちる音さえも捉えるまでに研ぎ澄まされていたのだ。

ゆっくりと、山のように巨大な瞼が持ち上がっていく。
そして二つの、溶岩の海のような瞳が開かれた。
その瞳が侵入者である三人の姿を正確に捉える。

『―――……誰だ』

地響きのような重く、そして古の威厳に満ちた声が、再び彼らの脳内に直接響き渡った。
『我が安息を妨げる、愚かなる虫けらは』

その声だけでソフィアとカイの意識が一瞬遠のきそうになる。精神そのものを揺さぶる圧倒的な魔力の波動。

アレンは咄嗟に二人の前に立ち、杖を地面に突き立てた。
「《メンタル・プロテクション》!」
清らかな光の障壁が二人を包み込み、竜の精神攻撃から守る。
「しっかりしろ! 飲まれるな!」
アレンの叱咤に二人ははっと我に返った。

竜はアレンの魔法にわずかに興味を示したようだった。
『……ほう。矮小なる者の中にも、多少骨のある者がいるようだな。その魔力……神聖な、しかしどこか異質な匂いがする。汝、何者だ』

「俺はアレン。【黎明の翼】のリーダーだ」
アレンは恐怖を押し殺し、堂々と名乗りを上げた。
「古の竜よ。我々は貴公を討伐しにきた」

そのあまりにも不遜な言葉に、竜は初めて感情らしいものを見せた。
その巨大な口の端が人間が嘲笑するかのように吊り上がったのだ。

『討伐、だと? この我を?』
竜は心底おかしいというように、その巨体を揺らして笑った。洞窟全体がその笑い声で震動する。
『面白い。実に面白い冗談だ。数日前にも似たようなことを抜かす虫けらがいたがな。奴らは我が威光の前に互いを食い合うだけで自滅していったわ』

その言葉は暗に【熾天の剣】の末路を語っていた。
アレンはその言葉を静かに受け止めた。

『良いだろう。矮小なる者よ。その身の程知らずな勇気に免じて、少しだけ遊んでやろう』
竜はゆっくりとその巨体を起こし始めた。
とぐろを巻いていただけでも山のように見えた体が、立ち上がるともはや天を衝くほどの摩天楼となった。
広大な地下ドームの天井にその頭が届きそうだった。

『我が名は、イグニール。世界の終焉を司る、最後の竜』
災厄竜イグニールは、その名を名乗った。
『汝らの死をもって、我が覚醒の最初の祝祭とさせてもらおう』

その言葉と共に、イグニールは大きく息を吸い込んだ。
その喉の奥が灼熱のマグマのように赤く輝き始める。

「―――来るぞ!」
アレンが絶叫した。
最初のブレス。
それは世界の理を焼き尽くす、滅びの始まりを告げる咆哮だった。
伝説との死闘の火蓋が今、切って落とされた。
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